知らぬ間に決済アプリの残高消えた 根拠は業者が決めたある規約

三浦淳 久保田一道

 現金を使わずに買い物ができるキャッシュレス決済サービスをめぐり、ある事業者の対応に利用者から戸惑いの声が相次いでいる。

 「アカウントが突然使えなくなった」

 「残高没収って有りなの? お金返して……」

 4月上旬、SNSにこんな投稿が相次いだ。

 矛先を向けられているのは、2017年4月からキャッシュレス決済アプリを提供する株式会社「Kyash(キャッシュ)」(東京都港区)。専用アプリにクレジットカードや銀行口座から入金すると、コンビニでの支払いや友人との「割り勘」の精算ができる。

 他のキャッシュレス決済と同様のサービス内容だが、同社が4月1日、昨年6月末までに登録した利用者のうち、同月末以降に全く利用実績のないアカウントを廃止し、残高も消滅させたため、騒動が起きた。

 同社によるとこの対応は、「6カ月以上利用実績がないアカウントを閉鎖できる」(2022年2月改定)とする利用規約に基づく。長期間利用がないアカウントは、マネーロンダリング(資金洗浄)などの「不正取引に悪用されるリスクも一般的に高い」として、「不正取引の温床とならないための管理態勢の整備・強化を意図した」という。

閉鎖の案内、届かないケースも

 同社はアカウントを廃止する約2カ月半前の1月中旬以降、残高に応じて複数回、メールやアプリ、ホームページなどで周知したと説明。だが、「メールは届いていない」「メールが文字化けしていた」などという「複数のお叱り」が届いたという。取材に対して、廃止したアカウント数や消滅した残高数は「非開示」としている。

 東京都内の男性会社員(30)も「メールが来なかった」という一人だ。

 手元のクレジットカードの利用実績を上げてポイントを稼ごうと、2年ほど前にアプリを登録。クレジットカードで1万円を入金したが、一度も使っていなかった。

 4月、久々にアプリを利用しようとしたが、ログインできなかった。ネットを検索し、同社がアカウントを廃止していることを知ったという。

 男性は同社に返金を求めたが、当初は「応じられない」との対応で、複数回やり取りを続けた4月中旬、ようやく1万円が返金されたという。

 男性は「利用規約を読んでいなかったが、最終利用から半年で消されるのは短すぎる。アカウント廃止の周知期間も短く、気が付いていない人もいるのではないか」と話す。

 同社は、「6カ月」に設定している理由について、「顧問弁護士らと協議を重ねて、総合的に判断した」と説明。アカウント閉鎖の案内が一部で届かなかったことについては、「真摯(しんし)に受け止める」とし、利用者の状況などを「総合的に勘案」し、アカウント復旧や残高返還を始めているという。

商品券には有効期限の記載あるけれど

 キャッシュレス決済の利用は右肩上がりに増えている。経済産業省によると、2024年の決済額は141兆円と10年前の3倍近い水準となり、事業者も多様になっている。各事業者は、有効期限をどのように定めているのか。

 交通系ICカード「Suica(スイカ)」と「PASMO(パスモ)」は規約で、決済での使用やチャージなどの翌日から10年間動きがなければ失効すると定める。スイカは失効後も220円の手数料を支払えば払い戻しができるが、パスモは失効後は残額は戻ってこない。

 一方、「PayPay」や「d払い」「au PAY」は有効期限を設けていない。PayPay広報によると、長期間残高が変わらないユーザーについては、アカウントが第三者へ譲渡される可能性があるとして、監視対象としているという。

 キャッシュレス決済サービスに詳しいコンサルタントの山本正行さんは、Kyashが「6カ月以上にわたり利用実績がない」という規約をもとにアカウントを閉鎖したことについて、「多くのユーザーは半年で使えなくなるとは思わないのではないか」との見解を示す。

 その上で、プリペイドカードや商品券には券面に有効期限の記載があることを引き合いに、スマホの決済アプリも「実情に合った有効期限の表示方法を検討すべきだ」と指摘。消費者に対しても「利用規約に目を通し、有効期限を確認してほしい」と呼びかける。

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この記事を書いた人
久保田一道
東京社会部
専門・関心分野
法制度、司法、外国人労働者、人口減少