さっき1体ゴブリンを倒したのと、休憩中に見たベルさんの戦いを参考にしたことで、ゴブリン相手の戦いには少しずつ慣れてきた。
けれど――
「スカウトアタックが成功しない……」
そう、いまだにスカウトアタックが一度も成功していないのだ。
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休憩を終え、先ほどの興奮も落ち着いたころ。
再び現れたのは、群れではなく、1体だけのゴブリンだった。
「ゴブリン1体だけだけど、もう戦えそう?」
ベルさんが尋ねてくる。
私は落ち着きを取り戻し、うなずいた。
「うん、戦いたい! それに今度は魔法を試したいから!」
そう言って短剣を構え、前に出る。
先ほどの戦いの経験と、ベルさんの動きを参考にしたことで、前よりも冷静に戦えていた。
素早く立ち回りながらゴブリンに傷を与え、ふらついたその瞬間を見逃さない。
「スカウトアタック!」
魔力を込めた一撃が、短剣を通じて放たれる。
それは攻撃でありながら、痛みではなく“想い”を伝える魔法。
相手の心に届いたとき、初めて絆が生まれる――そんな魔法だ。
私は短剣を振り抜いた。
クリーンヒットした一撃。しかし、不思議なことに傷は一切残らなかった。
(これが……スカウトアタック……!)
魔力を込めた瞬間、ゴブリンの体が淡い光に包まれる。
まるで希望の兆しのようだった。
けれど――
その光はすぐに掻き消え、ゴブリンは怒り狂って雄叫びを上げた。
……失敗だった。
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その後、何体ものゴブリンにスカウトアタックを試してみたが、すべて同じ結果に終わった。
「なんでこんなに上手くいかないんだろう……」
落ち込む私に、ベルさんが優しく声をかけてくれる。
「まあ、確率って言ってたし、今日は運がなかったのかもね。だからめげずに、また続けてみよ?」
「うん……そうする。でも、そろそろ帰らなきゃだよね?」
「うん。あんまり遅くなると神様が心配しちゃうから」
「じゃあ、また明日頑張る!」
倒したモンスターの魔石を回収しながら帰る準備をする。
そして最後の一体を確認し、ベルさんが声をかけてくれた。
「これで最後だね。じゃあ、帰ろうか」
私はうなずき、ベルさんの後ろをついて歩き出す。
気持ちを切り替えようとはしていたけど――やっぱり、少しどころじゃなく残念だった。
(「テリー」みたいに、すぐ仲間ができると思ってたのに……)
そんなことを思いながら歩いていると、突然ベルさんが立ち止まり、私はその背中にぶつかってしまった。
「いたっ……どうしたんですか、急に?」
「いや、今日は見かけなかったけど……あそこ。コボルトだよ」
ベルさんが指をさす先には、小柄な人狼のようなモンスターが1体――コボルト。
薄茶色の毛並みに鋭い牙。二足歩行で、牙を剥く姿はまさに獣の戦士だった。
「あれがコボルト……」
「どうする? 戦ってみる?」
落ち込んでいたはずの私は、気づけば即答していた。
「私がやる!」
「わかった。エイナさんにも聞いてるかもだけど、コボルトはダンジョンでゴブリンの次に弱いモンスター。だけど油断すると命を落とす人もいる。僕も後ろで見てるけど、気をつけてね」
私はうなずき、弓を構える。
今なら、先手が取れる。
気づかれていないうちに距離を詰める――そのための一矢。
心を静め、狙いを定める。
放たれた矢は、コボルトの足に命中。
叫び声とともに混乱するコボルトに向かって、私は短剣を手に駆け出した。
「ギャアアアアッ!?」
いまだ意識をこちらに向けきれていない――今がチャンス!
「スカウトアタック!」
再び、青い魔力が短剣に宿る。
私はその刃を、袈裟斬りのようにコボルトの肩から腹へと滑らせた。
――傷は、つかない。
「お願い、私と一緒に……!」
コボルトの体が、やさしい青の光に包まれる。
その光は、まるで包み込むように、温かく彼を照らした。
しばしの静寂。
そして――
「……クゥン」
怒りの咆哮は、なかった。
その瞳からは、敵意がすっかり消えていた。
「……成功、したの……?」
思わずつぶやいたその瞬間――
【スカウトアタック成功】
頭の中に、声が響く。
ふわっと、心が軽くなる。
「……うそ、ほんとに……!」
緊張が一気にほどけて、私はその場にしゃがみ込んでしまった。
顔を上げると、コボルト――もう、私の仲間――がそばにいた。
「君、本当に仲間になってくれたの?」
「クゥン」
他の人には意味不明な鳴き声かもしれない。
でも、私はこの子の気持ちがわかる。スキルのおかげで、ちゃんと伝わった。
「本当に仲間になってくれたんだ!」
私は嬉しさのあまり、コボルトに抱きついた。
「そうだ、君の名前……『ルゥ』っていうのはどう?」
「ワンッ!」
元気よく鳴いたその声は、紛れもなく“賛成”だった。
こうして――
私の最初の仲間、「ルゥ」との冒険が始まった。