日本政府観光局のまとめによりますと、3月に日本を訪れたロシア人旅行者は推計で去年の同月を77.7%上回る1万8800人でした。
月ごとではこれまで最も多かった去年10月の1万5701人を上回って最多となりました。
また、1月から3月までの累計は推計で2万9400人と、こちらも過去最多だった2019年を上回っています。
ロシアの有力紙イズベスチヤは去年11月、大手予約サイトを通じたことしの春から夏にかけての日本の宿泊施設の予約が、前年の5倍に増えたと伝えています。
海外から日本を訪れる旅行者の増加傾向が続いていますが、ロシア人旅行者が増えている背景には、日本のビザ手続きの簡素化もあると指摘されています。
3月の訪日ロシア人旅行者 1万8000人余 月ごとの統計で最多に
ことし3月、日本を訪れたロシア人旅行者は1万8000人余りと、月ごとの統計でこれまでで最も多くなったことがわかり、ビザ手続きの簡素化やロシアと中国を結ぶ航空便の増加が背景にあると指摘されています。
モスクワの日本大使館には長い列
モスクワにある日本大使館の周りには、日本に渡航するためのビザを申請する人たちの長い列ができています。
ロシア人が日本に入国するにはビザが必要で、日本大使館によりますと、大使館がことし3月に発給したビザは、およそ1万2000件に上り、1か月の発給数としては過去最多となりました。このうち観光目的がおよそ9割を占めているということです。
日本のビザは申請から4日で無料で受け取ることができるほか、去年11月からは宿泊先のホテルの支払い証明書を提出する必要がなくなるなど、手続きが簡素化されました。
ビザの申請のために並んでいた男性は「小さいころから日本の文化に興味があり、自分の目で日本を見るのが長年の夢でした」と話していました。
また、「申請のための手数料がなく、ヨーロッパに比べて提出書類も少なく、日本に行く方が楽です」とか「ヨーロッパでは、あまり受け入れてもらえません」などと、ヨーロッパ各国に比べて日本の方が訪れやすいと指摘する人もいました。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、現在、日本とロシアを結ぶ直行便はありませんが、大使館の前に並んでいた人たちは、日本には中国の北京経由で訪れると明らかにしていました。
モスクワの旅行会社 “ロシア人への親切な対応も要因”
日本への観光客が増えている要因について、モスクワにある旅行会社のオストロフスキー社長はNHKの取材に対して、「日本のビザに必要な書類などの要件が、ほかの国々と比べて非常に簡素化された」と述べ、日本のビザの取得が比較的容易であることをあげました。
また、「中国の安い航空会社があるため、ロシアのさまざまな都市から東京や大阪などの目的地に行くことができる。これは非常に重要だ」と述べ、日本への直行便の運航はなくなったものの、最近、中国の航空会社がロシアの各都市との間で直行便の運航を増やしているため、中国を経由して、比較的安く日本に行くことができると指摘しました。
さらに「日本はG7の国だが、ロシア人観光客に対してよい対応をしてくれる。ロシアの人たちは、アジアは自分たちを受け入れてくれると徐々に感じるようになっている。一方、ヨーロッパではロシア人観光客に軽蔑的な態度を示すなど、ロシア人は来なくていいと思っているようだ」と述べ、日本では不快な経験をすることなく過ごせるという認識が広がっていることも、要因の1つだとしています。
【記者リポート】現地の雰囲気は?
ウクライナ侵攻が長期化するなか、当初期待された停戦協議も進まず、閉塞感が強まっていると感じます。
ロシアの人たちは、うっせきするストレスを解消したいのか、いま国内の観光地を巡る旅行ブームが起きています。
そして、一定の収入がある人たちは、海外に足をのばしていて、渡航が難しいヨーロッパなどに変わる行き先として日本を選ぶ人が増えています。
日本を訪れるロシア人の急増は、平常ではないロシアの社会を反映している側面もあると思います。
世論調査の結果を見ますと停戦を実現して正常な社会を求めるロシア国民も少なくありませんが、プーチン政権は、アメリカのトランプ政権に向けたアピールとも受け取れる短期の停戦を一方的に表明するだけで永続的な停戦に応じる兆候は現時点でみられません。
ロシアにとって有利な条件を得られるか見極めながら出方を探っているとみられます。