外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?


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作:社畜
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立ち上がる者達


クロノの秘密
英雄譚は好きだけど、英雄が現れる前の怪物や悪党の強さ、恐ろしさ、悪辣さを知らしめる為の前半しか基本的に読まないよ。でもカドモスと邪竜のように英雄が死ぬのは最後まで読む。
愚者とされるエピメテウスは最強の英雄と思ってるし、彼のおかげで弱い者達がより弱さに甘える事になるのを知れて遊び方が増えた、と本人が知ったらブチギレる尊敬の仕方をしている。


各神々の評価
ステイタスはあくまで神々のみが知れるので、ロキやアポロン、ガネーシャ達は理由は言えないがそれでも敵対しないよう言い聞かせている。
逆に一部の神は面白がって眷属を煽ったりしてる。
どうしても敵対するなら炎以外の方法で殺されてくれ、と敵対して炎で殺されてくれで別れてる。


「降ろせ!」

 

 輝夜の言葉にパッと手を離す。ぐぇ、と淑女らしからぬ悲鳴が聞こえた。クロノはとてもいい笑顔。顔が整っている分質が悪い。

 

「何故戦わなかった……」

「強そうですし………それに、彼女がここを決戦の地に選びオラリオが滅びても困るでしょう?」

 

 資料によれば数千年に渡り海を支配していた蛇竜を磨り潰した魔法が彼女にはある。詠唱段階の魔力でさえ理を捻じ曲げなんか宙に浮いていたと書かれていた。

 

 それだって彼女がまだ今より弱い時だ。

 

「奴等の目的がオラリオの壊滅である以上、時間の問題だろう」

「それはありませんよ。託すに足ると判断しない限り、彼女は絶対にあれを地上では使いません」

 

 そして、クロノは半端に強いから託される可能性がある。迷惑な話である。

 

「託す?」

「彼女達の目的ですよ。邪神エレボスの目的かは知りませんけど」

 

 相手は神だ。こう思ってるな、と人程度が見抜けるものではない。まして、相手はそんな神々の中でも特に掴みにくい。

 

 多分アルフィア達と見ている先は同じなのだろうが、確信はない。

 

「エレボス………! そうだ、あの野郎リオンを!」

「っ! チッ、後で聞かせてもらうぞ!」

 

 と、ライラの言葉に輝夜は慌てて何処かへ行った。リオン………リュー・リオンだろう。どうやら神に目をつけられているらしい。

 

 また正義について聞くのだろう。

 

「なら暫く餌になってもらうか」

 

 チクチク嫌がらせしてくるイヴィルスを捕らえて、民衆のガス抜きと自分の玩具に使う。決戦に備えて英気を養わねば。

 

 

 

 

「駄目でーす! クロノさんは、今のこの人達に接触禁止! せめて玩具を置いてきてください」

 

 とあるキャンプに訪れると両手でばってん! と腕を交差させる鈍色の少女に阻まれる。

 

「今、正しく立ち上がろうとしてる人達にクロノさんが渡すのは杖じゃなくて剣だから駄目です。私の目が黒い内には、そんな事させませんよ」

 

 むん、と拳を作りしゅ! と突き出す少女に、クロノははぁ、とため息を吐く。

 

「貴方が言うのなら従いましょう」

「従うなんてそんなそんな。私とクロノさんの仲じゃないですか♪ クロノさんのおかげでガス抜きになってるのは認めてるんですよ? その人達の心に、ちょーっと陰りを作るのはなんだかなぁ、って思いますけど」

 

 それでも俯くだけだった民衆が顔を持ち上げているのは事実だ。他の方法があるからと言って、どちらがより正しいかなど論じるつもりは彼女にはない。

 

 ただクロノがそういうのが好きなように、彼女はそういうのが嫌なだけ。クロノも必要だからしているのではなく趣味でしている。

 

「貴方に嫌われると猪が突進してきそうなので、おとなしく引き下がりますよ」

「嫌いじゃありませんよ? クロノさんは愛の広いお人ですし」

 

 クロノはあまねく弱者を愛している。愛し方が少し……かなりあれだが、愛していることに疑いを持ったことは、彼女はない。彼女の知り合いは「彼奴が人を愛している? まさか」と言うが。

 

「ここの人達は大丈夫って、私が保証します。そろそろ夜は明ける………クロノさんも備えてください。こわーい猪が、もっと怖くなっちゃいますよ?」

「…………そろそろ狩るか」

 

 深層の階層主とか。或いはあの骨とか…………確か前回は37階層でインターバル無視して現れたウダイオスと戦うことになったのだったか。

 

 バロール辺りなら状況を作れば或いは…………ステイタスを一時的に上げる弱き者達を従えてるし。

 

 或いは神の血を貰ってぶちまけてみるか。ウラノスの血ならダンジョンが反応するかもしれない。

 

「…………萎えてきた」

「なんで?」

 

 どうして強者と戦うことを考えねばならぬのか。それは今回の騒動を乗り越えれば強者が増えるからだ。

 なんかよく命を狙ってくる猫と眼鏡と陰キャと4人でマシになる奴等がランクアップしたら、そんな彼等を上手く誘い込んでまとめて相手すればランクアップ出来るだろうか? 殺さなければ文句は言われないだろう。

 

 問題はその場合、殺さない程度の手加減が出来るかだが…………。

 

「皆さんは何もしてこないと思いますよ?」

「? 次こそ絶対に俺達が勝つって何時も此方を睨んでますよ?」

「はい。それでも、皆さんは何もしてこないと思いますよ?」

「…………………」

「皆さんは何もしてこないと思いますよ?」

 

 しっかり言い含めているらしい。じゃあ仕方ないな。此方から喧嘩売る趣味はないし、あっても売ったら給料下がりそうだし。

 

 巡回に戻ろう。

 

 

 

 

「よお、また会ったな」

「うわぁ」

 

 闇派閥(イヴィルス)幹部のオリヴァスが暴れた跡地に向かえばまた出くわした。何やら嬉しそうにしている。今度連れているのはザルドだ。

 

「アルフィアにはもう余計なことをしないと言った手前、連れていけなくてな。俺もむさくるしい男より可憐な女を連れて歩きたかったが」

「何かいいことでもあったのか?」

「『正義の卵』が正義を見つけた。絶やさぬこと、だと」

「まあ人間ってきれいで居たがるからなあ」

 

 『それ』が正しいのだと言い続ければ、やがてそれは正義になる。顔も知らない誰かであろうとたくさんの声が己の正義を肯定してくれる。

 

 数多の怪物から人々を救っていた焔の英雄を、永い時の中『ああならないために糾弾する』のが親の正しさになったように。

 

「彼女達の『人を助けましょう、傷つけてはいけません』っていう流行りが広まっている間は、俺の老後も安泰だしな」

「お前老後とか気にするんだな、その趣味で」

「刹那的に生きる破綻者だと思われている?」

 

 若いうちに出来る趣味は若いうちに楽しんで、老後は老後で別の趣味を楽しむ。それが冒険者ではない一般人の正しい生き方だろう。冒険者の中にも若い時に稼いで

 

「一般人?」

 

 ザルドがLv.6の眷属が一般人を自称することに首を傾げた。

 

「というか絶対悪が正義を求めるのか」

「番が居たほうが燃えるだろ? と、お前に言ったところでな………もう気づいているんだろう?」

「オラリオを鍛えに来た。実際、今回の件で層は薄くなるが上限は上がる」

 

 そして、ゼウスとヘラが黒竜に敗れた事を考えれば層をいくら厚くしても意味はない。必要なのは戦える強者だ。

 

「傲慢と叫ぶか? それも結構」

「? むしろ足元の影を踏んだ程度で最強を恥ずかしげもなく名乗る方が傲慢では?」

 

 闇派閥の対応を追われダンジョン探索が出来ないのは成る程、事実。だが黒竜なんて全然倒せない戦力で最強なんて名乗るから、他の派閥もそこが上限だと勘違いする。低い頂をゆっくり登り脅威にまるで備えていない。

 

「お前もしかしてロキとフレイヤ達嫌い?」

「神ロキの眷属は弱いから好きだ。フレイヤの所の猪はあまり好きじゃないが、あんたにやられて下向いてた時の猪なら好きだ。弱そうだから」

「………………」

「そしてお前達二人は嫌いだ。強いから」

「わっかりやすい理由だなあ。お前、神として生まれてたら超面倒なことになってたな」

 

 人故に人に合わせるクロノが、神としてそういう在り方の存在になればその神の愛に赴くまま人々を苦しめるのだろう。

 

「仮定の話など無意味。俺は人だよ」

「それもそうだな。じゃあな、人よ。これが最後の会話だろ」

 

 

 

 

 オリヴァスの兇行…………否、『愚行』を冒険者が退けた事で都市は息を吹き返す。小規模な『嫌がらせ』ではなく大規模な『攻撃』を退けたというのは、目に見えてわかりやすい正義の勝利。

 

 まだやれる。まだ戦える。民衆も冒険者も俯いていた顔を上げ、未来を目指す。

 

「そうとも。英雄が立てば守られるだけの弱者が増えて、英雄が活躍すれば夢を見て折れる弱者が増える。その未来の為に、面倒だが、俺も頑張らないとな」

「お前何言ってんの」

 

 市壁から街を見下ろすクロノの言葉に、フェルズは引いた。

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