性同一性障害特例法の要件のうち、性器の見た目の変更を求める外観要件を違憲の疑いがあると判断した。手術を受けずに女性への性別変更が認められるのは極めて異例だ。
医療の進歩や社会状況の変化を踏まえ、性的少数者の自己決定権を尊重した判断だといえる。
2004年に施行された特例法は性別変更について18歳以上である、結婚していない、など5要件を全て満たすことを必要としてきた。このうち生殖機能をなくす要件は精巣と卵巣の摘出を、外観要件は陰茎切除などを求めてきた。
手術は体への負担が大きく、後遺症などの危険もある。費用も高額になる。このため申立人は、当事者に過大な負担を強いると主張したが、家裁や高裁段階で退けられていた。
これに対して最高裁大法廷は昨年10月、生殖能力要件を違憲、無効とする決定を出した。憲法13条が保障する「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」への制約が重大だと判断した。
一方、もう一つの外観要件は一、二審で判断されていないため、高裁段階に差し戻した。だが、個別意見で3人の裁判官はこの規定も違憲判断を出すべきだと述べていた。
最高裁判決を受け、女性から男性への性別変更は手術なしでも外観要件を満たすと認められるようになった。岡山家裁津山支部は今年2月、手術をしていない当事者の男性への性別変更を認める決定をした。
だが、男性から女性への変更は、事実上手術が必要で壁が高かった。高裁は今回、ホルモン療法で外性器の形状が変化することは医学的に確認されていると指摘。申立人は同療法で女性的な体になっているとし、外観要件を満たすと判断した。
一方で、外観要件の目的自体は社会生活上の混乱回避で正当性があると認めた。その上で「身体への侵襲」を受けない権利を放棄して手術を受けるか、性別変更を断念するかの二者択一を迫るものだと、最高裁と同様の考え方を示した。
ただ、「違憲の疑い」にとどまり、最高裁を経ない決着となったことには懸念も出ている。性別変更の申し立ては、争う相手方がいないため、今回の高裁決定はそのまま確定するが、対象は申立人に限られる。今後も手術を求める判断が出ることも否定できない。
立憲民主党は、要件を大幅に緩和する改正案を先の国会に提出した。自民党や公明党も議論を進めているが、保守派からの反発も予想される。しかし、要件撤廃は国際的な流れでもある。国会は司法の判断を重く受け止め、早急に法を見直さなければならない。多様性への理解を深める社会の実現に向け、引き続き前向きな議論が求められる。