「焼酎・清酒」文化遺産に新たな味わい サパフル、香り系…果物?ワインみたい

近ごろ都に流行るもの

河野亜樹穂さんは焼酎を味と香りで4分類し、左上の「サパフル」を中心にウェブメディア「RANBIKI」で紹介している(本人提供)
河野亜樹穂さんは焼酎を味と香りで4分類し、左上の「サパフル」を中心にウェブメディア「RANBIKI」で紹介している(本人提供)

力強い筆文字のラベルにどっしりした味わい。武骨なイメージの本格焼酎に新たな波が起きている。オシャレな瓶に果実のような爽快な味で「サパフル(さっぱりフルーティーの略)」「香り系」と呼ばれ、〝飲まなかった〟若者層を開拓し、洋食とのペアリングも盛んだ。清酒にも同様の動きがある。日本固有のこうじ菌で育まれた「伝統的酒造り」は昨年末、ユネスコの無形文化遺産に登録。国民が飲まず嫌いではもったいない。

ハードル下げる爽やかさ

わぁ、本当にライチの強い香りがする! 芋焼酎「だいやめ」(鹿児島県いちき串木野市、濱田酒造)を飲んで驚いた。

教えてくれたのは、焼酎の魅力を伝えるウェブメディア「RANBIKI(らんびき)」編集長の河野(こうの)亜樹穂さん(31)。サパフルは彼女の造語だ。焼酎を味と香りで4分類する独自のマトリックス図を作り、サパフルの紹介に力を入れる。だいやめと同じ蔵元の「チルグリーン」、「フラミンゴオレンジ」(国分酒造、鹿児島県霧島市)、「GLOW EP(エピソード)05」(若潮酒造、鹿児島県志布志市)も人気という。

大学時代に飲んだ焼酎のおいしさに衝撃を受け、「飲まず嫌いや思い込みを払拭したい」と、RANBIKIを立ち上げた。紹介する基準は「ビギナーが親しみやすい味わいで、私が実際に飲んでおいしく、みなさんに飲んでいただきたいと感じた銘柄」。これまでに約50社228銘柄を取り上げ、探求を続ける。

霧島連山を背にした芋畑で「KIRISHIMA No.8」を手にする、伊川秀治さん=宮崎県都城市(霧島酒造提供)
霧島連山を背にした芋畑で「KIRISHIMA No.8」を手にする、伊川秀治さん=宮崎県都城市(霧島酒造提供)

酵母や蒸留時の圧力の工夫などで新しい焼酎が生まれているが、霧島酒造(宮崎県都城市)では、日本で初めて原料芋から新品種を自社開発した焼酎「KIRISHIMA(キリシマ) No.8」を商品化した。発売2年で累計42万本を突破。昨年7月に全国発売した900ミリリットル瓶は半年間で25万本以上売れ、計画比2割増ペースと好調だ。本格焼酎売り上げ1位の酒造だけに影響力は大きい。

「原料の芋が変われば焼酎の味や香りも変わる」と、研究開発部の伊川秀治さん(37)。10年前、「焼酎に新たなバリエーションを」との開発ミッションを受け、働きながら鹿児島大大学院博士課程にも在籍し、焼酎原料用サツマイモに関する研究に注力してきた。8番目に試した交配で生まれた新品種が、果物やハーブに似た香気特徴と醸造適性を兼ね備えていたことが、商品名「No.8」の由来となっている。

昨秋、東京など4都市で各3日間、イタリアンやフレンチなどとペアリングする有料催事を行うと、6500人以上を集客し手応えを得た。「香り成分の構成がマスカットワインと類似しており、洋食にもマッチする。飲み方は炭酸割りが一番人気。最初の焼酎は芋臭いものでなく、すっきり華やかなところから入ってきてもらって、裾野を広げたい」。量販店で900ミリリットル瓶1474円などで販売されている。

土佐鶴の新商品「香りレギュラー」は、「築地すし好」で旬の初ガツオとのペアリングメニューを展開している(重松明子撮影)
土佐鶴の新商品「香りレギュラー」は、「築地すし好」で旬の初ガツオとのペアリングメニューを展開している(重松明子撮影)

清酒の土佐鶴酒造(高知県安田町)は4月「香りレギュラー」を発売。参考価格は300ミリリットル瓶527円、1.8リットルパック2178円など、比較的手ごろな普通酒の分類でアルコールは低めの12度、水のようにすっきりした飲み口だ。「日本酒ってもっと自由で、気軽なものだと伝えたい」と広松慶久社長(51)。東京・銀座の「まるごと高知」で販売されているほか、東京を中心に展開する「築地すし好(こう)」で5月末まで、初ガツオとのペアリングメニューを提供している。

今期から、米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースの公式焼酎となった「大分むぎ焼酎二階堂」は、昭和49年の発売以来、飲みやすさで焼酎のハードルを下げ全国区の人気となったが、半世紀を経て「世界のスピリッツに」と打って出た。

冒頭のRANBIKIの河野さんとは先日、東京・谷中で一人ふらっと入ったバーで偶然出会った。爽やかで気楽な酒は交流のハードルも下げるんだ。そんな〝効果〟も実感している。(重松明子)

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