初めて見た。
喋るモンスターという存在について俺も幾分か考えた事はあった。この世界にはモンスターを操る為に調教するテイマーは存在する。命令通りにモンスターを行動させる為に躾を繰り返し行う事で従順な僕として扱う人間はいる。
今の時代はそれが禁止されている訳ではないが、メリットが無さすぎるのだ。先ず地上へ調教したモンスターは出せない。調教しても怪物に怯える民衆も居る上、それを許可したら闇派閥が良からぬ企みをしかねない。調教に時間がかかるのは当然として、ダンジョンに置いていたとしても誰かに狩られたらそこで終わり。リスクリターンが釣り合わない為、『
居ない訳ではないが、数少ないだろう。
そしてその数少ない『
剣を抜いた。
この存在は危険過ぎると警鐘を鳴らしていた。
「待ってくれ!!」
「……何で止める」
「止めるよ。そりゃ止めなきゃお前殺してたろ!?」
「当たり前だろ。止める理由がない」
サポーターは俺の前に立った。
剣を向ける
「モンスターとは言えど喋る訳で対話が可能なら襲わないだろ?」
「遂に頭がイカれたか?他の怪物と違ってコイツは
「だからっていきなり縛られて恐怖しているのに斬ろうとするか!?ほらプルプル震えてるし!」
「アホか。怪物と人類が相容れずに千年も殺し合いを続けてたってのにお気楽な頭してんな。それは今に始まった事じゃねえけど」
存在そのものが危険過ぎる。
これは生かしておいていいのか聞くまでもない。にも関わらずサポーターは庇うように真っ直ぐな瞳で睨み付ける俺の眼光を受け止めていた。
「話を聞こう。どうするかはその後でもいい筈だ」
「狡猾なモンスターは深層に腐るほど居た。だがコイツは喋れるだけの知性からしてそれ以上の潜在能力だ。それを見逃してこの先牙を剥いたらどうするつもりだ」
「俺が止める。その時は責任持って俺が殺す」
それが出来るとは思えない。
ハッタリに過ぎない言葉で剣を収めるつもりはない。震えた様子の
「……お前がそうするだけの理由はなんだ」
「もしかしたら終わるかもしれないだろ?怪物と人類の戦争の歴史に終止符を打てるかもしれない。この子はその可能性なんだ」
「逃げ腰のお前にそんな誇大妄想が実現出来ると?笑わせんな」
「だからこの件は【ゼウス・ファミリア】で預かる」
「!」
「それなら、可能性はゼロじゃないだろ?」
二大派閥の一角として対処するなら確かに可能性はゼロではないが、ゼウスはさておきマキシムがそれを納得出来るとは思えない。モンスターである存在に希望を賭けはしないだろう。出来たとしても隠蔽と現状維持が精一杯な筈だ。
「誇大妄想でも、可能性があるなら賭けてみたい」
「正気か?そんな戯言が本気で叶うと思ってんのか?」
「ああ……頼む」
「………チッ」
だが、ゼウスが動く事を考えれば目を瞑るしかない。
戯言だろうとそうでなかろうと、この異常事態はどの道誰かが対処しなければいけない。モンスターとして殺す在り方を貫くか、和解する事で共存を許容出来る世界の可能性を見出すかの分岐点だ。眉間を押さえて深くため息を吐いた。
「あくまで事情を聞いてから判断してやる。俺のファミリアにこの件の問題は抱え込めねぇし、怪物を殺せというのがファミリアの総意だ」
「っ……」
「俺個人として口を噤んでやる。けど、俺のファミリアを巻き込むことは許さない。人類に牙を剥いたらお前が責任持って始末する事を忘れんな」
「……ありがとう」
特にフィンはそう言うだろう。
ファミリアとしては警戒心を下げたり、名声に傷が付く厄ネタを持っていく事はできない。怪物に殺された人間だって多いし、納得は難しい。知らぬフリをして現状維持の方がまだいいしな。
「で?お前、名前はあるのか?」
「……レイ、と申しまス」
「仲間はいるのか?場所は問わねえが、お前のように喋る存在はどれだけ居る?」
「今の所、喋れる存在は限られていまス。私が知る限り、三人ほど。発達器官から喋れずとも知性のある同胞はそこそこ居まス」
発達器官を考えるとやはり異常だ。
ダンジョンの何処で
冒険者と殺し合う事で間接的に覚えた?
そんな訳がない。相対して殺されたらそこで終わりだ。
人間を食う事で知性を得た?
それも低い。警戒心はあるけど人を見る目が何処か違う。モンスターに穏やかな性格があるとは思わないが、あまりにも人に対して敵意の視線が薄過ぎる。
「知性を持ったお前達の目的はなんだ?人類抹殺?」
「しませン!!その……言わないとダメですか?」
「目的を隠して行動するなら俺はお前を危険指定として見るぞ」
「うっ……その」
頰を赤くしてモジモジとしながらも小さな声で答えられた。
「抱きしめることができないので、愛する人に抱きしめて貰いたい……でス」
「…………」
「…………」
「あ、あノ…無言にならないでくださイ!?」
何処かズレている返答に気が抜ける。人に良くしてもらった記憶があるのか。人に対して向ける感情を何処で抱いてるのか。阿呆らしくなってきた。嘘に見えないし、心からの本音なのだろう。
「……ハァ、警戒するのが馬鹿らしく思えてきた」
「めっちゃ可愛いじゃん」
「アウウ………」
「……もう好きにしろ。お前に任せるから適当になんとかしとけ」
「オッケー、そうするよ」
サポーターは
言いたくはないが、こういう所には本当に敵わない。弱くて臆病で冒険者に向いてなどいないけれど、他人を信用して味方につける事に関してだけは天才だった。聡明な道化、引っ掻き回す事に定評があるのに憎めない奴であることに僅かにため息をついた。
★★★★★
1:道化所属
お前ら、喋るモンスターって知っとるか?
2:名無しの冒険者
待て
3:名無しの冒険者
と、とりあえずスレ立て乙
4:名無しの冒険者
展開が十六年も早いよ!?
5:名無しの冒険者
いや元を辿ればエンカウントって確かにこの時期だろ?
6:名無しの冒険者
マジかー、イッチが第一発見者かー
7:道化所属
その様子だと知ってるな?で、何やのこの喋るモンスター?
8:名無しの冒険者
『
9:名無しの冒険者
そうやな
10:名無しの冒険者
>>8 説明雑っ!?
11:名無しの冒険者
もうちょっと何かなかった訳?
12:名無しの冒険者
つまる所、ダンジョンでドカーンってなってぎゅわーーんとなって生まれてくるモンスターって事!
13:名無しの冒険者
>>12 お前は炭治郎か
14:名無しの冒険者
>>13 いや恋柱じゃない?
15:名無しの冒険者
どっちもどっちだろ。この感覚派ども
16:名無しの冒険者
経験者は語るけど、転生者には語れない!
17:名無しの冒険者
だって原作に引っかかるもん!
18:道化所属
じゃあやっぱ殺した方がいいのか?よし殺ろう
19:名無しの冒険者
待っっって!?!?
20:名無しの冒険者
判断が早い!?
21:名無しの冒険者
女帝の面影を感じるわその迷いの無さ
22:道化所属
相手怪物だし、知性あったら狡猾さ覚えて怖くね?
23:名無しの冒険者
マズイぞ割とイッチに正当性がある
24:名無しの冒険者
客観的に見たらそうなんよなぁ……
25:名無しの冒険者
えっとな、まあ要するに『
26:名無しの冒険者
ダンジョンのモンスターって魂がダンジョンに還るんやけど、その度に何度も輪廻転生が起きるとな。自然と覚えていられるようになっとるのよ
27:名無しの冒険者
そこから争いが不毛と感じるモンスターとして現れたんや
28:道化所属
輪廻転生……逆にそれが積み重なって憎悪を持つモンスターは?
29:名無しの冒険者
結論を言えば多分居る…とは思う
30:名無しの冒険者
知性の獲得から狡猾化した存在は居るとは思うけど、原作では現れた描写はないけど、ダンまちの世界って異常事態が多いし
31:名無しの冒険者
普通は記憶リセットされとるから問題ないという答えはあかんかも
32:名無しの冒険者
正直全ては作者のみぞ知る
33:名無しの冒険者
そもそもダンジョンって摩訶不思議だし
34:名無しの冒険者
神を憎んでる。過度な破壊は御法度。何処まで階層があるか不明。モンスターは無限にリスポーンするのは分かっとるけど、総数だけ言えば多分オラリオの住民を超えとるしなぁ
35:名無しの冒険者
喋るモンスターってイレギュラーもあるしなぁ
36:名無しの冒険者
あり得ない事があり得てしまう事があるのがその世界だな
37:名無しの冒険者
結論を言えばワイらも詳しくは知らん
38:道化所属
ええい、役に立たん。じゃあその『
39:名無しの冒険者
悪行って訳じゃないけどモンスターを捕らえて外の貴族に密輸するようなファミリアはある
40:名無しの冒険者
快楽主義で殺そうとする奴もいるし
41:名無しの冒険者
人語が喋れるならその悲鳴は最高というサイコパスは確かにいる
42:名無しの冒険者
邪神や面白半分でそうする神はいるね
43:名無しの冒険者
名前はとりあえず伏せておくけど、少なからずオシリスやアパテーとは別種の存在やで
44:道化所属
モンスターの密輸はどうなっとる。先ず地上に上がれないやろ
45:名無しの冒険者
そこは自力で見つけぇや
46:名無しの冒険者
何でもかんでもスレ民を頼られてもなぁ
47:名無しの冒険者
あくまで『
48:名無しの冒険者
ほながんばりぃ
49:名無しの冒険者
因みにその喋るモンスターの名前は?
50:道化所属
レイって名乗ってた。セイレーンの怪物やな
51:名無しの冒険者
イッチお前やっぱ女難の相が見えるで
52:名無しの冒険者
今のうちに背中刺されんように守っとき
53:道化所属
なんでっ!?
★★★★★
「(成る程な、モンスターの輪廻転生……)」
モンスターの魂はダンジョンへと還る。
輪廻転生を繰り返す事で魂が記憶を覚えて蓄積していく。怪物の継承輪廻。記憶を魂が覚えているのか。
「(考えた事もなかったが無限に湧くパラドックスから起きたバグみたいなものか。だとしたらやはり問題を抱えられねえ)」
特に【ロキ・ファミリア】の悪評は広められない。
それはフィンの夢を考えた上での判断だ。フィンが目指しているのは小人族の英雄、古代の英雄フィアナのように象徴的な意味合いを込めた在り方を示している。
その上で言えば
俺はリヴァイアサン討伐で最も戦果を上げたと言ってもいい。外聞的にはやや語弊はあれど間違いはないだろう。第一級冒険者、ヘラとゼウス達が注目を置いている存在の帰還。今の時期、【ロキ・ファミリア】は上へと上がる勢いが最も強いと言える。
そんな中、こんな情報は爆弾でしかない。
導火線に起爆寸前の爆弾と言ってもいい。先ずフィンがそれを許さない。対話が可能であり、友好を望む怪物を受け入れられる訳がない。怪物は怪物と認識していなければ、殺す事に躊躇を生む。メリットデメリット差し引いても得策とは言えない。
隠蔽、という訳ではないが一存でファミリアを巻き込むのは不本意だ。そもそもそんな異常事態を受け入れられるだけの規模ではない。人数こそ増えてきてはいるのだが、ゼウス達のように余裕がある訳ではない。
ダンジョンから帰ってきて【ゼウス・ファミリア】に真っ先に相談に向かったサポーターを待っていると、小走りで俺の所まで来た。
「で、どうだったんだ?」
「『隠れ里』の情報は俺とノーグ、あとは
「俺はあくまで隠すだけだ。分かっているな?」
「ああ、だからこれは受け取らなくてもいいけど」
「……貰っておくよ。念の為な」
いざという時の抑止力は必要だ。
確認だけはしておくが、関与出来ることは少ないな。【ゼウス・ファミリア】でこの件は預かりとなったなら俺は沈黙を貫くだけだ。渡された『隠れ里』の地図を懐に入れた。
「神ウラノスってギルドの中枢の存在だろ?ギルドが認めるとは思えねえけど」
「そこは上手くやるさ。何たって俺だし」
そういう所だけは強いから説得力がある。
腹が立つ、と思いながらも心意を問う為に名を呼んだ。
「──
この男が何を考えているのか分からない。
本気でこの争いの歴史に終止符を打てると思っているのか。嘘だけは許さないと、視線で答えてはアルゴに問う。
「お前は本気で怪物と友好を築きあげた世界が出来ると思っているのか?」
俺は無理だと思っている。
黙認での共存は出来ても友好を築き上げるのは不可能だというのが俺の意見だ。世界を変えられるだけの起爆材料になるとは思えない。誤って爆発すればそれこそ諍いが加速するだけだと思っている。
アルゴは何を持って考えているのか。
メリットが大きいわけでもなく、寧ろデメリットだらけだ。そんな中で喋る怪物を生かす選択をした。それが本当に実現出来ると思っているのか。尋ねた俺の言葉を聞いてフッ、と笑ってアルゴは答えた。
「知らん!」
「はっ?」
「俺は可能性を残すだけ。どうしたいか、どうなりたいかは本人達の頑張りだろ。それを支えてやるのが俺のやる事だと思ってる」
「これがお前の役割だと?」
「まあね。それにさ、俺は弱くてちっぽけな人間だからさ。英雄になれないし、英雄の夢を見るだけのクソガキだけどさ」
空を見上げてアルゴは笑った。
英雄になれる器でもなければ強さもない。どれだけ努力しても英傑と女帝のようにもなれず、我を通せるだけの強さを持ち合わせているわけでもない。臆病で弱くて、自分がちっぽけだと分かった上でそれでも笑う。
「──それでも、俺は笑える世界の希望を残したい。きっとそれが、俺が出来る精一杯なんだ」
それが何処か俺まで笑えてしまう。
喜劇にもならない。
「だから、この可能性は未来の英雄に託す!」
「結局人任せじゃねえか!……ったく」
それでも未来でそれを肯定してくれる英雄に託す。
それがアルゴの選択が正しかったと笑える日が来るのならそれはきっと喜劇なのだろう。実現されるかなんて分からない遠い未来に送る可能性でしかないけれど。
「酒、飲みに行こうぜ。奢ってやる」
「おっ、いいね。ノーグから誘うなんて初めてじゃね?」
「そういう気分なんだよ」
本当にそういう所だ。
無鉄砲で馬鹿で逃げ腰で、英雄にはなれないと知りながら、英雄のように笑って未来を歩いているアルゴを見て何処か笑ってしまう。そういう所が嫌いになれないから、不思議な奴だ。
ホント、愉快な奴だから友達をやめられないな。見てて面白いし。
★★★★★
「………………………………はっ?」
前言撤回、友達やめます。
心の底から低い声が酒場の一角で漏れ出ていた。考え無しなのは分かっていたが、考え無し過ぎて軽蔑する所まで来てしまっていた。
「嘘……だろ……」
「いやガチだから……」
「……お前…後で絶対にアルフィアに殺されるぞ」
「で、ですよね……」
呆気に取られてこの後ゼウスやヘラの関係を考えたら相当恐ろしい未来が待っているのを察して頭を抱えた。酒場で告げられたその事実に酒に酔う事も出来ずにただただ頭が痛い。
「お前最低だな。せめて避妊しとけよ」
「やめてっ!?そんな目で俺を見ないで!?」
「見るわ馬鹿!ホント、何やってんだお前……」
「あー、その……助けてくれたりは」
「するか。勝手に死ね」
「ひどい!?」
いや、本当に何やってんだよ……
メーテリアを