【急募】見知らぬ世界で生きていく方法


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作:道化所属
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『熱』



 ※ソード・オラトリア15巻のネタバレが少しあり。読んでいない方はご注意ください。


 

 

 

「『目覚めよ(テンペスト)』」

 

 

 超短文詠唱から解き放つ風がアイズの身を包む。

 黄昏の館の庭に吹き荒れる風の奔流の中心で、彼女は無意識のうちに涙が一筋溢れていた。それは求めてやまないものであったから。

 

 

「お母さんの風……」

「どうだ、少しは嬉しいか?」

 

 

 目を擦りながら声は上げずにコクリと頷く。

 いつでも側に居る、そう伝えるように風が抱きしめているように見えた。その風はアイズにとって繋がりであり希望でもあったのだ。 

 

   

「これ、はじめから使えてたの?」

「ああ」

「なんで…教えてくれなかったの?」

「最初にそんなもの教えてみろ。間違いなくダンジョンで後先考えず使うだろ」

「うっ……」

 

 

 だが今は違う。前よりも心が落ち着いてきた。それに比例して技も磨かれてきた。まだそそっかしい部分はあるが、あのスキルに頼りすぎるよりもそちらの方がいいと判断していた。意思に塗り潰されるあのスキルの方が危険であるから。

 

 あれは()()()()()()()()()()()

 限界値を錯覚し、身を滅ぼしかねない。それを考慮して制限を掛けるのではなく新しい力、即ち魔法を教えるべきだと三頭領と相談し判断した。

 

 

「最初に比べて成長し、教えても問題ないと判断した。まっ、要するに今のお前を俺たちが認めたって事さ」 

「!」

「それに、魔力も使わなきゃ鍛えられないしな」

 

 

 むふっ、と嬉しそうな笑みを浮かべて喜んでいる。

 それに影響されたのか風が踊っているのを見て少し笑みを溢す。魔法とは心の在り方を映す。詠唱にそれが出たり魔法効果も想いによって発現し、千差万別。

 

 精霊の魔法は少し違うが、ノーグの場合は本質とヴィルデアの本来の力が混ざり合って生み出された故に領域魔法という新しい概念が生まれている。アイズの場合はしっかりと精霊の性質が出た魔法になったが、本人が喜んでいるならそれでいいだろう。 

 

 

「先ずは調整をしてから、その状態でどれだけ戦えるかを試してからダンジョンに向かおう。魔法の授業でリヴェリアに危険性は教わってるだろ?」

「うん。魔法を使うと精神力が減るって」

「そうだ。まずは何分使えるのか。そして、どこまで使ったら普通の動きに支障が出るのか、持続時間はどれくらいか知っておく必要がある。敵の前で倒れたら洒落にならないからな」

 

 

 魔法の危険性を一番よく知るのはリヴェリアだ。 

 だから魔法についてはリヴェリアに任せていたが様子を見るにしっかりと教わっているようだ。若干、思い出すと震えている様子から妖精女王の拳骨はトラウマは回避出来なかったように見えるが。

 

 

「ノーグの付与魔法も私と同じだったよね。どれくらい使えるの?」

「うーん。一段階で最大出力でもなければ二、三時間は普通に使える。それに条件さえクリアしてれば意識がある限り永遠に使えるからなぁ」

「……ズルい。ロキの言ってた『ちーと』だ」

「はっはっはっ、運こそあるが純然たる努力だ。それに俺よりチートな女がいるからな」

 

 

 主に初見で技の模倣、超短文詠唱による音の砲撃、魔法無効化、そしてリヴァイアサンの外殻そのものを破壊した第三魔法。スペック自体はあちらの方がチートであると遠い目していた。今頃は子供達に料理を振る舞っているのが想像できて苦笑まで溢れた。  

 

 魔法の実験を始めようとした時、袖をクイっと引っ張られるのを感じ、横にいたレヴィスに視線を向ける。

 

 

「……魔法はどうやって覚えられるんですか?」

「おっ、レヴィスもやっぱ興味あるか?」

「まあ……少しは」

 

 

 スロットが二つある以上、レヴィスの方が魔法に対しての可能性を秘めている。だがまだ発現していない。習得方法の一つに『魔導書(グリモア)』は存在するが、流石に冒険者から半年しか経っていない以上、甘やかすのは三人から止められている。

 

 

「特殊な場合を除き、強い願望によって発現する事が多いが……一番はルーツを知る事だ」

「ルーツを知る?」

「魔法とは己を映した超常の力だ。お前にとって魔法とはなにか。何を求めてどう使いたいか」

 

 

 スキルもそれに影響される。

 アイズの悲惨な過去から【復讐姫(アヴェンジャー)】のスキルが発現されている。ノーグのスキルもこの身体の持ち主であったラースと存在が混ざり合う事で蘇生を行なったヴィルデアの在り方がスキルとして発現している。

 

 

「(そういえば……)」

 

 

 『神の恩恵(ファルナ)』に於いて種族による普遍的なスキルを除いて()()()()()()()()()()()()()()。例えば狼人(ウェアウルフ)の月の出ている時のみに可能とする『獣化』のスキルなどはありふれた話だ。

 魔法も系統こそ似ているが個人によって千差万別。スキルも同じ。本人の器が望んだ願望から引き起こされる事は多い為、個人によって効果は違う。

 

 

「(レヴィスの『強喰増幅(オーバーイート)』も過去の出来事から起きてもおかしくないが……本当に偶然なのか?)」

 

 

 赤髪と『強喰増幅(オーバーイート)

 あの男の髪の色に似ている。臙脂(えんじ)色の髪より明るいが、可能性はゼロというわけではない。もしも、それが似ている系統であるのなら可能性としては一つ存在する。

 

 

「(()()……)」

 

 

 レヴィスの年齢を考えると11年半前にレヴィスが産まれた何かがある。それは奇しくもザルドが()()()()()()()()()()()()()()の話だ。その仮説が正しければ『強喰増幅(オーバーイート)』という超々レアスキルが遺伝という形で発現してもあり得ない話ではないかもしれない。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 

「(焦ってるな……技と駆け引きで差を付けられてるからか)」

 

 

 アイズに発現した新しいスキルである『情憧比翼(リアリス・アドミッド)』はかなり破格のスキルだ。技術や技能の習得度の高補正により技の駆け引きや勉学を覚える速度が上がった。地頭ではレヴィスの方が賢いが、それを追い越しそうな勢いで盗んだ技術でレヴィスを圧倒する。実際に模擬戦でレヴィスは負け続きだ。

 

 レヴィスが頑張ってもアイズがその先を行く。

 その事実に焦りも生まれる。才能の差はどちらもあるが、成長速度に偏りができてしまっているのも否めない。

 

 

「(まだ基礎が固まってねえからな。あのスキルは教えられねえ)」

 

 

 あのスキルは破格だ。

 強くなり過ぎるデメリットとして器がズレるのが頻繁に起こり得る。動きと能力が噛み合わずにズレを解消するのだって時間がかかる。だから修正するべき自分の基礎が無ければ特訓に費やした時間が無駄になる。

 

 

「(とはいえ俺の基礎はヘラ達の技術の応用だからなぁ。かなり噛み砕いてるとはいえLv.1が教わって体現できるものでもない。フィンやガレスも得物が違うしリヴェリアは魔導士だ。俺が教えられるのは守りの基礎程度でしかない)」

 

 

 女帝やマキシムの使う距離殺しも、観察に優れ、武芸百科を最適に扱える副団長の技量も、荒れ狂うようなアマゾネスの暴威も、孤狼のような侍が放つ清廉な抜刀も、一度見ただけで真髄まで真似る才禍の理論も教えた所で常人離れした奴等の技量を体現出来るはずがない。

 

 受け身になり、剣をいなして隙を待つ守りの型しか教えられない。レヴィスに教えられる戦闘型(バトルスタイル)は突出した技量ではなく、着々と追い詰める安定型。突出し過ぎた戦闘型(バトルスタイル)は教えられない。

 

 これ以上差が開くのは嫌だと言わんばかりに悔しい顔をして拳を握りしめているのをノーグは見逃さなかった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 空気が滲む街を私は歩いていた。

 あの光景を見たら、焦らないわけがなかった。

 

 私は自慢というほどではないが、器用である事は自覚している。努力のやり方も、生きる為に必要な知識も冒険者になり始めた人間よりは賢い自負がある。

 

 私は両親が居ない為、普通の在り方を知っているわけではない。ただ、純粋な子供ではないとは思う。客観的というか、他人との絆の在り方を理解出来ない。というより、感じ難いというべきなのだろう。失う辛さや悲しさ、苦しさを感じ難いのだろう。

 

 私が最初にいた娼館は闇派閥によって潰された。

 その時いたお婆婆が死んだ姿を見て、娼館にいた女は大勢は一目散に逃げた。その時は誰かに手を引かれて外へ逃げ出したが、手を引いてくれた女の人も今となっては覚えていない。

 

 ナナさんが私を拾ってくれた時、私の瞳は何処か伽藍堂だったと聞いた。

 

 あの頃は何もかも諦めていた。

 生きたいと願う事も、死にたいと願う事も考えず惰性的で中途半端な在り方だった。死ぬ時は死ぬし、生きたいと思えなくなったら死ねばいいと単純というより生きる『熱』が存在しなかった。

 

 伽藍堂なのは何処か達観し、諦観していたからなのだろう。

 

 いつも考えていたことがある。

 何故生きているのだろうか。何故死にたくないのだろうか。

 

 執着する意味を見出す感情が壊れているせいなのか、感じ難いと思う部分はきっと普通ではないのだろう。生も死もその曖昧な境界の意味を見出せずに中途半端だった。今を生きている自分の後ろで冷めた自分がそれを見下ろしている。

 

 ただ腹は減る。だから食う。

 腹は減るから食べて生きて、果ては考えなかった。というより深く考えようと思わなかった。必要だと思わなかったから。食べる事は生きる為の『熱』にはなってくれたから。

 

 ナナさんに拾われた後は色々と世話をしてくれた。

 常識とか、色々と教わっては渡された本を読み耽る事が多かった。ただ死も生もどちらも望まない日々に比べればずっと良かった。大切に育ててくれた事も愛情を注いでくれた事も感謝しているし、あの人がいなくなって感じないと思っていた僅かな寂しさと悲しさを感じる事は出来た。

 

 生きる事に対しての『熱』を探していた。

 善悪のどちらでも構わない。それが生きたいと思える指針になると思ったから。

 

 ナナさんが死んだ後、あの人にスカウトされ此処に来た。

 神ロキは変態でロクでもなさそうに見えるが、子供想いなのは理解してる。団長やガレスさんもいい人で、リヴェリアさんもやや怖い部分はあるが、真面目で好感の持てる存在だった。あの愉快な三人も何かと気にかけてくれる。

 

 そしてノーグさんは優しく、そして強かった。

 あの人のおかげで生きる為の『熱』を見つける事が出来た。

 

 

 

 私の『熱』が昂るのは──闘争だった。

 

 

 

 私は多分戦う事が好きだ。

 ギリギリの戦いで勝って手に入れられる勝利の愉悦がとても好きだ。あの人から教わり、戦う内にそれが理解出来るようになった。何かに一生懸命になる理由はそれでよかった。それが愉しいから。

 

 求めていた『熱』の燻りはアイズと打ち合ってから更に燃え始めた。

 

 苦しさも喜びも感じ難い自分にリアルに叩きつけられる生の境界線。駆け引きと力と本能でぶつかる闘争は私にとっての喜びであったから。

 

 最初の方は私が全勝していた。

 取るに足らない駆け引き、力任せの剣筋、ステイタスで負けても駆け引きの強さで私がいつも勝つ。いつまでもそれを直そうとしない以上、アイズに興味なんて持たなかった。

 

 なのに……。

 

 ある日から突然勝てなくなった。

 駆け引きが上手くなった。剣の型の習得度が異常に早くなった。駆け引きに勝てず、ステイタスに薙ぎ倒される。無茶苦茶している分、アイズの方が上だから。

 

 ノーグさんの剣術指導で守りの型のみならアイズよりも早く習得した。ただ、攻撃となると話が変わる。技の緩急やいなし方、次に繋げる一手がアイズに届かない。技量の習得度は私の方が上だったというのに、差を付けられてるのが我慢ならなくて必死に技術を磨いた。

 

 けど、離される。

 才能の違いなのか、アイズは以前よりも遥かに早く技能を習得している。その上、風の付与魔法まで持っていたとなると離れ続けている。アイズのように苛烈な攻めをダンジョンで繰り返せば追いつけるのか。

 

 ただ、負けたくはないと思い続けて剣を握った。

 才能がないとかそんなくだらない言い訳をしたくはなかった。

 

 ただ負け続きで燻る『熱』は苛立ちにすら感じ始めている、これは良くないと自分で分かっているが、いつまでも自制出来る気がしなかった。

 

 どうやら私はかなり負けず嫌いではあったらしい。勝った方が楽しいし嬉しいから負け続きは耐えられない。それは『熱』以前の問題だ。

 

 このまま離されて手も足も出ないなんて嫌だ。けれどそれを叶えられない自分の才能の無さに苛立ちを覚えている。

 

 一体どうすれば……勝てるのか。

 

 

「ぬぴぃ……!?」

「団長、断末魔にしても女が発する声でぐほっ…!?」

「っ、これで零能の神とか詐欺でうぐっ……!?」

「ちょおぉぉぉぉ!?お前ら前線が崩れたらはぎゃぁ…!?」

 

 

 モヤモヤと考えていたその時だった。

 耳に届いた音に足を止めた。木剣が弾く音と、女の人達の悲鳴。

 

 

 

「────」

 

 

 

 そして──私はその日、星を見た。

 まるで流星が落ちるような軌跡を描いた一振りを。

 

 勝つ為にそれを欲しいと、私の心はそれに焦がれた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 地下酒場『ルーブル』

 歓楽街の裏路地にて隠れ家のような造りでありながら、知る人ぞ知る情報交換用の店。かつての【ヘラ・ファミリア】所属のLv.3であった少女が経営している小さなバーにて帽子を深く被り、ウイスキーを煽る旅神と極東の清酒を盃に注ぎ、俺は話を交わしていた。

 

 

「……調査の結果は?」

「母親の名前しか分からなかった。その後に関しては俺も分からない」

 

 

 ヘルメスに頼んだ依頼。

 それはレヴィスの両親についての話だった。ザルドに関しては最近アルフィア達と合流し、近場に家を建てて暮らしていると最近連絡が来ていたので調べやすかった筈だが、俺が忙し過ぎてそれを探る時間が無かった為、ヘルメスに協力を仰いだ。

 

 以前、レヴィスに尋ねた事がある。

 

 

『レヴィス、お前の名前は誰に付けられた?』

 

 

 レヴィスという名前は()()()()()()()()()()()()()()()()()。両親の記憶がないのに誰から付けられたのか、レヴィスは淡々と答えた。

 

 

『──私が赤ん坊の頃、娼館のお婆さんが母親の名前から取ったって言ってた』

『母親の名前は?』

『レヴィナス……エルフの冒険者だったらしい』

 

 

 レヴィスには少なからずエルフの血が入っている。

 人間がスロットを二つ以上持つ事はそこそこ珍しい部類ではある。三つ目のスロットがある人類はエルフのような魔法種族(マジックユーザー)が有することが多い。

 

 遺伝に於いても妖精(エルフ)の血と人間(ヒューマン)の血を持って生まれるならあの子は半妖精(ハーフエルフ)という事になるが、エルフ特有の耳の長さは存在していない。恐らく人間(ヒューマン)の遺伝子の方を色濃く継いでいるのだろう。遺伝の都合上、半々ではなく偏る事も少なくない。

 

 そこまで名前が出ているならヘルメスに調べさせるのは容易だった。纏められた資料を見て、その情報に僅かに目を見開いた。

 

 

「『レヴィナス・ダルダ』……【アレクト・ファミリア】。よりにもよって闇派閥(イヴィルス)か」

「レヴィスちゃんは恐らくだが捨て子だ。彼女が産んだ後、娼館に渡している。その娼館も今は潰れて行きどころがなくなったんだろう」

 

 

 そんな人物が居たという程度の情報。

 人物画を見れば見るほど目付きがレヴィスにそっくりである。【アレクト・ファミリア】にとってレヴィスは不用な存在だったのか、巻き込まない為というある種のレヴィナスの優しさだったのか、捨てた理由は定かではない。

 

 問題は誰かと致して子供を作ったという情報だが考察すればするほど奴の影が見えるのは何故だろうか。おのれゼウス。

 

 

「レヴィナスはまだアレクトに居るのか?」

「ゼウス達がいた時代に生死不明だ。深層域に潜っては帰った情報がない」

「チッ、ザルドの方は?」

「返答を窮している。あれは確定かも」

「アイツはアイツで何やってんだ」

 

 

 頭を抱えて息を深く吐いた。

 【アレクト・ファミリア】だという事も分からなかったのか奴は。そこそこの名のありそうな冒険者だぞ。ジジイの性癖がモロに出てるじゃねえか。おのれゼウス。

 

 

 ★★★★★★

 

 

「ダンジョン行ってきます」

「ああ、深く潜るなよ」

「分かってます」

 

 

 剣を腰に据えて外に出て行くレヴィスを見てリヴェリアはソファーで世界情勢の新聞を読み耽っている俺に視線を向けてきた。

 

 

「ノーグ」

「ああ、怪しいな」

「やはりそう思うか」

「剣を見た感じ、ここ最近ダンジョンで無茶したような形跡はない。刃こぼれもないし。だがステイタスは上がっている。器用と耐久は特にな」

 

 

 最近、武器はククリ刀ではなく長剣に切り替えている。本人は筋力ついたから変えたと言っていたが、剣筋は誤魔化せない。妙な太刀筋は俺が教えたものとは派生が違う。過酷な環境で身に付けた俺の太刀は元よりヘラの女傑の荒々しさをそのまま矯正して使っている。

 

 レヴィスの太刀筋は()()

 非力さそのものを技術(わざ)として相手に流れを掴ませない立ち回りだ。何かを参考にしていなければあの剣は真似られない。

 

 

「嘘をついてまで何を……」

「恐らく対人戦闘だろうな。誰に教わっているのかは知らんが、少なくともフレイヤの所ではない筈だ」

 

 

 あそこなら武器はズタズタに傷付いている筈だ。

 鎖帷子が切り裂かれた形跡はリヴェリアから無いと聞いている以上、恐らくは木剣のようなものでの対人戦闘。ポーションで治る程度の傷しか負っていない。対人戦闘に差を付けられた故に武の経験のある誰かを師事してるな。

 

 

「仕方ない。ちょっと行ってみるか」

「どこ行ったかわかるのか?」

「いんや。でも魔法で探せる。付与を掛ける際の魔力色は覚えてるしな」

「相変わらず器用な事を……」

 

 

 第二魔法、【リア・スノーライズ】は魔力さえ記憶しておけば例え視覚で捉えてなくても識別が可能である。人間には誰しも魔力、というよりは精神力(マインド)が存在する。ノーグの『天眼』はそれを色で見分けられ、併用すれば探知も可能。領域魔法を最大展開しながら魔法円(マジックサークル)は隠せばすぐ見つかるだろう。今の階位ならオラリオ全域程度、余裕で探せる。

 

 

「意外と過保護だな」

「んー、そうかねぇ」

「私の目から見ても入れ込んでいるように見える」

「それだけ期待してんのさ。アイズと同じくらいにはな」

「それだけか?」

「………それ以上は秘密だ」

 

 

 軽く笑みを浮かべるリヴェリアの視線が居た堪れなくなって曖昧な答えしか返せなかった。もしかしたらザルドの娘を弟子にしてるなんて爆弾発言をしたらファミリアが阿鼻叫喚を巻き起こすだろう。あと、その仮説が本当だったら死なせた場合俺がザルドに殺される。

 

 やはりゼウスの眷属。

 腐っても最強だ。文字通り。

 

 そしてやっぱりエロジジイの眷属だ。

 認知してない子とかまさにそれらしい。

 

 

「くそっ、アルゴといい…どいつもこいつも…」

 

 

 胃が痛くなりそうだ。

 苛立ちからため息をつきながら剣を腰に据えて、『黄昏の館』から外へ歩き出した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 実の所、魔法による探知をするつもりはない。

 レヴィスが誘拐されたとかそう言った危機的状況でも無ければ使う理由もないし、魔法円を消したとしても消すために冷気をそこそこ多く発する必要がある。勘のいい人間はすぐに魔法だと気付く。

 

 なので聴覚を研ぎ澄ませ、人が騒がしい方向へ向かう。

 暗黒期と呼ばれたオラリオの街は闇派閥さえ出なければ嫌な静寂が街を包む。人は必要最低限は外に出ないように心がけているせいか、悲鳴が無ければガネーシャの憲兵の足音や会話などが聞こえることが多い。

 

 Lv.7の五感の鋭さは常人のそれと比べて遥かに埒外だ。

 

 

「見つけた」

 

 

 だからこそ、すぐに見つけることが出来た。

 レヴィスの他にいたのは栗色の髪の女神と、赤髪の少女、金髪のエルフ、極東の黒髪娘、桃色の小人族だった。女神に師事をしてもらっている事実に僅かながら驚いている。

 

 

「……ノーグさん」

「誰かを師事していると思ったら、まさか女神から教わってるとは俺も思わなかったぜ」

「えっと、その……」

「ああ、怒るつもりはないから安心しろ」

 

 

 目が泳いでいる。

 ファミリアとしては良くないことを知っていたようだが、それでも学びたかったのか秘密裏に鍛錬に混ざっていたようだ。焦っているレヴィスに対して俺は少しだけ嬉しかった。レヴィスはいつも冷静で客観的に判断できる事が多いが、間違えないわけではない事にホッとしている。

 

 

「【修羅】…Lv.7が直々に迎えに来るとは。やはり此方で学ぶよりファミリアで学んだ方がよろしいのでは?」

「……それは」

「まあ、世話になったというべきか。口を出す事はしたくないが、ファミリアの問題だからな。そう言った事は事前に話しておく事だ」

「……ごめんなさい」

「よろしい」

 

 

 栗色の髪の女神に視線を向ける。

 物腰の柔らかさと包み込むような慈愛が滲み出ている。やや苦手なタイプだと思いながらもこの場にいる乙女達を見て、その神が誰なのか理解した。

 

 司るは正義。

 善悪を測る天秤は星座になぞられ、ギリシャの神でありながらその意味は星の乙女という名を込めてこう呼ばれている。

 

 女神アストレア。

 最近名を上げ始めたガネーシャと同じ憲兵のように街の平和を守ろうとする【アストレア・ファミリア】の主神である。

 

 

「確か……【アストレア・ファミリア】だったか?」

「ええ、合っているわ。私はアストレア、貴方がロキの自慢してた子ね」

「アイツ何してんだ……小っ恥ずかしい」

 

 

 眉間に皺がよって頭も痛くなってきた。  

 俺はもう『子』というほどでもないだろうに。神にとっては幾つになっても子供扱いは変わらないのか。アイツらしいが吹聴するのはやめてほしいものだ。

 

 

「それだけ愛されてるって事ね!私もアストレア様に自慢された時はきっと同じ感情になると思うわ!」

「その場合、多分君はしおらしさとは無縁だろ」

「確かに」

「アタシもそう思うわ」

「その……すみません」

「みんなが失礼過ぎる!?」

 

 

 中々に個性的なファミリアだ。

 ただ、自然と勢いで皆を笑顔に出来る才能がある。赤髪の団長を見ていい人間を眷属にしているなと素直に感心した。

 

 

「それで、どうしてレヴィスを追っかけてきたの?」

「見た事ない剣技を見せられたら気にもなるし、ダンジョンに行くと嘘ついてまでこっちに来ているからな。コイツは」

「うぐっ」

    

 

 嘘ついている罪悪感はあったらしい。

 冷や汗をかきながら目線を逸らし続けている。

 

 

「レヴィス、先程も言ったがあまりこう言った事はファミリア的にはよくねえ」

「で、でも……」

「言いたい事は分かる。だがまあ、他のファミリアの貸し借りは色々と面倒なんだ。アッチがそれを意識してなくてもだ」

「あら、私は気にしないわよ?別にお金取ろうとか思ってないし」

()()()()()()()()()()()()。損得は等価、キッチリとしなけりゃいかん。ファミリアとしてのケジメみたいなものさ」

 

 

 貸し借りの問題があろうがなかろうが、その辺は中途半端であってはいけない。周りの人間の偏見はファミリアの評価を歪めかねないからだ。最強であるが故に逆らえず下位派閥からタダで教わっているという噂でも流れればそれはそれで大変なのだ。故に損得は等価でなくてはならない。

 

 

「まあ、これは()()()()()()()()()()()()()()()。レヴィス、お前はどうしてアストレア様に習いたいんだ?俺の教え方が下手糞というなら致し方ないが」

「そんな事は……!」

 

 

 教えが悪い自覚はない。

 根気よく教えているつもりではあるが、そうでないのなら問題は此方にある。そうではないと否定しながらも目を合わせると、レヴィスは俯きながら心の内を吐露し始めた。

 

 

 

「アイズに…負けたくないんです」

 

 

 

 レヴィスが焦る理由としては十分心当たりがあり過ぎた。

 あのスキルはまだ教えていない。基礎がまだ完成し切っていないレヴィスに極度な成長をさせれば自殺行為であるから。だが、アイズがあのスキルに目覚めてから差は生まれるばかりであったのは理解している。

 

 

「ノーグさんの戦い方の習得は多分アイズに負ける。同じ理論だとどうしても差が出る……だから、別のアプローチが必要だと思った」

「……続けろ」

「あとは……その」

 

 

 アストレアの方をチラチラと見ている。

 頰が僅かに赤くなっているのを察して、レヴィスに耳打ちして問う。

 

 

「もしかして母性とか剣技とかに惚れたか?」

「っっっ!?」

「図星かよ」

 

 

 なんで分かるのこの人!?みたいな顔をして更に顔を真っ赤にしていた。必死な言い訳をしているのを横目にアストレアの容姿を見ると確かに包容力のありそうな雰囲気を感じる。まさか俺に足りなかったのは母性だったとは、予測出来なかったぜ。

 

 

「剣技、剣技だから!?」

「分かってるっての。まあ確かに寂しいとか無縁なわけないよなぁ」

「全然分かってないじゃん!?」

「敬語忘れて素が出てるぞ」

 

 

 まあ冗談はさておき、全知零能に身を落とした神は人間のそれと変わらない。武神など極東では神がかった技は存在しているが、女神アストレアは裁定を下すが故に強いのか逸話からの判断が難しい。一見すれば麗しい非力な姫のような体躯ではあるが、少なからずLv.2以上を転がせる力は存在する。

 

 ただ、それだけではレヴィスが女神アストレアに拘る理由が分からない。

 

 

「見せてもらっても?アストレア様」

「ええ、いいわよ。なんなら打ち合ってみる?」

「そちらが打ち込んでくれて構いません。素手で事足りるので」

「なら、遠慮なく」

 

 

 アストレアの間合いが一瞬にして詰められた。

 非力な女神から放たれる予想外の剣戟に焦る事もなく両手を構える。

 

 

「!」

 

 

 拳で木剣を弾く。

 ヘラ最強の侍から教わった極東の武術でアストレアの剣をいなしては受け流す。今の耐久値なら弾くどころか木剣の方が耐えられない。受け流した次の瞬間、間合いを一瞬で詰めての逆手で振り上げる剣閃。

 

 自分が詰められた時に一瞬だけ剣から意識を逸らし、振るわれるそれは並の冒険者なら必中となる一撃。

 

 しかし……

 

 

「っ……!?」

「おお、予想より速いな」

 

 

 片手で白刃取りで止めた。

 俺に対して通用するほどではない。アストレアも予想外の表情を浮かべる。流石に相手が悪過ぎた。

 

 

「うっそぉ……」

「アレを止めるのか……」

 

 

 レヴィスや眷属の娘達は絶句している。

 確かに速い。Lv.4の頃であったなら打ち込まれていたかもしれない。だが、非力な神の剣戟が通じるのは最大でもLv.5が限界だろう。武神と言わずとも十分な強さを持っていると言ってもいい。

 

 だが、俺の眼が捉えている内は攻撃は無に帰す。

 先手も後手も関係ない。動き出す反射的な行動を眼が先取りし、未知を既知に変えてしまう対人殺しの瞳を有しているから。

 

 

「……成程な。そういう感じか」

 

 

 非力な人間が繰り出す剣舞の極地。

 最大の一撃はレオンがヘラの技を見て盗んだとされる距離殺し……とまではいかないが、形は違えど『残光』に近いとも言っていい。流麗でありながらその太刀は非力な人間から放てる領分を超越している。俺でも真似る事は容易ではないだろう。

 

 ただ、その一閃を()()()()()()()()()()()()()()()、最早レベルすら意味を成さない『必殺』になり得る。

 

 

「私は、アストレア様の一閃を覚えたい。アレが私は必要だと思ったから」

「曲がりなりにも神の技だろ。時間はかかるし」

「それでも」

 

 

 レヴィスが頭を下げた。

 

 

「お願いします。ノーグさん」

 

 

 

 滅多に我儘を言わないレヴィスが頭を下げて懇願している。あの剣技を身に付ける事が出来れば確かにアイズに対等に戦えるだろう。基礎をここで磨くのは悪い話ではない。だが、ファミリアの幹部としては見過ごしていい話ではない。

 

 僅かに長考し、仕方ないと思いつつも女神アストレアに視線を向けた。

 

 

「女神アストレア、レヴィスの指導の代わりに俺が払える何か対価を貴女が決めてくれ」

「えっ?」

「先程も言ったが、ケジメはつけておくつもりはある。()()()()()なんてロキが嫌がるしな」

 

 

 特にロキは光属性というより正義とか秩序という概念そのものが嫌いだ。善行や善徳は否定はするつもりはないだろうが、縛られる事象より自然である事を好む。力を持つが故に秩序側に回っているだけで()()()()()()()()()()()を嫌う。

 

 

「で、でもそれじゃノーグさんに迷惑が」

「餓鬼が一丁前な事言ってんな。大成するまで支えるのは上の仕事だ。少しは我儘を表に出さねえとアイズに勝つどころか離されるぞ」

「!」

「それに少しは俺を大人ぶらせてくれ」

 

 

 ファミリアの幹部として止めるべきだろうが、要は貸し借りの問題だ。それさえ守っているのであればフィン達に報告しなくてもいいだろう。ファミリアの交流もキッチリしているなら怒られる謂れはない。

 

 

「という訳だ。この子の指導を引き続き頼みたい。代わりは俺が出来る範疇で叶えよう。金銭でも武具でも構わん」

「なかなか太っ腹ね。そうねぇ……」

 

 

 叶えられる限りの要求には応えるつもりだ。

 僅かに悩んだ末にアストレアは少し笑って要求を口にした。

 

 

「だったら、この子達に剣を教えてくれないかしら?」

「!」

「貴方の時間は貴重だし、偶にで構わないわ。代わりに空いてる時間でこの子達に教える。どう?」

「まあ……等価ではあるか」

 

 

 後進の育成は確かに必要だ。

 正義のファミリアが強くなれば、抑止力を担う俺にとってもメリットはある。そしてレヴィスが教わった時間分、俺が教える形で支払うというなら等価ではある。その案で了承し、俺は頷いた。

 

 

「その、すみません」

「謝んな。こういう時は『ありがとう』で良いんだよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 少しだけ照れ臭く言葉を紡ぐレヴィスに軽く頭を撫でた。なんだかんだ、甘く接してしまうのは俺がベル達を育ててる時の影響が出てるのかもな。

 

 

「ヒュー!頂点は懐広いなぁ」 

「なんだかんだでレヴィスの事大切に想っとりますねぇ」

「師弟愛ね!私も憧れちゃうわ!」

「言っとくが、鍛錬に手は抜かんぞ。当たりどころが悪ければ死ぬし、そのつもりでお前達もやれ」

 

 

 ピシリ、と空気が凍った。

 因みにこの小娘達に甘くする必要はない。正義を担う以上は強くならなくてはならないし、鍛錬に手を抜くなど愚の骨頂だから。 

 

 

「……あ、アストレア様」

「……ノーグ、死なせないでね絶対」

「それはこの娘達次第だな」

 

 

 その後、星の乙女たちは地獄の夢を見た。

 爽やかな笑みを放つ貴公子のような面をした男に容赦のない剣撃を放ち続けられ、回避も防御もできずに震える哀れな小娘達(じぶんたち)の夢を見た、と。

 

 





 次回、二人の試練


 ★★★★★★

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39/40 



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