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広告なしの対話アプリ「ディスコード」の稼ぎ方

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新型コロナウイルス下で巣ごもり需要が高まるなか、対話アプリ「ディスコード」の利用者が増えている。もともとゲーム愛好家を中心に人気に火が付いたが、最近は様々な趣味を持つ人が集まるコミュニティーとして利用されている。ゲーム販売手数料などで稼ぐ仕組みを導入しており、他の対話アプリと違って広告からの収入を得ていない点が特徴だ。ディスコードの成長を支えるビジネスモデルについてまとめた。

対話アプリの米ディスコード(Discord)はそもそも、ゲーマーにオンラインのすみかを提供するために開発された。だが2015年にサービスを開始して以来、それを大きく超える存在になった。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ゲームやそれ以外のコミュニティーの数百万人がディスコードを使ってつながったり、交流したり、仕事をしたりしている。新型コロナウイルス禍でユーザーがオンラインコミュニティーに押し寄せたため、ディスコードもユーザーが急増している。21年7月時点の週間アクティブユーザーは約1900万人で、月間アクティブユーザー(MAU)は1億5000万人と19年の5600万人から驚くほど増えた。ちなみに、米ビジネスチャット、スラックのMAUは3200万人だ。

ディスコードのユーザーはこのプラットフォームを勉強会の計画、会議の運営、グループでの映画鑑賞、コミュニティーのイベント企画などに活用している。ここ数年のブランド刷新によりコミュニティーが多様化し、当初の対象だったゲーマー以外にも使われるようになっている。

ユーザーの増加に伴い、売上高も増えている。20年のディスコードの売上高は1億3000万ドルで、前年の4500万ドルから3倍近くに増えた。

注目すべきことに、この売上高には広告収入は含まれていない。ディスコードは代わりに、サブスクリプション(定額課金)サービスやゲーム販売手数料などから収入を得ている。米フェイスブックや米インスタグラム、中国の「微信(ウィーチャット)」など他の対話アプリは広告収入に大きく依存しており、ディスコードは異色の存在になっている。

ディスコードを共同創業したスタニスラフ・ビシュネフスキー最高技術責任者(CTO)は「ユーザーデータの収益化に依存しないビジネスモデルをあえて追求してきた」と話す。このため、経営陣はディスコードにはさらなる収益拡大の余地があると確信しており、米マイクロソフトからの120億ドルの買収提案を断った。だが、広告に頼らない事業モデルでさらなる成長と最終的な黒字化を果たせるかは、依然として疑問だ。

今回のリポートでは、ディスコードの異色の経営戦略と今後について調べる。

ディスコードの仕組み

ディスコードは文章、音声、動画の対話アプリだ。当初はゲーマーのチャットやライブ配信のために開発されたが、やがて様々なコミュニティーに使われるようになった。

ユーザーはブラウザーを使うか、デスクトップまたはモバイル(アンドロイドかiOS)用アプリをインストールしてアクセスする。ゲーム中に複数のウィンドウを重ねて表示するなど、デスクトップ版の方が多くの機能を提供している。

ディスコードのコミュニティーは「サーバー」と呼ばれる。各サーバーにはユーザーがやり取りしたり、コンテンツを共有したりできる「テキストチャンネル」と「ボイスチャンネル」があり、それぞれのチャンネルに固有のテーマやルールがある。チャンネルでは管理者がコミュニティーを管理し、メンバーを1つの大きなスレッドに投稿させる代わりに、小さなグループに移すことができる。

ディスコードのサーバーの大半はメンバーだけに公開されており、招待制だ。サーバーの作成や参加は無料でできる。

ディスコードのコミュニティーは規模も形も様々だ。よく見られるのは場所に基づくコミュニティーだ。例えば、「サンフランシスコ・ベイエリア」というサーバーには、ベイエリア近辺に住む3700人余りが参加している。このサーバーの管理者はゲーム大会や画面共有機能「Go Live(ゴーライブ)」を使った映画の配信など様々な活動を主催している。

米プロアメリカンフットボールNFLのファンのサーバー「ファンタジー・フットボール・チャット」も人気が高く、メンバーは1万人近い。管理者はユーザー体験を向上させるために独自のボットを開発している。例えば、サーバーのメンバーがある選手に言及すると、ボットが認識し、その選手の最新の状況やNFLの契約の詳細を引き出してくれる。

巨大なコミュニティーもある。オンライン対戦ゲーム「PUBG」のプレーヤーが集まる「PUBG MOBILE」サーバーのメンバーは54万6000人に達している。ビデオゲーム「マインクラフト」のサーバーはほぼ80万人とさらに大きい。

ディスコードは様々な他のアプリと連携している。例えば、ユーザーは自分のプロフィルを動画投稿サイト「ユーチューブ」やゲーム実況サイト「Twitch(ツイッチ)」のアカウントにひも付けし、フォロワーをディスコードの専用サーバーに連れてくることができる。音楽配信サービス、スポティファイと連携してサーバーのメンバーと曲を共有することも可能だ。

一部のゲーム機とも連携できる。マイクロソフトのゲーム機「Xbox One(エックスボックスワン)」のプレーヤーは、ディスコードを使って仲間がプレーしているゲームを知ることができる。一方、ソニーはディスコードに出資し、連携に取り組んでいる。

ディスコードの稼ぎ方

20年のディスコードの売上高は1億3000万ドルで、前年の4500万ドルから増えた。注目すべきことに、同社は広告枠を販売しておらず、その計画もない。

ディスコードが広告を掲載しないのは妥当だとの見方もある。米資産運用会社アライアンス・バーンスタインのシニアアナリスト、マーク・シュムリック氏は、ディスコードが広告を通じて収益化を果たすのは難しいだろうと指摘する。「米グーグルやフェイスブックなど広告費で稼ぐ既存大手」に対抗することになり、それは容易ではないからだ。

代わりに、20年のディスコードの売上高は、サブスク型プレミアムパッケージ「Nitro(ナイトロ)」、サーバーの機能拡張(サーバーのメンバーにプレミアム特典を提供)やゲーム販売手数料など、広告以外の様々な収益源の組み合わせからもたらされている。

この戦略にはマイナス面もある。米ループベンチャーズのマネジング・パートナー、ダグ・クリントン氏は「消費者が長期間料金を払い続けてくれることに頼るのはリスクがあるが、成功すればお見事だ」と指摘する。プレミアムユーザーは代金を払い続けるほどディスコードをずっと好きでいるだろうか。それとも別のプラットフォームが登場し、ディスコードのユーザーを取り込むのか。

この広告費に頼らない収益構造で、ディスコードが成長し続け、いずれ黒字化を果たせるかは定かではない。それぞれの収益源について詳しく調べてみよう。

サブスクパッケージとサーバーの機能拡張

ディスコードのサブスク型プレミアムパッケージ「ナイトロ」の代金は月9.99ドル(または年99.99ドル)だ。ナイトロの会員は様々な特典を受けられる。

・独自の絵文字

・独自のタグとアニメのアバター(分身)

・2つのサーバーブースト(機能拡張)に加え、追加ブーストの購入代金が30%割引に

・ディスコードのサポート歴を示す特別なバッジ

・1ファイルあたりのアップロードサイズの上限が100MBに

・高解像度の画面共有とストリーミング機能「ゴーライブ」

「Nitro Classic(ナイトロ・クラシック)」はナイトロよりも割安なパッケージだ。月4.99ドル(年49.99ドル)でサーバーブーストを除くナイトロの全ての特典を受けられる。

ディスコードは有料会員数を明らかにしていないが、一部推計では100万人を超えている。

ユーザーは月4.99ドルを払って1つのサーバーの機能を拡張し、サーバーのメンバーにアップロードできるファイルのサイズの上限引き上げや音質向上など様々な特典を提供することもできる。ブーストのレベルは3段階あり、いずれもサーバーの全てのメンバーに特典を提供する。

ゲーム販売手数料

ディスコードは認証済みサーバーでゲームを販売する開発会社から手数料10%を徴収する。米スチーム(Steam)のようなゲーム配信サービスを手がけていたが失敗し、19年にこのビジネスモデルに転換した。

ディスコードはゲーム販売と有料会員向けゲームサブスクサービス「ナイトロ・ゲームス」を打ち切り、開発者向けサーバーに注力することにした。開発者はストアのチャンネルを作成できるほか、売り上げについての分析も活用できる。

ゲーム開発会社もディスコードのサーバーを使ってファンと関わりを持ったり、情報を発表したりできる。例えば、米ビデオゲーム会社ベセスダは自前のフォーラムを閉鎖し、ゲーマーとの対話の場をディスコードのサーバーに移した。日本のゲームメーカー、SNKもディスコードのサーバーを運営している。バルコ(Valko)やロケッティア(Rocketeer)など小さな独立スタジオもディスコードを使ってファンとやり取りしている。

オンラインイベントのチケット

ディスコードはユーザーがオンラインイベントのチケットを販売できる新機能を試している。同社の取り分はまだ決まっておらず、一部ユーザーと共にこの機能をテストしている。

このオプションは他の機能と並行して開発されている。ディスコードは21年3月、特定のユーザーがオンラインで聴衆に話しかける音声SNS(交流サイト)「Clubhouse(クラブハウス)」に似た機能「ステージチャンネル」の提供を開始した。この新機能はアプリとオンラインの両方で利用できる。

ディスコードによると、ステージチャンネルは「AMA(ユーザーからの質問に回答)」や対談、対話集会、読書会などの運営に使われている。聴衆の上限は当初は1000人だったが、21年6月に1万人に引き上げられた。

ディスコードは音声イベントを紹介する「ステージディスカバリー」機能も展開している。これによりユーザーは音声イベントを見つけ、聴衆として参加するためにチケットを購入し、友人にシェアしやすくなる。

この機能はクリエーターを支援する。クリエーターはサブスク型クラウドファンディングの米パトレオン(Patreon)といった外部サービスを使わなくても、自分のコミュニティーからもっと効率的に収益を得られるからだ。

ステージチャンネルはディスコードがクラブハウスや米ツイッターの音声チャット機能「Spaces(スペース)」などと競合する手段でもある。ツイッターは今やフォロワー数が600人以上のユーザーにライブ音声イベントを主催する機会を提供し、チケット制の「スペース」など追加機能の開発を進めている。米ビジネス向けSNSのリンクトインやスラック、スポティファイもライブ音声機能を提供しようとしている。

こうした新機能により、ディスコードがクリエーターにもたらす価値は一段と高まる。フェイスブックとツイッターはフォロワー数を増やし、コンテンツを供給するという点では素晴らしいかもしれないが、コンテンツが視聴されればファンとのやり取りは終わることが多い。

これに対し、ディスコードのプロダクト部門を統括するデレク・ヤン氏は、ディスコードは「クリエーターがフォロワーをコミュニティーにかたどる場」として、クリエーターに他にはないメリットを提供していると強調する。クリエーターはディスコードを使ってフォロワーと日常的に話したり、楽しんだり、絆を築いたりできる。人気を維持するために絶えず新たなコンテンツをつくり、ファンと関わりを持つプレッシャーも減る。ファンは独自のバナーや絵文字などでサーバーを楽しめる。

スタンプとオリジナルグッズ

ディスコードは20年10月、価格1.5~2.25ドルのスタンプを発売した。ナイトロやクラシックの会員はスタンプ「ウンパスくん、元気?」に無料で無制限にアクセスし、「ウンパス・ナイトロ・エリート」を使える。有料会員は全てのスタンプが33%割引になる。

スタンプの展開は今のところ、カナダのパソコンとアップル端末のユーザーにとどまる。フィードバックを参考にしてスタンプをさらに洗練してから他国でも提供する構えだ。

ディスコードはオリジナルTシャツやフード付きトレーナー、帽子、靴下などを販売するグッズストアを運営していたが、20年1月に閉鎖した。

ディスコードの将来

ディスコードは将来に向けて大きなプランを抱いている。コロナ禍で新たに数千万人のユーザーが押し寄せたため、新しい収益源を試し、ゲーム以外のコミュニティーを育て、新たな投資家を引き付けられるようになっている。しかも、この3つの分野のいずれにも減速の兆しはない。

新たな収益源の開拓

ユーザーが1億5000万人に上るプラットフォームを運営するには多くの費用がかかる。ディスコードがスタンプからオンラインイベントのチケットに至るまで様々な収益源を築いているのも驚きではない。もっとも、このプラットフォームの潜在的な収益ははるかに大きく、私たちはディスコードがいずれさらなる収入源を試すのを目にすることになるだろう。

例えば、多くのユーザーは特定のゲームや趣味に関心がある人を対象にした有料サーバーを運営している。支払いはペイパルなどの決済サービスで処理されるが、ディスコードは手数料を取っておらず、潜在的な収益が流出している。ディスコードはパトレオンやツイッチなどとも手数料を徴収せずに連携している。今後はこうした提携をもっと有効活用し、決済や連携から収益を得られる可能性がある。

ディスコードは現在、ゲームストアから手数料を取っている。だが、ディスコードではゲーム以外のコミュニティーも数千あるため、ゲーム以外のブランドにもコミュニティーで商品を販売させて手数料をとることを検討するかもしれない。

ゲーム以外のコミュニティーを育成

ディスコードはゲームコミュニティー以外にも存在感を拡大するだろう。20年はブランド刷新に取り組み、ホームページからゲーム関連の専門用語を除外し、キャッチフレーズを「しゃべったり遊んだりする場」に変えた。このプラットフォームはもはやゲーマーだけでなく芸術家やマーケター、園芸愛好家など多くのコミュニティーのすみかになっている。

ディスコードのブランド刷新のきっかけは、20年初めに実施した調査だった。「ディスコードに関する最大の誤解は何か」という質問に対し、調査対象になったユーザーの大半が「ゲーマー向けとされる点」と答えた。アプリの見た目やブランド戦略は主にゲーマーを対象にしていたため、消費者はゲーム以外のコミュニティーを育成しづらかった。

ブランド刷新の取り組みは大成功した。21年5月時点でディスコードをゲーム以外の目的で使っている人は80%近くを占め、19年末の30%から大幅に増えた。ディスコードはもはや単一のニッチなオーディエンスに盛衰を左右されるのではなく、多様なユーザー基盤にサービスを提供している。これによりディスコードはゲーマーに特化しているライバルほど脆弱ではなくなった。今後も拡大し、これまでにないほど多様なコミュニティーを引き付けるだろう。

エグジット(出口戦略)を検討

ディスコードの目を見張るような成長ぶりを受け、上場するのか、巨大テックに買収されるのか、それとも独自の道を歩むのかという疑問がわくのは当然だ。マイクロソフトは21年初め、ディスコードに120億ドルでの買収を提案した。ディスコードはその前にも米アマゾン・ドット・コムや米エピックゲームズと買収について協議していた。だが、これらは全て失敗に終わった。ディスコードは独立を維持し、新規株式公開(IPO)に力を入れる可能性がある。

21年3月に採用されたディスコード初の最高財務責任者(CFO)、トーマス・マルシンコウスキー氏の前職は、19年に上場した米画像共有アプリ「ピンタレスト」のCFOだった。同氏はディスコードのIPOの準備を支える好位置に付けている。

株式市場はゲーム関連企業のIPOに好意的なようだ。ゲームメーカーの米ロブロックスやイスラエルのプレイティカ、ゲーム機器メーカーの米コルセア、ゲーム開発プラットフォームの米ユニティ・ソフトウェアはいずれも20年以降に上場を果たしている。

投資家はディスコードに計5億8300万ドルをつぎ込んでおり、エグジットを求めている可能性がある。

ディスコードには課題もあるが、将来は有望といえる。ニッチな顧客基盤から主流への転換に成功し、オンラインコミュニティーが拡大しつつある時代に急成長を遂げている。広告なしを維持しながら収益の増加にも力を入れている。広告が表示されない点こそが、数百万人の熱心なメンバーにとって主な魅力になっている。

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