木ノ葉亭再び
木ノ葉亭、デュアル王が統治していたリーフと言う町出身の料理人がオーナーだという噂の酒場兼宿屋だ。
以前、俺はここで、元国王の呪いにより消された記憶を取り戻した。取り戻したといっても、幼い頃に魔獣の襲撃があった時の記憶や、師匠との会話など、同年代のコーギに比べれば大したことのない記憶だったと思う。
「ここは、余りいい思い出が無いからな・・・。」
リンクルと離れて行動する事になったのもこの店、王国を出る事になったのもこの店・・・と言うより、あの時の1日はとても濃い内容で、印象深いものが多くあった。だから、印象はよいものではない。
重い気分で考えながら歩いていると、すぐに木ノ葉亭に着いてしまった。
気分を変えるために、一つ深呼吸・・・。よし!
意を決して扉を開けた。
「いらっしゃ~い。ランチにするかい?それとも待ち合わせかい?」
「あっ、え~と、とりあえずランチかな?」
「あいよ!あそこの窓際の席に座っておくれ!おススメでいいかい?」
「あぁ、よろしく。」
恰幅の良いおばちゃん?が元気よく出迎えてくれたおかげで、気分が少しほぐれてきた。
今は、ランチを楽しもうか・・・。
昼時にはまだ少し早いが、それなりに客入りは有る様だ。下手をすると、昨日の夜から居る奴も居そうだが、以前ほど騒がしい事も無かった。
「お待ちどぉさん!今日のランチだよ!」
「ありがとう。いただきます!」
今日のランチは、野菜スープの中に硬めのパンをぶち込んで食べるスープセットだ。肉団子が2個も入っている。炒めたベーコンと・・・調理していない卵・・。どうやって食うんだ?
まぁ、とりあえずスープにパンをつけて・・・頬張る。
少し塩気が強いが、まぁ美味い。
ホクホク顔で食べていると、隣に赤いものが近づいてきた・・・。
「これは、スープに卵を溶きいれると美味いぞ?」
「ほへ?」
そこには、見覚えのある、赤いビキニアーマーに身を包んだ・・・包んでいるのか?
王国軍から赤い悪魔と呼ばれていたメグ・ロアさんが居た。
「こんにちは!ロアさんもお昼ですか?」
「あぁ、ちょうどここに用もあったからな・・・。ついでだ。」
今日は、ビキニアーマーに赤茶色の皮のマントを羽織っている。赤黒い手甲は何かの鱗で出来ているのだろうか、傷一つなく宝石の様に光を反射している。腰にはダガー、ピック、革袋、ロープ。大きめの革袋には色々なものが入っていそうだ。そして、背中にはグレートソード。おそらく魔法剣だろう。異様なオーラを纏っている様に感じる。
「その恰好、今から外に行くのですか?」
「そぉだな~。多分な。」
「?決まってないんですか?」
「まぁな。・・・それより君はどうしたんだ?こんな所で・・・。」
「いやぁ、こちらは野暮用です・・。」
色々な事を話しながら昼食を楽しんだ。卵を入れた野菜スープは、塩加減が絶妙で、パンのお代わりをしてしまった。
「いやぁ~、食った!」
「ここのお勧めランチは美味いですね!これからが楽しみです!」
「そうか!贔屓にしてやってくれよ?ここはデュアル様の領地から来た料理人が経営する酒場だ。ここに来る客も、リーフ関連の者が多いんだ。」
「まぁ、これからはちょくちょく顔を出すと思いますよ。」
「あたしもここの常連だ。顔を見たら声かけてくれよな!」
「はい、・・・では、ちょっとカウンターに行ってきます。」
「?何かあるのか?」
「えぇ、ギルドの兼で・・・。」
「・・・ギルド?・・・ギルド・・・ギルド。そうか。」
ロアさんは立ち上がってカウンターにハンドサインを送った。
なんのサインかは分からないが、以前ルーナさんがやっていた物とはちょっと違う様だ。
少しすると、カウンターの奥から若い女性が出てきて、こちらへ向かってきた。
「あら、ロアさん、こんな時間から何の用?」
「あぁ、紹介しておこうと思ってな。・・・こいつはアルバート、これからここに厄介になる。よろしくな!」
「ん~。この人、前に1回だけ・・・あった事があるわね・・・アルバートさんね。ヨロシク。」
「はい、よろしくお願いいたします。・・・厄介になる?ってどういう・・・。」
「そうだな。暫くはあたしと一緒に、探索ギルドで活動する事になるな!」
「え・・・ロアさん・・・探索ギルドって・・・?・・・え?」
「なんだ?デュアル様から仰せつかったんだろ?あたしと一緒じゃないか。」
「ロアさん、ギルドメンバーになるんですか?」
「あぁ、あたしは、探索ギルドのギルドマスター兼探索者だ!こっちはクローディア、ギルドの受付兼酒場のバイトだ。」
「よろしくね。クローディアよ。」
「・・・よろしく・・・クローディアさん。」
「よぉう~し!今日からお前も探索者だ!よろしくな!アルバート!!」