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とある女魔王の鬱2

まぁちゃんの曾お婆ちゃま、セネアイーディ。

ロリの業を背負う妙齢28歳美少女の、番外編その2でございます。


ロリの汚名を背負う某神官が、一行だけ存在しています。

名前はまだ出てこないけど。

 父君様の消えた日を思わせる様な青い夏のある日。


 勇者が来た。




   とある女魔王の鬱2



 妾は魔族の女王セネアイーディ……女盛り花盛りの28歳。

 この忌まわしい、父君様の残した呪いさえ無ければの話じゃが。

 不本意なことじゃが、妾の外見はどうしたって女盛りという言葉とは無縁じゃ。

 むしろあどけなさに犯罪臭漂う男子(おのこ)しか絶賛する者はおらぬ。

 花さえ咲いておらぬ。蕾も蕾、花咲く春は遙か遠い。

 妾の春は、いずこに………。


「とーぉぶん無理じゃねー? むしろ一生来なかったりしてなー」


 あっけらかんとした口調で、幼馴染みの弟分が妾の胸を抉った。

 言葉の暴力とは…ビリーよ、そなたでなくば殺しても良いのだぞ?


「ビリー…そなた、妾の弟分の分際で…」

「弟分っても、俺の方が色々先越してっけどね。二児のパパだし」

「く…っ そなた、昔は「おっきくなったらセーネちゃんお嫁にするのー」とか言っておった癖に」

「昔の話持ち出すの止めね? 嫁さんに聞かれて誤解されたらどーするよ。俺、健全なの。世間様に変態のそしりを受けたくは無いぜ。こーの永遠の幼女☆め」

「何を申す! そなたはどれほど妾の胸を抉りたいのか」

「はっはっは。何言ってやがる。セネセネの胸は最初っから抉れてっだろ」

(くび)るぞ貴様」


 この魔王を相手に無神経発言を平然と繰り出すのは、ビリジアン・アルディーク。

 妾の城の隣にある勇気絶大根性極大な人間の村、ハテノ村の若村長じゃ。

 齢は26、妾よりも2歳年下じゃというのに…育ちおってからに。この巨体が。

 悠々と妾を見下ろしてくる弟分の視線に、殺意が湧いた。


 そんな殺伐とした昼下がりを過ごしていた時のことじゃ。

 我が側近が、慌てふためいて駆けつけてきたのは。

「へーか、へーいーかーー!」

「なんじゃ、どうした」

 鬱陶しげに押し寄せてくる額を押しのけ、距離を取る。

 この側近は有能じゃが、時として鬱陶しいことこの上なしじゃ。

「朗報です、魔女王陛下! それもとびきり大変な朗報なのです!」

 朗報なのに大変とは如何に?

「じゃったらその『朗報』とやらを早う言わぬか」

「はっ」

 妾の前に跪き、改めて報告の声を上げる。

 その内容は…

「マルエルから先見の報告がありました」

 マルエル…片方の目で未来を、片方の目で過去を見る魔族の女じゃ。

 外見は成熟した女そのものという姿で、目の前にすると見せつけられているような錯覚に陥る。

 妾の神経を逆撫でする様な行動も多く、あまり関わりたくはないのじゃが…

 残念なことに、その先見の力は確かじゃ。無念この上なし。

「それによりますと、遠からず魔王城に『勇者一行』が訪れるとのことです」

「……………」

「……………」

 黙り込む、妾。そしてビリー。

 むっつりと黙り込んだ妾の隣で、ビリーは張り付いた様な笑顔。

「勇者だってー…セネセネ、どうするよ?」

「それよりも、じゃ。この(たわ)け者は、勇者の到来を朗報じゃと」

 思わず、じいっと見据える。

 勇者と言えば、その目的は魔王殺害。

 それを朗報とは…

「何じゃ謀反か。叛意を翻そうというのか」

「陛下、陛下、痛いです」

 跪いていた側近の前髪を鷲掴み、顔を上げさせてまじまじと見遣る。

 なんじゃろうな…この気の抜けた様な顔は。

 とても謀反を起こそうという気概など、どこにも見当たらぬわ。

 物凄くイラッときたので、指を思いっきり伸ばして顔面を掴み、ギリギリと締め上げた。

「陛下、陛下! 目が、目が、指が目に食い込んでます…!」

「おおぅ…セネセネ容赦ねー…」

「止めて下さいよ、若村長!」

「面倒だし、ヤダ」

「ふおぁ…っ 指が、指が更に目に食い込んで!」

 妾はひとしきり満足ゆくまで、側近の顔を締め上げ続けた。


 そんな中、か細い声で側近が言うたのじゃ。


「ゆ、ゆうしゃいっっこ…う、の、なか………に……………………」

「うん? なんじゃ?」

 

 声を振り絞って何かを言おうという様子に、手を離してやると…

 側近は、妾にこう奏上しおった。


「ぐ…っ、ふ、………ゆ、勇者一行の内訳について、報告が…」

「なんじゃ、言うてみよ」


「聖騎士である勇者一行には四人の仲間がおり、その面子は巫女・神官・吟遊詩人・牧師で……」


 ……………なんと言うたものか。


「バランス悪っ!!」

「おお、それじゃ。ビリーよ、妾の心象も正にそれじゃ」

 何と言うべきか、意地でも死んでなるものか!! という意気が頑ななままに伝わってきおる。

 そんなに回復要員ばかり揃えて、どういうつもりじゃ…?


 しかし妾の憂慮は、次の言葉で全て吹っ飛んでしもうたわ。


「その内の巫女シェルカは封呪の巫女と呼ばれ、解呪の天才と呼び声高いとか」


 …………………………………………………………………………なぬ?


 呆れ眼で緩んでいた顔が、一気に引き締まるのを感じた。







 





「報告します! 勇者が、勇者がとうとう紫焔の間まで迫り…!」

 伝令が、泡を食って謁見の間へと飛び込んでくる。

 そうか、もう紫焔の間まで…

 ふふふ……とうとう、ここまで来おったか…。

「待ちかねたぞ、封呪の巫女よ……」

「陛下、本音駄々漏れっすよ」

「良かろう? 大目に見よ」

 本当に、妾はこの日を待ちかねたのだから…


 そして、とうとう。


 (かつ)て二十年前、父君と河に消えた勇者が開いたのと同じ扉。

 重厚な扉を勢いよく開けて、光と共に入って来たのは…


「魔王……! 父の仇だ、いざ尋常に勝b…

                   「誰が父の仇かーーっ!!」

                                 ………あぶふぉッッ!?」


 ………思いがけず、身に覚えのない罪を着せられ。

 妾は弾丸の様な勢いで、王錫を投げつけていた。

 それが見事に勇者らしき先頭の男、その脳天に回転しながら命中した。

 しかしそんなことでは、妾の腹立ちは収まらない。

「貴様…! よくも妾にそのようなことが言えたものじゃな! この、妾に…! 妾に…!」

 く……っ 情けなさで涙が滲むわ……!。

 妾は目尻に滲む涙を拭う余裕もなく、目を丸くする勇者を玉座から睨み下ろした。

「実力に不足はないというのに『その外見でついていくのはちょっと…』などと臣下一同に諫められ、一度も遠征を率いたことのない、この妾に、妾を…!!

お陰で魔王じゃというのに人っ子一人殺したことが無いわー!!

そんな妾に勇者の父の仇なんぞになる余地がどこにどうあるというんじゃ!!」

 

 妾の万感の思いを込めた叫びは、妙な余韻を残して謁見の間に響く。

 

 全力を込めた叫び故に、肩で息をつく妾と。


「……………おんなのこ?」


 呆然と呟き、ぽかんと口を開く勇者と。


 おろおろと狼狽し、困惑する巫女。


 それから目を丸くして妾を凝視する神官に。


 口を半開きにして武器を取り落とす吟遊詩人。


 笑顔を顔に貼り付けて固まる牧師。




 これが、この時妙な空気で固まったこの時が。

 妾と、これから先長い付き合いになる勇者一行の、その初めの邂逅。

 印象深くも気まずい、最初の出会いであった。


 若干一名を除いて。






セネアイーディ様、彼女は元の年齢(の、姿)を取り戻せるのか…!?

果たして、それで喜ぶ人は残念がる人を上回れるのか!?

魔王城に存在するアンケート少数派の人達は、癒しを失ってしまうのでしょうか。


そんな感じの前振り部分で区切っております。


ちなみにこの勇者は、某 釣 り 勇 者 の 息 子 です。

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