魔導師の一斉掃射から始まったリヴァイアサン戦。
Lv.5以上の魔導士から放たれた魔法はリヴァイアサンの頭に集中して放たれ、大爆発を引き起こした。
階層主を一撃で消し飛ばす【ヘラ・ファミリア】の魔導士の集中砲火にリヴァイアサンは絶叫を上げる。
「マジか……」
効いている。
だが、リヴァイアサンの外殻が損傷している程度、魔法が外殻に衝突すると同時に散らされている。リヴァイアサンの外殻は
「硬いわね。リヴァイアサンの
海を総べる覇王は千年以上の時を経て更に強化されている。海のモンスターを喰らい、生態系の頂点に君臨する怪物。魔法はダメージこそ与えてもリヴァイアサンを殺す程の火力には達する事が出来ない。
「先ずは外殻を剥がすわよ」
「了解。此処で降ろす。援護を頼む」
「ありがとう紅さん…」
リヴァイアサンの外殻を剥がすのは前衛の役割だ。
ノーグは今回前衛ではなく中衛、魔導師達に対して魔素の回収、前衛に氷炎の付与、その二つの仕事を同時に進行しなければならない。特に外殻は硬過ぎる為、氷結した後の砲撃で外殻を脆くする。
「あー、クソッ……!」
問題なのは魔素の回収と同時に前衛に掛けた氷炎の付与。ノーグは前衛全てに付与する事は出来ない。単純な話、自分の
その上、雪化粧による後衛達の不可視化。
遠距離殲滅砲を持つリヴァイアサンに距離など関係がない。故に後衛は一度撃てば所定の位置から移動し、それを隠す為に思考を割くのは無理がある。
その為、ノーグは中衛で最前線に出ない。
指揮官でもなければ、後衛職でもない。中衛を支える
「っ、キッツ……マジで」
当然、死ぬ程キツい。
外殻さえ崩せれば外殻を脆くする理由も無くなり、後衛のみに仕事を傾けられるのだが、アマゾネスのレシアの
その硬さはLv.6最上位の力を持つレシアでさえ外殻を砕けない。傷は付いているが、砕くに至れていない。
「ノーグ!」
「ッ……!」
レシアの
ステイタス全てを一撃に込めて振り下ろす。魔法を散らし、減衰させようが至近距離で思いっきり振り下ろせば減衰し切る前に外殻にダメージを与えられる。
先程よりも激しい音と共に、レシアが一度後退する。余りの衝撃に腕が痺れ、
「ぐっ……アタシと付与ありで外殻に罅一つか」
「硬さだけ言えば
「はいはい分かってるっつーのクソ侍!」
レシアの横を並走し、納刀したままリヴァイアサンの肢体を走り、外殻を繋ぐ関節部分に視線を向ける。
「【禍つ彼岸の華】」
超短文詠唱。
込められた魔力と共に外殻の隙間を定め、紅は駆ける。殺意を感じたのかリヴァイアサンは吸い込んだ息に魔力を乗せて吐き出した。
豪砲、そう思えるほどの突風に目を剥く。
乗せられた黒い魔力と共に放たれた咆哮という名の大砲が三発放たれた。一つが氷結した海に着弾すると、氷海に
まともに喰らえば叩きつけられて圧殺される咆哮が紅に放たれる。迫り来る二発に紅は駆ける脚を更に稼働させ射程から離れる。
「(想定より反応が速い!)」
「紅!!」
巨大な尾が紅の頭上に迫る。
射程から外れるのを読まれたと思えるほどの反射行動、範囲も速さも深層にいたモンスターよりも格が違う。振り下ろされた尾に紅は反応出来ない。
尾が振り下ろされた。
氷海が割れ砕け、それを見た一同は動揺を隠せない。紅が押し潰された光景に絶句し、僅かに脚が止まる。
ただ一人を除いて、
「
ノーグの幻像による位置の認識の誤認。尾を振り下ろした先には紅の姿は無く、必殺とも呼べる抜刀の剣閃領域は外殻の隙間を捉えていた。
「【五光・雲耀】」
都度に五条。
抜刀から繰り出される神速の斬撃が、外殻の隙間を抜けリヴァイアサンの身体を斬り付けた。外殻の隙間から血が溢れ出す。攻撃が通った瞬間、リヴァイアサンは絶叫を上げ肢体を揺らし、紅を振り落とす。
紅の抜刀は間違いなくダメージを与えているが、外殻の隙間への攻撃でさえそこまで通らない。外殻は最硬金属レベルの硬度、外殻の隙間には狙われる対策をしていたかのような硬い鱗。外殻程ではないが、深く斬撃が通らない。
「関節だけを狙うのは正直厳しいな。攻撃があまり通らない」
「やっぱ外殻を剥がすしかないって事かい? 手間が掛かりすぎる」
「いや、狙う場所に関しては副団長がいる」
狙うは魔石、その一つに限る。
このまま外殻全てを剥がし、失血死させるのは事実上不可能に近い。外殻の強度、鱗の鎧、耐久性という一点に於いて、リヴァイアサンは世界最強と言える。そんな存在に耐久戦など明らかに物資も武器も体力も足りない。
だが、魔石が何処かは分からない。コレほど長い肢体の何処に隠されているのか。それを見切る事が出来ない。
ただ一人を除いて……
「【逢魔の一、天魔の全、凡ゆる世界を見据え止まるな今を定めよ】」
並行詠唱しながらリヴァイアサンの周りを駆ける副団長。口調的に下っ端のような彼女だが、副団長である理由はその眼にある。
「【アキュレイス・マルズ】」
紫紺の瞳が金色に染まる。
見定めた場所に外殻の部分に
透視魔法【アキュレイス・マルズ】
効果は単純、あらゆる物を透視する。副団長はモンスターを殺せる魔法も回復もなく、戦力で言うならばレシアや紅の方が上だ。
だが、対
指揮官としてはフィンと互角とも言っていい知略。【ヘラ・ファミリア】の
「この位置!団長!!」
そして、副団長が居るからこそこのファミリア最強の女は、最も強い力を引き出せる状況に飛び込める。
「──沈め」
一撃で外殻に亀裂を生んだ女帝の剣閃。
リヴァイアサンの最も嫌がる位置に最高位の剣を叩き込む。だが、亀裂が生まれた外殻は新たに再生した外殻に押し出され、地面へと落ちていく。脱皮のように傷付いた外殻を捨て、新しく強靭な外殻に作り変わっていた。
「ダメね。再生してる」
「やっぱり?」
「ノーグの付与で凍らせて再生阻害は出来るけど」
女帝は視線を中衛のノーグに向ける。
「ノーグの方が先に倒れるわね」
「外殻の一部を剥がしたら、例の奴を使うっすか?」
「そうしたいけど、その為には多少弱らせて動きを止めないと無理ね」
外殻の再生には魔力を消費する。
深層の中でも自身の魔石から特性を用いた攻撃はあるが、それには限度があった。リヴァイアサンの貯蔵魔力にもよるが、再生にはいずれ限度が来る。
「外殻を剥がして凍結か燃焼、それを継続ね」
「それしかないってのが厄介っすね」
「三大クエストというくらいだし妥当よ」
「納得っす」
二人の指示の下、前線は攻撃を繰り返しリヴァイアサンの魔力を削っていた。
★★★★★★
「大丈夫か?」
「お前、前線行けよ」
「中衛の護りが無ければ後衛に支障を来たす。今は待機だ」
「つっても…音に関してはアッチの弱点…だろ?」
「精々嫌がる程度では大した役に立たん。混戦になれば巻き込みかねないしな」
アルフィアの音魔法は指向性の限定は出来るが、それでも範囲が広い。音の塊を飛ばすという魔法は厳密に言えば衝撃波のようなものだ。音は振動、意図せずとも広がるのが音であり、前衛の人数を考えれば集団戦には不向きだ。寧ろ少数精鋭である時こそアルフィアはめっちゃ強い。完全に魔法剣士という形ではなく『個』として自己完結している。そういう意味では俺と似たタイプだ。
前衛は女帝達、そしてLv.5の魔法剣士で構成され、サポーターとしてLv.4の二軍メンバーが支えている。
後衛に関しては魔導師達が詠唱、女帝の合図と共に魔法を掃射する。
中衛は俺、アルフィア、メナ、リリナと他数人。
俺に至っては
「会話が出来てるのは凄いね。リリナの魔法、マジの狂戦士になるのに」
「い、一応コレでも最大なんですけど」
「煩え…俺はすこぶる冷静だボケ……」
「死にかけてるけどな」
俺の場合、ラースの記憶の時から怒りが突き抜けた場合殺意と共に冷静になって恩恵持ちの冒険者を殺していた。あとは日常的に一線を越えないように感情を抑えているおかげか、怒りの感情はリヴァイアサンに対する殺意となって冷静になれている。
つっても気を抜けば叫んでリヴァイアサンに突撃していると思う。確かに呪詛によってスキルは発動出来ているが、正直やり場のない怒りをリヴァイアサンに向けてる気しかしないから出力がめちゃくちゃ高いとは言えない。怒りの感情の増幅と言っても怒りの感情そのものが薄ければスキルの効果は低い。意味のある怒りと比べるまでもないって事か。
「咆哮による魔力砲を撃ち続けているが、焦っている様には見えんな」
「硬いね」
前衛がほぼLv.7級の奴らでコレか。
外殻の再生が厄介過ぎる。アッチの魔力が尽きるまでループ作業はこちらが持たない。外殻を再生する前に凍らせるのは悪くはないのだが、凍ってしまうと出血させられないのが難点だ。
「……っ、プハッ……切り札…は?」
「まだ無理だな。少なからず弱らせなければ動きを止める事も出来ん」
「アレの動きを止めるって無理でしょ」
「レシアさん達でも出来る気しないんですけど……」
既に七本の
「っっ!?」
リヴァイアサンの顎に魔力が収束していく。
顎の中で燻っているそれを見て四人とも絶句した。
「おい、何の冗談だ……?」
「アレって、階層主の」
海の覇王の顎から吐き出されたのは
それを使えるモンスターはダンジョンの中で一体しかいない。双頭の竜の攻撃を海の覇王が使っている光景に目を疑いたくなった。
だが、その熱量は間違いなかった。熱量さえ段違いの高火力の蒼炎が戦場に撒き散らされる。
「アンフィスバエナの…火炎放射」
「まっず……!?」
氷のフィールドから足場を奪われる。
前衛の一部が溶けた海へと落ちてくのを見て、冷気の収束を一度止めた。落ちている人がいる以上フィールドを修復出来ない。俺が『黒星』を海にぶち込んで修復するには海にいる人間を救出しなければ無理だ。
救出している間にリヴァイアサンが攻撃してきたら避けようがない。足場の回復は急務だ。
「私が行く。付与任せた」
前線が崩壊する前にアルフィアが前線に向かう。
この状況を打破するには救出の手が足りない。誰かがリヴァイアサンを抑えなければならない。後衛職でありながら前衛もこなせるアイツがわざわざ前に出たって事は策があるはずだ。
「【
音の塊が海中で弾ける。
海水が飛沫を上げてリヴァイアサンを呑み込むと同時に付与をかけた。【
「距離、ギリ……!」
美味しい所持ってかれた、憎たらしいと思いながらも今の状況の最適解を導き出していた。リヴァイアサンを封じる事が出来た以上、ポセイドン達が用意した切り札が使える。
「頼むぜポセイドン……!」
視線をリヴァイアサンから外し、俺は雪化粧に隠した切り札に向けた。
★★★★★
「照準良し、計算完了、魔石の位置コンプリート」
海の神ポセイドンは静かに目測をしていた。
魔法を吸収するフロスヴェルト、魔力伝達率の良いミスリル、それをありったけ注ぎ込んで鍛治神達に鍛えられた
──名を【
製造に100億ヴァリス、注ぎ込まれた額は深層最前線に向かえる二大派閥でなければかき集める事が出来ないほどの巨額を注ぎ込んで作られた『対
「まだっすかポセイドン様ぁ!?」
「俺、もう限界……吐く」
「すっげー精神力持ってかれるー!?何だよ弩引くだけで
だが、装填する魔力は尋常ではない。
その槍を装填し、全力でリヴァイアサンを狙う為に【ヘラ・ファミリア】の魔導師達の力を『フロスヴェルト』で吸収し、構えている際に魔力が四散しない為に弩はそれを封じ込める為の鞘のような機構をしている。だが、その機構にも魔力を必要とし、弩を引くポセイドンの眷属から精神力が奪われ、その顔はやや青い。
リヴァイアサンに決定的な隙が出来る前にこちらが枯れるのではないかと団員達が悲鳴を上げている中、海神たるポセイドンはただ一言、
「耐えろ」
「「「そんな無茶な!?」」」
鬼と叫ぶ眷属達を横目にポセイドンは一瞬の隙すら見逃さずにリヴァイアサンに視線を向ける。アルフィアが動き、水柱が立つと同時にリヴァイアサンごと凍結し、動きが止まった。
それと同時にノーグの幻影の指示で前線にいるヘラの眷属達がリヴァイアサンから離れていく。神がかったタイミングの指示、狙う位置は射程範囲内に収まっての絶好の好機。
「来た。眷属達よ!」
「イエッサー!!」
「魔力充填95%!!」
「照準、誤差修正完了!」
「【
千載一遇の好機を生み出したヘラの眷属達は射線から離れるようにリヴァイアサンから離れる。リヴァイアサンには知性がある以上、その危険性から遠距離攻撃をされる事を考慮し、ノーグの雪化粧で隠していた見えざる切り札。
それが今、覇王殺しの一射となって解き放たれる。
「放てっ!!」
海神の叫びに引かれた弩から槍は放たれた。
魔力が充填された下界最高峰の威力を誇る海神の一撃がリヴァイアサンの魔石へと向かっていく。貫通力も破壊力も既存の魔法とは比べ物にならない。幾ら外殻があろうと貫く槍をリヴァイアサンは回避出来ない。
誰もが討った、と。
そう思っていた期待にリヴァイアサンは吼えた。
「!?」
リヴァイアサンの尾が射線へと割り込んだ。
だが関係がない、割り込んだ所で槍は尾すら貫通する。そう思った矢先、リヴァイアサンは尾に刺さると同時に尾を力強く地面に振り下ろした。
槍はリヴァイアサンの外殻に突き刺さり、尾を貫き魔石へと飛んでいく。
ズドンッ!!!という音と共にその槍はリヴァイアサンを貫いた。絶叫を上げ、血飛沫を撒き散らし、砕かれた氷と共に肢体が倒れて行く様子が目に映り、誰もが勝利を疑わなかった。女帝と副団長、ノーグの三人を除いて。
「はっ……?」
魔力が消えない。
魔石を砕かれたモンスターは灰のように塵となって消えていく中で、リヴァイアサンは
倒れていく肢体に目を凝らすと、槍は確かに貫き、肢体に突き刺さっていた。
魔石の位置の
「外、された……!?」
千載一遇の好機に狙った最強の槍が怪物の執念によって
まだ生きている。
そう女帝が叫ぶ前にリヴァイアサンの眼光が
リヴァイアサンの情報は知っていた。
怪物最高峰の外殻、そして
「ブアアアアアアアァァァァァァァ!!!」
リヴァイアサンが天に向けて咆哮する。
耳を塞ぎ、眷属達の動きが止まる。今までの咆哮とは何かが違う。身体に纏わりつくような重圧に身体が動かせない。咆哮による強制停止ではなく、単純に身体が重くなるような現象にヘラの眷属達の動きが鈍る。
「逃げろ!!」
主神ポセイドンが叫ぶと腰を掴んで
「うおおおおおっ!?」
「退避ー!退避ー!!」
「やっべ全員逃げろおおおおっ!?」
逃げるポセイドンの眷属達にリヴァイアサンの破壊光線は無慈悲にも放たれた。
★★★★★
「っっ、マジか!アレで死なねえのかよ!?」
「よかった、退避してる……」
ポセイドン達は何とか攻撃から逃げ切れたようだが、
「っ……?あ、れ?」
此処で漸く違和感に気付いた。
「身体の動きが……」
鈍い。まるで誰かが乗っかっているような身体の重さを感じる異常に脚が止まる。敏捷が落ちている感覚……だけではない。力が入らない。まるで痺れて全力を引き出せないような身体の低下にメナは目を見開いて確信する。
「いや、気のせいじゃない、
「そんな…!?幾ら何でも出鱈目すぎます!?
そもそも
「実際起きてる以上マーメイドやセイレーン辺りの魅了の歌を改悪してんだろ」
「そんな……!?アリなんですかそんなの!?」
「出来てる以上嘆いたって意味ねえだろメナ、これの解除は出来るか」
嘆いても成立している以上、過程に意味はない。リヴァイアサンだから出来ると納得するしかない。だが所詮は呪詛と同じ、効果が永続する訳でもない上に回復魔法を使えるメナならこの効果を打ち消す事は出来る。
「問題ない。けど、
「だったら俺とリリナの解除を先に頼む。終わり次第女帝と俺で前衛を一度入れ替える。雪化粧は継続するが、流石に付与は一度切る」
現状、前衛も後衛も戦力低下が発生する中で前衛の崩壊は一番の危機だ。下がっても戦えているのは幹部クラスのみ、他のLv.5の前衛の女戦士達はリヴァイアサンを傷付ける事も困難となっている。前衛を回復させる為に先ずは一番の戦力である女帝を回復させ、その後、前衛を一気に退かせて回復へ移らせる。女帝なら少なからず三分程度なら一人でも前線の維持は可能な筈だ。
「そうだね。能力降下でみんな下手するとレベルが一段階くらいは降下してる。前衛がこのままだと崩壊す──」
あっ、これタヒ
破壊光線全方向ってマ?
【悲報】イッチ終了のお知らせ
頭の中を駆け巡る最悪の『天啓』に目を見開いて叫んだ。
「リヴァイアサンから離れろおおおおおっ!!!」
過剰な程に込められた魔力がノーグには見えた。
バキバキと音を立てて造り替えられた外殻の隙間から生まれた矍鑠色の水晶のような砲身へと集められていくその光景を。それを見た瞬間、『天啓』の意味を理解した時にはもう遅過ぎた。
「ッッ──!!!」
氷海諸共、
★★★★★
紅く染まる光景、飛び交う阿鼻叫喚、回避も防御もままならない程の全方位に放たれた破壊光線。ある人は首が吹き飛び、ある人は心臓がくり抜かれ、氷海は血で染まり足の踏み場がないほどに解けて崩れていた。
最悪の事態を想定はしていた。
リヴァイアサンという存在の手数の多さから撤退の言葉が出るかもしれないと覚悟はしていた。
射程距離は短い代わりに範囲が絶大の全方位破壊光線。中衛まで届かなかったのが幸いしたのかノーグ達は攻撃を喰らっていなかった。
だが、前線が
幹部全てが少なからず攻撃を喰らっていた。
「紅さん!レシア!」
「ぐっ……済まぬ」
「あん、なのありか……!」
紅は脚と脇腹から少なくない出血、レシアに関しては太腿と肩を撃ち抜かれている。破壊光線が分散した分、範囲が広くなり躱し切れない物量の必殺が降り注いだ。重要な臓器部分を意図して躱したのは流石と言えるだろうが、幹部が三人動けないのは前線の機能が半分低下しているようなものだ。
「アルフィア、お前は?」
「肩が焼けたが、私は
右肩が焼かれているが貫通には至っていない。
メナの回復なら治せるがこの範囲だ。最高位の治癒士の力を以てしても時間がかなりかかる上に、またあの全方位が来るかもしれない中でメナを前線に上げるのは危険過ぎる。前衛が下がって中衛で回復するしかない。
「いやあああああああああっ!?」
「っっ!!」
一人、また一人とリヴァイアサンに喰い殺される。
崩壊した前線から更に崩されていく。女帝達が撤退させようと奮起しているが、それすらも保たない。女帝も腰を貫通し、副団長は指が飛び、脚を撃ち抜かれていた。二人して動きが鈍い。
「がっ……!?」
副団長がリヴァイアサンの咆哮を避け切れずに後方へと恐ろしい勢いで吹き飛ばされた。ステイタスが下がっている中、まるで弾丸のように飛ばされれば命を落とすまではいかないが副団長は頭から血を流しふらついていた。
「っっ、この……!」
前衛が半壊した中で、止めを刺しに来た。
再び、魔力が充填されていく光景に前線は恐怖した。後衛達の防御魔法で防ぎ切れる程、甘い力ではない。前衛は恐怖と共に絶望で剣を握るその手が震えていた。
ただ一人、女帝がそれを止めようと前線で攻撃を繰り返しているが、止められない。充填した魔力は四散もしない、攻撃を潰せない。
「逃げろおおおおおおおッ!!」
ノーグは女帝に最高出力の付与を掛け直した。
止められない光線の緩和にしかならない氷焔のベールを前衛全てに。扱える魔力の容量値を超えて血を吐き出すが、それでも前衛が完全に崩壊するのを防ぐ為に振り絞る魔力。
前衛を崩壊させた光線の雨が再び前線の戦場へと降り注いだ。
★★★★★
怪物は吼えた。
怪物は人間程の知略を持ち合わせていない。生きる為の知性が異常ではあるが故に最適解を導き出す。その結果がこれだ。前線にいた人間は死に絶え、生きている人間も虫の息、辛うじて攻撃範囲から外れて逃げている存在もいるが、その程度でこの絶対的優位は揺るがない。
情けなど微塵もない。
ただ死体を貪り尽くす人類の敵は勝利に吼えた。
故に怪物、故に覇王。
絶望は歓喜した、命の危機に晒させた脅威を殺し尽くせた事に歓喜し、生きて絶望を刻まれ震える人間を見下ろしている。
「ハァ……ハァ……」
生きている。
あの弾幕で生きていることには驚いたが虫の息だ。血濡れていない場所がない程に集団の頭は瀕死だ。それでも剣を構え、生き残る者を逃がそうとしている。
愚か、怪物が思ったのはそれだけだった。
手心など一切も無く尾を振り下ろした。
女は避けられずに砕けた氷海に沈む、何度も何度も尾を振り下ろした。肉片など残すつもりは毛頭ない。命を脅かす敵を殺す事、怪物が考えていたのはそれだけだった。
何度叩き潰しても死んでいない。
圧殺出来るはずだが、砕けた氷海のせいで圧殺し切れずにいた。
怪物は魔力を顎に溜めた。
数百年前に食らった双竜の竜肝が熱を帯び、死にかけている頭に放射した。最早生きている事すら絶望的な状況の女帝にそれを躱せない。
蒼炎は目の前の敵を焼き尽くした。
そう──リヴァイアサンは確信していた。
「いい加減にしろよ怪物……」
死にかけの女の前に男が一人立っていた。
その身体に黒い焔を纏い、蒼炎が掻き消された。あの蒼炎は並大抵では消えるはずがない筈だ。
それを剣の一振りで散らした。
その出力は前衛の一部が纏っていた氷結を超えていた。あり得ない、人間が出せる出力ではない。その出力が一振りの剣に収束されていく光景、怪物は僅かに恐怖を抱いた。
「──『天地零界』」
振り抜いた黒焔が怪物を一瞬で凍結させた。
★★★★★
「はっ……?」
中衛にいた紅は目を見開いていた。
黒焔の出力が上がっている。ノーグのスキルについては知っていた。『怒りの丈により出力上昇』という怒りの丈によっては無制限に力を引き出せるその力はリリナの憤慨呪詛によって一度見ていた。
前衛に掛けた全ての付与が解かれ、後衛全てを隠していた雪化粧を解いて前衛に上がっていく攻撃を止められず自分は回復に徹しているが、リヴァイアサンが一瞬で凍結するほどの出力は流石に度肝を抜かれた。
リヴァイアサンの視界を幻像で塞ぎ、あり得ない出力で攻撃を繰り返し、崩壊した前衛を食い止めていた。リヴァイアサンの外殻は魔法を散らす。故に砲撃の効果は半減してしまう。なのに
「そうか…【
ノーグのスキル【
だが、外殻ごと凍らされたリヴァイアサンは一瞬で凍結した外殻を脱ぎ捨て再生した。蛇の脱皮のように、凍らされ使い物にならなくなった外殻を捨ててまで攻撃に適した形に変容し始める。
その隙すら与えずに間髪入れずノーグは黒焔を振るう。
外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容
変容した外殻で散らせずに芯まで凍り付く前に再び脱ぎ捨てて別の外殻を再生。
外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容
この変容でさえ効果が低い。凍り切る前に外殻を脱ぎ捨て再生。変容した外殻に蒼炎を纏わせる。
外殻は凍結する──捨てて新たな形に変容
蒼炎が一瞬で鎮火、熱を奪う焔に炎での対抗は不可。外殻で防がないのならば、直接魔法を四散させる為に『
外殻が凍結する──捨てて新たな形に変容
『
外殻が凍結し、矍鑠色の結晶が凍結する。
凍り付いたせいで高確率で発動に失敗する。
神がかったような対応の速さ。苛立ちにリヴァイアサンは直接尾を叩き付ける。氷海が砕けるのに当たった手応えが全くない。目の前の光景が揺らいだ。幻像に踊らされ、背後からリヴァイアサンは再び凍結する。
無限に回復する
このままなら勝てる。
女帝が戦闘不能に陥った中でそんな淡い希望を見出す一同に対して、
「………」
アルフィアだけは厳しい顔をしていた。
★★★★★
「ハァ……ハァ……!!」
ノーグは焦っていた。
前衛が回復するまで繋ぐ為にリヴァイアサンに一人で立ち向かっている。幻像、冷気隷属、無限魔力、それら全てを用いてもリヴァイアサンを押し留める事しか出来ない。
押し留める事さえ偉業であるにも関わらず、焦りを生んでいるのはただ一つ。
「(足りねぇ……!俺じゃ圧倒的に
ノーグではリヴァイアサンを倒せない。
外殻を凍結させているが、脱ぎ捨てられて新しく再生した外殻に阻まれて芯まで凍らせるに至らない。近づいても『
距離を潰す速力があっても、外殻を凍結させるだけの魔法があっても、神がかった『天啓』があっても、魔石を覆う外殻を砕く事が出来ない。
「(力が欲しい……!コイツを殺せるだけの一撃が俺には無い……!!)」
威力が、破壊力が全く足りていない。
魔法の威力以前の問題、能力値がリヴァイアサンを殺せるだけの力に至っていない。外殻を砕けない以上、魔石まで絶対に届かない。
能力値による火力不足に歯痒さすら感じていた。
凍らせて傷つけた外殻すら再生を繰り返し、一から攻撃を繰り返している。一撃で魔石を砕くだけの破壊力が出せない事に焦りを生んでいた。ないものねだりなどしても意味がないのに、奥歯を噛み締めて攻撃を続けていた。
そもそもリヴァイアサンが
「っ……!」
強靭な尾が僅かに掠った。
気のせいではない。やはり見え始めている。幻像の不具合などではなく、リヴァイアサンが魔力を感知し始めた。
視線が一歩遅れて此方を捉えている。その眼力に背筋が強張る。前線を持ち直すか撤退の指示があるまで動きを止め続けるのは一人では荷が重すぎる。
「っっ!?しまっ……!?」
蒼炎が揺らいで雪化粧も解けた。
幻像が可能な場所はあくまで極寒と氷結した領域のみ、吐かれた蒼炎にその前提が崩れ、視界を覆っていた雪化粧が解けた。中衛も後衛もどちらもリヴァイアサンの視界に入っていた。
黒焔で蒼炎を消すが、位置がバレてしまったのかリヴァイアサンは此方を見向きもせずに魔力を顎に溜め始めた。
「止めろっ!!」
黒焔の太刀がリヴァイアサンを凍結させる。
だが、収束する魔力は止まらない。それどころか最初に撃った時よりも過剰に込められた。範囲は恐らく今まで以上、中衛も後衛もまとめて吹き飛ばすつもりだ。
「待って…止まれよ……!頼むから……!!」
止まらない事に焦りを生みながらも攻撃を繰り返す。
だが、リヴァイアサンは止まらない。魔力は暴発もしない。顎に込められた赤黒い魔力が止まる気配はない。
あと数秒もしない内に射出される絶望をノーグは止められない。射程から離れようとする中衛も障壁を張って防ごうとする後衛も間に合わない。回復中のメナの援護が無ければ逸らすことも出来ない。
「止まれぇぇぇぇぇぇ!!!」
失ってしまう恐怖感、ノーグは絶望に声を荒げた。
間に合わない、その事実を受け入れたくなくてみっともなく叫んだ。その砲撃は無慈悲にも射出されていく。
その時だった。
ノーグの視界に
「──ああ、本当に見事だ」
鋭い一閃がリヴァイアサンの顎を揺らし、攻撃を逸らした。
上半身を覆う白銀の鎧、手には大長剣を握りしめ、リヴァイアサンを揺らすだけの能力値を兼ね備えた一人の男がそこに居た。
「誰かを護り、この戦況を変えようとしてる。君に敬意を表そう」
たった一人で戦局を持ち堪えたノーグに男は称賛の声を掛けた。それに対してノーグは混乱していた。見た事はないが、その男のポテンシャルはLv.6の上位に位置すると聞いた事はある。
だが、この場所にはいる筈がない。
『国際紛争』が起こる『世界勢力』に嫌気が差し、『世界勢力』が保有していた最大戦力が世界を放浪していると聞いた事はあるが、この地獄の戦場に突如現れるメリットは無い筈だ。
「勝手に割り込んだ事には謝罪しよう。だが、手が足りないのであれば俺も手を貸そう」
此処にいる筈がないオラリオの外の最高戦力。
いる筈が無いにも関わらずそこに立っている男はその噂の存在の特徴と一致していた。
「お前…は?」
「俺の名はレオン」
それは後の最強の冒険者オッタルに並ぶ未来のLv.7。
予定調和には無いリヴァイアサン討伐に紛れ込んだ
その二つ名は【ナイト・オブ・ナイト】
「世界を放浪するただの騎士さ」
レオン・ヴァーデンベルクが地獄の戦場に参戦した。