徳島県鳴門市に本社を置くワイ・ジー・ケー(YGK)は
世界の釣り愛好家から支持される釣り糸メーカーだ。
自社ブランドの「XBRAID(エックスブレイド)」と
OEM(相手先ブランドによる生産)を合わせた
世界シェアはトップクラス。
釣り好きで知られるANAホールディングスの
芝田浩二社長もYGKの釣り糸を愛用する一人だ。
本社工場を訪れ、
YGKの齊藤隆文社長と日本の釣り文化について語り合った。
(聞き手はつり人社の山根和明社長)
愛用している釣り糸の工場を見学していかがでしたか。
芝田感動しました。世界品質の原点を見せてもらい、使っている釣り糸への信頼を一段と感じました。釣り人にとって、魚がかかっても釣り上げられなくては始まりません。そのための最後の信頼の絆は釣り糸。「この糸だったらいける」と思って漁場に臨むのと、不安を抱えながら臨むのとでは全く違います。
齊藤当社の主力商品であるポリエチレン製の釣り糸(PEライン)は、時計回りと反時計回りに回るボビンに巻かれた原糸を少しずつ引き出し、交差させながら編んでいくことで、よれのない、まっすぐな釣り糸に仕上げます。特殊な編み方なので製紐(せいちゅう)機から自社開発して作っています。
釣り糸を英語でフィッシングラインといいますが、航空会社のエアラインも同じ「ライン」。どちらも信頼が重要ですね。
芝田航空会社は安全第一で、そこから生まれる信頼が大切です。今日見学した工場も、そこかしこに信頼への誇りを感じました。初めてYGKの釣り糸を使ったときのことはよく覚えています。2003年の八丈島で18キロのカンパチを釣り上げました。私の釣り自慢のはじまりで、それ以来、YGKの釣り糸は信頼の相棒です。
PEラインは釣り業界に革命を起こしました。それまで主流だったナイロンやフロロカーボン製の釣り糸よりも細くて強度がある釣り糸が登場したことにより、釣り竿やリールも進化しました。
齊藤PEラインは細くて強度があり、低伸度という特長があります。水深50メートルでも、魚が餌を突いたり飲み込んだりする時のアタリを感じることができるようになり、それまではできなかった釣りが可能になりました。PEラインが普及した1990年代以降は、それまでと釣りの種類が全く変わったと言っていいくらいです。
芝田深い海を泳ぐ魚の動きが糸を通して伝わりますね。この感触はナイロン糸では味わえません。直径1ミリにも満たない細い糸で50キロのキハダマグロを平気で釣り上げられるのですから、驚異の進化だと思います。
齊藤日本には当社のような釣り糸メーカーのほか、釣り竿やリールなど多くの釣り具メーカーがあり、競い合って新しい釣法を生み出しています。トンボマグロ(ビンチョウマグロ)をジギング(ルアー釣り)で釣る「トンジギ」やタイを釣るための疑似餌「タイラバ」など、日本語の釣り用語が世界共通語。日本勢が世界の釣り業界をけん引しているのです。
芝田社長は数多く海外出張し、時間が許せば現地で釣りを楽しんできたそうですね。世界中の釣りを見てきた経験から、日本の釣り具をどう思いますか。
芝田釣りについて、日本には世界有数の恵まれた環境があります。海、川、湖があり、海ならば船釣りや磯釣り、川釣りならアユやフナなど、様々な種類の釣りを楽しめます。そんな中で釣り具メーカーが切磋琢磨(せっさたくま)しているので、釣り具の進化も世界一。使い勝手がいいですし、何より商品に信頼が置けます。最近、釣り好きの海外の友人が増えていて、お土産に日本の釣り具を持参するととても喜ばれます。
齊藤家電などメード・イン・ジャパンの競争力が弱くなっているといわれますが、釣り具に関してはメード・イン・ジャパンへの信頼は絶大です。世界中の釣り愛好家は釣り竿もリールも、ルアーも糸も、日本製がナンバーワンだと認識しています。スーツケースにYGKのステッカーを貼っていると、釣り好きの外国人によく話しかけられます。それくらい、よく知られている。日本人でも釣り好きの人は知っていますが、釣りをしない人にも、日本の釣りは世界に誇れる文化だと知ってほしいと思います。
釣りはビジネスにも役立つそうですね。
芝田一緒に釣りをするうちに、いつしか心の底から打ち解けて話せるようになるという経験はたびたびあります。釣りは早朝から始めることが多いので、前の晩から「前夜祭」と称して語り合い、1日釣りをした後は「反省会」。一連の流れで人と人のつながりがどんどん広がって、結果として仕事のサポートにもつながっているのかもしれません。
齊藤一般的に仕事の接待といえばゴルフですが、釣りの方が向いているのではないでしょうか。ゴルフ後の会話はスコアの話くらいですが、釣りは行く場所や季節によって釣れる魚が変わるので話題が豊富ですし、釣った魚を食べることもできますから。
芝田私は遠方で釣りをしたとき、釣った魚をクーラーボックスに入れて東京まで持って帰り、なじみの小料理屋に差し上げます。1週間以内に行く機会があったら「芝田さんの釣った魚です」と言って出してくれるので、お客様を連れて行くと粋なおもてなしになります。
齊藤こういう楽しみ方も釣りならではの魅力ですね。
釣りは飛行機を使った旅行とも親和性がありますね。
芝田先々代社長の時に立ち上げた「ANA釣り倶楽部(クラブ)」というウェブサイトで日本や世界各地の釣り情報を掲載しています。旅先で新しいものに出会うことは、自分自身の発見や成長につながり、釣りもそのツールの1つ。釣りのために地域間の移動が増えれば、地方創生や地域の活性化にもつながり、結果的に私どものビジネスにもつながります。
齊藤日本の海は太平洋側と日本海側とで釣れる魚が違い、四季の変化もあるので、各地を移動すれば、多種多様な釣りを楽しめます。海外の空港では釣り竿を持った旅行者を多く見ますが、日本ではあまり見かけない。これだけ恵まれた漁場があるのだから、日本人はもっと移動して釣りをすべきです。
芝田私自身、多くのお客様を釣り旅行にご案内しています。北は北海道の利尻島から、南は沖縄県伊良部島まで、漁場それぞれの魅力があります。故郷の鹿児島県・加計呂麻島にも何度もお連れしています。初心者のお客様は「入れ食い」の漁場、慣れた人には大物狙いの少し難しい漁場などと使い分けて、お客様用の釣り具も様々な釣り方に応じた数を用意して。連れて行った人は皆、また行きたいと言ってくれます。
齊藤釣りをしない人にも釣りの魅力を伝えようという、ホスピタリティーが素晴らしいですね。徳島へもぜひ、お越しください。鳴門海峡のタイ釣りは日本一面白いですよ。