同窓生から「在日の金くん」ヘイト訴訟、110万円賠償命令…名門校舞台、原告「ノーサイドを願う」
●原告代理人は「判決」を絶賛した
「満額が認められた!」。この日の判決後、金さんの代理人をつとめた神原元弁護士は喜びの声を上げた。 「110万円という金額は、名誉毀損裁判では、特段多くない金額だが、侮辱という面で見ると高額である。 これまでもSNSの投稿がヘイトスピーチであると認定された裁判例はいくつかあるが、100万円が一つの基準になると思う。 一般の人にとって、100万円はインパクトのある金額。手が滑って書き込んだ結果、100万円賠償することになるのは、ヘイト投稿の抑止力になると思う」(神原弁護士) 判決では、「差別的言動解消法は、私人間の権利義務ないし法律関係を規律したものではないものの、ある者が、他者に向けて差別的言動解消法2条に規定する『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』をおこなった場合には、そのような言動は社会通念上許される限度を超えるものは明らかであり、民法上の不法行為にあたる」とされた。 この点について、神原弁護士は「罰則規定のない理念法であるヘイトスピーチ解消法が実効的なものになり、命を吹き込んだ判決の流れを確立してくれた」と評価した。 神原弁護士によると、ヘイトスピーチには「侮辱型」(例:◯◯人はゴキブリ)、「害悪告知型」(例:◯◯人を殺せ)、「排除型」(例:日本から出ていけ)に類型されるケースが多いが、「朝鮮人には犯罪者が多い」というような「犯罪者みなし型ヘイト」は、これらに類型に該当してこなかったという。 今回の判決では「韓国または北朝鮮出身者一般の犯罪性向がそれ以外の者と比較して高い旨を指摘し、否定的評価ないし嫌悪感を表明することは不法行為に該当する」と認めたため、現在進行形で発生しているクルド人に対するヘイトスピーチについても、抑止力となるのではないかとも絶賛した。
●原告「二度とこのような裁判はやりたくない」
原告の金さんは「想定してなかった金額。SNSの140文字の投稿で110万円の賠償が認められたことにびっくりした」と驚きの表情を見せた。 判決が出る前、金さんはこの裁判を始めることについて、3年近く逡巡していたことを明かした。 そのうえで、二次被害にさらされながらも、SNS上でのヘイトスピーチと戦い、勝利をおさめた在日韓国人の李信恵さんや崔江以子さんの名前を挙げている。 「女性たちが危険な目に遭いながらも、ヘイトスピーチと戦ってきたのに、自分がやらないで一生終わったら、死ぬ前にどう思うだろうって思い、決意しました。 いざ裁判を始めたらどんなことが起こるかと警戒していましたが、今日のような天気の良い日に支援者の皆さんとともに、笑顔で集まれるとは。最初の頃に感じていた思いとは、違うものになったと感じています」 そんな金さんは、判決後の支援者集会で次のように思いを口にした。 「男性と女性では受ける差別がまるで違うと感じたが、そんな私でも二度とこのような裁判はやりたくない。ましてや家に子どもがいるような人は、公に被害を訴えることはとてもできないと思う。ヘイトスピーチを民事でなく、刑事で取り締まれるような仕組みが必要だ」 一方、被告の男性については「ヘイトをいさめる中で、いつか肩を組んで酒を飲もうと言ったことがある。私に謝る必要はないからヘイト投稿はやめてほしいし、心配もしている。投稿をやめてまた会えるように、ノーサイドになることを願っている」とも告白。 ノーサイドの意味について記者から問われると次のように答えた 「被告とまた向き合えるようになること。それは簡単ではないと思うが、彼が変わることができれば、絶対に折り合わないような酷いヘイトスピーチをしている人とも、折り合う可能性が見えてくるかもしれない。 法的措置だけではなく、ヘイトスピーチをなくすために次を示せるようなことをやらなくては。今回は自分自身の個人被害の問題になったが、マイノリティに対する差別はマジョリティ全員の問題だと思う」