外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?


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作:社畜
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敗北


「滅べオラリオ────我等こそが、絶対悪!!」

「…………………」

 

 オラリオに響く邪悪の宣誓。力無き民も力ある冒険者も絶望に染まる。

 

 燃える街でただ伝えるだけでも成る程、効果ある。それに加えて最強の冒険者の敗退に、真なる最強達が敵に回り、多くの神々が天に返った。

 

「俺がいじめる弱い者達が………奪われた。俺の………」

 

 結局強者を止めることは出来なかったので頭のイカれている精霊を注入された何匹かの首を持って帰ることにしたクロノは燃える街を見てそう呟く。

 

 第一級程度の力はあったし、これで働いたと言えるだろう。そんな事より………。

 

「レノンが燃え尽きてしまった。兄のために殺人を犯せるいい子だったのに」

 

 魂はあくまで燃料。心の弱い者から燃え尽きていく。重症を癒やすためとは言え貴重な子供が消えてしまったのは残念だ。闇派閥(イヴィルス)には老若男女いるとは言え、子供が前線に出ることは少ないのだ。

 

「クロノ、無事だったか…………」

「フェルズ」

 

 虚空から滲み出るように現れた黒ローブの人影。その名はフェルズ………表向きに存在しない()()()()()()()。クロノと同じギルドの戦力だ。

 

「敗北だ。俺達のな」

 

 だが、完全な敗北ではない。まだ冒険者達は、オラリオは死にきっていない。

 

「…………今ここで私が魔法を使えば」

「成功したこともない魔法に賭けるな。勝つためにはお前の力を借りる必要が出るかもしれない」

「………勝つ、か。お前の口から、そんな言葉が聞けるとは」

「当然だ。弱い者達が泣いている」

 

 自分以外のせいで…………それはつまり、自分の他に弱い者をいじめる強者がいるということ。

 

「俺は老後まで弱者を甚振る。資源は有限、奪う者が居るならばそいつから奪うしかないだろう。闇派閥(イヴィルス)が人を殺すのは良いが……」

「良くはないだろ」

「殺し過ぎは駄目だ。いつか俺がいじめるかもしれないのに」

「あの、聞いてる?」

「俺は避難区画を見て回る。運が良ければ避難民に扮した闇派閥の子供が見つかるかもしれない」

 

 聞いてねえな此奴、とフェルズは思った。

 

 

 

 

 

「敵はオラリオを包囲している」

 

 ギルド本部、会議室。緊急の作戦室となったそこでフィンは現状を伝える。

 

 オラリオの外に待機し攻めてこない闇派閥(イヴィルス)。それでも外に出ようとする民衆を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、市壁の上から火炎石の爆弾を投げられたらしい。

 

 ただ外に民衆を出さないだけで、民衆の不満は守ってくれなかった冒険者やクロノに向く。

 

 『籠城戦』の強要。そして、敵は内部からも現れ始める。

 

 ヴァレッタというフィンの()()の仕業だ。名声のために行儀の良く耳障りのいいフィンに出来ないことを平気でやるので、フィンは後手に回ることになるが。

 

「いっそ攻め込んできたら別だったのかもしれませんね」

 

 と、クロノ。もし敵がそのままバベルを破壊しダンジョンを解放するという手段を取れば、フィン達は残る全戦力を集結させ欠片の勝機に縋るだろう。

 

 民を見捨て、100%の敗北を1%の勝機とする。敵となったザルド、アルフィアというゼウスとヘラの眷属達さえ討てれば盛り返しようはあるのだ。

 

 敵もそれが解っている。

 

「毒に侵されているみたいだし、長期戦はこちらの有利に動きますしね」

「毒?」

「ザルドとか言う男だ」

「………やはり完治していなかったか。しかし、何故君がそれを」

「私は他人の弱みを見つけるのが大好きですから」

 

 そうして培った観察眼は相手の弱みを見つけ出す。数年前の古傷だって、クロノの目は見逃さない。

 

「そして今の我々の弱みは民衆です」

 

 その言葉にフィンやガレスはもちろん、ロキすらも反論出来なかった。

 

「いっそ軽く爆発してくれれば、殺さない程度にいじめて見せしめに出来るのですがね」

 

 でもまあ、あの男を見る限り、その前に動くのだろうな。放っておいても滅ぼせるくせに、わざわざ立ちはだかるのだ。

 

 フィンが何か口を開こうとした、その時だった。

 

「だ、団長っ、ロキ、襲撃です! 都市の北東、『工業区』!!」

 

 中央広場(セントラルパーク)に入り切らない難民のキャンプ地が狙われたか。それも本気で滅ぼす気のない嫌がらせ。

 

 クロノは早速飛び出していった。

 

 

 

「………なんだ、もう殆ど残ってないな」

 

 残っていたのは僅か数人。ただ一人の少女が蹂躙する。Lv.3の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

 才禍の怪物とされるアルフィアは、才禍の再来と呼ばれるクロノと同じく1年でランクアップして上級冒険者入りした傑物。

 

「あ、クロノさん……」

「どうも、ヴァレンシュタイン氏」

 

 十年もたたずとフィン達を超えたクロノに、アイズは弟子入りを希望したことがある。フィン達に止められ、ギルド職員でもあるクロノ本人からも断られたがアイズは今もクロノから色々教わりたがっている。

 

「【秩序の裁人(ユースティティア)】!」

「リヴェリア氏も、復帰されて何よりです」

 

 ギルド職員として挨拶する。その背後から迫る自爆兵は、しかし氷に覆われ死ぬことも出来ない。

 

「…………アイズ、こちらに来い。血を拭いてやる」

 

 と、リヴェリアはクロノを警戒しながらアイズを呼び寄せ血を拭う。9にも満たない少女が人の血に塗れる。それが今のオラリオだ。

 

「アイズ………血の匂いに馴れるな。人を斬ることに、抵抗をなくすな」

 

 それは哀願にも近い言葉だった。

 

「相手はモンスターではなく、人であることを忘れるな」

 

 顔を拭われたアイズはすぐに応えなかった。よく解らなかったのかもしれない。

 

「ねえ、リヴェリア………クロノさん。どうして人間同士で争っているの?」

「………!」

「どうして? おかしなことを聞くなアイズ。敵だからに決まっているだろう?」

 

 リヴェリアと、ギルド職員ではなく、クロノという年上の男に尋ねるアイズにクロノは素の顔で答える。

 

「私達の敵はモンスターじゃないの?」

 

 リヴェリアは言葉を失う中、クロノはやはりおかしなことを聞くな、と笑う。

 

「人を殺す力を持ち人を殺しに来るなら、モンスターも人も関係ないだろう?」

「でもモンスターは居ちゃいけない。沢山の涙が流れる」

「うん。今、彼等のせいで涙が流れているね」

 

 純然たる事実。クロノにとって、モンスターと人の境界などあってないようなものだ。

 

「モンスターは、沢山の村を焼く」

「俺の故郷を焼いたのは人類の魔法だけどね」

 

 だってどちらも()()()()()()()()()()。敵になることもあれば味方になることもある。モンスターだって調教師(テイマー)と共に戦うこともある。

 

「…………お前の故郷を焼いたのが、人類だと?」

 

 クロノは別に過去を語らないので初めて知ったリヴェリアが何とも言えない顔で彼を見つめる。

 

「それが、お前が闇派閥でも特にヒューマンに残虐な理由か?」

「? 村を焼いた炎は白妖精(ホワイトエルフ)の魔法ですが?」

 

 なんでヒューマンだって決めつけたんだろうね? ドワーフとか獣人は確かに自己強化だったり範囲が狭い魔法が多いけど、エルフだっているのに。

 

 自分にとって最初の記憶だからよく覚えている。

 

 父の頭蓋を砕いたのはオークの棍棒ではなくドワーフの戦鎚で、母の心臓を貫いたのはライガーファングの牙ではなくパルゥムの槍。確か妹を切り裂いたのは竜の爪でなくヒューマンの剣で、祖父の身体を焼いたのはエルフの魔法。

 

「単純にヒューマンの数が多いだけですよ」

 

 そもそも別に憎んでいるわけじゃないし。

 あとヒューマンは獣人より足が遅くエルフと違って魔法で何人か道連れ、なんてこともない。

 

 リヴェリア達と戦う場合ギルドの仕事で防衛だったりすることが多いので、住民の為に趣味に使う相手を選ばなくてはならないのだ。

 

 なので足が遅く頑丈なドワーフなんかも使う。

 

「で、でも……人なら、話し合えるよ?」

「話し合えないからこうなっているんだが…………」

 

 と、生きたままの数人の闇派閥(イヴィルス)を引きずり始めるクロノ。

 

「何処へ行く」

「ガス抜き」

「?」

「………行くぞ、アイズ」

 

 趣味に使うのだろう、とリヴェリアはこの場から離れることにした。確かに、趣味には使うのだが。

 

 

 

「うぐ!」

「あっ!」

 

 ポイ、と投げ渡される手足が凍りついた闇派閥(イヴィルス)に困惑の目を向ける()()

 

「お、おのれ! くそ、殺してやる! お前達罪深きオラリオは、死をもって償うべきなのだ!」

 

 そう叫ぶ獣人はモンスターに故郷を滅ぼされた。オラリオがもっと世界に目を向けていれば助かったのに金儲けしか考えないからと、邪神の言葉に縋り怒りを生きる目的にした。

 

「見るな汚らわしい! お前達は無知の罪を死をもって注がなければならないのだ!」

 

 そう叫ぶヒューマンは故郷で優れた自分を認めない故郷で暴力に明け暮れ追い出され、死にかけていたところを悪神に拾われた。好きに生きることのなにがいけないのだろう、一緒に世界に出ようという言葉に感銘を受けた。

 

「はい。どうぞ、どうぞ」

 

 そんな彼等の言葉を無視して、言葉を律儀に聞いて怒りに震える者達に氷の剣を渡していく。

 

「どうぞ」

 

 全員に渡し終えると、闇派閥(イヴィルス)達へ促すように手を向ける。その意味を誰もが理解した。

 

 最初に一歩踏み出したのは、孫と娘を失った老婆。

 次に父の両足を奪われた少年。姉を失った娘が、妻を失った夫が、片腕を失った浮浪者が渡された氷の剣を抱えながら闇派閥に迫る。

 

「や、やめろ! お前等、やめろぉ!」

「くるな! くるなぁ! やめてくれ、やめてください!!」

「私達が悪かった! 許してくれ! やめ、やめてぇぇ!」

「嫌だ! まて、何で、俺が……こんな目に!!」

 

 グジュリ、グジュッと切れ味の鈍い氷の短剣が肉を引き裂く音が響く。恩恵持たぬ只の人の力では一思いに殺すなんて出来ず傷口は凍り失血死も出来ない。

 

 目が潰れ、鼻が削がれ、耳が外れ、歯が砕け、舌が裂かれ、内臓を引きずり出され…………自分達は理不尽な目に遭ってきたのだと他者を脅かす者達は、彼等が理不尽に遭わせた者達により時間をかけて小さく小さく刻まれていく。

 

 響き渡る絶叫を子守唄に、クロノは目を閉じ暫しの休息を楽しんだ。

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