【引き出し屋】ワンステップスクール集団訴訟 裁判所の決定で被告側が違法性認め、一部原告に謝罪
ひきこもりや不登校の支援で知られる自立支援業者によって意に反して連れ出され、寮などで抑圧された生活を強いられたのは違法などとして、元生徒ら5人が業者側にひとり440万円を賠償するよう求めていた裁判で9日、原告2人と被告の間で事実上の和解となる裁判所の決定が確定した。和解に向けた話し合いを経て昨年12月18日、横浜地裁(真鍋美穂子裁判長)が調停に代わる決定(いわゆる17条決定)を出していた。
リンク:「相次ぐ引き出しやの被害 ひきこもり自立支援施設の手法は拉致・監禁、元生徒7人が初の集団提訴へ」(2020年10月25日/(ダイヤモンドオンライン/加藤順子 )
■ 「勝訴判決に匹敵する意義がある内容」
業者は、神奈川県中井町で「ワンステップスクール湘南校」(以下、ワンステ)を運営していた一般社団法人若者教育支援センター(東京都世田谷区)。被告には、廣岡政幸代表理事と佐野雄司元施設長(現在は株式会社学びLab代表)らも含まれている。
地裁の決定文書によると、主文にはまず、被告側が、「入寮及びその後の寮での生活について真摯な承諾を得ず、原告の自由を違法に制限したことを認め、及び自由を違法に制限したことを認め、これにより原告が多大な精神的苦痛を感じたことを謝罪する」とある。そのうえで慰謝料を支払い、同種の自立支援に関する違法な事業を行わないことを約束する条項が盛り込まれた。なお、当事者の発信については、名誉毀損や誹謗中傷等の違法な言動を除き、制限する口外禁止は付されていない。
決定を受けた原告の1人の代理人を務めた徳田暁弁護士(神奈川県弁護士会)は裁判所の判断についてこのように評価した。
「この決定内容は、勝訴判決に匹敵する意義がある。判決のように詳細な事実認定は行われないが、謝罪や、同種の違法な事業をおこなわないという、逆に判決では得られない内容が含まれた」
協議の段階から和解を選択しなかった残る3人の原告に関しては、審理の終結と判決に向けて、当初通りの訴訟進行となる見込みだ。裁判所の呼び出しを含めて尋問期日には来られなかった原告1人を除き、残りの2人については、17条決定までの協議の様子を受け、勝訴判決が得られると予想しているという。
■ ひきこもりでないのに 騙されて入寮
「長い訴訟だったが、やっとやっと終わったんだなと感じている」
「僕の思った通りの決定になり、社会的意義を全うできたのは嬉しい」
今回決定を受けた原告の比嘉蒼真さん(仮名、25)は10日、横浜市内で会見し、そう心境を語った。
未成年だった19歳の夏、廣岡代表ら3人の男が突然やってきた。親の依頼だった。比嘉さんは当時、飲食店のアルバイトを辞め、運転免許を取得しつつ、就職情報を探すなどして暮らしていた。
ひきこもっていたわけではなかったが、廣岡代表は、比嘉さんをひきこもりだと決めつけ、無職であることを問題視して、施設に同行するよう一方的に求めてきた。警察とのつながりをほのめかしてもいた。不審に思い抵抗したものの、長時間にわたり居座られたため、大学受験勉強の支援を受けることを条件に、空港に向かう車に乗り込んだ。
中井町の湘南校の寮に着くと、スマホや財布、身分証などは全て預けさせられた。「考査部屋」と呼ばれる、扉にブザーがあり、窓も開かない部屋に入れられ、連日反省文を書かされた。考査部屋から一般の部屋に移った後も、期待した受験支援は全くなく、「騙し討ちにあった」と気がついた時には、後の祭りだった。
お金はもちろん、沖縄県から連れて来られた比嘉さんには、近隣に助けを求める知り合いもいなかった。なぜか校内には、同じように沖縄から連れて来られた生徒が何人かいた。比嘉さんが沖縄の自宅から連れ出された日、廣岡代表に同行していた3人の男のひとりが、県のひきこもり支援を受託する団体の支援者だったことは、後にワンステを脱した後で知り、合点がいった。
湘南校では外出や意思決定の自由もなく、軟禁状態だった。促されて部屋に入ると精神科医がいて、勝手に診察された。
違法に拘束されていると確信を持ちつつあったある日、運動プログラムで利用した町の施設で、「人身取引」の啓発ポスターを見かけた。人身取引とは、現代の奴隷制とも呼ばれる売買春などの搾取目的として暴力や騙しなどの手段を用いる人権侵害のことだ。「まさに自分のことだ」と感じ、とっさに役場の窓口で「逃げたい」と助けを求めた。職員は慣れた様子で、「大丈夫」と言ってくれた。その日から、寮内の監視カメラを避けながら脱走計画を立て始め、役場職員の力を借りて湘南校からようやく離脱できた時には、比嘉さんはハタチになっていた。
リンク:
問われる引き出し屋の自立支援(1) 脱走者が「捕獲」される町で
問われる引き出し屋の自立支援(3) 監視カメラの死角で、脱走計画を立てた
問われる引き出し屋の自立支援(4) 沖縄の若者たちはなぜ狙われたのか
(2020年10月/Yahooニュースエキスパート個人/加藤順子)
■ 色々な人に伝えるため、口外禁止条項は絶対に入れたくなかった
「訴訟を始めた時から、『こうした悪を許してはならない』と思ってきた。色んな方にお伝えできるよう、2度と苦しい思いをする方を産まないよう、絶対に口外禁止条項を入れないようにしたかった」
比嘉さんは10日の会見で、決定条項でこだわった点をそう話した。
「(ワンステに対しては、)当事者の気持ちを聞き取らず、自立支援と称した人権侵害行為は誰に対しても止めていただきたい。また、できることなら、今まで被害に遭われた方々に何かしらの誠意を見せていただかないとダメだと思う」
葛藤はあったが、控訴で審理がさらに伸びる可能性がある判決を選ばず、この訴訟から早く抜ける判断をした。新たな夢に出会ったからでもある。
「弁護士の先生たちを見ながら、私も法律に詳しくなって、困っている人を助けたいと思うようになりました。25歳とかなり遅れた大学生ではありますが、今、法学部で学び、司法試験を目指しています」(比嘉さん)
■ 「お前には選択肢がない」といわれ、同意書にサイン
今回決定を受けたもうひとりの原告、山里健太郎さん(仮名、30代)も、最近難関大学院に進学し、新たな道を歩み始めている。
虐待を受けて育った。その影響で、親との揉め事が絶えなかった。29歳の時、かかっていたある精神科医の手引きでワンステに入寮した。ある日突然、東京都内の自宅にきた被告らに「お前には選択肢がない」といわれ、通信制高校の事務所のようなところに連れていかれ、自分で契約書にサインさせられた。母親はセンターに300万円を支払った。
湘南校でまず驚いたのは、自分の主治医がワンステに入り込んでいたことだ。インフォームドコンセント(筆者注:投薬・手術・検査などの医療行為について、医師が十分に説明し、患者の同意を得ること)をしてくれない医師だった。副作用が強くて体に合わない薬を拒否すると、「電気ショックを与えるぞ」と暴言を言われたこともある。気に入らない行動を高圧的な態度でどなり、患者としての意思は尊重してくれなかった。
寮生活も、事前の説明がほとんどないのに、強制されることがたくさんあった。財布は預けさせられ、外部との連絡は一切禁止。契約書をみせるよう要求しても、見せてもらえなかった。
スタッフには「協調制がない」と批判された。海外で育てられ、学校や大学でも個人の自由意志を尊重することが何よりも大事だと学んできた山里さんにとって、全く異なる価値観だった。
また、かつての交通事故の後遺症で全身に痛みがあり、適切な医療を望んでいたが、無視された。逆に、望まない生活を強いられ、ストレスで不眠となった。
自立支援を謳っている施設なのに行動制限ばかりされ、社会的にも精神的にも、経済的にも、肉体的にも、自立なんてできないと感じた。すぐに、「ここはヤバい」と悟った。
それでも、スタッフとは努めて友好的に過ごした。反発すれば、ここから出してもらえなくなることがわかっていたからだ。「あなた方がやっていることはおかしい」と思っていたが、相手が騙していたので、山里さんもスタッフと仲の良いふりをした。
食事は寮のキッチンで自分でつくり、できる健康管理は自分でやった。寮で飼われていた犬も、山里さんが世話をした。その甲斐あってか、スタッフの信頼を得て外部就労組となり、少しの自由は得られた。
ところが退寮の直前になり、主治医の所属する精神科病院に強制的に入院させられた。当時の状態に心当たりはなく、懲罰的だと感じた。一度脱走し、連れ戻されるなどしたからだ。結局退寮できたのは、入寮から約1年2ヶ月後。「もう大丈夫なんだ、あの時のカルマからやっと抜け出した」という気持ちだった。
■ 訴訟で本当に争いたかったこととのズレ
「ワンステで、できたこともあった。なかには廣岡さんのやり方が合う人もいる。いいか悪いかを白黒で語れる問題ではないと客観的には思う。
ただ、施設のやり方・手段には、悪意を感じた。権限を奪って生徒たちを支配する、身分証や金を取り上げて上下関係を作る、そうした手段が生徒を支配するために使われていた。目をつけられすぎないようにすると抜けられる。本人から話を聞き、本人が望むことや夢を支援することが、本来の支援者の役割なのでは? と、ワンステのやり方を疑問に思っている」
ワンステについてそう話す山里さんは、訴訟では、本当に争いたかった部分に触れることができなかった。
連れ出しの経緯や湘南校での生活ばかりが争点になり、尋問では自分が家族に暴力を振るっていたという点を被告から責められ、支援の正当性を主張された。本当は、家庭の中での争いごとや虐待など、誰かが間に入らないと解決しないような事態に自分が困っていたことに、目を向けて欲しかった。
山里さんの心には、ワンステと連携し、入寮を手引きした主治医に対する不信感も根強く残る。争うことはできなかったが、そもそもこれは、医師からの被害だったとも感じている。
ただ、裁判がどのようになろうと、自分の道を進もうと決めていた。先に進むためにも、裁判所の決定を受けることにした。
■ コロナ禍の影響で審理期間が4年越え
訴訟はまもなく結審となるが、2020年10月28日の提訴からは、コロナ禍の影響もあり、すでに4年が過ぎた。
この間、提訴時7人いた原告の数は5人に減った。弁護方針をめぐって意見が合わず、早い段階で訴訟を降りた1人も、傍聴のため、期日には遠方から法廷に通い続けている。
本人尋問期日で、証言台に立てなかった原告は2人いた。代理人の弁護士によると、被告に不安を強く感じていたという。1人は終盤になって訴訟を降り、もう1人は「ワンステを許せない」との思いから原告の立場自体は続けている。
今回決定を受けず、判決を得ることを選んだ原告の渡邉豪介さんはこう話す。
「裁判所からの正式な決定で、引き出し屋のような施設が悪徳なものであると伝えることができ、安心している。続く私の判決では、こういう被害に遭った全国の皆さんに、安心した気持ちを与えられればと感じている」
集団訴訟の解決の道行きは、原告それぞれの方向に向かい始めたが、引き出し屋への「許せない」という思いは同じだ。