昨日の衆議院内閣委員会で、自民党議員らが、日本学術会議の4月総会である会員から、新法人には政府よりも右の人が会員として入ってくる可能性がある、それでいいのか、という発言があったことを取り上げ、これはこれまでの学術会議で、特定の（左の）思想を持った会員が同様の人を次の会員として選び、右の人を排除していたことの証拠だと述べて、これからはより広範な方に入っていただくべきだ、と主張した。

総会で発言した「ある会員」というのは私である。自民党議員らの反応は、発言の意味を歪めるとともに、彼らが学術会議の法人化に託す危険な意図をあらわにしていると思う。

私の発言には前段があり、われわれ現会員は決して反政府ではなく、それぞれの専門分野で政府と緊密に協力しているが、この法案については政府と異なる立場を取らざるを得ない、と述べた後で、新法人に右派が入ってくる危険を述べた。つまり、現在は政府と協力しつつ独立した立場を保てる研究者が会員になっているが、法人化後には右派が入って学術会議の活動を政治化する可能性があるのではないかと言ったのである。なぜそのようなことを心配するかと言えば、学術会議の法人化を中心的に唱えてきたのは、日本会議や統一教会とつながりのある政治家たちであり、その人々が自分たちと同じ政治的立場を持つ人を学術会議の会員にしようと考えていても全くおかしくないからである。

私は無党派であり、左派ではない。ソ連の共産主義がもたらした災禍を研究する者として、共産主義には完全に否定的な見方を持っている。外交については日本の国益の立場から発言してきたし、軍事研究にも反対ではなく、一定の基準を設けたうえで推進すべきだと思っている。

今期の学術会議全体でも、共産党に連なるような左派の存在は全く感じられない。学術会議の外での法人化反対運動が軍学共同反対運動とかなり重なっていることもあり、学術会議もそのイメージで見られがちだが、現在の学術会議自体は、各会員個人はおそらく多様な政治的立場を持っていると同時に、活動には特定の政治的傾向が反映されない、中立的な組織になっている。そしてそれは、政治的な基準で会員を選んだり排除したりした結果ではなく、現在の日本の学問の常識的なありかたを反映しているのである。

自民党議員が「より広範な方に入っていただくべきだ」と言ったのは、専門性を含むさまざまな意味での広範さを示す表現にはなっていたが（言うまでもなく、学術会議には既に極めて広範な専門の会員・連携会員が入っている）、右派を排除すべきでないという発言の後で述べたという文脈から言って、これからは右派も入れろという主張だと考えてよいだろう。学術会議から左派を排除せよという（現在の学術会議については的外れな）主張をしてきた人々が、右派を入れろというのはダブルスタンダードである。

数十年前の学術会議で、少数派ではあったものの、共産党系などの左派の会員が時に政治的な主張や活動をしたことは、当時の日本の学界での左派の影響力の大きさを考えれば不自然ではなかったが、決して好ましいことではなかったと思う。法人化後の学術会議に右派が入ることも同様に好ましくないと言えるが、それだけではない。過去の左派の活動が政策に影響を与えることは少なかったのに対し、右派の影響力のもとで学術会議が、たとえばジェンダーなど人権の問題や歴史観について、世論や学界の見方とは異なる抑圧的・国粋主義的な立場を取り、自民党右派や他の右派政党の政策にお墨付きを与えれば、大きな害があるだろう。

もちろん、新法人のもとでも会員選考は複雑な手続きを経ることになっており、すぐに多数の右派が会員になる可能性は低い。しかし、法人化推進派の意図の問題として、大いに警戒が必要だと思う。