耳に届く、小鳥のさえずりで目が覚める。
瞼を貫く朝の太陽の光。
身をよじりながらゆっくりと眼を開き、上体を起こし、しばらく惚ける。
そして大きなアクビと伸びを一つ。
いつもと変わらない朝だ。
……と、思ったが異変に気が付く。
隣で寝ているはずのベルーシの姿がない。
時間を見ると、朝の六時半。
ベルーシは普段は九時くらいからの出勤のはずだし、恐らくは外に出て朝日でも拝んでいるのだろう。
私はベットから降り、寝室を後にした。
顔を洗って、熱持ってむくんだ気分を洗い流す。
薄いトップの肌着と下着一枚の姿から、エプロンとコットンブレーへと着替える。
ドレッサーの前に座って髪の毛を解かし、結紐で後ろ髪を結び上げ、いつもの格好となった。
「よし、と」
いざ朝食の支度を始めるかと意気込んだ矢先、居間のテーブルの上に書き置きがあるのを見つけた。
―― ちょっとやり残した事を片付けてくる ――
なんだ、仕事で早くから出ていったのか、と気が抜けた。
「じゃあ、朝御飯は白パンとセルビナミルクだけでいいかねぇ」
昨日のうちに言ってくれれば朝食用意したのに、と口を尖らせる。
まったく、水臭いと言うか何と言うか。
亭主としてもう少し、威張ってみたらどうなんだろうか。
まぁ、威張られて黙っている程、私は従順な奥さんじゃないか……
パンをかじりながら、自分の矛盾した考えに失笑する。
今日は掃除も特にする必要なさそうだし、洗濯物もない。
暇な一日になりそうだ、と思い巡らせながらパンをかじる。
これだけ朝早くから出勤しているなら、午後にはベルーシは帰ってこられると思うから……
昼前に軽く菓子でもつまんで空腹の時をずらして、少し遅めの昼食を一緒に取ろう。
うん、それがいい。
それを終えたら、一緒に少し昼寝でもしようかねえ。
書き置きは残しておいた。
だから、僕を探し回ったりはしないだろう。
僕は、かつての冒険者だった時と同じ格好をしていた。
黒と紫色の混じった、混沌に次ぐ、深淵の称号を持つ鎧。
背には黒刃の、幅広く大きな刀身の鎌。
ウィンダス森の区から出た、東サルタバルタにて立ち尽くしていた。
街の入り口からは駆け出しの冒険者から商人まで、様々な人が交差する。
ここに居ては目立ち過ぎるが、待ち合わせ場所だから仕方ない。
昨日の仕事の帰り、イークスは僕の家の近くで立っていた。
互いの存在に気がつき、もう言葉はいらなかった。
僕が通り過ぎる時に、ぼそりと
「明日の朝に、森の区からの東サルタバルタで」
それだけで、二人は理解出来た。
僕はイークスを、フィーの元へ召してあげねばならない。
今は、その使命で頭が一杯だった。
「ベルーシ」
待ち人の到着のようだった。
「イークス」
この前と同じ服装。
だがよく見ると首元も黒く染まり、まるで襟巻きでもしているかのようだ。
残酷なまでに、シャドウの呪縛の酷さを見せつけられる。
「すまんな」
イークスの謝罪の言葉に、
「いいさ、約束だからね」
と、柔らかい口調で返す。
フッ、と鼻で笑うイークスだったが、何処となく寂しそうにも聞こえた。
「……フィーの所へ」
「そこで、眠りたいんだね?」
「ああ」
僕は何も聞き返す事なく、ゆっくりと頷く。
「解った……行こう」
東サルタバルタ、南の断崖絶壁の地帯にフィーの墓はある。
名も、花も、何も無い、寂しい墓が。
イークスですら墓参りはしていないとの事。
いつかここでフィーと共に眠るから、と言う理由で。
爽やかな風が頬を撫でる。
今日も快晴で、私は機嫌がよかった。
朝の様々な香りが、私を楽しませる。
朝露に濡れた花の香りや、何処かの家のパンの焼ける香り。
ミスラの鋭い嗅覚は時に煩わしさを生む事も多いが、こう言った街の息吹を嗅ぎ、楽しめるのはとても良い。
水の区に来ると、鼻の院とレストラン、それに調理ギルドと楽しめる要素が盛りだくさんだ。
私は昼食のためにシチューでも作っておこうと思い、調理ギルドを訪ねた。
「いらっしゃいませー」
店員さんが頭をぺこりと下げる。
「あら、ジールさん。おはようです」
店員さんより、下からの声。
見ると、金髪のツインテールのタルタルの女性が私を見上げていた。
「あらマシュシュさん、おはよう」
マシュシュさんの方を見て、私は微笑む。
「奇遇ですねえ、こんな時間に」
にこっと微笑むその笑顔は、まさに天使の微笑みと言えた。
マシュシュさんは、ウチの近所に住んでいて、同じく新婚さんだ。
旦那様が冒険者らしく、あまり家に帰ってこないと、この間愚痴をこぼしていた。
彼女も元冒険者で今は裁縫ギルドで働いており、ベルーシの同僚でもある。
「ええ、ちょっとシチューでも作っておこうと思って」
「いいですねえ、作り置きがききますし。ウチもシチューにしましょうかしら?」
頭を左右に揺らし、悩んでいる。
タルタルの仕草は本当に可愛らしいと、よく思う。
悩むマシュシュさんを後目に、店員さんに2人前の材料を注文する。
さっさと買い物を済ませた私に比べ、マシュシュさんは未だに頭を抱えていた。
「早く決めないと、陽が暮れちゃうわよ」
くすくすと笑いながら、声を掛ける。
「ですよねえ……私、優柔不断なもので。あぁ、せっかくのギルド休みの日なのに時間がもったいない……」
………休み?
「マシュシュさん、ギルド休みって?」
ん? と疑問の瞳。
「ギルドには定休日がありますよね? その日は職人さん以外は全員お休みなんです」
私は驚いて聞き返す。
「ベルーシ、やり残した事があるって、朝早くから留守にしてるんだけど……」
眼を丸くする、マシュシュさん。
「それはないはずです、昨日の仕事なら私もベルーシさんも全部片付けましたし……」
私は嫌な予感がした。
言い様のない、寒気にも似た予感が。
「……ここで良い」
イークスが背を向けたまま、呟いた。
辺りは大きな岩や木に囲まれていて、崖の近くにフィーの墓があった。
ここは釣り人の好むスポットでもあったが、幸い今日は人影がない。
「解った」
背に持っていた鎌を手に掛け、外す。
「なぁ、ベルーシ」
「何だい」
イークスは、くぐもった声で語り掛けてきた。
「フィーはこの地で、俺が殺してしまったな」
一瞬、答えあぐねた。
「……そうだね、正確に言えば西サルタバルタだけど」
素直に、言葉を返す。
「俺はあの時の、フィーの言葉を一語一句忘れてはいない」
更に低くなる声に、悲壮を帯びてゆく。
「忘れられない、だろうね」
僕は、またも素直に返す。
慰めの言葉が欲しいのか、追悼の言葉が欲しいのか、解らないから。
「血の色に、香りまで覚えている。残酷なものだ。その一瞬が、忘れられぬ記憶となるとは」
イークスの声が、更に低くなった。
「人間とはつくづく変なものだな……俺はあの一瞬が頭から離れない」
僕は眼を伏せ、痛々しい告白に耳を傾ける。
「……そんなものだよ、悔いし瞬間ほど記憶に残るものだから」
「血の赤が、目に焼き付いて離れない。」
イークスはどんな思いで、僕に語り掛けてきているのだろうか。
「あの匂い……死の香りが、焼き付いて離れない」
……?
イークスの様子がおかしい。
「そう、俺は忘れられない。あの心地よい感覚を」
「……イークス?」
僕は伏せていた顔を上げる。
瞬間、理解する事が出来なかった。
胸を狙って定められた無機質な、銃。
そして、こちらを向いたイークスは………
「イークスか、懐かしい名だな」
瞬時、避けようと身体が動いたが遅かった。
身体全体に響く衝撃。
乾いた轟音に、火薬と硝煙の香り。
僕は後方に吹き飛びながら、真っ赤に燃えるイークスの瞳と、漆黒の顔を見た。
空にはまばらに浮かぶ白い雲……
まばゆい太陽の光……
現実感があるような、無いような不思議な感覚。
口から鉄臭い液体が溢れている。
鳩尾に広がる冷気に似た痛みが、身体中に亀裂のように広がり、力を奪う。
顔だけ起こし、イークスを見る。
……漆黒の肌に、真っ赤な瞳。
その手には、イークスに愛用されていたであろう銃。
「ハハハ……たまらぬな。血の香りに肉の焼ける音……こんな歓喜があろうとは」
撃たれた所に手を当て、血の流出を少しでも抑える。
心臓が鼓動を重ねる度に血が溢れ出す。
「ベルーシ、血をもっと流せ」
ゆっくりと、僕のもとへと歩み寄る。
「お前の血は、新たなる俺への扉の鍵となろう……ククッ、光栄に思うんだな」
狂気と殺意。
赤い瞳が炎のように揺らめいている。
イークスはシャドウとなってしまったのだ。
胸の内でイークスに深く謝罪した。
待つべきではなかった。
早々と魂を浄化してやるべきだった。
『俺は、生きている間は奴等を狩る。何度も生まれてくる事は解っているが、そのうち生まれてくるのが嫌になるまで、銀の浄化を頭に撃ちこんでやる』
イークスの言葉を思い出す。
『時が、俺を人として在り続けさせてくれる限り』
……イークス。
「お前を同族にしたいのも山々な気はするが……」
カチッ、と音がする。
「俺の為に贄となれ。血の洗礼によって、俺は生まれ変わるのだ」
僕の眉間に、照準が定まる。
「……イークス、人間を辞めるのか」
後悔や悲哀と痛覚に包まれた胸の内から、言葉となって口から出た。
「ああ」
「人間の頃の思い出も、闇に呑まれたか」
「思い出? ああ、あの猫女との事か。あの淫売がどうかしたか?」
ククク、と低く笑う。
体からサッと血の気が引いたのは、大量に出血しているからではないだろう。
闇の呪縛とは……恐ろしく、そして憎い。
あのイークスが、こうまで狂わされるだなんて。
泣き崩れるほどフィーを愛していたのに『淫売』呼ばわりするまで堕ちるとは。
後悔、憎悪が僕の脳内で燃え盛る。
イークスの身体からプスプスと煙が立つ。
「おっと……元人間とは言えあまり長く太陽の下に居る訳にはいかんらしいな。おしゃべりは終わりだ……死ね、ベルーシ」
指に引き金が掛かる。
『ベルーシ、狩人が狙いを定める時はまず胴体の中心を狙う』
かつてのイークスの言葉が脳裏に甦る。
『何故って?標的は大きいほうが当てやすいだろう?ただ、それだけの事だ』
銃口を食い入るように見つめる。
『頭部は確かに致命傷に至らせやすい。だがな、少しでも横にずれるとあっさりと避けられる。眉間なら尚更だ。弾道が見切られやすく、頭を少し動かせば、かすりもしない』
走馬灯のように蘇った、イークスの言葉。
『まぁ、あくまで俺のやり方に過ぎぬがな』
引き金が、引かれる。
と、同時に頭を横にずらす。
弾は兜を掠めたものの、ベルーシの眉間を射止めはしなかった。
銃声が兜から耳に響き、耳鳴りを起こすが、気に止めずイークスの足首を掴み、強引に引き倒す。
後ろ向きに倒れるイークスの勢いを借り、倒れると同時に僕は立ち上がる。
「クッ、貴様ぁ!」
倒れながら、銃口を向けてくる。
「スタン!」
引き金を引く指よりも、僕の魔法詠唱の方が早かった。
空間より出し雷気を帯びた輪がイークスを幾重にも捕らえ、動きを止める。
迷う事無く鎌を振り回し、大気に螺旋の風を作り出す。
イークスの身体を包むように、闇の魔方陣が地より現れる。
フォォン……と不気味な音が鳴り、魔方陣が回転しだした。
「スパイラルヘル!!」
螺旋の大気に刃閃を残し、闇の魔方陣はガラスが割れたかのように砕け、散った。
イークスの身体を、右肩から左の脇腹まで一閃。
赤い返り血が、破裂した水風船のように弾け飛ぶ。
シャドウ独自の、黒く濁った腐泥の匂いはなく、鉄臭くて粘度のある液体が舞った。
人間の血。
僕は今までに浴びた、どの血よりも冷たく感じた。
くず折れるその人物は、かつての懐かしい友の顔に戻っていた。
「……イー、クス……」
「ありがとう、ベルー……シ……」
そう呟くと、彼は微笑み、糸の切れた人形のように崩れた。
良かった、やっと安息が得られたのだろう。
もっと早く解放してやるべきだった。
この身体に撃ち込まれた銃弾は、判断を誤った僕の罪。
イークスの口から、愛するフィーを汚す言葉を吐かせてしまった。
申し訳ない気持ちが胸に広がる。
ポタリポタリと、血がつたって落ちる。
この強固な鎧を貫くとは、狩人の攻撃は凄まじい。
たった一撃でこの有様だ。
頭がボーッとして、思考がまとまらない。
あぁ……指先が、爪先が、四肢が冷たくなってきた。
足が震える。
熱くて寒くて、血が止まらない。
ジール、ごめん……
今日は、家に、帰られないかも……
家の何処を探しても、アビスアーマー一式と、デスサイズが見当たらなかった。
ベルーシとイークスの会話を思い出す。
あの会話は、恐らくイークスの人間で居られる期限。
そして、シャドウ化したらベルーシの手で葬ってくれと頼んだのかも知れない。
全て予想の範疇に過ぎないけれど。
「ど、どうしたんですかぁ、ジールさん?」
振り返ると、マシュシュさんが息を切らせて立っていた。
嫌な予感がして、矢のような速さで自宅に着いた私を追いかけてきたのだ。
「……何だか、嫌な予感がするの」
「嫌な予感?」
「………」
女のカン、と言う大雑把な感覚に過ぎないが、冒険者の時にそのカンで助かった事も幾度かある。
だからこそ、胸騒ぎが収まらないのだ。
「ジールさん!! いますか!?」
玄関からの大声に、耳が一瞬跳ねる。
「あらアナタ! おかえりなさい!」
声の主はマシュシュさんの旦那、ナフルラフルさんだった。
黒いクロークを着込み、とんがった青い髪の毛は隠されている。
「あっ、マシュー、ただいまーってそうじゃなくて!! 大変なんですよ、ジールさん!!ベルーシさんが、ベルーシさんが……!!」
ナフルラフルさんと、マシュシュさんと共に森の区ゲートハウスまで向かった。
そこには、皮一枚で何とか分断を免れているイークスと、黒と紫の模様の鎧を赤く染めたベルーシの姿があった。
……なんで嫌な予感って、当たるのだろう。
タルタル達が群がり、急いで緊急手当をしている。
ミスラ達が薬草等を持ち、傍らに立っている。
鎧を脱がし、赤黒く焼け焦げた傷跡に治癒魔法と薬草の二重治療を行っていた。
足元から鳩尾まで吐き気にも似た寒気が這い上がり、私は力なく座り込んでしまった。
口をだらしなく開け、放心状態になる。
心臓を氷漬けにされてしまったかのように、冷たくなる。
人間は、何をするにも時間と言うものを感じる。
だが今の私の心境は、止まった時計だ。
周りは動いているのに、自分だけ時の止まった他の空間に放り出されてしまったかのような。
「ジールさん……」
震えるマシュシュさんの掛けた言葉が、引き金となった。
「いやあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
それからの記憶は……私は叫び声を発しながら、森の区のミスラのガードに抱えられ、自宅へと帰された。
ベルーシは、医療施設へと連れて行かれたそうだ。
家に、ナフルラフルさんとマシュシュさんが来てくれていた。
私一人だと心細いだろうと言う事で。
何を食べる事も無く眠る事もなく、ただ虚空を見、時を過ごした。
身体が砕けてしまいそう、と言うくらいの、心の痛みと共に。
それから数日して、リリンさんとアックスアームが訪ねてきた。
ナフルラフルさんが、冒険者のツテで連絡を取ってくれたらしかった。
「あらやだぁ、酷いカオしちゃってもぉ。美人が台無しよん」
「リリンさん……」
リリンさんはいつもと変わらぬ、おちゃらけた様子で声をかけてくれた。
それが妙に、優しくて、嬉しかった。
「………ッ!」
私は、迷子になった子が母に甘えるかのように、その胸に抱きついた。
そして、ためこんだ涙をぼろぼろと流した。
「よしよし、好きなだけ泣きなさいねぇ、オンナの涙はガマンしなくていいんだからぁ」
頭を優しく撫でてくれる、リリンさんの温もりが懐かしい。
「安心するんだ、ベルーシの命に別状はない」
アックスアームの野太い声が、私に向けられる。
「ほ、ほんとう??」
鼻水まで垂らした、情けない顔で答える。
「ああ、俺達は施設に寄ってきたからな。意識は回復していた」
「よかった……」
へなへなと力の抜けた私の身体を支えてくれる、リリンさん。
「そんな簡単に死なないわよぉ、あのコは。……でもぉ、ちょぉっと精神的にまいっちゃってるわねぇ、アレはぁ」
私の顔を拭くリリンさん。
「まいってる??」
「うん、私達にはだんまりキメちゃって何も語ろうとしないのよん」
優しく、言い聞かせるように私に語る。
「どうしてあんなケガしたのかとか、連邦自治の人にもさわり程度にしか語ってくれないんだってさぁ。まぁベルーシくんは正当防衛だとか何とか言ってたみたいよぉ?」
正当防衛、と言う事は、やはりイークスに襲われたのだ。
焼け焦げたベルーシの怪我は、銃によるものだったのか。
「まぁ、とにかくぅ……詳しいコトはベルーシくん本人から聞くと良いわねぇ」
両手で両肩をポンポンと叩いて、落ち着かせようとしてくれる。
「しばらく私達もウィンダスに滞在するからぁ、安心してねん」
――それから数日後。
ベルーシは退院するらしい。
傷跡は残ったものの、生活に支障をきたすような後遺症も無いとの事。
元冒険者、驚異的な回復力はさすがだ。
本当はもう数日療養したほうが良いが、本人の強い希望で退院を早めたらしかった。
私は、リリンさんの言いつけで自宅で待機しているはめになった。
『強く抱きついて、その勢いで倒しちゃいそうだしぃ』
また怪我させるんじゃない? と、言われ、大人しく待つことにした。
すぐ会いにいきたかった。
見舞いもしたかった。
でも、それは止められた。
しばらくベルーシを一人にしてやれ、とアックスアームが強く言った。
一人でいると、家の中が広い。
時の流れが遅い。
寂しさで胸が潰れそうになる。
……弱い女になったな、と自分を笑いたくなった。
ウィンダスでの冒険者手続きを済ませ、私は晴れて冒険者として世界に旅立った。
未知なる世界……徘徊するモンスター。
ボロボロにされながらも獣人を倒したり、時に負けかけたり。
西サルタバルタの星降る丘を見て、感動したり……
私は、毎日胸を躍らせて、その足でヴァナ・ディールの大地を一歩一歩進んでいった。
タロンギ大峡谷に差し掛かり、流石に一人で戦うのが辛くなってきた。
私は道に行き交う人を捕まえては、パーティに誘った。
楽しかった。
皆で力を合わせて、強いモンスターに挑み、鍛錬するのが。
充実した日々を過ごしていた、そんなある日のパーティ。
私はブブリム半島へと足を延ばし、港町マウラにてパーティを組んだ。
町の近くをキャンプにして、危なくなったら町に逃げ込めば、いくらモンスターでも追いかけてこない。
かっこうの狩場と言えた。
その時に組んだパーティの一人の男が、私にとっての最悪の思い出を作る事となった。
私はまだ戦士であり、その男も戦士だった。
男は私よりもパーティ経験が豊富で、様々な事を教えてくれた。
だが、その知識が豊富が故か、酷く臆病で優柔不断だった。
すこしでも強いモンスターには「やめよう」と皆に促し、複数のモンスターが襲い掛かってきた時には、真っ先に逃げる。
そのせいで、何度もパーティのタルタル白魔道士が戦闘不能に追いやられた。
私と一緒にその男も敵の注意を引き付けて時間を稼げば、タルタルは助かったと言う場面は多かった。
だがその男は町に着くと開口一番に「助かったぁ」と呟いていた。
パーティの空気を考えて怒鳴る事は止めたが……内心は嫌悪感で満ち溢れていた。
その夜、私達のパーティはマウラの町で宿を取った。
最終的には私、戦士の男、タルタルの白魔道士、黒魔道士、赤魔道士と言う五人パーティになっていたため、野宿は止めたのだ。
全員クタクタだったため、すぐに各々の部屋に向かい、睡眠を取った。
鉛のように重くなった体をベッドに預け、私もすぐに眠りについた。
……眠りについてからしばらくして、噎せ返るような息苦しさを覚える。
荒い呼吸音に、体に圧し掛かる重み。
自分以外の体臭に、目を覚ます。
全力を込めて、圧し掛かるソレを跳ね飛ばす。
「いってぇ……」
大きな音を立てて尻餅をついたのは、パーティを組んでいる戦士の男だった。
「なにすんのさ!」
寝起きの頭が重い感覚は一気に吹き飛び、熱い怒りが炎のように腹に灯る。
烈火の如く怒る姿を見ても悪びれる様子はなく、男は私を見つめる。
「なにって……何だか眠れなくてよ。ちょっと相手してもらおうと思って」
「相手……て、なんの相手だよ」
私の言葉に、男は失笑する。
「冒険者やって知らないは無いだろ? そんだけの器量良しだ、男の相手は慣れてんだろ?」
髪の毛が逆立ったような、怒りの波がつま先から髪の毛の先まで、駆け巡る。
「ふざけんな!!!」
枕元に置いておいた片手剣を取り出し、男に投げつける。
「うおっ!?」
男は驚いて身を翻し、剣を何とか避ける。
床に剣が刺さり、揺れる。
歯を剥き出しにして睨む私を見て、男は慌てていた。
「お、落ち着けって、悪かったよ。ミスラってのはちゃんと発情してからじゃないと嫌だったか?」
怒りが頂点に達した。
「この……!! 獣人野郎ッ!!」
猫形の獣が飛び掛るように、四足になって男に襲い掛かる。
「う、うわあああっ!!」
恐れ慄く男の腹の上に、勢い良く膝で乗る。
げぶっ……と軽く嘔吐し、苦しんでいる男。
「くそ……くそっ!! 男なんて……!!」
腹をおさえてじたばたと転がる男を尻目に、私は外へと駆け出した。
夜のマウラの港に、私は一人佇む。
少し俯き、無心に立ち惚ける。
その目からはポロポロと涙が零れていた。
ちくしょう、ちくしょう、と恨み言をぶつぶつと呟く。
月明かりが妙に綺麗で、まるで私を嘲笑っているかのように感じ、何だか余計に悔しかった。
しばらく一人で佇んでいた、その時。
私の目の前にすっ、とハンカチが差し出された。
「どうしたのぉ? こぉんなトコロでシクシク泣いちゃってぇ?」
間延びした、ゆっくりとした喋り方。
声の主の方を向くと、そこには一人のミスラが立っていた。
金色の煌びやかな髪の毛は、真中から分けられ、頬を隠すくらい長く、おでこのヘアバンドが印象的だ。
後ろの髪はうなじで二つ対になるように結ばれている。
「ほらぁ、涙ふいてぇ。しゃんとしなさぁい」
ね? と首を傾げて、ハンカチを押し付ける。
「あ、ありがとうございます……」
ハンカチを借り、涙を拭き取る。
「どうしたのぉ? こんな夜遅くに一人でぇ。見たトコロ、まだまだヒヨッコちゃんみたいだけどぉ」
よく見ると、金髪のミスラの人はシルクのローブに身を包み、高そうな髪飾りを着けていた。
『自分とは違う次元の人だ』と、畏怖するような眼差しで見つめる。
はっ、と金髪のミスラが気が付く。
「ごめんなさぁい、自己紹介もしないでぇ。私はリリン、キュートな白魔道士よん」
「なぁるほどねぇ……」
うんうんと頷く、リリンさん。
私は先程体験した事を全て話した。
海岸沿いの、道具屋の前で座りながら。
「冒険者ってのはぁ常に身を危険に晒すからぁ、そういった本能的なヨクボーも強くなっちゃうのよん」
無言で聞き入る、私。
「だからぁ、確かにジールちゃんが経験したようなことはぁ……よくあるコトねぇ」
慰めるように肩をポンポンと叩いてくれた。
「でも……私は許せない。ミスラであることの弱みをつけ込む、その神経が」
思い出すと、悔しくて思わず握りこぶしを作る。
「発情するのを良いことに、ミスラとならすぐヤれると思う、その考えが……」
歯を食いしばる。
「だったらぁ……発情しちゃったときは、私に言いなさぁい」
えっ? 驚いたと同時に、リリンさんが私の頬に口付けをする。
「ミスラ同士ならぁ、ジールちゃんも安心でしょぉ?」
「え……ま、まぁ……確かにリリンさんなら……い、いや、その……変な意味じゃないですよ??」
同性愛のケはないですよ、と伝えたかった。
「うふふ、大丈夫よぉ……おねえサマに任せてくれればぁ、すぐにサカリも止まるからぁ」
よしよし、と頭を撫でられる。
「これからはぁ、い~つでも頼りにしなさぁい。妹みたいに可愛がってあ・げ・るぅ」
私の男嫌いは、あの時の事件からだった。
でも、そのお陰でリリンさんと出会えたと言うのは、皮肉な話だ。
その後、私はマウラから船で海を渡って、各国を旅した。
サンドリアにて一人の老人からナイトの才を見出され、私はナイトに転職した。
それからしばらくは、クォン大陸を中心に活動し、己を鍛錬していった。
ナイトでも本格的にパーティを組むことにし、私はクォン大陸の玄関港……セルビナに移った。
その日もパーティを終え、一人町をふらついていた時に……彼を見つけた。
裁縫ギルドと釣りギルドを結ぶ足場に腰掛けていた、一人の男。
背には大きな鎌を構え、暗黒騎士である事が解った。
ただただ微動だもせず、ひたすらに水平線を眺めていた。
白とも金とも見て取れる髪の毛が、潮風でさらさらと流れる。
「なにボーッとしてるのさ」
なんとなく、声を掛けてみた。
正面を見据えていた顔が、こちらに向く。
漆黒の瞳が底の見えない闇のようで、そこに輝く色はなかった。
どことなく、寂しそうな……空虚な色だった。
「夕陽が沈むのを見てる」
少し幼い顔立ちの割には、低めの声だなと思った。
「ふーん」
男に倣い、沈む夕陽に目を向ける。
寂しいのかな、と気にかけた。
「ねえ、アンタ暇してるんだろ? よかったら一緒にパーティ組まない?」
彼の名はベルーシと言った。
エルヴァーンにしては背丈が低く、高圧的な種族柄はまったく無い。
無表情で覇気が無く、どこか暗い性格に思えた。
……結局パーティを組んだものの、人が集まることはなく、二人で戦うことにした。
そして夜になってから、『しまった』と危機感を抱いた。
男と二人っきりで、野宿するはめになってしまったからだ。
私は歯を剥き出しにして「変な気ぃ起こしたら、その首カッ切るからね」と脅しを入れた。
その日の晩は、何も無かった。
次の日――
今度は新たなメンバーを加え、狩りに勤しんだ。
その晩、パーティメンバーのとある男女は……キャンプを張り、そこで寝ていた。
無論『そういったこと』もあった。
その時……私とベルーシは外で眠りに付いていた。
数日程ベルーシと行動を共にして、私は彼の事を『傍に居ても危機感が沸かない』と認識した。
性的なものを一切感じない、違和感もあったが。
ベルーシも私の事を、異性としてではなく『仲間』として見てくれていた。
嬉しかった。
異性を超越した友情を、持ってくれたことが。
ベルーシとは頻繁にパーティを組んだ。
互いに友人として、仲間として、最高に相性の良い相棒を得た。
そして時折だが、ベルーシは私の前では、微笑むようになってきていた。
その笑顔を初めて見た時、心臓の鼓動が早まったのを覚えている。
次にときめいたのは、パーティ中のキャンプで炎の番をしていた時。
揺らめく炎を写し返す、寂しそうな瞳が、すごく儚く美しく見えた。
だがお互いの友情のためにも、この感覚は打ち明けないほうが良い。
ただ、そう思っていた。
異性として好きなのだと気付いたのは、その後。
ベルーシに対して妙にモーションをかける女が、パーティに居たとき。
女はベルーシに、ベタベタと子供が親に甘えるかのように、まとわりつく。
その様子を見ていて私は物凄く苛立った。
『私のほうが、この男をよく知ってるんだよ』と、妙な嫉妬心を抱いた。
ベルーシに想いを打ち明けたい。
ただ純粋に、そう思った。
しかし私の性格上、己から口に出すことはできないだろうと決め付けていた。
私にとって、この世でもっとも難解なクエスト。
それはベルーシに想いを打ち明けることだった。
遠くから聞こえてくる足音。
徐々にこちらに近付いてきている……どうやら、帰ってきたようだ。
期待と不安で胸が高鳴る。
カチャッ。
ドアが開く。
リリンさんが先頭で、後からアックスアームと、肩を貸して貰っているベルーシ。
私とベルーシは互いに見つめ合い、無言でいた。
「それじゃ、俺達はおいとまする」
「またねぇ~、お二人さん」
パタン。
ドアが、ゆっくりと閉められた。
「……」
「………」
ベルーシが、立ち惚けている。
私は椅子から立ち、ベルーシのもとへと歩み寄る。
肩を貸し、そのまま寝室へと歩かせる。
しばらく使われていなかった寝台。
ベルーシを寝かす。
「おかえり……ベルーシ」
ようやく、口が開いた。
「……ただいま」
ベルーシもそれに合わせ、応える。
何から聞こうか。
何から尋ねようか。
質問が幾らでもあるはずなのに、言葉にならない。
現実としての実感の無い今を、ただ二人共、口を塞ぐだけだった。
私はベルーシの手を握る。
いつもの温もりが、そこから感じて心地よい。
ベルーシも私の手を握り返す。
宙に瞳を向けたまま、私の手を強く握り返す。
しばらく瞼を閉じ、穏やかに一呼吸すると、
「心配かけてごめんよ、ジール」
と、申し訳なさそうな声で呟いた。
「まったくだよ、この大バカ男……」
言葉と共に、私の頬に涙が伝う。
堪えていた訳でもないのに、唐突に溢れ出す。
ベルーシの手にすがるようにして、私は泣き崩れた。
思いきり泣かせておこう。
語りかけても答えられる状態ではない。
ジールの生温かい涙が手に降る。
本当に心配かけたな、とジールに申し訳なくなった。
まさかこんな事態になるとは予測していなかったから。
「なんだって、あんな大怪我したのさ?」
泣きながら、質問をしてきた。
「シャドウ化したイークスに、撃たれたんだ」
ヒックヒックとしゃっくりを繰り返す、ジール。
僕はジールに経緯を語る事にした。
「イークスはシャドウの呪いを受けたと話したよね」
「うん……」
「シャドウの呪いを受けた者は、闇の一族とみなされ、死して尚も闇から生まれる」
ジールは黙って耳を傾ける。
「イークスには恋人がいた。でも、その人はイークスが手に掛けてしまったんだ。シャドウの呪いのせいでね」
瞳を見開いて驚く、ジール。
「その人は死して女神のもとで、イークスを待つと言い残した。でもイークスは闇の一族……女神のもとへは逝けない」
ベルーシは淡々と語る。
「けど、闇の血を洗う方法が一つだけある」
ベルーシは握っていた手を放し、私の頬へと手をやる。
「終わりなき地獄に似た因果の輪を、螺旋へと変える浄罪の刃、スパイラルヘルでシャドウを斬る事」
すっ、と指で私の涙を拭う。
「昔、約束したんだ。僕がイークスの魂を解放する、と」
ベルーシが ふぅ、と一息つく。
「でも、まさかこんな事態になるとは思わなかった。心配かけてごめんよ、ジール」
そう言い終えるとベルーシは私を引き寄せ、優しく抱き締めた。
ベルーシの胸に埋まり、命の躍動を感じる。
馴染み深い肌の香りに心が休まり、布がかぶさったような疲労感が降ってきた。
「私達が冒険者を引退した理由……忘れたの?」
ベルーシの胸で呟く。
「私が、限界ギリギリの冒険とか好きだから……もし、それで命を落としたら、て。そういう理由だったはずでしょ?」
今度はベルーシが聞き入る番だ。
「二人で、不安のない楽しい生活にするために冒険者を辞めたんでしょ……なのに、アンタは何してるのさ」
「……イークスとの約束だった」
「私との生活よりも大事だったのかい?」
「………」
俗っぽい言葉を口にしたな、と自分でも思った。
それにこの事態は予想外の展開だったと言っていたのに。
ベルーシが答えられないと解っているのに、意地の悪い事を言った。
眼を伏せて、困っている様子が可愛らしい。
「怪我……治ってるんでしょ? ベルーシ?」
「……うん、足がおぼつかないだけだよ」
胸に顔を押し当てたまま上目で、ベルーシを熱く見つめる。
「ねぇ……傷痕、見せて」
「醜いよ」
靴を脱いで、ベッドにあがり、ベルーシの身体の上に跨る。
「良いの、見せて」
「……」
渋々承諾し、ベルーシは上に着ていた肌着を脱ぐ。
……鳩尾に捻られてえぐられたかのような、傷痕があった。
弾痕にしてはあまりに痛々しい。
「貫かれた鎧が、深くまで刺さってたらしいよ。弾は魔法で抜いてもらった」
まじまじと見つめ、指で感触を確かめると、そこだけつるつるしていた。
せっかくの張りのある肌が……
両の手の平を、胸板で泳がせる。
「……ジール?」
この傷痕は、消えない……。
私の残す歯形や口付けの跡は消えても、イークスの残したこれは消えない。
この傷を見るたびに、ベルーシはイークスを思い出すのだろう。
私は今までに感じた事のない、激しい苛立ちを覚えた。
嫉妬。
男相手に嫉妬するのもおかしいが、ベルーシに傷を残し、永遠にその胸に刻み込んだと言う感覚が悔しかった。
私の中の独占欲に、炎が灯った。
ベルーシは……私のモノよ。
「ベルーシ……」
舌を伸ばし、傷痕をなめる。
「うっ!? ……な、何を?」
身をよじらせて、こそばゆいのだろうか。
私はひたすらに傷痕を舐める。
狼や虎が毛繕いをしているかのように、懸命になめ続ける。
消えてしまえ、消えてしまえ、と念じながらひたすらに。
傷痕が唾液に塗れ、ぴちゃぴちゃと音が鳴りだす。
「ジ、ジール……?」
私は鼻息を荒くして、まだ舐める。
ベルーシの香りがふわりと鼻腔に届く。
身体の芯から、じわりと情欲の泉が湧き出してきていた。
「ジール、どうしたんだい?」
ベルーシが困惑の瞳で私を見つめる。
「……ベルーシ……欲しい」
「えっ、いや、退院したばかりだから……うっ」
ベルーシの言葉を無視して、服の上からベルーシのモノを擦る。
十秒もしないうちに、みるみるたくましくなっていった。
「お願い……」
答えを待つ前にズボンを脱がし、下着を脱がせ、大きくなったソレを口にする。
「あっ、あ、う……」
口の中で更に固く太くなる。
隙間無くくわえ、激しく吸いつき、舌で転がす。
むしゃぶりつく、と言う表現はこういうことなのかも知れない。
「あ……ジ、ジール……」
上目でベルーシを見ると、頬と耳を赤くさせ、快感に喘いでいた。
半身も口の中でビクビクと跳ねるように喜んでいる。
ベルーシの腰骨の上に手を置き、首を上下に揺らす。
先端からじわりと快感を表す液が漏れ出し、程良く味付けされてきた。
「は……あう……す、吸いすぎ、だよ……!」
吸引の音が響く。
離してなるものかと、私はなおも強く吸い付いた。
快感からか、思わず腰を震わせるベルーシ。
熱く濡れた瞳は熱い潤いを見せている。
私は貪るように吸引し、ふやけさせんばかりの気持ちでいた。
舌で転し、絡みつかせ、ベルーシはもう堪えられそうにない。
「ジール………出……る……!」
その言葉を聞いて、私はそのままの勢いで口を離す。
ちゅぽんっ、と音がし、唾液に濡れたベルーシのモノが光る。
「な……?」
何で止める? と言いたげな瞳だ。
最後の一押しを待ち焦がれ、ベルーシのモノがビンと強く立つ。
「口の中じゃダメ……」
私はそう言い、服を脱ぎ始める。
シャツ、ブレーに続いて、ゆっくりと胸を隠していた下着を取る。
そして背を向け、最後の一枚の下着に手を掛け、尻尾を持ちながら脱ぐ。
ベルーシは、私の下着から尻尾を抜く仕草が好きだから。
ゴクリ、と生唾を飲む音。
尻尾を抜き切ると、喜びに満ち溢れてピンッっと天に向かって垂直に立った。
ベルーシは身体を起こそうとするが、私は肩に手を置いてそれを止める。
再びベルーシを寝かせ、私はベルーシの顔に跨る。
「お腹の中で、イッて……」
指で広げ、ベルーシに私のアソコを見せつける。
すでに愛撫の必要は無いくらい、濡れそぼっていた。
ベルーシの情火を煽るために、自分の内部に指を差し込み、広げて見せる。
普段なら恥ずかしくてたまらないはずなのに、今は平然と淫蕩女になれた。
ベルーシの呼吸が凄く荒くなってきている。
後方に眼をやると、天を突いて微動しないモノが興奮を物語っていた。
私はベルーシの身体をくだり、ソレをあてがう。
脈打って鉄のように固い熱棒が、今か今かと待ち焦がれている。
私の中に入りたがっているんだ、と嬉しくなった。
ゆっくりと、腰を落とす。
「あああぁぁ……」
開拓するかのように、グイグイと押し広げられ、奥へと入ってくる。
甘い快感が全身を駆け抜け、痺れさせてくれる。
「うっ……っ……!」
ベルーシが眉をしかめて、吐息のように喘ぐ。
苦しそうな顔に、切なそうな声。
この時の顔と声が、私は最高に好きだ。
そう、私しか知らないベルーシの顔と声。
「はっ……はぁっ……はぁん……んにゃ……」
呼吸と共に、声が出る。
「はぁ……あっ、はっ……はぁ……んん……」
上下に揺さぶり、左右や前後にも動く。
「ジ、ジール……」
ベルーシの苦しそうな呻き声。
射精を堪え、歯を食いしばっているのが解る。
太く硬いベルーシのモノに、更に力が入って硬くなり内部をえぐられているかのようだ。
私を気持ちよくさせるためにこんなに硬く勃起してるんだ、と。
そう思うと、頭の中が快感の波で埋まり、何も考えられなくなりそう。
熱で頭が惚けて、快感で身体が溶けていく……
「ベルーシ……イッて……」
私は力を込め、お腹の中のベルーシを締め付け、快感を与えた。
「うっ……!!」
ベルーシは身体を大きく震わせ、腰を浮かしたと同時に、熱い精を放出した。
「あっ、あん……」
ビチビチと中で暴れ回って勢い良く大量に放ち、内部全体に染み渡るかのようだった。
「いっぱい出てる……ベルーシィ……」
私の中で、ベルーシが気持ちよくなった証……
「はぁ……はぁ……っ……!」
息を切らすベルーシだったが、内部のモノはまだ猛ったままで脈打っている。
私はその躍動を感じ、更に高揚していった。
「まだ固いわ……ベルーシの」
ジールが熱の篭った声で、呟く。
痛いくらい張りつめていた僕の男根は、一回射精したくらいでは静まらなかった。
精液を浴びたせいか、ジールの中は収縮し更に蠢いてくる。
まるで溶かされて、吸収されていくような……快感による補食とでも言うのか。
まとわりついて、離さないように吸い付かれている。
寝台がギシギシと音が立つ程、激しく腰を動かすジール。
その眼は、まるで何かに憑り付かれたかのように曇っていた。
手を後ろにつき、脚を広げて結合部分を見せ付けてくる。
「見てぇ……私とベルーシィ……今、一つに……なってるのぉ………」
音が立つほど濡れた桜色の秘裂に、僕の男根が飲み込まれている。
かなり刺激が強い。
このままではすぐに二回目の射精をしてしまいそうだ。
「……ジール」
「ん……? あっ……」
上体を起こし、ジールを無理矢理押し倒して、下にする。
「今度は僕が」
ジールを強く抱き締め、その濡れた唇を奪う。
するとジールは両手で僕の頬に触れ、激しく吸い付いてくる。
「あぁ……嬉しい……」
互いに強く、深く吸い合う。
腰に回ってくるジールの脚。
汗のじっとりとした感触が肌に密着する。
僕を包み込むかのように、ふわりとジールに覆われる……そんな感覚を覚えた。
「離れないで……私から」
チクリと胸が痛む。
僕はジールの内部をえぐるような意識で、腰を動かす。
柔らかいが弾力のある乳房を、手に馴染ませるかのように撫で、時折指で乳首を刺激する。
「もっと……もっとぉ……」
ジールの甘くねだる声。
腰を勢いよく引き抜かないと、ジールのナカに飲み込まれてしまいそうだ。
ジールからの甘美な感触に溺れそうになる。
じゅぷ、じゅぷ、と卑猥な水音が、耳に絡みついて離れない。
「はあぁぁ………」
「はっ、くっ……」
ひたすらに腰を押し付け、奥深くの壁に振動を与える。
「それ……ダメ……、よすぎる、の……!」
ジールの切なさそうな呻きに、興奮が一気に駆け登る。
動きを激しくし、ジールの身体全体を揺さぶるくらい、強く動く。
「ベルー、シィ………イ、イキそう……私、イキそう……!」
吐息と共に漏れる声。
「僕もだよ、ジール………二人で、一緒に……!!」
強く抱き締め、ひたすらに腰を振り、速く激しくジールの内部を行き来する。
「あっ、あぁぁっ!」
「……つっ……!! うぅっ……!」
吸い込まれる。
飲み込まれる。
永遠と放出し続けるんではないか、と思うくらい射精している。
放出する度に内部が優しく締め付け、絶頂の余韻を強くしてくれる。
「っ……はぁぁ……」
僕は、やっと息を吐く事が出来た。
ビリビリとして、男根の感覚が麻痺しているようだ。
力を抜きジールに覆いかぶさると、ジールはまだ震えていた。
耳はへにょっと寝ており、頬は赤く染まっていて可愛らしい。
「はぁー………はぁー……はぁー………」
苦しそうに呼吸する口に、軽く唇で触れる。
「しばらく、立てそうにないよ……ジール」
ジールの中から自身を引き抜き、また抱き締める。
「ご、ごめんねベルーシ……病み上がりなのに……」
ジールが腕で目元を隠す。
その様子を見て、身体を横にずらした。
すると、ジールは向きを変えて丸まってしまった。
「ホント、ごめん……」
丸まった背に手を掛け、後ろから優しく抱き締める。
「どうしたんだい? ジール……」
「俗っぽいコト、言って」
僕は首を傾げる。
「私……嫉妬した。その傷に」
「……傷に?」
「消えない傷……アンタはきっと、その傷を見るたびにイークスを思い出す」
僕は黙って、耳を傾ける。
「ただ、悔しかった。私がもし……死んだり、消えたりした時に、形が残らないのが。
ベルーシに忘れられるんじゃないかって……そんな事あるはずないって解ってるのに。
ベルーシが私の事を忘れるはずないのに……」
沈んだ声で、呟くジール。
不安から生まれた、嫉妬だろうか……
互いに離れる事なく居るのが当然となった僕達に、数日でも空白があるとそれだけで不安になってしまうのか。
異性相手の嫉妬や、淫蕩に浸かるなど、ジールらしくない。
僕自身イークスをこの手で屠ったせいか、魂の解放の喜びと同時に言い表せない嫌悪感と罪悪感は秘めていた。
だが、それ以上に強い不安をジールに与えていたとは。
僕は愛する妻に、胸中で深く謝罪した。
「こちらこそごめんよ、ジール。僕は君の心を酷く傷つけた」
ジールの頭に手をやり、撫でるようにして髪をとかす。
「いいのよ……弱い女と笑っても」
寂しそうな言葉に、胸が締め付けられる。
「そんな風に思ったりはしないよ」
くるりとこちらを向く、ジール。
「思われてもいいの………今は甘えさせて」
言い終えると同時に、僕の胸へと抱きついてくる。
背に手を回し、子供が親にしがみつくかのように抱きつく。
二人の鼓動が身体に響き合う。
心地よい温もりが空気として、僕とジールを覆う。
僕も、ジールを抱き締める。
「ジール、愛してる」
生きている、と実感した。
――それから数日後の事……
イークスの肉体は治療施設に眠っていた。
僕が斬った傷口は魔法で綺麗に塞がれて、まるで無傷だった。
血を流し尽くし真っ白となった肌が、死を明確に彩る。
無縁の骸として安置されていたが……友人として弔いたいと伝えると、施設側の人は快く承諾してくれた。
真っ赤な炎が、棺桶に入った彼を包む。
時が経つにつれ、炎は小さくなり……完全に消えた頃には、黒い炭と白い塊が僕の目の前に現れた。
彼であった、白い塊を小さな木箱に詰める。
そして、誰も訪れる事のない墓へ、彼を埋葬した。
「これでようやく、彼女と会えるかな……」
墓参りには来ないよ。
イークスとフィーの、二人だけの一時に邪魔するつもりはないから。
僕は、手を合わせる事もなく背を向け、その場を去った。
辺りは暗くて何も見えない、一寸先も漆黒に塗られている。
白い炎が身を包み、尽きる事のない奈落をひたすらに堕ちる。
熱くはないが、すでに俺の服は焼けて粉と化していた。
俺の内に眠っていたシャドウの声が、生々しく甦る。
『聖水が効かなくなった時点で、俺は既にシャドウだ』
甘かった。
『ベルーシを殺し、自由となろう』
闇の誘惑が俺を包み、人間としての魂を喰らい尽くしてしまった。
俺は、シャドウとなった。
そして、ベルーシを撃った。
血の香りに歓喜の渦が、腹に涌いた。
シャドウとなった意志の前に、俺は逆らえなかった。
血が欲しい。
ただそれだけだった。
だが、その闇の渇きもすぐに終わりを告げた。
俺はベルーシの刃の前に、倒れたのだから。
奈落は終わったと思った時、俺は渦に巻き込まれていた。
紫色の渦。
醜く歪んだ、粘土のように形を変える渦を回転しながら見つめる。
円と化した渦は回転し、スノールジェラートが溶け落ちるように、少しずつ下へ下へと紫色の粒が落ちてゆく。
落ちていった紫の粒は、赤い鬼火となり、そして飛んでゆく。
闇の一族の転生だ。
渦は段々と小さくなり、次々と鬼火になっていく。
隣の塊が振り落とされる。
……次は俺の番だ。
…………
俺はただ、心を虚空にして、振り落とされるのを待った。
そして、ぷつんと糸が切れたように俺は落下した。
だが俺は紫色の粒ではなく、もとの白い炎に包まれたままだった。
周りの粒は既に赤く変化していると言うのに。
不意に、ふわりと羽毛布団に沈んだかのように落下が止まる。
そしてゆっくりと、上へ向かって飛び出した。
いや、飛んでいると言うよりは引っ張られていると言う感覚…………
否。
引き合っている。
磁石の対極同士がくっつくかのように。
ぐいぐいと登ってゆく。
俺は上へと顔をやる。
まばゆい光にくらみ、思わず顔を伏せる……
事は無く、俺はただひたすらにその光を見つめた。
そこには、懐かしい人の姿が俺と同様に、白い光に包まれて立っていたから。
白い手が伸びてくる。
俺も手を伸ばす。
待たせてすまなかった………
これからはずっと一緒だ…………
フィー…………
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