東京在住の女性Ｍ様から「突然なのですが、今東京駅におり、今日この後熱海に伺ったらお会いできますか？堪えていたものが溢れてしまって、もう自分は死んだんだから、と思って初めてご連絡させていただきました。お酒はあまり飲めないのですが、お話できたら嬉しいです」とご連絡をいただいた。私の正しい使い方である。一回死んだはずなのに、Ｍ様は「熱海に行けると決まった途端元気になりました」と言った。いきなりゴールをしてしまったが、とりあえず海岸に向かった。

海に足を浸しながら、Ｍ様は自分の身に降りかかった悲喜劇の一部始終を話した。勢いが凄くて、あまりにも一方的だったので「俺をサンドバッグにしたくて来たのですか？？」と聞いた。目を覚ましたＭ様は「違います！！そんなつもりはありません！！しかし私のやっていることはまさにそれ！！坂爪さんに会うからには自分の話だけはすまいとあれだけ予習復習をしてきたと言うのに、なんという醜態！！堪忍してつかあさい！！」と言った。そして「坂爪さんに会いたいと思ったのは、一年くらい前に元気がなくて死んでいた時、坂爪さんの記事を読んだら『いてもたってもいられない！！』と思って家を飛び出し、なぜだか成田山を目指したことがあるからです」と言った。

素晴らしい話だ。Ｍ様は「なぜ成田山なのかは自分でも分からない。ただ、成田山に行かなくちゃならないと思った。成田山に着いたら、美味しい鰻料理屋もあったが『ここに行かなくちゃならない』と思って、ボロい喫茶店に入った。エアコンが壊れてて汗ダラッダラになりながら珈琲を飲んだ。坂爪さんの記事を読んだ後は鰻屋さんではなくて喫茶店でなければならなかった」と言った。よくわからない話だが、よくわかる話でもある。いてもたってもいられなくなり、頭ではなくカラダが動き出す。チカラのある言葉は、頭ではなくカラダを動かす。私が目指している境地である。

あれだけしみったれていたＭ様は「私はしみったれたものが大嫌いなんです」と言った。それに加えて「私は過去や未来の話をする人が大嫌いなんです」と言った。自分をこれだけ棚に上げられるのは凄いねと言ったら「えへ」と笑った。そして「坂爪さんに会う人はしみったれ禁止。過去や未来の話をするのは禁止。このルールだけ守れば楽しい時間を過ごせると約束する」と言った。なんでこんなに偉そうなのだろうと思ったが、偉そうな人が好きなので「その通りだね」と同意した。よく、日本の未来は明るいとか言う人がいるが、私にとっては過去も未来も真っ暗で、現在だけが輝いている。未来が明るくても、現在が暗ければ意味がない。現在が明るければ、未来も明るい。

Ｍ様は「とんでもない女を目覚めさせましたね」と言った。熱海に降りた瞬間から私は世界で一番いい女だったが、いい女に磨きがかかった。私と一緒にいられて幸せですねと言った。私は酔っ払っていたが、Ｍ様はこれらの言葉をシラフで言った。シラフで言えるＭ様は一生安泰だと思った。現在は事務の仕事をしているＭ様は、会社は私を無駄遣いしていると言った。私に事務をやらせるとは、私の無駄遣いも甚だしい。こんなに若くて活きのいい女を閉じ込めておくだなんて言語道断だと、組織にポップな呪詛を吐いた。そうだ。その通りだ。俺たちは今が一番若いのだ。今が一番ピチピチなのだ。今が明るいなら未来も明るい。女性はこのくらい元気な方がいいよなと思った。