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「花井組」で撮影された「暴力動画」の拡散 私たちは何を考えるべきか? #エキスパートトピ

今野晴貴雇用・労働政策研究者。
出典:OpenAI(ChatGPTによる生成画像)

建設会社「花井組」でコイの世話をめぐり社長から社員への暴力が行われ、これが防犯カメラにとらえられた映像が拡散し、社会を騒がせている。暴行は1時間にわたって続いたという。

報道によれば、社長は日ごろから社員らに執拗な叱責を繰り返しており、暴力やパワーハラスメントが持続的なものだったことが明らかにされている。

さらに、問題は会社がスポンサーとなっているバスケットB1のチームとの契約解除にまで拡大している。

なぜこの事件は、これほど問題になっているのだろうか。私たちはこの事件から何を考えるべきなのだろうか。

ココがポイント

HTB北海道ニュース 2025年5月9日 実際の暴力の様子の動画

社長が従業員の男性に暴力をふるう様子が防犯カメラに捉えられていました。男性は「日常的に暴力を受けていた」と話しています。
出典:HTB北海道ニュース 2025/5/8(木)

説教好きというか、もう特定の社員と決めたらしばらくはその社員をよく呼び出して説教するというのが結構行われていて…
出典:HTB北海道ニュース 2025/5/9(金)

バスケットボールB1・レバンガ北海道は8日、公式Xを更新し…「株式会社花井組」とのサポートシップパートナー契約解除を発表
出典:中日スポーツ 2025/5/8(木)

エキスパートの補足・見解

職場では昔から暴力事件が絶えない。雇用関係では、雇った側はどこまでも命令ができ、雇われた方はどこまでも従うべきと思い込みがちだからである。いわば「主従関係」だと錯覚するのだ。これが行き過ぎると、今回のようにコイの餌を持ってくるように社長の妻が命令することや、暴力制裁が正しいかのように思いんでしまう。

昔は職場の暴力に警察が介入することはあまりなかったが、最近では映像や音声の記録を残すことが多くなったことで、実際に警察が動くこともよくみるようになった。社会の対応は確実に厳しくなっている。

ただ、記事にあるように、長時間にわたって執拗に叱責され「罪悪感」を植え付けられるとなかなか辞めたり告発したりすることができなくなる。 パワハラの事例では、「いかに自分はダメなのか」と考えさせ、何度も自己否定的な発言を促すといったことがよく見られる。これが繰り返されることで、心理的に追い詰められ、冷静な思考ができなくなってしまうのだ。

今回の事件から、私たちは、雇用関係は「主従関係ではない」と改めて肝に銘じるべきだろう。そして、職場で暴力があった場合には、記録を残し、早めに専門家に相談することが大切だ。

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ありがとうございます。
雇用・労働政策研究者。

駒澤大学経済学部他非常勤講師、北海道大学大学院公共政策研究センター上席研究員。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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