- 新たな調査によって、「ハバナ症候群」の事例とロシアの影の組織が結びついた。
- アメリカ政府機関は、これまでハバナ症候群が敵対勢力の仕業である可能性は低いと述べてきた。
- 情報筋が「60ミニッツ」、「デア・シュピーゲル」などに語ったところによると、ハバナ症候群はロシアとの関係を示す証拠があると分かったという。
FBI捜査官のキャリー(Carrie、仮名)はフロリダ州の自宅にいた時、右耳に「歯医者がドリルで穴を開けているような」力を感じた。携帯電話のバッテリーが膨張し、ケースにヒビが入った。数分後、彼女は意識を失った。
2021年のこの出来事以来、彼女は記憶と認知に問題を抱えているという。
キャリーが語った「ハバナ症候群」は、CBSのドキュメンタリー番組「60ミニッツ(60 Minutes)」、ドイツの週刊誌「デア・シュピーゲル(Der Spiegel)」、ロシアの調査報道ウェブサイト「The Insider」が共同で発表した調査で報告された。
これらの報道機関は、ロシアの秘密暗殺部隊である29155部隊が、この症候群の複数の発生に関与しているとしている。これは、正式にはアメリカ政府に「原因不明の健康事案(Anomalous Health Incidents:AHI)」と呼ばれている。
キューバ、中国、ロシア、アメリカなどの世界各地で外交官や政府関係者を含む何百人ものアメリカ人が不思議な症状を報告している。
多くの患者は、突然の頭の激しい痛みや圧迫感に続いて、回転性のめまい、吐き気などのさまざまな症状を訴えている。その後、多くは、外傷性脳損傷と診断されるとThe Insiderは報じている。
この症候群を引き起こす原因としては、殺虫剤や敵対国によるマイクロ波兵器などの説がある。アメリカの政府高官は以前、中央情報局(CIA)が、もしロシアの犯行と分かれば報復するとロシアに警告していたと述べている。
CIAは、ハバナ症候群の記録された症例の大多数は、悪意のある原因によるものではないことが判明したと公言し、外国勢力の犯行である可能性は低いと述べていた。
Business Insiderは独自に検証したわけではないが、最新の調査結果はロシアの関与をこれまでで最も強く示唆している。
ハバナ症候群は、ロシア連邦軍参謀本部情報総局、略してGRU内の特殊部隊で、悪名高き暗殺・破壊工作集団29155部隊の犯行である可能性があるという。
この部隊のメンバーは、ロシアで「非致死性音響兵器」のテストを行ったことで報奨金を得ているとThe Insiderは報じている。
The Insiderによると、電話のメタデータ、飛行記録、ロシア情報機関の文書、また数十件の事件を29155部隊の工作員と結びつける個人の証言などの記録を入手したという。
アメリカ国防総省の元調査責任者、グレッグ・エドグリーン(Greg Edgreen)は、彼らが調査したAHI患者について、「一貫してロシアとの関連性があった」とドキュメンタリー番組の60ミニッツで語っている。
「彼らがロシアに対して工作を行い、ロシアに焦点を絞り、非常にうまくやっていたという面もあった」と彼は話す。また国防情報局で成績上位5%から10%の将校が影響を受けたと付け加えた。
The Insiderは、ハバナ症候群が疑われるいくつかの事例が発生する前後の、29155部隊の工作員の動きを追跡した。
The Insiderがジョイ(Joy)と名付けたアメリカ大使館職員の妻は、2021年にショージアの首都トビリシで最初のショック症状を経験した直後、宿泊施設の外にいた背の高い金髪の若い男と目が合ったという。
その後、The Insiderに29155部隊の工作員アルバート・アヴェリヤノフ(Albert Averyanov)の写真を見せられた彼女はこう語った。
「私が通りで見た男によく似ている」
「ハバナ症候群」という言葉は、2016年にキューバのアメリカ大使館に勤務していたアメリカ政府関係者によって初めて症状が報告されたことに由来している。
2023年、アメリカ国家情報長官室(ODNI)は、外国の敵対勢力が原因である可能性は「非常に低い」と述べていた。
ODNIの報告書には、 「各情報機関は、アメリカ軍関係者が報告した症状は、持病、従来の病気、環境要因など、外国の敵対勢力とは関係のない要因の結果である可能性が高いと評価している」と記されている。
しかしながら、2021年に匿名のアメリカ政府高官がニュースメディア、ポリティコ(Politico)に語ったところによると、現在進行中のハバナ症候群症候群に関する調査で、GRUは少なくとも疑いをかけられているという。
元CIA将校で、ハバナ症候群を経験した一人であるマーク・ポリメロプロス(Marc Polymeropoulos)は、2017年、モスクワのホテルの一室で耳鳴りと伴う突然のめまいを経験したとBusiness Insiderに語っている。
「私は倒れこんでいた。自分ではどうすることもできなかった。すべてが激しく回転していた」
それ以来彼は、3年間、片頭痛に悩まされ続けているという。以降、彼はウォルター・リード米軍医療センターでの治療に対する政府の支援を得るために闘わなければいけなくなった。
ロシア政府はBusiness Insiderのコメント要請に応じなかった。