「……あの子達、死ぬよ」
「邂逅一番にそれか」
ギルドの職員であるローズの言葉に顔を顰めた。
リヴェリアが二人に書類の記入を見てくれている横で、ため息を吐きながら嫌そうな顔で告げてくるが、ギルド職員の勘も案外馬鹿にならない。『
子供がそれだけの力を持てば十中八九暴走する。精神が成熟仕切っていない以上、力に酔い痴れて調子に乗って死ぬ。二人はまだ幼い。鍛えてもいないひよっこの子供がダンジョンに向かえばどうなるか目に見えている。
「昔俺にも言って外してたろその勘」
「アンタは『例外』。子供の癖に馬鹿みたいに自己管理が出来てる奴ならまだしも、あの子達……特に金髪の子は早死にする」
「……まあ、順当に行けばそうなるよな。あと馬鹿みたいは余計だ」
間違いなく、アイズはやらかす。
最早運命が決まっているかのように問題を起こすだろう。そうでなきゃあれ程苛烈なスキルには目覚めない。モンスターに奪われた故にモンスターの全てを嫌悪し、復讐対象に出来る憎しみの刃は『黒竜』に奪われた境遇を持つノーグでさえ発現しなかったスキルだ。
それに加えて、大精霊の力を持つ子供。
素質で言えば恐らく世界有数だ。そしてそれは
「剣を握る意思を持ったのはあの子達だ。外野がとやかく言って曲げられるなら俺は此処に連れてこねえよ」
「ならせいぜい手綱は握っておきなさい。手遅れになる前に」
「ああ、分かっている」
果たして、少女達はどこまで暴走するか。
手綱を握るこっちの方が大変そうだとため息をついた。
★★★★★
爆砕。
蹂躙。
鏖殺。
目の前に広がる光景に僅かながら目を疑った。
剣を力任せに振るった攻撃はモンスターを
「……この出力、下手したら俺の補正より高いな」
「言ってる場合か!止まれアイズ!!」
憎しみが望んだ力を引き出す。
『黒竜』を殺すには黒く染まった奪われた者の意志が必要とは皮肉が効いた話だ。
「これ、限りなくヤバいんじゃ……」
「アレは悪い例だから真似すんな。お前はとりあえず地道にやれ。見てやるから」
「分かった」
レヴィスの持つ武器はククリ刀。珍しい獲物ではあるが二刀流、手数と力を重視した戦闘スタイル。レヴィスは恐らく理解した上でそれを選んでいる。
出てきたゴブリンに対して脳天を切り裂き、迫り来る二体目を蹴りで吹き飛ばした後、心臓をククリ刀で切り潰す。レヴィスにはまだ力がない。故に手数で翻弄する道を選んでいる。体術こそまだ拙いものの、選択としては悪くない判断だ。
「……最初にしては悪くない。何か習っていたのか?」
「習ってない……けど本で読んだ。どうしたらいいかくらいだけど」
「いや、それでいい。博識の方が生き延びやすい」
二人を交互に見るがやはり対極。
狂戦士のように見た怪物全てを惨殺するアイズと、冷静ながら的確な対処で怪物を屠るレヴィス。剣がスキルに耐えきれずに自壊し、呆然としているアイズを横目にため息をついた。
★★★★★
最高幹部が夜中に二人の方針を静かに悩んでいた。
正直な話、二人して素質だけは一流だ。だが二人とも正反対が故に二人まとめて育てる事が難しいと感じた。
アイズに関しては特に難しい。
モンスターを殺す事以外を全て削ぎ落とした殺戮人形。周りのコミュニケーションや環境の事など一切考えないエゴイスト。それが悪いという訳ではない。強くなりたい気持ちに関しては否定するつもりはないが、アレはすぐに死ぬ。自分を考えない人間の無茶無謀をスキルが強引に叶えているように思えた。
逆にレヴィスに関してはスキル故に頭を悩ませている。これは恐らく将来【ロキ・ファミリア】の
アイズ・ヴァレンシュタイン Lv.1
力 I0 →I18
耐久 I0 →I12
器用 I0 →I8
敏捷 I0 →I16
魔力 I0
『魔法』
【エアリアル】
・付与魔法
・風属性
・詠唱式『
『スキル』
【
・任意発動
・怪物種に対して攻撃力高域強化
・竜族に対し攻撃力超域強化
・憎悪の丈により効果向上
レヴィス・ララトウワ Lv.1
力 I0 →I10
耐久 I0 →I8
器用 I0 →I10
敏捷 I0 →I9
魔力 I0
『魔法』
【】
【】
『スキル』
【
・
・捕食対象の格に比例して効果上昇
・格上の捕食対象消化後、
【
・任意発動
・行動による消化機能の上昇
・口内接種による毒物の耐性
「スゥゥゥゥ………マジどうするんやコレ」
「最初からかなり尖っているが、何故こんなことになった? どうしたらこんなスキルが生えたんだ?」
「レヴィスは拾われる前はゴミ溜めで生ゴミを漁るくらい酷い生活をしてたらしい。恐らくだがその名残なんだろうな。拾ってくれたナナさん…優しいお婆さんが大切に育てた結果、食べたものを自分の力にする特異的なスキルが発現したのかもな」
レヴィスの過去は粗方は知っている。
孤児で飢えに飢えて死ぬ一歩手前でナナさんに拾われている。生きる為に賢くなる。生き残る為に強くなるという考えはノーグのそれに似通っている。
過去が絶望に浸されに浸されて、死の淵を彷徨った連中は揃いも揃って異常なスキルや魔法を発現していることに頭を痛めた。もしやアルフィアも発現しているのでは、と思うくらいには。
「ザルドに似てるけど、スキルだけ見ればザルドより性能は上だ」
「【ゼウス・ファミリア】の最高幹部のスキルより上か……」
「俺が知り得る限りでは『
行動による消化機能の上昇がある以上、満腹を気にせず食べ続けられる。格上を殺せば殺すほどに強化率を上げ、その上経験値も獲得する。まさに『
「ともかく、まだ伝えてないのは賢明な判断だ」
「おや意外。君なら早く強くするために教育すると思ってた」
「基礎も出来てない成長期の子供だぞ。んな真似させたら早死するわ」
特にステイタスのズレと器の限界。
魔法やスキルで強化できる力には限界がある。補正ならまだしも純粋な強化は肉体の強度に依存する。基礎もできていない子供に器以上の力を与えたら自壊しかねないし、有り得ざる強化に調子に乗っても困る。
「まずはアイツら二人はダンジョンの勉強と剣術の基礎を学ばせる。早くて半年後くらいに魔法やスキルについて教えようと思う」
「早すぎないか?一年くらいでも」
「いや、アイズには間違いなく必要だ。あの魔法は多分親との繋がりに等しいからな」
風の大精霊アリアと会った記録ならある。
体感しているわけではないが、スキルの発現と共に忘却も出来なくなったから鮮明に辿れる。この風の魔法は彼女そのものを表す力だ。
あの鮮烈で優しい風を操り、英雄に寄り添う陽だまりのような彼女ならば知っている。
「アイズの過去を知ってるのか?」
「あの子が母と呼ぶ存在ならな。推測を重ねた仮説ではあるが、
「!」
「まさか…精霊関連かい?」
「詳しくは言わん。伝えられるのはそれだけだ。あとは信頼を勝ち取って本人から聞け」
だがまあ、
大精霊アリアは古代の英雄と共にいた筈だ。大英雄アルバートが『黒竜』の片眼を奪い、その可能性を示したが故に神が舞い降りたというのが大体の英雄譚の話。
仮にあの子供がアリアだとするのなら辻褄が合うが、恐らくそれは違うのだろう。あの子は母親を求めていたし、『天眼』で見た限りでは精霊特有の神秘性は保有しているものの、ヴィルデアがかつて行った『人間の蘇生』クラスの奇跡を起こせるほどの神秘量は無かった。
アルバートには子供が居たとゼウスの英雄譚、つまり原典には書かれている。風の大精霊アリアに似ているとするなら推測は出来るが、やはり時系列を考えるならあの子は古代……1000年前に存在していた事になる。
母という偽物の記憶を植え付けられた可能性は流石にないと思うが、精霊の力を保有している以上は何かしらの繋がりがあるはずだ。超常の魔法か、神でさえ感知できない未知か、アイズについては分かるのは精々それくらいだ。
「教育係はどうする」
「ワシは厄介な
「僕も団長としての仕事と、他の新人の教育と外交で手が一杯だ」
「俺はダンジョン深層の素材採集が結構ある。断っても構わないが、単独で危険無く行けるのは俺くらいだ。断り続けて
三者三様にそれぞれの役割がある。
そしてギルドからの強制であるが故に断る事は出来ない。その中で手が空いている副団長に視線が集まると、慌てたように叫んだ。
「私か!?」
「まあ、それが一番いいだろう。割と母親気質だし、妙齢超えていい歳ならピッタリだろ」
「フンッ!」
「あぶねっ!?」
思いっきり足の小指狙ってきやがった。
当たっていたら俺でも悶絶していただろう。自業自得とはいえそう思うならさっさと結婚すればいいのにと心の中で思うと睨まれた。
「ま、まあ俺も手が空いてる時は二人に時間を割くから、基礎的な事は頼む。俺は独学過ぎて癖が強いからな。『一般教養』という枠で教えられる事が少ねえし」
「そういえば昔から君は手間かからなかったね」
「俺を参考にすんなよ。子供はずっと手間がかかるからな」
というより、フィンや俺を参考に出来ない。
子供特有の感情の未成熟さが早熟か
幼さと自制の効かない
「まあそうゆう訳や。頼んだで
「……誰が
苦労に頭を抱えながら力無く返答して教育係を受け入れた。
★★★★★
「どこに行ったアイズ!!」
ダメでした。
想定の範疇ではあったが、こうも反発するとは。余程リヴェリアにトラウマを植え付けられたな。ロキに聞いた所『おばさん』と告げた瞬間、リヴェリアは冷酷な鬼となり度が過ぎた言葉は拳による制裁を加え始めた。
アイズは勉強が嫌になり逃走中、剣は抑えている為ダンジョンには行ってないが、かわりに黄昏の館で大規模なかくれんぼが始まった。捕まった後の鬼の制裁が怖くてウサギのように震えて俺の近くに隠れているが。
レヴィスに関しては教科書を見て即座に暗記し、リヴェリアから渡されたテストを全問正解すると颯爽と庭で自主トレを始めていた。柔軟、剣の素振り、腕立て伏せが終わればガレスと軽く手合わせしている。
「……いつまで隠れてるつもりだアイズ」
「勉強、嫌」
「リヴェリアの不器用さは今に始まった事じゃないからな。まあそれはそれとして、勉強は必要だぞ」
「いらない。それよりダンジョンに行かせて」
本当に猪突猛進だ。
殺す事しか頭にない。火がついた復讐心を片っ端からモンスターにぶつける事で心を鎮めようとしているのが尚の事危なっかしい。
いや、むしろ
「俺はお前の目的を知っているわけじゃないが、その調子で成長した所で『黒竜』は殺せねえぞ」
「え……」
「簡単な話だ。
じっと見つめてくるが、本能的にアイズは理解しているのだろう。精霊の気配を感知できる俺と同じように、アイズも僅かにそれに類似した感知が出来ている。大精霊ヴィルデアの神秘はかなり影響が強い。精霊同士なら感知しただけで実態を見抜けるほどに。
「………」
だからこそ、納得はしているようだ。
憎いと思っても今は超えられないと本能が理解している。そしてその壁の高さが今の俺よりも遥かに高い事に苛立ちもあるようだが。
「モンスターが憎いか?」
「うん」
「だったら全力を出し続けるのはおすすめしないな」
「なんで」
「お前は蟻を踏むのに全力で潰しに行くか?大した事のない怪物に全力を注いで殺しても体力が保たないなら早く強くなるなんて無理だ」
「殺せるならそれでいい」
「……言い方を変える。力加減を覚えて多くモンスターを殺すのと、全力を出して少ないモンスターを殺すのかどちらがいい?」
あのスキルは体力の消耗が激しい。
虚脱感が続けば繊細さが失われて振るう剣がおざなりになる。だから武器はすぐに折れる。というよりスキルの出力に剣の方が耐えられていない。
スキルの過剰使用は特に精神的な消耗も大きい。実際に俺もリリナの形見があっても【
「強い奴はがむしゃらに剣を振るう奴じゃない。最後まで考え抜いて最善を体現する事が出来る奴だ。リヴェリアも言ってたろ。未知を既知に変えろと」
「……ノーグ」
「呼び捨てかよ。まあいい、なんだ?」
「ノーグみたいに強くなるにはどうしたらいい?」
俺の強さは先人達の地獄のような日々から来たものだ。
思い出すだけで身震いする程に恐ろしい。生と死の境界を見極めなくては限界など知れないからと、何度も殺されかけた。あんなものやったらアイズが死ぬ。というよりリヴェリアの二の舞になりかねないだろう。
改めて思い返してもよく精神がまともなままでいられたなぁと遠い目をするが、今アイズに必要な言葉を告げた。
「効率を極めろ。必要なものは全部学んで自分に落とし込め」
それが出来たから今の俺がある。
生きる為に必要である事を全部落とし込んで今がある。その俺でさえまだ学ばなきゃいけない事は沢山ある。
「目標が『黒竜』を殺す事なら、大望の前に目の前の敵を見据えて戦え。強くなるために必要なのは憎しみやスキルだけじゃない」
「学べば弱点を知れるし、訓練すれば弱点を狙い易くなる。必要な事であってそれは無駄の時間なんかじゃない」
「お前は贅沢者なんだ。ここ以上に学べる環境はない」
アイズの頭に手を置いた。
まだ子供だ。こんな小さくてか細くて、壊れてしまいそうな子供に戦いを教えるべきではない。
でもこの子は剣を取ってしまった。力を望んでしまった。
本当ならそうならない為に俺たちがいるはずなのに。情けないが、それでも時代は待ってはくれない。
だからせめて、この子が進む道に寄り添って先を照らしていく。壊れないように、迷わないように正しい強さを出来る限り教えていく。
それが今の俺に出来る事だ。
「それさえ出来ればお前は強くなれる」
「ん………」
撫でられるのが気持ちいいのか少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせているアイズを見て少しだけ笑った。戦わない道を選ばせてあげられなかったなんて言うつもりはない。けど、傷ついて欲しくないのはきっと我儘なんかじゃない。
アイズが望まなくても、家族であるから。
その在り方は間違いなんかじゃないと俺は信じている。
「なら、ノーグが教えて」
「リヴェリアは嫌か?」
「……こわい」
「ああ……仕方ない。今日は俺も一緒に勉強してやるから頑張れるか?」
「……がんばる」
お母さんの説教が怖くて逃げている辺り、やっぱりまだ子供だなと笑みを溢しながらも震えるアイズを抱えて勉強部屋へと向かった。
★★★★★
「ノーグ、ここは?」
「あー、それはこの公式を使ってな」
この後リヴェリアを説得し、俺が教師役をやると大人しく勉強し始めた。黙々と分からなければ尋ねては答えて、ある程度の要点を教えると教科書から答えを探していた。
リヴェリアが教えようとするが、苦手意識のせいか視線は常に此方へと向いて分からない事を尋ねる時は必ず俺の所に来ていた。
「この差は一体…?」
「拳が出た時点で教育じゃなく躾だろ。そりゃそうなるだろうが」
「ぐぅ……!」
反抗心もなく従順にノーグの教育を受けているアイズを見たリヴェリアは心なしかショックを受けていた。