広島市議選で掲示された選挙ポスター。候補者によって製作費に大きな差があることが判明した
広島市議選で掲示された選挙ポスター。候補者によって製作費に大きな差があることが判明した

 「選挙ポスターは1枚2千円以上する場合もあると聞きました。なぜそんなに高いのですか」。広島市南区の会社員男性(44)が編集局に無料通信アプリLINE(ライン)で疑問の声を寄せた。ポスターの製作費は公選法に基づき、税金で賄われる。調べてみると、サイズやデザインがほぼ同じなのに候補者によって価格の差が大きい。税金の無駄遣いになっていないか。

 公選法は資金が少なくても選挙運動ができるよう、ポスター代を公費で負担する選挙公営制度を定める。自治体は上限を条例で決めている。ポスターの掲示場数などによって変わるため、選挙区ごとに違う。

 4月の広島市議選では、候補者は公費をいくら受け取ったのだろう。最も高い安佐北区選挙区は109万2866円が上限となる。市に情報公開請求した。

 得票が少ないと支給されないが、80人のうち77人が対象だった。うち現職54人でみると、上限額に対して100・0%(四捨五入)だったのは13人。請求額は11万8389~109万2866円。ポスター1枚当たりの単価でみると203~2759円で、なんと14倍もの開きがあった。

 選挙ポスターは、雨風でも破れにくい特殊な紙と色落ちしないインキが使われる。写真撮影やデザインにこだわれば、製作費は通常より高くなるという。

 市議に聞いてみた。上限額の109万円余りで請求した安佐北区のベテラン市議は「高品質なものを作ってもらった。長年付き合いのある地元業者から言われた額。決められた範囲内で問題ない」と述べた。

 確かに条例で上限を決めているのだから、満額請求しても問題はない。ただ、安く仕上げる業者があるのなら、政治家にはもっと節税意識を持ってほしいと多くの納税者は思うだろう。

 11万円余りと最少だった西区の中堅市議は言う。「業者に普通に注文してこの金額になった。この価格が実勢価格ではないか」。そして、公費の上限が高過ぎると提起した。

 ▽「20年以上前の水準」 全国では見直す事例

 市内の複数の印刷業者も「公費上限が高い」と指摘した。中区の印刷会社社長は「金箔(きんぱく)を使うでもしないと、この額は使い切れない。20年以上前の価格水準」と述べる。印刷単価は画像ソフトや技術の向上で、この20年で3分の1以下になったという。

 西区の印刷業者は「候補者は、自身を支援してくれる地元の印刷会社にポスターを発注するケースが多い。自分の懐が痛まないから業者任せになり、高値が続く」と打ち明けた。

 候補者間で価格差が大きい現状を放っておいていいのだろうか。市選管啓発課の加賀谷哲郎課長は「疑問に思う気持ちは分かる。しかし、いくらが適正なのか市では判断できない」。せめて、チェック体制を強化できないものか。聞くと、「単価と金額が上限内か書類で確認する。それ以上の調査はできない」という。公金を扱うには心もとない答えだ。

 「詳細な内訳を示す必要がないことは問題」と佐伯区の印刷会社社長。業者が投開票日までに単価や総額を選管に示すが、写真撮影やデザイン、印刷代などの内訳は問われない。「実際にかかった費用に関係なく上限額を書き込んで請求できる。丼勘定がまかり通っている」と述べる。

 全国では上限額を見直す自治体もある。07年に岐阜県羽島市は34%削減し、12年に埼玉県川口市は限度の枚数を抑えて31%減らした。福岡県福津市は12年、印刷業者に対し、撮影費やデザイン費など詳細な明細書の提出を義務付けた。

 公金の在り方に詳しい「全国市民オンブズマン連絡会議」の事務局長を務める新海聡弁護士(58)は「上限額の1円単位までぴたり同じというのは非常に不自然で市民の理解は得られない」と指摘。「公営制度が一部で悪用されている恐れがある。市選管と議会は実勢価格を調査し、適正な価格へ上限を引き下げるべきだ」とする。広島市議会でも自らの襟を正す条例改正案を議論してほしい。(東海右佐衛門直柄)