外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?


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作:社畜
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覇者


 オラリオには2人のサイキョウが存在する。

 一人はオッタル。最強の冒険者。

 

 そしてもう一人はクロノ。最凶のギルド職員。

 

 どちらもLv.6で、どちらも対怪物のみならず対人も熟練の戦士と言える。

 どちらが真の最強か良く議論になる。

 オッタルは周囲の評価など気にせず鍛え、クロノはそもそも最強の称号など興味ない。

 

 しかし、一つだけ純然たる事実を告げよう。

 

 オッタルはゼウスとヘラの時代から戦い続けた冒険者で、クロノは暗黒期初期頃にオラリオにやってきて暫くギルド職員として働いてから恩恵を得た。

 

 そして2人は同格のLv.6。つまり、才能においてクロノは現最強を遥かに突き放す、才禍の再来。ただし絶望的にやる気がない。故に自分と同格が一人二人程度なら弱きものが沢山居るのでそれ以上強くなろうとしなくなるのだ。

 

 つまり、クロノは自分より強い相手が嫌いだ。

 

 

 

「はぁ………ふぅ…………!」

 

 全身血だらけになりながら肩で息をするクロノ。辺りは戦いの余波だけで瓦礫の山と化していた。

 

 オッタルより善戦しているのは、クロノがオッタルよりも強いから、というわけではない。

 

「あの猪君め。怯えで剣を鈍らせたか………」

 

 格上ということもあるのだろう。しかしそれ以上に、覇者に畏怖した。

 

 そんな弱いものいじめしたくなる一面を見せるなんて、こんな時に何を考えているのか。

 

 

 

 

「…………妙な男だな、貴様」

「妙?」

「貴様の匂いは、あの男と同じ。弱者(かじつ)を喰らう『偏食』のそれだ」

 

 黒鎧の男、元【ゼウス・ファミリア】のザルドはクロノをそう断じた。女子供(かじつ)を好んで喰らい、自分より強い相手(大きな獣)を嫌う。

 精々が同じ虫しか口にしないはずの、そんな匂い。

 

 だというのに獣の血を纏う()

 

「貴様は何のために力を手にする」

「より多くの弱い者達を虐めるため」

「………本当に何を言っている」

 

 

 

 

 

 そう、クロノは弱いものいじめがしたいだけで、強くなりたいわけじゃない。自分が世界で一番強くなれば()()()()()()()()()()()()()()()()が、そこまでいかなくても世界では常に新しい子供(弱いもの)が生まれる。

 

 だというのに、なんでこんなに強い相手と戦わなくてはならないのか。主神の命令とは言え、面倒くさい。特別手当とボーナスを要求せねば。

 

 それでもやる気が出ないが。

 

「いかんな。モチベーションの低下は俺の悪い癖だ。気を持ち直さなくては」

 

 そう言って距離を取り目を閉じ右腕に意識を向ける。

 

 

 

 

 あああ   

 

 

     熱い熱い熱い

 

    いたいいだい  おがあざああん

 

 ころしてくれえぇぇ

 

 たすけて、だれかたすけて    じにだくなぃぃ

 

     うあああ

   ぎゃあああ   やめろやめろぼおおお  あづいあづい

 

     ぎゃああああああ  ぎいい   おがあざん、おどぉざあああん

 

 

 

「────────スー」

 

 大きく深呼吸。モチベーションが上がる。

 

「ほう、空気が変わったな?」

「助けを求める弱い者達の声が、今日も俺に力をくれる」

 

 だからクロノは戦える。何時か何処かで自分がいじめられかもしれない弱者の為に、クロノは強者にだって挑んでみせる。

 

「来い!」

 

 叫ぶ男に一足で接近し刀を振るう。人間としては都市一番の鍛冶師が作った折れぬ刀。

 戦に明け暮れた人を殺す為に鍛え上げた技術で打たれたそれは大気を切り裂き音速を超える。

 

 深層の竜種の首すら刈り取る斬撃の嵐を覇者は受け止め、あまつさえ剛剣を振るう。此方は邪魔な大気など纏めて吹き飛ぼす。

 

 一撃一撃が嵐のような暴風を纏う斬撃を正面から受け止められるわけもなく、故に逸らす。

 強大な力を逸らす代償として腕がミシミシと悲鳴を上げる。

 

「弱者を甚振ると言ったな? だが俺に言わせれば、お前も弱者。ゼウスとヘラ(俺達)の領域に足を踏み入れただけに過ぎない」

「生まれる時代を間違えなかったようだ」

 

 こんなに強いやつがゴロゴロいた時代では、それに触発された強者も増えるだろう。

 

「そう思うか?」

「ん?」

「今の時代が正しいと、お前はそう思うか!?」

 

 何急にキレてんだ、怖。

 情緒不安定な強者とか、力を持っちゃいけないタイプだろとクロノは思った。

 

「ただ踏みつぶされるだけのお前等弱者が強者のフリをしてのさばる今等、失望にしか値しない!!」

「!!」

 

 男は屑肉と成り果てた冒険者の肉を喰らう。人喰いとか気持ち悪い奴だ。と、心の中で侮蔑しながらも警戒は怠らなかった。だが、接近を許す。

 

「………!」

 

 振るわれる一撃。そらしきれず吹き飛ばされる。

 

 さっきより速い。

 

 さっきより重い。

 

「む?」

 

 刀が弾き飛ばされとどめと振るわれた剣を右腕で受け止める。服が裂け、除くは光が揺らめく青い腕。

 

「水晶………いや、氷の義手か」

氷獄の川(コキュートス)!」

 

 冷気が周囲に広がる。2人の呼吸が白く染まる。

 

「魔法か………」

 

 しかし詠唱がなかったと訝しむ男。

 

付与魔法(エンチャント)の類いか」

「さてね………」

「ザルド様!!」

 

 と、そこに新たに現れる人影。

 

「我々もお手伝いいたします!」

「消え去れ! 屍喰烏(レイヴン)!!」

 

 普段ならクロノを見て逃げ惑うだけの弱い者達が魔剣や自爆装置と共にかけてくる。強者の影に隠れながら石を投げるタイプだろう。

 

「白霞」

 

 大量の氷の粒が霧のように彼等を飲み込む。ダイアモンドダスト………美しい氷の欠片は人体の温度では溶けること無く彼らの肺へ到達しズタズタに引き裂く。

 

「何をしに来たんだ此奴等は」

「俺の役に立ちに………【忘却の水を飲め死者達よ。罪過を流し、無垢に立ち直れ】」

 

 詠唱。止めようと駆け出すも止まらない。

 並行詠唱。それも防御と回避のみとは言え格上相手に実行してみせる。

 

「【されど死を拒むなら。良いだろう、不死をくれてやる。傲慢なる神々の怒りに触れ雷霆(さばき)がお前達を焼こうとも、不滅の命を与えてやろう】」

「【レーテー・ウヌクアルハイ】」

 

 バチチと周囲に広がる電気。その雷が当たった死体が息を吹き返したように立ち上がる。

 

「お、おい!? お前等、生きて!」

 

 白霞の外に居て助かった闇派閥が仲間に駆け寄った瞬間、首を食いちぎられる。

 

「な、なにを! ぎゃあああ!!?」

「や、やめて! 私よ、わからないの!? あぎゅ!!」

「く、くるな! くるなあああ!!」

 

 【レーテー・ウヌクアルハイ】。クロノの持つ第三魔法は普通に攻撃することもできるが、長文詠唱の雷魔法としては最弱の威力だろう。しかしその本質は精密操作にして生体操作。

 

 神経に『痛み』という信号を送ったり、頭をいじって廃人にしたり、死体を操ったりと色々出来る。

 

「生きた人間に爆弾を持たせるなど、お前達の残虐ぶりには目が余る。だがまあ、そういうお前等だから俺は今日も弱いものいじめが出来る」

 

 自爆兵達が迫る。この距離だ、例え最初は防げても残りが………

 

「──────!!」

 

 覇者は剣を構える。ただそれだけの動作がゆっくりに見えた。その感覚は知っている。死を前にした時に感じるあの感覚。

 

「っ!?」

 

 本能でその場から飛び退き氷の館を生み出すクロノ。振るわれる一線。全てを飲み込む光。

 

 火炎石が爆発するもその爆風すら光に飲まれ吹き飛ばされる。絶大な威力を誇る光斬…………英雄の一撃が街の一角を消し飛ばした。

 

 

 

 

 

「……………全く、怪物め」

 

 氷の盾は砕かれ、全身から血を噴き出すクロノ。体中の骨が折れた。氷の義手の亀裂から永続魔法(第一魔法)に焼かれる魂が解放を求めて漏れ出す。

 

 その魂を燃料に傷を癒す。

 

「時間をかければ勝てなくもなさそうだが……」

 

 どうにも()()()()のようだ。時間はこちらの味方だが、その時間を稼ぐためにはあんなに強い相手に暫く戦わなくてならない。そして弱っていく肉体をいじめても、遊べるのは少しの間だけだろう。全く割に合わない。

 

「また戦えとか言われたら、次の就職先を探そう…………」

 

 カイオス砂漠辺りは年中戦争をしているのだったか…………。




クロノの魔法

【オルクス・プレゲトン】
・永続魔法。
・蒼炎属性。
・魂魄変換。

アイズの【復讐姫(アヴェンジャー)】同様魂を傷つける程の魔法でしかも一度発動したら消えない。が、クロノは他人やモンスターの魂を炎に飲み込み燃やすことで規格外の威力を実質ノーコストで踏み倒している。普段は封印されていて、あくまで漏れ出す炎を使用している。
実質ジェネリック穢れた炎。名前はハデスの別名と冥府に存在する川。


【コキュートス・ピグマリオン】
・封印魔法。
・凍結属性。

 【オルクス・プレゲトン】の炎を封印し、かつ幼少期失った右腕の代わりをしている氷の義手を作る魔法。余剰分で氷を操作したりと色々出来る。本質は封印系統の魔法で拘束に使える。血流が止まり少しずつ凍傷で身体が崩れていく闇派閥を見るのに使ったりもする。名前は冥府の川とギリシャの彫刻家。


【レーテー・ウヌクアルハイ】
・雷魔法。

 攻撃力の代わりに精密性が異常に高く、発動中『器用』に補正。死体を操る、洗脳、拷問などに使える。相手が弱ければ生きたままでも身体は操れるが死体のほうが操りやすい。闇派閥の親子を殺し合わせたりした。名前は冥府の川とおおへび座の星。
すっげえワルの敵が使うやつじゃ〜ん!
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