外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?


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作:社畜
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正邪決戦


 ダンジョンにて竜を確認。階層を破壊しながら地上を目指しているらしい。神の一斉送還はダンジョンの異変への目眩しだったのだ。

 

「神殺しのモンスター。つまりダンジョンと地上からの挟撃」

「それが敵の最後の一手。『大最悪(モンスター)』は、深層階層主級と見て良いだろう」

 

 挟撃。ならば、この場合2人の最強が分かれるのが普通。ちょうど向こうの最強も二人だし。

 

「ザルドは俺が倒す!」

「うわ、うるせ。ではなく、はい、おまかせしますオッタル氏」

 

 今日まで元気にファミリアで仲良く『殺し合い』をしていたらしいオッタルが叫ぶ。好きにしろとしか言えない。

 

「では私は魔女を相手すれば? それともモンスター?」

 

 魔女はやだなぁ。相性が悪い。

 

「いや、君のスキルの全てを知るわけではないが、君は対雑兵戦にこそ真価を発揮する。地上を任せたい」

 

 スキルの口外は禁止されている。勿論ロキが破ってないとは断言できないが、まあフィンの場合これまでの共闘時に此方を確認し推測したのだろう。

 

 フィンの演説でやる気になっているとはいえ、相手も全力で来るだろうしクロノの存在は確かにありがたい。

 

「かしこまりました、【勇者(ブレイバー)】。オラリオの指揮権は貴方にある」

 

 ただのギルド職員は黙って従うのみである。言い方からして弱いものを沢山いじめられるみたいだし。

 

 

 

 

 

 中央広場(セントラルパーク)を守る氷の結界。

 数多の魔道士が生み出した氷塊に、クロノの黄泉の如き冷気を纏わせる。

 

 クロノは基本的に遊撃。自由に動く。

 その方が闇派閥(イヴィルス)も恐怖する。何時、何処に現れるとも知らぬオラリオ最凶の死神の影に。

 

「いい服だ」

 

 クロノの給料はギルド職員の中でもそれなりにある方だ。しかし第一級冒険者に並ぶ稼ぎかと言われると違う。

 

 ロイマンは班長でもない一職員で、中立の為に稼いでいると思わせないためと言っているが要するに金を使いたくないのだ。

 

 が、給料とは別にギルド支給の武器は無償で渡される。今回もそういう名目で渡された黒衣の戦闘衣(バトルクロス)

 

 そして59階層、氷の領域でとある友人達が採取して来たモンスターの牙から作られた刀。冷気に対して高い親和性を持つ。もう一つは火山の領域から取られた鉱物で作られた刀。製作者は椿……神を除けばオラリオ最高の鍛冶師の作品である。

 

 

 

 

 

 そして、開戦。襲撃は全方位。

 市壁から降りてくる邪神の眷属共に、破壊された門から入り込むモンスターの群れ。

 

 地上のモンスターを誘導したのだろうか?

 

 避難民のいる大賭博場(カジノ)円形闘技場(アンフィテアトルム)、ギルド本部、【ガネーシャ・ファミリア】のホームを守る冒険者達。

 

 それを襲わんとする闇派閥(イヴィルス)とモンスターの群。基本的に人間の戦場は屋根の上。落ちれば数多のモンスターが正邪の区別なくその牙で引き裂く。

 

 地上のモンスターの相手は老兵(ロートル)を始めとしたベテラン。各所に砦を用意し、そこで進軍を抑え込む。

 

 だが主力は隠す。目に見えて活動する第一級はアレンと遊撃のクロノだけ。そのアレンも凶暴性ゆえに前に出たわけだが。

 

 一見すれば、民衆を囮に勝利を得ようとしている。少なくともヴァレッタはそう判断した。総力を以て此方の最強戦力を潰すつもりなのだと。

 

 まあ、敵にそう読ませるための『嘘』だが。

 

 

 

「お〜、始まった」

 

 母との再会を望む子供を焼きながら都市中から響く鬨の声に顔を上げるクロノ。ザルドがオッタルただ一人と対峙し、ザルドに主力を当てると思い込んだ。

 

「さて、やるか。【叫べ(うたえ)嘆け(わらえ)苦しめ(おどれ)。空を見ろ亡者共、門は開き氷獄に光射す。求めて昇り】──」

 

 唱えられるは()()()()。ビキリと氷の右腕に亀裂が走る。

 

「【そして死ね】」

 

 オオオオオオオオッ!! と、まるで断末魔の如き音を奏で燃え上がる炎が濁流となって都市を駆け巡る。砦に向かうモンスターも闇派閥(イヴィルス)も等しく飲み込まれていく。

 

 炎の右腕を揺らめかせながら悠々と地獄を歩くクロノ。肉体が燃え尽きる前にショック死した死体を【レーテー・ウヌクアルハイ】で操る。

 

「あぎゃ、ひいいい!」

「くるな、くるなあああ!!」

 

 ボキリ、オークの牙が首を噛み潰す。

 ドォン、爆炎が自爆兵を誘爆させる。

 

「しょ、所詮生き物しか焼かぬ炎だ! 魔剣を、弓を放て!」

「………………」

 

 魔法は()()()()()()()()()。戒めを解いた冥府の炎はクロノの意思で万物を燃やす。

 

 そして【レーテー・ウヌクアルハイ】は発動した後死体を操り続けることから解るように、一度発動したら暫く効果が残る。

 

 鉄製の鏃はピタリと空中で止まり、クルリと矢がアーチャーへ振り返る。

 

「へ……ぱぎゅ!」

 

 矢は弓兵の頭蓋を貫き、減速することなく屋根の上の兵士達の片足を穿ち怪物溢れる道に落とす。

 

「ははは。ぱぎゅって」

 

 その笑みからは狂気を感じない。

 ヴァレッタのような狂喜も、オリヴァスの様な愉悦もなく、泥だらけの子を見る親のような、喜劇を眺める子供のような自然な笑み。

 

 故に『微笑』。

 狂気溢れる地獄を生み出しながらもその微笑みは愛すら感じさせる。

 

 そこに亡き父の幻影を見た少女が燃えながら手を伸ばし、燃え盛るモンスターの群の中に蹴り落とされた。

 

「…………っ」

 

 そのギャップが余計に恐怖を煽り立てる。彼等はクロノに恐怖する。

 

 多くを殺した。

 相対するは弱い者達。

 彼等は恐怖している。

 

「…………あれ、強化前提なのか」

 

 掴んだ、とクロノは微笑む。

 ヴァレッタやディース姉妹ほどではないが、闇派閥(イヴィルス)でも武闘派の幹部達が士気低下の要因を排除せんと飛び出す。

 

「弱いもの達の中の強い奴等か。お前等が死ねば、皆怖がるな」

 

 魔法、魔剣、弓、剣、槍………上級冒険者に匹敵する彼等の攻撃の雨。対するクロノは()()()

 

 斬光がオラリオの一角を消し飛ばした。

 

 悲鳴が聞こえる。怒号が響く。

 幹部が纏めて消し飛んだ報告に、都市を揺さぶる破壊に、闇に堕ちた弱き者達の狂気は薄れ恐怖が広がる。

 

 死した命を食らうように、死神はより強く、より恐ろしい存在へと変貌していく。

 

「今ならあの猪が負けても疲弊したあの男程度なら殺せそうだ…………死ぬまで待つか」

 

 ランクアップにも等しき強化を得たクロノの姿が掻き消える。誰の目にもその姿が捉えられない。

 

 オラリオを駆け巡る炎光。

 

 隣で共に間違った世界を正すと決めた恋人の首が消える。

 目の前で貴方の代わりに戦うととある部族最後の戦士だった弟子が燃え尽きる。

 後ろから共に我が子をその腕に抱こうと約束した妻が夫の頚椎を噛み砕く。

 

 知っている。

 これが行える者を。この地獄を生み出した者を。

 

 7日前、地獄を産んでおいて闇派閥(イヴィルス)は恐怖する。

 7日前、地獄を味わった冒険者も恐怖する。

 

 子供達を愛する神々が顔をしかめる。

 子供達を愛する神々が腹を抱える。

 子供達を愛する神々が涙を流す。

 子供達を愛する神々が唾を飛ばし笑う。

 子供達を愛する神々が顔を伏せる。

 子供達を愛する神々が食い入るように眺める。

 

 正義も悪も、聖も邪も、死も生も数多司る数多の神々が嫌悪し、好み、讃え、蔑む。

 

 あれこそ此方にあるべきだったと邪神が嘆く。

 あれが此方にある理由を道化神は疑問視する。

 

「やはり弱いといいな。こんな規模でスキルが発動したのも初めてだし」

 

 クロノ・クロウ。

 この騒動のしばし後、Lv.7に至る。新たなる二つ名は【深き闇(タルタロス)】。皮肉にも、この騒動の主犯とされる神の別名であった。




クロノは人を殺す時狂気を感じさせるような笑みを浮かべることはない。だって彼は、ただ楽しい事をしているだけだからね。むしろヴァレッタとかの笑みを見て気持ち悪いと思ってる
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