ノーグは二大派閥の生き残りがいると噂されている都市まで必死に駆けていた。生き残りは十数名ならもしかしたらアルゴやアルフィア達は死ななかったのかもしれないと考えた。
泣き喚いた。喉が裂けそうなほど叫んだ。
死にたいとさえ思えた。その方がこの罪悪感から解放されるのではないかと思った。それでも死なない。そんな無責任な事は出来ないと唇を血が出るくらい噛み切り、生き残りを探す事以外を何も考えなかった。
泣いても、苦しくても現状は変えられない。
変えられたかもしれないなんて、自惚れていたのならそれは奴等への侮辱となる。どんな形であれ、自分がこの目で見て勝てると思っていたから深く追求しなかった。
原作通りだったのかもしれない。
物語的にはあの二大派閥は消えていたのかもしれない。
それでも識れていたのなら。
情報を深く読み切っていたのなら、回避出来ていたかもしれない。
二大派閥がそんな言葉を聞いたら、自惚れるな阿呆が、と叱責していただろうけど。
それでも、もう誰かに自分の意志を委ねる事は辞めた。
生きていく情報の代償は重く、今となってはもう必要が無くなり、それに頼っていた自分の甘さがこんな状況を招いた。それを邪悪と嘆いても、それに縋っていたのは自分だった。
もう、
この日から、ノーグはもう二度と『天啓』に頼ることは無かった。
★★★★★
とある都市についた。
ヘラとゼウスは『竜の谷』に行けない。戦場に神を向かわせるわけにはいかない。送還による恩恵の封印を考慮し、都市に護衛を数人付けて都市で眷属達の帰りを待っていた。
壊滅という惨状を考慮するならば、絶対重傷者がいる。今もなお都市で治療を受けている人間は絶対に存在する。それを考えた上で精霊薬と万能薬を数十本持って走ってきた。
都市は騒ぎに騒いでいた。
倒せなかった事に石を投げる人間はいない。倒せなかった責任を押し付けるような愚か者は存在しないとしても、齎された混沌と混乱は計り知れず世界に伝播していた。
これからの未来をどうするか。
最強亡き今、誰が『隻眼の黒竜』を討つのか。
誰がこれから起こる『絶望』を止める事が出来るのか。
二大派閥が居るとされた治療院まで到着すると、そこには人並みが溢れかえっていた。アルフィアが居るのなら、間違いなく蹴散らしているその光景に目を見開き、顔を顰めた。
「『黒竜』はどうするんだ!?」
「『竜の谷』から出る竜の大群があちこちに散開してんだ!!」
「どうすればいい!何処に逃げればいいんだ!?」
倒せなかった『黒竜』。拡大する被害。
二大派閥の生き残りにこの後どうするのか尋ねたい人間ばかりだろう。最強が居なくなれば
少なからず『竜の谷』から生まれる竜の群れを対処できる存在が殆どいない。『竜の谷』から生まれる竜を討伐するにあたっても最低でもLv.7以上の戦力が居なければならなくなる。
被害は増えていく。
竜の大群が街から、村から絶望を撒き散らすだろう。不安に煽られ、民衆がこうなってしまうのは無理もない。『黒竜』討伐に参加せず、現在治療に関わっていないLv.3の団員達が押し返している。
「邪魔だ。通してくれ」
「っ、なんだ邪魔をッ!?」
チリッ、と焔が肩から漏れ出した。
耳障りな雑音が、苛立ちとなって殺意に変わった。
「──退け」
民衆が呼吸を忘れた。
冷酷で無慈悲な『死』がそこにある。ただ冷たい殺意、ノーグにとって八つ当たりのような殺意でしかないが第一級冒険者の殺意は恩恵を持たない民衆にとって死神の鎌を突きつけられている感覚だった。これ以上騒ぎ、彼の行く末を阻むのであればそれは現実となると。僅かに漏れ出た黒い焔と鋭い眼光がこの場を静寂へと包み込んだ。
「今の俺は気が立ってんだ。これ以上邪魔するなら手を出さねえ保証はねえぞ」
「ッ……!」
「え…ノーグ……さん?」
治療院に入るのを堰き止めていた団員が気付く。
被害が出ないように制御した焔を消し、割れた人混みの中を通りながら唖然とした団員の一人に声をかけた。
「『
「あ…は、はい!!」
騒然とする民衆を通り過ぎ、扉に手をかける。
恐怖もある。後悔もある。今更二大派閥の顔を見れるのだろうか。手が震えて僅かに足が止まりそうになる。
それでも此処まで来て引き返す訳にはいかない。
どんな結果になっても受け入れなければならない。意を決してノーグは治療院の扉を開いた。
「………ッ」
空気が重かった。
覇気がまるで感じ取れなかった。まるで牙を抜かれてしまったかのような、そんな敗北後特有の空気の重さを感じた。
入った瞬間、目に映るのは意気消沈しているゼウスの眷属達。数にして八人程度、しかも殆どがLv.3以下。唯一生き残っているLv.7は【暴喰】のザルド。マキシムや他の幹部達は見当たらない。
何人かは治療の為に動いているが、恐らくLv.4〜8までの殆どが全滅と見ていいだろう。あまりの衝撃に現実を受け止め切れなくて絶望している人間が殆どだ。
「ザルド……」
「小僧か……悪いなこんな状況で」
「いやいい。生き残りは……あと何人いる?」
「
顔を顰め、奥歯を噛み締めて俯いた。
此処にアルゴが居ない。二階にいるのか出掛けているのか、どちらかなのだろうという希望的観測もザルドの表情を見て悟ってしまった。
此処にいる人間が
震えた口調で、それでも真実を確かめる為にザルドに尋ねた。
「アルゴは……?」
「………」
その沈黙が答えだった。
死んだ事実に実感が湧かない。心の何処かでまだ生きているのではないかと思わされるほど、アルゴには生きる事へのしぶとさがあった。逃げ足が速く、臆病な性格でありながら此処ぞとばかりに豪胆さを発揮する所は少しばかり認めていた。
だが、天空を総べる『黒き終末』からは逃げられなかった。
「そ、う……か」
「……アイツが逃走用の魔導具を使わなきゃもっと死んでいた。いつも最初に逃げる筈のアイツが最後の最後で逃げ遅れた」
討伐遠征の前、アルゴは逃走用の魔導具を自慢していたのを思い出す。ザルド曰く他の人間が逃げられたのは女帝とマキシムが死んだ光景を見て咄嗟に討伐から撤退へと切り替えた事だ。
魔導具『
アルゴが持つ逃走、および撹乱のために使う魔導具で生きているかのように対象に絡みつく煙幕を発する。それを使い黒竜の視界を奪った後、現実を受け止め切れずに絶望で動けなかった人間を最後の最後でまとめ上げて逃走を図った。
それでも結果は最悪もいい所だ。
撤退に切り替えて尚、壊滅という被害が討伐遠征の結果となってしまったのだから。
「っ……ヘラの眷属達は」
「上の階にいる。あの娘にとって、お前が来たのは幸運なのかもしれんな」
「どういう意味だ」
目を細めて、ザルドに問う。
「リリナが……もう風前の灯火だ」
「っっ……!?」
「会ってやれ。せめて、最期を見届けてやれ」
返事を聞くまでもなく二階へと駆け上がった。
★★★★★
ノックして声が聞こえ、扉を開ける。
そこには草臥れた様子で目に隈を残しながら、回復魔法を掛けていたLv.7の後衛治癒師のメナの姿だった。そして違和感を感じた。病室だというのに何処か
「ノーグ……?」
「っ、メナ……無事だったのか」
「……何、しにきたの」
「……万能薬と精霊薬を持って来た」
「ありがとう……でも、
──もう、多分誰も必要無くなるから。
そう告げたメナに顔を顰めた。カーテンで遮られて見えないが、微かに呼吸の音を感じる。そこにリリナが眠っているのは理解出来た。
だというのに必要ないという答えを告げた。
「……まだ、そこに生きてるやつがいるだろ」
「
それはメナの回復魔法でさえ延命にしかならないという宣告。メナの魔法は全癒魔法ではない。総合的な回復力で言えばこの時代では生まれて間もないが、未来でディアンケヒトの眷属として治療院を支える【
それでも魔力に依存した回復力は全癒に最も近いとされ、範囲のみは桁違いに広く展開が可能。その広さは
後ろに彼女がいる限り、誰も死なせない最強の
どうして救えなかった、と言えるはずも無い。
精一杯の最善を尽くした結果がこれだというなら責めるのはお門違いだ。仲間が死に過ぎた中で彼女はよくやった方だ。
「最期くらい看取ってあげて。私は部屋を出るから」
「それが……俺でいいのかよ」
「もう私じゃ苦しませることしか出来ない。せめて別れの時まで側にいてあげて」
俯いたまま、部屋を出ていく。
弱々しい彼女に『
「……治せない事、恨んでくれて構わないよ」
「恨まねえよ……俺がどの口で恨めばいいんだよ」
バタン、と閉じた扉の音と共に静寂が訪れる。
嫌な静寂だった。どんな声をかければいいのか分からなかった。これから死にゆく彼女に何を告げるべきなのか。
意を決して歩いた。
カーテンで見えなかった彼女の姿を見た。
「………ぁ、ノーグ……さん?」
「……ぁ……」
幸運だったのは吐き気を抑え込めた事。
不幸だったのは絶句した声を抑えられなかった事だ。
リリナの右半身の
右腕と右脚は焼き飛ばされたというべきか酷い損傷で、今にも熱が燻っているかのような焦げた肉の臭いが鼻を劈く。まるで回復を阻害する呪詛を込められているかのようで、焼き削れた肉体はメナの回復魔法でも修復は出来ていない。寧ろいつ死んでもおかしくないこの状態で命を繋いだ事を称賛する。同じ立場ならとっくに死んでいる自信があるほどにリリナは重傷だった。
「来て…くれたんですか?」
「……ああ」
差し出した左手をリリナは握る。
それだけで彼女は優しく笑った。識っていたなら救えたかもしれなかったなんて過ぎ去ってしまったありもしない過程に罪悪感が胸を指す。
「お前も、死ぬのか」
「……ご、めんなさい。弱…くて」
「弱くなんかねえよ。女帝達でも勝てなかった相手に命拾えただけお前は凄えよ」
女帝もマキシムも死んだ。
あの場所で命を拾えただけでも偉業だ。決して弱くなんかない。彼女は最期まで誇り高く強いエルフだった。命が溢れていくのを見て、自分の惨めさを痛感する。
今まで自分はあんなものに頼って生きてきた。
他人に意思を委ねてはいけない。己の在り方一つさえ他人任せで、生きるためならそうでもいいとずっと自分に言い聞かせて逃げていた。
「俺に、してほしい事はあるか?」
「えっ……?」
「出来ることなら、なんでもする」
「な、なんでも……」
「ああ……出来る限りの事だけな」
贖罪にもならないが、リリナには出来るだけの誠意で答えるつもりだった。
「じゃあ……一つだけ」
真っ直ぐ此方を見て、リリナは告げた。
「聞かせて…ください。告白の返事を」
「!」
「どんな答えでも、私は…構いません」
それは最期の答え。
リリナはノーグを振り向かせると言ってから一年が経った。リリナの終わりが此処だとするのなら、その答えを言わなくてはならない。逃げる訳にはいかなかった。勇気を出して好きと言ってくれた女の子から逃げるなんて出来なかった。
嘘をついても良かった。
せめて幸せなまま死ぬのならこの場限りで嘘をついても。
それでもノーグは──
「──ごめん。俺には好きな人が居るんだ」
──恋を終わらせる答えを出した。
彼女を泣かせることしかノーグには出来ない。取り繕って嘘をついて、虚実に塗れた愛の言葉を吐くなんて本気で自分に恋をしてくれたリリナに失礼だったから。
「最初は、ただ目標みたいに見てた。アイツみたいになりたいって、強くなりたいって思って」
「いつの間にか目が離せなくなって、笑った顔が好きで……この気持ちに嘘をつけなくなって、どうしようもなく惹かれてる」
気持ちには嘘はつけない。
それが他人に言われた目標であっても好きになってしまったのは自分の意思だから。好きの感情は友達以上に大きくできない。それが答えだった。
「だから、リリナの想いには答えられない。俺はアルフィアが好きだから」
初恋を終わらせる事しかできない。
けれど、彼女は優しく笑った。それが分かっていたかのようで、覚悟していたはずなのに泣きもしなかった。
「……ありがとう、ございます」
「……ごめんなリリナ」
「謝らないで…ください。どんな形であれ…答えを聞けてよかった」
リリナは身体を起こした。
意を決したかのようにベッドから半身の状態で立ち上がり、側に立て掛けてあったリリナの杖『覇炎の魔杖』に装着してある『魔法石』を取り外した。
「お、おい何して……!」
「【──起きろ憤怒の…怪物共よ】」
途轍もない魔力の唸り。
そして既視感のある
「【燃ゆる故郷…鏖殺の宴、無力を…呪え残灰の骸】」
「やめろ…魔法を使えるような身体じゃ…」
「【ああ憎い、人が…憎い、空が憎い、運命が憎い、焦がす…憎悪を糧に薪を焚べよ──楔を解き放て…憤怒のまま…に吠え狂い…灰燼と帰せ】」
「っ、リリナ!!」
静止の言葉を振り切って、『魔法石』に
ただ、それは簡単じゃない。
余程の想いの強さがない限り宿す事は出来ない。それでもリリナは魔力を振り絞るように呪いを込めた。傷付ける為にではなく、護るために彼女は呪いをかけた。
「【私は…私を許さない──グリヴェント・イラ】」
詠唱が終わると『魔法石』は
右半身の殆どを失っているリリナがそんな呪詛を使えばそれは──
「これはノーグさん、貴方に…託します」
「これって……」
「ノーグさんは優しいから……きっと無茶をする」
「だからって……お前」
酷い息切れと共に、赤黒く変色した『魔法石』をリリナは差し出した。
「少しでも…貴方の旅路に……役に立て…るように」
「っっ、リリナ……!」
無理矢理片足で立っていたリリナが倒れていくのを地面に落ちる前にノーグは支える。
「ゴホッ…ゴホッ……!!」
「待ってろ!今『
血を吐き出して苦しそうな様子のリリナに焦りを溢しながら背負っていた鞄から『
「ノーグ…さん」
ぎゅっ、と彼女は半身でノーグを抱きしめた。
力なく込められた彼女の抱擁から鼓動の音が遠ざかるのを感じ取り、焼けた半身に触れずに力強く抱きしめ返す。
「私…貴方を好き…になれて…よかった……」
胸に顔を埋めて、彼女は笑った。
眠る前の子供のように、安らかな笑みを浮かべたまま。
「すぐに…こっちに来たら……怒ります…から……ね」
リリナは抱きしめられたまま瞼を閉じた。
窓から吹く風が彼女の髪を撫でる。少し冷たい風と共に抱えた身体が冷たくなっていく。
「リ…リナ……?」
返事は聞こえなかった。
僅かに見えた光と共に、リリナから色が失われていく。身体を揺すっても、リリナは瞼を閉じて起きない。寝息も、鼓動も、体温も、脈さえも失われていく。蘇生しようと動こうとしたが、それが無駄だという事は自分の中で悟ってしまった。
「っ……」
もうこの身体から魂は失われていた。『天眼』がリリナの身体から魂が解放されていく光景を捉えてしまったから。
「……最期に笑って逝くなよ。涙、流せなくなるじゃねえか」
ベッドに運んで髪を撫でた。
もしも、本当にもしもの話だ。『天啓』なんて頼らずに出会っていたら。心が傾いていたかもしれない。識ることが出来たはずだ。唯一最悪を回避できる手を差し出せるのは自分だけだった筈だ。
今更、こんな事を言う資格なんてない。
それでも……ただ胸の内の言葉を安らかに眠るリリナに告げた。
「ありがとうリリナ。こんなどうしようもない俺を──好きでいてくれて」
風の音が聞こえた。
窓の外の騒がしさを掻き消すくらいに大きな風の音が彼等を包み込んだ。
★★★★★
リリナの遺体はすぐに火葬された。
元々、死人が多過ぎた。逃走の道中で黒竜の咆哮を喰らって死にかけた眷属が多く。『竜の谷』から逃げ切れた眷属の九割は焼かれた後遺症で亡くなっている。リリナがその最後だった。
遺灰となった彼女に手を合わせた。
涙はもう枯れて、感情は抜け落ちたかのようで悲しみをまるで感じない。現実が変わり過ぎてついていけてないのか、まるで夢の中に取り残されたような感覚だった。
いまだに信じ切れなかった。
あれだけ強かった二大派閥が壊滅なんてするとは欠片も思っていなかったから。
メナと共に火葬の最後を見送り、暗くなった街の中へと戻っていく。
「………ありがとね」
「何がだ」
「リリナの事、最期までいてくれて」
「お前に礼を言われるほどの事じゃねえよ。それに、俺もこれを託された」
杖に取り付けられた最上級の『魔法石』
リリナの死と共にそれが呪いを宿し、呪物化している。熱を宿しているかのように、触れるだけで身体が熱くなる。憤慨呪詛をかけられた時の状態と何処か似ている。
「それなんだけど、私に預けてくれない?」
「ファミリアの資産で回収するってんなら断るぞ。その場合倍額で買い取ってやる」
「それはノーグの物だし、そんながめつい事しないよ」
呆れた顔のままため息をついた。
「私ならそれを
「……出来るのか」
「やるよ。やってみせる」
「……なら託す」
リリナから託された『魔法石』を預けた。
メナはまだ練度こそ低いが知識に関しては博識だ。上手く装備できるように改良もしてくれるだろう。
「今更だが、ヘラの生き残りはお前だけなのか?」
「アルフィアとレシアが生きてる。今はヘラとゼウスの護衛しながらオラリオに向かってるはず」
「……そうか」
僅かながらアルフィアの生存に安堵する。
最愛の姉を失ったらメーテリアもどうなるかわからない。大切な人が死んだ苦しみは想像を絶する。そうなっていたら自分も耐えられなかったのかもしれない。
とはいえ状況は変わらない。二大派閥の失墜はオラリオにとっても世界にとっても影響が大き過ぎる。
「これからどうするんだ? また黒竜に挑もうにもLv.4からLv.7が殆どいなくなった。後進の育成もまた時間を掛けなきゃ育たねえし」
「それなんだけど…私達はオラリオから離れるよ。私やアルフィア達ならともかくとして、Lv.3以下じゃ闇派閥に蹂躙されて根こそぎ壊滅させられる。だから世代の交代って形でフレイヤとロキの派閥に次の抑止力になってもらうかな」
そうするしかないのだろう。
討伐失敗は仕方ないにしてもその代償は大きい。築き上げた伝説でさえ勝てなかったのなら今まで培ってきた二大派閥の偉業や教訓では『黒竜』を討伐する事が不可能と認めているようなものだった。
故に必要なのは未知の英雄。
二大派閥とは全く違うやり方。『黒竜』を殺せるだけの『
「あの豚やウラノスがそれを納得するのか?」
「させるよ。それにロキ達を巻き込んで『追放』って形にすれば『全滅』は免れるし……レシアは故郷の『
「他は?」
「多分散開。残るなり何処かのファミリアに属すなり辞めるなりすると思うけど黒竜討伐への協力は私達を除いて強要はしない。若い世代は特に深い
事実上、二大派閥は解散という形になる。
闇派閥なら完全に伝説を駆逐しようと『残党狩り』が起きてもおかしくない。
「アルフィアは?」
「あの子はわからない。メーテリアの状態を無視できないし」
「まあ……メーテリア妊娠してるし、生まれた赤子の育児かね」
「ゑ?」
目を見開き、こっちを見てきた。
お前把握してなかったのか? と視線で返すが初耳と言わんばかりの表情に視線を逸らした。どうやらメーテリアもまだ誰にも言ってなかったようだ。
「マジ? 誰の子?」
「アルゴの子。多分半年もすれば産まれる」
「ち、因みにその事を知ってるのは?」
「当の本人達と俺とリリナと医神だけだ」
「おーまいごっと」
神はヘラだろ、という言葉を飲み込み胃の辺りを抑えた。とんだ爆弾を残したものだ。メナも顔を真っ青にして事の顛末を震えた口調で聞いてきたが、聞き終えた時にはメナも胃を抑えていた。
「ま、まあその話はいいや。後が怖いけど」
メナは向き直って瞳を合わせた。
「ノーグ。君がオラリオの最強になって」
「簡単に言うなよ」
「大丈夫だって、ヘラの教えを忘れてなきゃきっとなれる。あの猪くんもそうだけど」
二大派閥の中で群を抜いている存在は二人。
泥臭くも執念を持って最強の頂に手を伸ばすオッタルと、ヘラの教えを受け精霊と才能に愛された鬼才のノーグ。今はお互いにLv.6間近であり、オラリオの中ではその二人が最も成長すると二大派閥は見ていた。
のしかかる責任は尋常ではないが、やるしかないのだ。二大派閥が壊滅したこの現実を生きなくてはならないから。
「……どの道メーテリアの精霊薬に必要な素材は50階層付近だ。単独で潜れるくらいには強くなるさ」
「うん。今はそれでいいよ」
少なからず単独となればLv.7以上にならなければならない。そのくらいはやらなければ死んでいった奴等に面子が立たないだろう。生きる為に努力する目標は今日で終わりだ。
他人に意思を委ねるのをやめた現実で──彼は走る。
取りこぼした未来の清算をする為に、険しい茨の道に足を踏み込んだ。