二人で幾多の夜を過ごしただろう。

二人で幾千のモンスターを倒してきただろう。

二人で幾万里もの道を歩いただろう。

二人でどれだけ…… 一緒に行動してきたのだろう?


考えたことすらない。
私達は一緒に居ることが当たり前になっていたから。

そして、夫婦になるだなんて私は思いもしないまま、彼と……ベルーシと一緒に居た。







「こうして、君と一緒にいられるのは幸せだ……」


まだフィーが産まれる前、二人甘く愛し合った後にぽつりと呟いた。
「何よ、まるで不治の病でも抱えた患者みたいな物言いしちゃってさ?」
寂しそうに呟いたベルーシを見ておかしくなり、くすくすと笑いながら答える。
すると、虚ろに見える深い瞳が少し暗くなった。
「時折怖くなるんだ……君と一緒に居られて幸せな一時が、実は夢なんじゃないかって」
ベルーシはベッドに寝転んだまま、私を抱き寄せてくる。
「もしかして、もしかして……これは大いなる幻なんじゃないかって、不安になる時がある」
「どうして?」
素直な気持ちで、言葉を伝える。
「まるで永遠に続くかのような幸福感が、とてつもなく怖い……そしていつしかこの幸福感が色褪せてしまうのではないかと思うと……」
ベルーシは、きゅっと抱きしめる腕の力を強め、私と体を密着させる。
「その幸福感が消えたとき、僕はこの夢か幻か解らない『現実』から眼を覚ます……そんな気が、してならない」
得体の知れない恐怖感に身を包まれているのか、ベルーシの身体は小刻みにだが、震えていた。
まるで何かに怯える子供のように、とても弱々しい心境なのかも知れなかった。

「バカねぇ……考えすぎよ。それじゃあ、いま私が感じているベルーシの温もりは、夢?」
ベルーシの背中へと腕を回す。
「愛し合ってる時に呟く言葉も、快感も、満足感も、夢?」
頭を胸に預けると、イークスから受けた銃創が目に飛び込む。
痛々しい傷痕に優しく口付け、ベルーシの胸板に顔をぴったりと密着させ、心臓の鼓動が私の体に響く。
その心地よいリズムに誘われたのか、急に眠気を感じ始めた。
強められた腕の力が和らぎ、ベルーシの体は、緊張から来る強張りが無くなっていく。

トクン、

 トクン、

  トクン、

と……心臓の鼓動が響いてくるたびに、意識は眠りの世界へと一歩一歩進んでゆく。


意識が無くなる直前……

何かが聞こえてきた。



「………ジール………あ……し…………い…………え………に……」


陶酔にも近い睡眠の入り口で、かすかに聞こえた言葉。

私は、特に気にしないまま………眠りについた。


















  ――――――――――――







「今フィーちゃんは、サンドリアを出て、バストゥークに向ってるみたいですね」
娘から送られてきた手紙を見て、微笑むタルタルの女性。
同封されていた写真には、北サンドリアの噴水の前でアックスアームに肩車してもらっているフィーの姿。
私は一週間ほど見ていない娘の顔に、思わず嬉しいやら寂しいやら複雑な感情を覚えた。
いま手紙を読んでいるのは、ご近所に住むマシュシュさんだ。
タルタル用のハシゴ付きで、他よりも座席部分が高い椅子に腰掛け、手紙を読んでいた。
「イイですねー、こういうのって」
可愛らしく頭を揺らしながら、満面の笑みを向けてくれる。
「ふふっ、マシュシュさんのところもそろそろ子供作ったら?」
からかい半分のように話を持ちかける。
するとマシュシュさんは口を尖らせて、頬を膨らませる。
「まったくもぅ、ホントですよねえ。ウチのダンナってば……私の気持ちもしらないで」
手が小さいためティーカップを両手で持ち、一口啜る。
「最近ようやく落ち着いてきたなーって思ってたんですけど、今度はチョコボサーキットっていう賭博にはまっちゃいまして! まったく呆れちゃいます!」
プリプリと怒るマシュシュさんであったが、タルタルのせいか妙に可愛らしく見える。

マシュシュさんの夫である、ナフルラフルさんはつい最近冒険者を引退し、ようやく家庭に腰を落ち着けたのだ。
だが冒険者生活の長かったナフルラフルさんは、日常の生活が退屈で仕方がないらしく……
口の院に行っては魔法練習人形に強力な精霊魔法を撃ってストレス解消していたと言う。
お陰で、壊した人形代の請求で家計が火の車と、マシュシュさんはご立腹なのだ。
ナフルラフルさん自体、冒険者としての腕前は一流で、調理師として皆伝の腕前も持っているみたいだが……

「まったくもう。ベルーシさんの爪のアカでも煎じて飲ませてやりますか!」
そう言い捨て、またお茶を一口。
「ホント、ベルーシさんは良い旦那様ですよねぇ。エルヴァーン特有の高圧的な態度や性格ではないですし、真面目で誰に対しても優しいですから」
にこーっと子供のような微笑みを私に向ける。
「いや……その……う、うん………た、確かに、そうなの……かしら?」
自分の夫とはいえ、褒められると自分が褒められたような錯覚を感じ、何だかこそばゆい。
照れのせいか、思わず耳を掻く。
「えぇえぇ、お陰様で裁縫ギルドに来る女性冒険者の方達からも人気ですよー」
「そ、そうなの??」
そんなことは初耳だった。
「森の区の若いミスラさん達からも評判良いですよ、ベルーシさん。裁縫ギルドの人気に一役買ってくれてます」
「あ、あはは……それは良かった……」
まぁ……確かに悪い男ではないし、冒険者時代から言い寄ってくる女は少なくなかった。
当然と言えば当然か、と胸中で呟く。
「あっ、いけない! 買い物にいかなくちゃならないんでした!」
マシュシュさんが、はっと気付き、急いで椅子から降りる。
ぽてぽてと歩き、私の方を振り返ると、
「それじゃ、私はこのくらいで。どうもお邪魔しました、ごちそうさまでしたー」
と言い、一礼して出て行った。




マシュシュさんがいなくなり、急に静かになったせいか、まるで空間に一人取り残されたかのような錯覚。
窓の外から聞こえてくる、遠くで遊んでいる近所の子供達の声。
私は頬杖をつき、しばし考え込む。
「当たり前のように一緒にいるけど……やっぱ私達って、美形夫婦なんだ」
ぽつりと独り言。
「ふふっ、ベルーシが人気者かぁ……」
お茶を一口啜り、思わずにやけてしまった。







窓の外には玄関わきに植えられた魔光花の花粉が、煌きながらパラパラと降る。
空には雷曜日の紫色の三日月が浮かんでいた。
夕飯のオムレツを食べ終えたベルーシは満足気に一息ついて、お茶を啜りながら本を読んでいる。
食器を片付け終えた私は、そんなベルーシをただ見つめる。

思えば、職場や仕事についての話は、私が質問したことしか話さない。
私達はこうやって、静寂の一時を共にするだけで良いから。
フィーが生まれてからと言うものの、二人で会話するときの内容はフィーのことばっかり。

たまには、ちょっと違う話でも……と、思った。



「ねえ、ベルーシ」
私からの問いかけに声で答えず、目で答える。
『何だい?』とでも言うかのような真っ直ぐな瞳で。
「今日の昼間、マシュシュさんが遊びに来てね。軽くお話したんだけど……」
少し身を乗り出す。
「ベルーシってば、何だか女性から人気があるみたいじゃない?」
皮肉っぽいような、ちょっと意地悪っぽい言い方をしてみた。
突然の言葉にベルーシは返答に困っているようで、顎に手をやり、考え込む。
答えあぐねている様子だったが、
「そう、かもね……言われてみれば」
と、何気なく答えた。
「ふーん………」
にやにやしながらベルーシを見つめると、またしても困った様子になった。
「な、なんだい?」
慣れない私の態度や言葉に、すっかり動揺している。
「いやぁー、もしかして今までに黙って女性を泣かせたことがあるんじゃないかなーってぇ……」
からかい半分で、ベルーシに問う。
「ぷっ……」
すると、いきなりベルーシが吹き出し、声に出して笑う。
「失礼だなぁ、ジール。そんなことしないって」
「ホントかなぁー?」
対極の位置から隣に腰掛け、肩をすり寄せる。
「ベルーシはエロヴァーンだからねぇ。私にしてるように、誰かをヒィヒィ言わせたことあるんじゃない?」
むっ、と口を尖らせるベルーシ。
「ひどいなぁ、マシュシュさんに何吹き込まれたか知らないけど……忘れたのかな?」
「ん?」
ベルーシはしおりを本に挟むと、そのままテーブルの傍らに置く。
そして肩に腕を回し、ぐいと私を引き寄せた。
「……君以外じゃ、勃たないってこと………」
そっと耳打ちをする。

ああっ、と私が口を開けたと同時にベルーシは席を立ち、窓を閉める。

「まぁ……薬を盛られた時には流石に勃ってたけどね。」

窓に鍵をかけると、再び椅子に腰掛ける。
「そういやすっかり忘れてたよ、アンタが疑似不能だってコト」
「ひどいなぁ」
くすくすと楽しそうに笑うベルーシ。
つられて私もばつが悪そうにだが、軽く笑う。
「あははっ、ちょっとからかおうと思っただけよ。気にしないで……ね?」
別に怒ってはいないだろうが、なだめすかすように言うと、
「そういうジールは、どうなんだい?」
と、予想外の言葉が返ってきた。

「昼間、僕が仕事に行っている間……もしかして、よからぬ事をしているんじゃない?」
今度はベルーシが皮肉めいた笑みを浮かべた。
心を見透かすように、じっと見つめてくる。
「バカねぇ、私が男嫌いだったってこと……忘れたの?」
「覚えてるよ」
即答したベルーシに対し、思わず吹き出してしまった。
「じゃあ、お互いにそんな要素はないじゃないのよ」
するとベルーシは、
「わっ」
私をいきなり抱き締めた。
突然の抱擁に思わず驚いて声を出す。


「よく同僚がね、君を褒めているよ。可愛らしい奥さんで羨ましいってね」
耳元で、ひっそりと呟く。
「たまに二人で買い物に行ってる時とか、感じなかったかい? 君に見惚れる視線を」
「そ、そんなの気にしたこともないわ」
私の答えに、ベルーシは抱擁の力を強める。


「僕は、いつも気にしてた」







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