外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?


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作:社畜
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弱者の味方


 クロノ・クロウは真面目な職員である。

 今日もファミリアの冒険者数、冒険者のランクでファミリアのランクを決め、ギルドに収める金を計算する。

 

 また、ファミリアの様子を確認し報告通りの戦力しか保有していないかも調査する。

 

「………ギルド長、【ソーマ・ファミリア】の金の動きなのですが」

「ええい! 【ソーマ・ファミリア】など放っておけ! 今はそれどころではない!」

「はい、解りました」

 

 そして上司には従順。

 おそらくオラリオに存在する眷属の中で一番従順だろう。

 

 何故なら彼は世を良くする気も無ければ、世界を救う力も求めていない。ただ日銭を稼ぎ弱いものいじめが出来ればいい。老後の資金もしっかり積み立てている。

 

「大通りに闇派閥(イヴィルス)出現! 他、区画でも同時に暴れ人手が足りません!」

「解った。すぐ向かう」

 

 

 

 

 

「む、残業………手当をもらわなくては」

 

 生きたまま焼かれ苦痛に歪んだ死体が転がる中、時間を確認するクロノ。者から物に変わり痛みに震えることも苦痛に喘ぐこともないそれに、彼はもう興味を示さなかった。

 

「怪我はありませんか?」

 

 と、震える一般市民に目を向ける。

 顔を青くしながらコクコク頷く彼等を見てニコリと微笑む。

 

「それはなによりです」

 

 心の底からそう思う。

 

 

 

 それでも人が足りない。

 

「【殺帝(アラクニア)】か………俺もそっちが良かったな。彼奴は手頃な弱さだ」

 

 ギルドの会議室。報告を聞きはぁ、と残念そうにため息を吐くクロノ。リヴェリアが睨み、フィンが困ったような笑みを浮かべる。

 

「その悪癖を何とかすれば、ディース姉妹も取り逃さずに済んだのだけどね」

「ディムナ氏、彼女達はLv.5。にも関わらず【ガネーシャ・ファミリア】や貴方のところの弱い奴に移送させたのが原因でしょう」

 

 見目麗しいエルフの義姉妹を悲惨なまでに痛めつけて、いっそ同情してしまった【ガネーシャ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】のメンバー。

 

 敵幹部の移送中でありながら、拘束を緩め結果として殺された。それをクロノが楽しまず殺していれば、或いはもっと対応を変えていればなど、責任転嫁も甚だしい。

 

「ん〜………同情に値するほど痛めつけるのは、ギルドの外聞もよくないだろう?」

「弱いものいじめは趣味です。人の趣味に口を出すのは如何なものかと思いますよ? それに、私はギルドの外聞を汚すような犯罪行為は行っていませんが………」

 

 闇派閥(イヴィルス)に人権はない。未だアジトも不明な彼等を生きて捕らえられるならそれに越したことはないが、どうせ服毒自殺する彼等を生かして捕らえようなどと余計な手間をかける冒険者は少ししかいない。

 だからクロノも殺しているだけだ。

 

「連中に同情したいならどうぞ、貴方達で勝手にやっていればよろしい」

 

 クロノは微塵も興味ない。

 

 

 

 

 

 さて、そんな空気の中会議は進み、やがて話題に上がるアダマンタイトの壁を破壊した事件。

 

 魔石製品工場の壁に巨大な穴が空いていたのだ。オラリオにしかない資源である魔石を扱う工場、当然その壁は分厚いアダマンタイトだったのだが………破壊された。

 

「敵のステイタスを仮定するとして、どれほどになる?」

「Lv.6以上。以下はありえん」

 

 途端、会議室がどよめきに包まれる。

 

「なっ!【猛者(おうじゃ)】達と同じ!?」

 

 Lv.6は現在のオラリオの最高位。冒険者ではオッタルしか到達していない領域。なんかそこに到達しているギルド職員もいるが、オラリオに置いては最強とされる者達と同等の戦力が向こうにある。

 

「ではその相手はオッタル氏に任せて、私は他の弱いのを殺しましょう」

「貴方は戦わないんですか?」

 

 と、尋ねるアスフィ。オッタルと唯一の同格である彼も対処に動くべきではないのだろうか?

 

「Lv.5なら弱いから良いですけど、Lv.6は強いから嫌です」

 

 その言葉にリヴェリアやアレンがピクリと肩を震わせる。アレンなど忌々しげに睨みつける。

 クロノは弱いのに甚振る許可が下りる行為をしてくれるアレンが大好きなのでニコリと微笑みを向けた。

 

 

 

 さて、その後の会議はスムーズに進んだ。

 闇派閥(イヴィルス)の拠点であろう場所に当たりをつけ、そこに襲撃することになった。

 

 クロノはギルドで待機。本命はフィン達が相手して、襲撃を行うであろう弱い連中をいじめるだけの趣味と実益を兼ねた簡単なお仕事。

 

「……………む」

 

 街の各所で爆音が響き炎が広がる。夜だと言うのにとても明るい。

 

「しねえええ!!」

 

 無防備に突っ込んでくる闇派閥(イヴィルス)の信者にクナイを投げる。ピン、と男の最後の命令に従った腕が何かを抜き、次の瞬間爆発。

 

 どうやら自爆装置をつけているらしい。

 

「…………なんてことだ」

 

 これでは楽しめないではないか。

 

「命を無駄にするなど、許されない行為だ…………生きようとあがき、懸命に戦う命こそ美しいというのに」

 

 ボッと右腕から炎が灯る。

 

「俺が尊い命の使い方を教えてやる…………叫べ、死の川(プレゲトン)

「しねえ! 無知なる罪に────!!」

 

 濁流のように流れた炎が闇派閥(イヴィルス)を押し流す。自爆装置は何故か燃えない。

 

「あつ、あつい!? 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いあついあついあついいいいい!!」

「ああぎゃあああああ!?」

「だずげ、だすげああああ!!」

 

 ジリジリと人が焼け付く。だが石も木材も押しのけられこそすれ、燃えることはない。

 

「俺のプレゲトンは魂を焼く死の国の川………無意味に死ぬぐらいなら、俺の夢見をよくする薪となれ」

「ひぎ!?」

 

 炎の中に、人の顔を見た。縋るように手を伸ばす。

 

「ああああああ!? 熱い苦しい痛いやめろやめろやめろやめろおおおおおぼおおおおお!?」

 

 人、モンスター、動物、植物……命あるものだけを燃やす炎が闇派閥(イヴィルス)の魂を取り込み煌々と燃え盛る。

 

 途中ショック死して命を失った死体はそれ以上燃えること無く炎の中を漂い、炎に囚われた魂が元の体に手を伸ばすも魂の肉体が触れた途端に肉体は燃え崩れた。

 

「……………ん?」

 

 炎を通して聞こえる弱者の慟哭に耳を傾けていたクロノは不意に固まり懐から水晶を取り出す。

 

「フェルズ? どうした」

 

「いや、俺はギルドを守る。え、炎を放置? 出来るけど、ここにいた方が。何、命令? 断る」

 

「っ! これは、神ウラノス。はい。はい…………いえ、そちらは強そうな気配があるので避けようかと。冗談、ですか? 私は冗談など言っていませんが…………はい、ええ。解りました」

 

 はぁ、と水晶を懐にしまうとギルド職員、護衛の冒険者達に振り返る。

 

「私はここを離れます。炎を越えてくる相手にはどうぞ気を付けて」

 

 そう言うとクロノは炎でギルドを囲み、炎の中を通り抜けて街へと向かった。

 

 

 

 

 

 地震と勘違いしそうな衝撃がオラリオを揺らす。その震源地にたどり着くと、倒れ伏す都市最強の冒険者。

 

「ほお、猪小僧の他にも、喰らいがいのある者がいたか」

「…………………」

 

 オッタルをやったであろう黒塊の如き大剣を担ぐ鎧の男。感じ取れる強さはオッタルが足元に及ぶ程度。

 

 尋常ならざる『覇者』がそこにいた。強そうだ。やる気が出ない。だが、上の命令に逆らえない。

 それに、少しばかりは怒りだってある。

 

「………お前達が、闇派閥(イヴィルス)が勝利を確信し大規模に動いた要因か」

「だとしたら?」

「俺は怒っている。今回の襲撃で、どれだけの命が失われたと思っている!」

 

 そう、そればかりは許せない。

 

「冒険者に憧れた少年が何時か力に溺れて殺人を犯すかもしれない。親子共々死んでいた娘も生き残っていれば、何時か闇派閥(イヴィルス)に与して無謀にも俺の命を狙うかもしれない。娘を失って荒れていた父もここで死ななければ冒険者に恨みを募らせ、暴れていたかもしれない。犯罪者にならずとも、【ガネーシャ・ファミリア】に入り共同訓練といういじめ相手になってくれたかもしれない。今日死ななければ、そんないじめる理由(素敵な未来)を作ってくれる可能性に満ちていた弱い者達を、お前達は殺した………許せん。お前みたいな強いやつと戦いたくないが………俺は全ての弱い者の味方だ。こうして対面した以上お前のように無意味に命を奪う強い奴を放置できん」

 

 その怒りに、覇者は一言。

 

「………………お前は何を言っている」

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