【急募】見知らぬ世界で生きていく方法


メニュー

お気に入り

しおり
作:道化所属
▼ページ最下部へ


33/40 

『     』


 

 

 

 

 黒竜討伐の日がやってきた。

 正確には二大派閥はこれから黒竜が佇んでいるとされる『竜の谷』へと向かう。オラリオの外へ出る城門の前には勝利を願う複数の民間人が二大派閥を見送りにやって来ている。

 

 

「いよいよか」

 

 

 人類を滅ぼす可能性を孕んだ危険の代表は二つ。

 

 一つが『大穴』。モンスターを無尽蔵に産み、人類が古代の時代から争い続け、蓋をされてもなお内部で冒険者を殺すモンスターを産み続ける迷宮。即ちダンジョンである。

 

 そしてもう一つが『三大討伐依頼(クエスト)』。

 蓋をされる『大穴』の防衛本能であったのかは不明だが、ダンジョンの階層主を越える三体のモンスター。海の覇王(リヴァイアサン)陸の巨獣(ベヒーモス)、そして天空の王とされた隻眼の黒竜が世界へと解き放たれ、今も世界の悲劇を繰り広げている。

 

 特に隻眼の黒竜は凶悪だ。

 かつて精霊の力を借り、古代の英雄達の中でも別格とされた最強の大英雄アルバートが片目しか奪う事が出来なかったとされる最強の竜種。そして何より()()()()()()()()()()()()

 

 海の覇王(リヴァイアサン)陸の巨獣(ベヒーモス)の討伐の際は入念な準備が出来た。それは敗戦となっても情報が存在したからだ。どう倒すのか、どうすれば勝てるのかを慎重に吟味し、その上で必要な物を全て揃えて勝利したと言っていい。

 

 過去の文献を漁ったが成果は全く見られず。

 残された記録の中には斥候部隊を使って情報を手に入れる作戦があったらしい。黒竜という存在は基本的に戦いの姿勢を見せず、ただ眠っている事の方が多い。藪を突けば何かしらの情報を手に入れられるかもしれないと斥候部隊が逃走を目的に攻撃をしたのだが、その斥候は帰ってくる事はなかったらしい。過去の記録では黒竜がどんな攻撃をするのかどんな特性を秘めているのか終ぞ知る事はできなかった。

 

 ただ、言えるとするなら凶悪な『竜種』が『竜の谷』から放たれている事を鑑みるに、隻眼の黒竜は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 竜種はダンジョンから生み出すモンスターの中では間違いなく最強の部類に入る。一同が気を引き締めて準備をしていた。

 

 

「よっ」

「あっ、ノーグ。見送りに来てくれたんだ」

「まーな。俺も元だが【ヘラ・ファミリア】ではあったしな」

 

 

 オラリオが凱旋を祈るパレードの唄が街に轟く中、ひょっこりと現れたノーグに女帝達も視線を向けた。改めて見ると壮観だ。二大派閥以外だと第一級冒険者が多い訳ではない。英雄候補がここまで揃うと圧巻の一言に尽きる。

 

 

「改めて見ると凄絶だな」

「それはそうでしょ。団長もLv.9になったし、紅さんと副団長もLv.8。レシアやアルフィアは私はまだだけどそれでも限界まで上げたし」

「ウチや女神フレイヤの所だと第一級冒険者は未だ二人ずつだぜ? 本来希少な第一級冒険者がここまで揃うとな」

「負ける気がしないね」

「わかる」

 

 

 マキシム率いる【ゼウス・ファミリア】の方がLv.7が多いが、質という意味では【ヘラ・ファミリア】が一歩勝る。そもそもマキシムはLv.8に留まって尚女帝と同格の戦闘力を兼ね備えている。Lv.6だけでも二大派閥合わせて100人を越える。世界で最も強く世界で最も堅牢な布陣が出来上がりそうだ。

 

 それに今回は【ポセイドン・ファミリア】の団長ガイネウスも存在している。前回使った【海神の三叉槍(ポセイドン・トライデント)】の運用の為に来ているようだ。

 

 

「ノーグさん!」

「おー、リリナ」

 

 

 トテテテと小走りで近づく所で足を引っ掛けて転びそうになる所をノーグが支える。何してんだと呆れそうになった時、支えて気付いた。身体が僅かに震えている。

 

 二大派閥が見た深層の限界到達地点まで見たリリナでさえ、黒竜討伐に関して身体が強張っている。

 

 

「っと……なんだ緊張してんのか?」

「うっ、その……はい」

「あはは。そういう所は変わらねえな」

 

 

 リヴァイアサン戦もそうだった。

 二人で小舟に入り、死ぬかもしれない作戦の要となった時は身体が震えて満足に動けるか心配だった。だが、戦闘となり決意を固めたリリナは強い。それはノーグが間近で見ていたから分かっていた。

 

 多少前向きになっても、未知に挑む際はこうなるところは相変わらずでやや苦笑した。

 

 

「その……ノーグさん」

「?」

「い、行く前に緊張をほぐしたいので……だ、抱き締めてもらえませんか?」

「………………はっ?」

 

 

 一瞬意識が飛んでいたようだ。

 咄嗟にメナに助けを求める視線を送るが、ニヤニヤとしながら面白いものを見るような視線が帰ってきた。

 

 

「やってあげなよノーグ」

「えっ、大衆やお前らの前で?」

「目は瞑ってあげるから、ギュッとやって一発かましちゃいなよ」

「おい黒竜の前に俺がお前をぶっ飛ばすぞ」

 

 

 まさか断るのか、という視線が集まり退くに退けなくなってしまった事に若干苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。アルフィアまで居るのにそんな事をするのはかなり気が引けるのだが、断ろうにも勇気を出して告げた一言で真っ赤になったリリナから潤んだ瞳が此方に向けられ、余計断れなくなった。

 

 

「ハァ……ほら、来い」

「!」

 

 

 観念して両手を広げると、リリナが胸に飛び込んできた。身長的に丁度いいので抱き締めやすい。背中に手を回して胸に顔を押し付けるリリナに対して、ノーグは頭を優しく撫でる。大衆もゼウスやヘラの眷属達も口笛や黄色い悲鳴を上げて茶化してくるが、反応したら負けなのでただ一言だけ告げた。

 

 

「ちゃんと帰ってこいよ」

「はい……!」

「ノーグ、アタシも」

「絶対ヤダわ」

 

 

 ただしレシア、テメーはダメだ。

 甘酸っぱさもクソもない性的にヤバいアマゾネスの抱擁は全力で回避した。ステイタスも負けてるので掴まれたら逃げられないため、ギリギリ捕まる前にザルドの後ろに隠れていた。

 

 

「おいおい小僧、情けなくないか?」

「同じ目にあってみろ。能力値で負けてんだぞ。好き放題されるわ」

「それはそれで羨ましい気もしなくはないが」

「レシアー! ザルドがお前の事好きだってー!」

「おまっ、馬鹿小僧!?」

 

 

 獰猛で勇猛なアマゾネスがザルドを襲った。

 強い男に惹かれるのはアマゾネスの性である。ザルドは脇目も振らず逃げ、レシアは追いかけた。ザルドに標的を押し付けてノーグは離脱した。

 

 

「ふうっ……あっ」

 

 

 離脱した先にいた黒いドレスと珍しく杖を握り締めて噴水の近くで座っているオラリオ最強の魔導士の姿を見ると、ノーグは手を振った。

 

 

「アルフィア」

「…………」

「アルフィア……?」

「…………」

「おーい」

五月蝿い(ゴスペル)

「へぶっ!?」

 

 

 特に攻撃を食らう理由もない無慈悲な暴力がノーグを襲った。いきなりの理不尽に怒りを露わにし、十メートルくらい吹っ飛んでガバリと起き上がった。

 

 

「無視した挙げ句、何しやがる!?」

「喧しい殺すぞ」

「パレードの音ぐらい我慢しろよ……騒がしいのが嫌いなのは知ってるけどさ」

 

 

 人を雑音扱いしないでほしい。

 そういう傲慢な所は本当にヘラにそっくりだ。曲がりなりにもリヴァイアサン討伐で背中を預け合ったのに絆レベルが上がってない事にガッカリしていた。

 

 

「アルフィア、手を出してくれるか」

 

 

 首を僅かに傾げながらアルフィアが手を出すとその上にノーグの左手を重ねた。一瞬だけ瞠目し、何のつもりだと視線で問い詰めるアルフィア。目を瞑り、ノーグは左手に意識を集中する。

 

 

「おい」

「いいから……『汝に精霊の加護が在らん事を』」

 

 

 身体から僅かに精神力が消費された。

 ノーグは大精霊ヴィルデアの力を持ち、精霊に近づいているのであるなら原理上は加護を付与する事も出来る。とはいえ近いだけで人間であるノーグではヴィルデアの加護は付与出来ない。実践はしたが、実戦で使えるものではないため結局は運試し程度でしか使えないが。

 

 

「ただの験担ぎだ。マジで宿ってるかは一割以下だけど」

「…………」

「生きて帰ってこい。オラリオで待ってるぜ」

「…………ああ」

 

 

 そういうとノーグはまた別の場所に向かっていく。

 掴まれた手をぎゅっぱっと握っては開き、加護が本当に宿っているのか確かめるが何も分からない。

 

 ただ、アルフィアは少しだけ笑っていた。

 冷たくて、まるで雪のようなノーグの手から込められた想いだけ心に留めて、少しだけ感傷に浸っていた。

 

 

 

 

 

「アルゴ」

「おっ、ノーグ」

「ピアス、付けたんだな」

「まーね。メーテリアと交換して験担ぎしといた」

 

 

 ノーグが渡した二色のピアスの内、メーテリアに渡した桜色のピアスがアルゴの左耳に付いていた。生きて帰ってきてほしいというメーテリアの願いを感じる。そして、アルゴが抱えるバスケットボールくらいの大きさの魔導具(マジックアイテム)に視線を向けると自慢して来た。アルゴが用意する類のものは大体逃走に必要な物ばかりでノーグはやや呆れていた。

 

 

「お前は前線には行かねえだろうけど、頑張れよ」

「ああ。まっ、ヤバくなったら逃げるさ」

「それはいつも通りだろうが」

 

 

 差し出された拳を合わせてお互いに笑い合った。

 これ以上言葉は要らない。やるべき事はお互いに分かっているから。

 

 かつての英雄の中には竜の血を浴びる事によって強靭な肉体と生命力を宿すことに成功した者がいる。ゼウスの記した英雄譚は全て原典、竜種の中でも『純血(オリジン)』とされる黒竜の血はメーテリアの病気を治せる可能性を秘めているから。

 

 ノーグは二大派閥が帰ってくるまでのこのオラリオの抑止力となる為、ダンジョンへ潜って自身の力を上げていく。お互いに役割を理解しているからこそ、言葉は多く要らない。ただ合わせた拳から熱意を受け取り、成功をお互いに祈るだけだ。

 

 

 そして──時間がやってきた。

 ヘラが先頭に立ち、神威と共にオラリオに響き渡るほどの怒号が一度静寂を生み出した。

 

 

「聞け、英傑達よ!」

 

「『三大討伐依頼(クエスト)』もいよいよ最後となった! 隻眼の黒竜、古代より精霊の力を借り、人類史の中で英雄と謳われた全ての存在が奴を前に破れ去った!」

 

「だが、断言しよう。千年の歴史の中でこの時代こそ、この時代を生きる我等こそ最強の精鋭! 千年の中でも異端でありながら歴代最強の英傑が揃った!!」

 

「『人類の終焉』そして『最強の竜』。相手にとって不足無し! 今まで積み上げてきた我等の力を以て奴を殺す!!」

 

「勝利を謳え! 我等が最強であると世界に示せ! 英雄候補から真の英雄へと至れ!」

 

 

 今、正に確信する。

 最強と最凶が織りなした千年の歴史の中で、その歴史にただの一度も終止符を打たなかったのは彼女が主神であるから。これほどのカリスマはゼウスを除いて他にいない。大神の神妃であり、恐怖を兼ね備えてもなおこのファミリアを支え続けた最凶の女神の神髄が戦士の恐怖さえも飲み込んだ。

 

 

 

「──勝つぞ!!」

 

 

 

 オオオオオオオオオッ──!!! と湧き上がる士気に叫ぶ最強の精鋭。これ以上とない程に挙げられた勝利への渇望。恐怖の全てを純粋な力で踏み躙り、最強の竜を殺す覇気を高めた最強と最凶の眷属の挑戦。

 

 そして──門が開かれた。

 二大派閥は『竜の谷』へと向かっていく。誰もが最強と認める英傑達がオラリオから離れていく。

 

 

 

「……行くか」

 

 

 

 ノーグはそれを見送りダンジョンへと向かった。

 最強に至りたい訳ではない。彼等のようになりたい訳ではない。英雄の志も、信念も今のノーグにはない。英傑達がいるのであれば自分がそうなる必要を考える意味がなかったから。

 

 ただ剣を取り始めた理由はまだ消えない。

 

 強くなりたいという思いが伝播したようで、身体の内に湧き上がった熱は消えない。どうやら自分にも生きたいと思う以上に悔しいと思う気持ちが存在していたようだ。すっかり感化されて、今までの自分を壊されて今がある。

 

 

「結局、俺もこの世界に染まったって事か」

 

 

 剣を携え、街を駆ける。

 力をつけるために、彼女に追い付くために、そしてこの世界を生きていく為にノーグは迷宮へと向かっていった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

468:名無しの冒険者

いよいよ始まるなぁ暗黒期

 

 

469:名無しの冒険者

この時をずっと待ってた

 

 

470:名無しの冒険者

寧ろここから始まるやろワイらの英雄は

 

 

471:名無しの冒険者

ある意味、テンプレかもしれんけどグッと来てる自分がいる

 

 

472:名無しの冒険者

>>471 ワイも

 

 

473:名無しの冒険者

イッチが異物過ぎてどうなるか分からない所が唆る

 

 

474:名無しの冒険者

ザルドとアルフィアはまあ確定かな?

 

 

475:名無しの冒険者

いや精霊薬を摂取してると読めんなぁ

 

 

476:名無しの冒険者

俺はリリナちゃんを推すね、あの脚最高やろ

 

 

477:名無しの冒険者

>>477 お前脚フェチかよ……先輩と呼んでいいですか

 

 

478:名無しの冒険者

じゃあワイ蛮族女を推すわ。あのケツ最高やろ

 

 

479:名無しの冒険者

寧ろ誘ってるんだろぉ……フゥ(ボロン)

 

 

480:名無しの冒険者

こちらも抜かねば無作法というもの(コキ…)

 

 

481:名無しの冒険者

やめろ早漏ども

 

 

482:名無しの冒険者

妄想が捗り過ぎて異次元の方向性にイっちゃってるの草

 

 

483:名無しの冒険者

抜き終われ。話はそれからだ

 

 

484:名無しの冒険者

時系列どうなんやっけ? 追放からの暗黒期到来、ベル君誕生から剣姫ちゃん遭遇、『膝枕してほしい女神No.1』のファミリアが頭角を表すの認識でおk?

 

 

485:名無しの冒険者

大体あってる

 

 

486:名無しの冒険者

若干イッチが可哀想になってきたんやけど

 

 

487:名無しの冒険者

SAN値チェック失敗して英雄辞めない?

 

 

488:名無しの冒険者

あとこの掲示板の運営とかさ

 

 

489:解析最強ニキ

任せろ

 

 

490:名無しの冒険者

!!

 

 

491:名無しの冒険者

キター!世界で一番やべえ人!!

 

 

492:名無しの冒険者

待ってたぜええええええ!!

 

 

493:解析最強ニキ

イッチがスキル使わなくても此方から閲覧可能! 神の視点、つまり四次元の干渉!!

 

 

494:名無しの冒険者

超越視野(メタビジョン)』ならぬ『超越掲示板(メタスレッド)』!!

 

 

495:名無しの冒険者

うん、ここまで来ると流石に引く

 

 

496:名無しの冒険者

イッチが拒否しても繋がれるとかプライバシーやばやば

 

 

497:名無しの冒険者

もうストーカー超えてヤンデレやろ

 

 

498:名無しの冒険者

いつも見守っています(はぁと)

 

 

499:名無しの冒険者

キッショ

 

 

500:名無しの冒険者

いや割と事実なの草

 

 

501:名無しの冒険者

やってる事犯罪なんやけど、オラリオの法じゃワイらを裁けんしなぁ

 

 

502:名無しの冒険者

掲示板なんて治外法権もいい所やろ

 

 

503:名無しの冒険者

物語でしっちゃかめっちゃかしてるのを上から見てるワイら邪神やん

 

 

504:名無しの冒険者

だってその方がオモロいし

 

 

505:名無しの冒険者

だってその方が曇るし

 

 

506:名無しの冒険者

その方がずっと愉しく遊べるやろ?

 

 

507:名無しの冒険者

やっっっば……このスレ民邪悪過ぎ

 

 

508:名無しの冒険者

こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!

 

 

509:名無しの冒険者

この計画いつからやっとった?

 

 

510:名無しの冒険者

イッチがレベル1の時から

 

 

511:名無しの冒険者

うわぁ……

 

 

512:名無しの冒険者

イッチに反撃されても知らんでこれ

 

 

513:名無しの冒険者

寧ろ挫折するんやない?

 

 

514:名無しの冒険者

大丈夫やろ。イッチやし

 

 

515:名無しの冒険者

謎の信頼感

 

 

516:名無しの冒険者

だってそっちの方が燃えるし、お前らも好きやろ?

 

 

517:名無しの冒険者

仲間の死を嘆いて奮い立つ英雄ってやつがさ

 

 

 

 ★★★★★★

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!!!」

 

 

 女帝達がオラリオを去ってから二週間が経った。

 ノーグは走っていた。都市街を、女帝達が向かった『竜の谷』から一番近い都市までスキルを全開にして走り続けていた。【追走駆動(ウェルザー・ハイウェイ)】による敏捷の強化と加速限界の制限無視。恩恵を持たない人間ならば一ヶ月の道のりをノーグは恐ろしい速度で進んでいく。

 

 

「っっ、嘘だよな……!」

 

 

 あの英傑達が死ぬはずがない。

 その強さは身近で見ていたノーグが一番知っていた。だからあり得ない。あの人達が死ぬなんて想像が出来ないのに、まるで予定調和の如く盤外から告げられた『天啓』に血の気が引いて背筋が震えた。

 

 だってそれは何度も助けられた力だったから。

 だってそれは何度も窮地を救ってくれたものだったから。

 

 信じたくなかった。

 今まで頼りにしてきたモノの腹の中が底の見えない邪悪なんて知りたくなかった。ご都合主義の物語にさせたくないが故の邪悪達の沈黙が、この事態そのものを想定済みと軽く告げては嗤ってこの世界を見下ろす存在を認めたくなかった。

 

 

「ハァ…ハァ……魔法で精神力を回復させねえと……」

 

 

 とある街に着いた。

 一部の場所を凍結させて精神力を回復しようとした矢先、街は騒然として響き渡る絶叫が轟く。息を切らしながら騒ぎを無視し、詠唱を唱えようとしたその時──

 

 

「嘘だろおおおおおおぉぉ!?」

「ま、じかよ……!」

「あの二大派閥でもダメだったのかよ……ッ!」

 

 

 言葉を失った。

 ダメだった。その言葉が耳に聞こえた時に身体から熱が失われていく気がした。魔力を暴走させないように詠唱し切った後にすぐに魔法を切り、騒いでいた街の住人の一人に声を掛けた。

 

 

「おいおっさん、その新聞見せてくれるか?」

「あ、ああ……」

 

 

 渡された新聞紙を覗く。

 それはこの世界最新の情報。『帝国』から世界へと公表された結末。震えた手で渡された情報に目を通した。

 

 

 

 

 

 

 

『──【ゼウス・ファミリア】及び【ヘラ・ファミリア】壊滅。黒竜討伐は叶わず敗走し、僅か十数名を残し黒竜に虐殺。世界最強の敗北の報告により黒き終末に対し、帝国は世界連合との会議を発表』

 

 

 

 

 

 

 

 新聞紙が地面へと落ちた。

 世界が廻る。呼吸が乱れる。視界が歪む。前が見えない。

 

 ご都合主義の神様(デウスエクス・マキナ)にもなれず、ただ邪悪に未来を明け渡した故の末路。

 

 盤外からゲラゲラと嗤う声が幻聴となって世界を満たす。現実を生きるノーグと非現実を楽しむ邪悪。彼等にとって助言は『遊び』で、物語が破綻しない程度の『遊興』だった。

 

 

「あ……ああ………」

 

 

 今になって知った。

 小説と現実の世界の差異を。自分の歪さを。邪悪達の計画を。

 

 それは愚かしく、手遅れすぎた。

 仲間が死んだ事実の重さを邪悪達は感じられない。寧ろ物語が始まったと喜び、この世界を生きる自分の生き様を楽しんでいるように見えた。

 

 邪悪達にとって『死』とは物語の中の一つの転機でしかない。生きたいと願って『死』を恐れたノーグにとってそれは果てしなく重い現実だった。

 

 膝から崩れ落ちた。

 喉が張り裂けるような絶叫を、頭が狂ってしまうような絶望を、嫌に聞こえる鼓動の叫びと共に全てが溢れ出した。

 

 

 

 

「ああああああああぁぁあああぁああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああぁぁぁあああああぁぁぁ────!!!!」

 

 

 

 

 一つの都市に藍色の髪をした青年の慟哭が響き渡った。

 

 慟哭も涙も流れても何も変わらない。

 過去は変わらない。変えたくても何も変えられない。それが『現実』だった。世界で一番近くて、世界で最も残酷な世界の真理だった。

 

 千年の歴史を誇る二大派閥は壊滅した。

 

 始まりは終わり、終わりが始まる。

 

 第零章から第一章へと物語の幕を開き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『プロローグ』はこれにてお終い。

 

 これから始まるのは彼の『現実』のお話。

 

 誰が為の物語になるかは、彼の行く末次第。

 

 

 

33/40 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する