人とまちをつなぐロゴデザインができるまで。
2025.04.18
この度お披露目された、KK線再生に取組むプロジェクトの新名称「Roof Park Project」のロゴ。階段モチーフのデザインに遊び心を感じます。 プロジェクトの象徴とも言えるこのロゴは、どのような試行錯誤を経て最終的なかたちに落とし込んでいったのでしょう。ロゴデザインを担当した共創プラットフォームの色部義昭さんが、あまり公にされることのないプロセスを紹介します。
2025年4月のKK線廃止に伴って本格始動した「Roof Park Project」。プロジェクトを世の中に浸透させるうえで、ロゴの存在は欠かせません。今回のロゴは、次の6ステップに沿って進めていきました。
ステップ1.ビジュアルアイデンティティ(VI)デザインでできることを知ってもらう
ステップ2.文字優先型 or シンボル優先型を選択する
ステップ3.大文字・小文字の最適な組み合わせを考える
ステップ4.書体投票でプロジェクトのイメージをあぶり出す
ステップ5.方向性別4種のロゴデザインを提案する
ステップ6.ロゴをブラッシュアップし、オリジナルの書体もデザインする
まず具体的なロゴの提案前に実施したのが、ロゴデザインの先にある「VI(※1)デザインができること」をプロジェクトメンバーと共有することでした。ゲート部分のシンボルやガイドサイン、家具、ウェブやアプリ、グッズやショッパーなど、このプロジェクトにおいて、ロゴが具体的にどのように活用され得るかを網羅的に伝え、それぞれの要素について詳しく説明するところから始めました。
※1 ビジュアルアイデンティティ。主にシンボルマークやロゴタイプによって統一されたイメージを伝えること。
KK線のどこでロゴか使われ得るかを一覧化。(Illustration of people by Freepik)
さらにジャーニーマップも作成し、カスタマーが来場前・来場中・来場後のそれぞれでどのようにVIと接触し、どのような役割を持たせられるのかも伝えています。こうして一覧にすることで、ロゴがプロジェクトの印象を左右する大事な要素であり、多様な場面で活用されるものであることが理解しやすくなります。
ジャーニーマップではいつ、どこで、どのようなコミュニケーションが行われるかを整理。
次に行ったのが、ロゴデザインの方向性を決めることです。最初から具体的なロゴを提案するのではなく、複数の段階を経て進めていきました。前提要件として、“上部空間であり、公共のものである”というKK線のアイデンティティを伝えていくこと、どのような人にも伝わるインクルーシブなものであることが挙げられていました。
最初の提案では、VI展開の基軸となるロゴデザインを“シンボル優先型”と“文字優先型”の2パターンに分類し、それぞれの特徴を説明しました。“シンボル優先型”は〈ユニクロ〉や〈Osaka Metro〉のようなブランドのイメージや印象を覚えてもらうことを、“文字優先型”は〈無印良品〉や〈TokyoYard〉のようなブランドの名前を覚えてもらうことを主な目的としています。僕らとしては、今回初めて世の中にお披露目される「Roof Park Project」の名前を、より世間に浸透させるためには、文字優先型のロゴがふさわしいと考えました。
ロゴの個性を反映させたオリジナルの書体をつくることで、今後展開するサインや印刷物、その後の運用にも使うことができます。この考えを説明したうえで、プロジェクトメンバー同意のもと、“文字優先型”で進めていくことになりました。
次に考えたのは、文字優先型ロゴの場合は名称と文字の印象を一致させること、可読性に配慮することです。「大文字と小文字の組み合わせ」「すべて大文字」「すべて小文字」の3パターンの表記で文字が持つ印象を検証しました。
(上から)「大文字と小文字の組み合わせ」「すべて大文字」「すべて小文字」
大文字と小文字の組み合わせの場合、可読性が高く、ベースライン(※2)から下にはみ出る文字がなくなり、「Roof Park Project」の特徴である“屋根の上の賑わい”を想起させることができます。
一方、すべて大文字の場合、ベースラインが揃い、力強い印象を与えることはできますが、可読性はやや下がってしまいます。また、余白が少ないため、完結したプロジェクトのようにも感じられてしまいます。「Roof Park Project」は多様な人とさまざまな実験を行いながら進めていくプロジェクトなので、全体の方針と齟齬が生じかねません。
すべて小文字の場合、小文字特有の優しい雰囲気があるものの、“p”の文字がベースラインからはみ出してしまううえに、まちの中で遠くから見た時に可読性が下がってしまうのが懸念点でした。
そして3パターンすべてを検証したうえで、プロジェクトのコンセプトに最も合うとして提案したのが、大文字と小文字を組み合わせた表記でした。
※2 文字の下端にあるフォントの基準線のひとつ。欧文フォントの場合,“x”の文字の最下部がベースラインとして定義されている。
ここからは、よりプロジェクトメンバーの意見を吸い上げながら進めていくため、さまざまな書体で文字を出力し、メンバーに“「Roof Park Project」らしさ”を表していると感じる書体に投票してもらう場を設けました。通常はこうして投票してもらう機会はあまりないのですが、メンバー自らが選ぶというプロセスを経ることで、概念的にレクチャーして決めていくよりもスムーズに書体について理解してもらえたのではないかと思います。これは共創プラットフォームという座組だからこそできたアプローチでもありました。
このワークショップで重視したのは、書体を選ぶことだけでなく、メンバーそれぞれが持つ「Roof Park Project」の概念を捉えること。投票の際には、書体を選んだ理由や観点をコメントしていただき、具体的なロゴデザインを考える足がかりにしていきました。
プロジェクトメンバーから寄せられた、「Roof Park Project」の書体に期待するイメージ(一部抜粋)。
プロジェクトメンバーの意見を受けて、次に行われたのが4種類の具体的なロゴデザインの提案です。
A案(左上)はKK線の上部空間にのぼることを示す矢印が含まれた、シンボリックなデザイン。B案(右上)はKK線の上部空間にのぼる階段のエレメントが含まれたデザイン。C案(左下)は木々をモチーフにした個性的なデザイン。D案(右下)は地上と上部空間を垂直に移動することを示し、道路標識を連想させる矢印を取り入れたデザインです。方向性を限定しすぎない幅広いバリエーションになるよう心がけました。
A案とB案は、それぞれ「矢印」と「階段」という、“上にのぼること”を表す普遍的なモチーフを使い、空間の特徴を伝えています。どちらもシンプルなロゴですが、2つを比較してみるとA案は矢印に気づきくいという懸念がある一方、B案の階段は明確に上にのぼることが伝わります。また、文字としての個性についても検討し、B案はイニシャルだけでも個性があるため、賑やかなまちの景色に埋もれにくいという結論に至りました。
A案(左)は“R”の足の部分に「矢印」を、B案(右)は「階段」をモチーフにした。
C案は他の案に比べると個性的で、やわらかくオーガニックな印象があります。しかし、緑豊かな場所を想起させながらも、数年から数十年先にできあがる実際の空間と乖離してしまう可能性も考えなければなりません。
D案は強い印象を与えるものの、柔軟さが今ひとつ。今後いろいろな取り組みが行われる「Roof Park Project」の方向性とは合わないのではないかという意見が出てきました。
これまでのさまざまな検証や議論を経て、B案をさらに調整し、最終的に「Roof Park Project」のロゴができあがりました。
この案に使われたのは、セリフ(アルファベットのストロークの端にある、小さな装飾部分)が太く平らな形状のスラブセリフ体。セリフを階段の1段と見立て、“R”と“P”のイニシャルをよりシンボリックでおおらかな印象に調整し、シンプルに仕上げました。“R”の階段部分は、背景の白い部分が階段として浮き上がって見える“余白を想像できる形”にすることで、KK線の周りにまちが広がっていく様を感じてもらえたらよいなと考えました。
また、文字一つひとつの造形にも細やかな工夫があります。いろいろな人が関わりながら取り組みを行う明るく軽やかなプロジェクトを目指し、固い印象を与えてしまう完全等幅書体(すべての文字が同じ幅になっている書体)は避け、文字のカーブのつくり方にもこだわりました。
実は、小文字の“a”の形一つとっても意味があります。“a”の書体には、“a”と“ɑ”がありますが、“a”の方の方がオープンで、フレンドリー。また、デザイナーの間では形状になぞらえて“ɑ”は「1階建ての“ɑ”」、“a”は「2階建てのa」と呼んでいますが、「Roof Park Project」の空間は地上から見て2階部分に空間が広がります。プロジェクトにふさわしい形状として“a”を選びました。書体は階段のエレメントが入っているものと入っていないものの2パターンをつくっていますが、一単語の中で多用しすぎるとくどくなるので、使い分けのルールも考えたいと思っています。
(左)階段のエレメントなし ver.、(右)階段のエレメントあり ver.
他のアルファベットや数字にもロゴのデザインを反映し、書体をデザインした。
ロゴデザインが完成した後は、VIとしていかに機能させていくかを具体的に考えていく必要があります。同時に、「Roof Park Project」は、多くの人に開かれたプロジェクトですから、明快に伝わることが求められます。ロゴだけでできることは限られるため、プロジェクトの思想や内容は別のコンテンツで伝える必要があります。今後展開していくサイン(人々を適切に誘導し、情報を提供するための案内表示や標識)についても、空間に対して主張しすぎず、かといって控えめすぎないようにしなければなりません。そうした役割分担やバランス感覚を働かせるのもデザイナーの役割です。
VIデザインの展開は、プロジェクトのWebサイトに始まり、次に印刷物のためのフォーマット、さらには実空間へ展開される可能性もあります。ロゴは漂う粒子みたいなもので、いろいろなところに広がって点在することで一つの空気感をつくり出してくれると思います。このロゴが持つ、軽快でプレイフルな印象が広がり、遊び心のある場所になってくれたら嬉しいです。
[「Roof Park Project」ロゴ]
アートディレクター_色部義昭 / デザイナー_安田泰弘 / タイプデザイナー_ロマン ・ グルケー / プロデューサー_森田瑞穂
[記事]
文_宇治田エリ / 編集_徳山夏生
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色部 義昭
Nippon Design Center, Inc.
専務取締役 / アートディレクター
株式会社日本デザインセンターにて色部デザイン研究所を主宰。グラフィックデザインをベースに平面から立体、空間、映像まで幅広くデザインを展開。AGI メンバー、日本デザインコミッティー理事、東京 ADC 会員。東京藝術大学非常勤講師。主な仕事に Osaka Metro のCI、国立公園、家具ブランド kettal などのブランディング、市原湖畔美術館、東京都現代美術館などの公共施設のサイン計画、Sony Park 展などの展覧会のグラフィックデザイン、アルヴァ・アアルト「もうひとつの自然」のブックデザインなどがある。現在、2025年大阪関西万博にて日本政府館のアートディレクションを担当。主な受賞歴に亀倉雄策賞、ADC 賞、SDA サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、One Show Design ゴールドペンシルなどがある。