共学化しても定員割れ、長野県の短大に厳しい現実 「国は冷たい」…3年続くと支援制度の対象外に

共学化された上田短大に入学し、男女混合のグループになって学ぶ1年生ら=23日、上田市

 4月に上田市の上田短大(旧上田女子短大)と長野市の清泉大学短期大学部(旧清泉女学院短大)が男女共学化し、県内の女子短大が姿を消した。短大の共学化は、少子化や四年制大学への進学志向が進む中での生き残りをかけた一手。しかし、今春の男子入学者は上田短大が15人、清泉大短期大学部はゼロとなり、それぞれ全体でも定員割れとなった。ともに2023年度に共学化を打ち出して学生獲得を図ってきたものの、共学化だけでは定員確保が難しい現実を突き付けられている。(鈴木淳介)

■この記事のポイント

 ▽今春に県内2短大が男女共学化し、県内の女子短大がなくなった

 ▽定員割れしている短大は多い。少子化や若者の流出が続く地方の短大は特に苦境が目立つ

 ▽定員割れへの国の視線は厳しい。県内短大は学生確保に向けて魅力アップが求められている

■「共学化なければ県外進学していた可能性」と語る学生も 

 「活躍を大いに期待している。共に議論しながら学びを深めてほしい」。4月2日、上田短大が上田市下之郷のキャンパスで開いた入学式。共学化で初めて入学した男子学生15人を含む新入生計114人に向け、小池明学長があいさつの言葉に力を込めた。

 1973(昭和48)年4月の開学から半世紀を経て共学化に踏み切った同短大。付属幼稚園を持つ幼児教育学科(定員100人)と、図書館司書や日本語学など八つの専門分野を選ぶ総合文化学科(80人)の2学科がある。共学化には、各分野でダイバーシティー(多様性)の要請に応える狙いがあった。

 保育士を目指して男子学生の「1期生」となった徳武陸さん(18)=長野市=は、同短大の裏山を活用する授業を挙げて「自然を取り入れた保育に関心があった」と志望動機を語る。図書館司書を目指す鈴木陽向(ひなた)さん(18)=北佐久郡立科町=も「共学化がなければ県外へ進学していた可能性があり、自分にとって良いタイミングだった。学びの幅が広がると思った」と話す。

■短大の魅力を発信する必要ある

 ただ、こうした学生たちのニーズに共学化で一定程度は応えられたものの、今春の入学者は定員180人を大きく下回った。新型コロナ禍の「地元志向」が薄れたことなどで、同短大は23年度から定員割れが続く。入試事務室は「男子学生は定員の1割を見込んでいたので想定内」としつつ、「定員を確保するには共学化だけでなく、短大の魅力をさらに磨いて発信する必要がある」と受け止める。

 同短大は4月21日に学生向けの「学習支援センター」を新設し、教員が交代で学生を指導したり、各種検定試験や就職活動の相談に応じたりする態勢を整えた。今後は学科の再編や新設ではなく、既存学科を充実することで短大としての魅力を磨いていく方針だ。人工知能(AI)など多様な学びに触れられる授業を提供し、「学生に選ばれる短大」(入試事務室)を目指すとしている。

■清泉大短期大学部は男子学生の入学なし

 清泉女学院短大が共学化した清泉大短期大学部は、定員100人に対して入学者は65人。男子学生はいなかった。カトリック系の女子短大だったことや、募集が保育士らを育成する「こども学科」のみであることを踏まえ、同大入試広報部は「男子学生にも来てほしかったが、これまでの歴史もあり、アピールが足りなかった」とした。

 ただ、同様に共学化した四年制では、人文社会科学部を新設した他、27年4月に千曲市の旧更埴庁舎跡地に農学部アグリデザイン学科(仮称・定員85人)を開設する方針も打ち出した。こうしたPRの結果、男子学生44人が1期生として入学した。

 多くは北信地域在住者で、実家から通う学生が多い状況は変わらない。ますます進む少子化を見据え、同大担当者は「地元の高校生へのアピールをしつつ、県外からも学生が来てくれる取り組みを考えないといけない」と話した。

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[長野県内の短大] 清泉大短期大学部(長野市)、長野(同)、上田(上田市)、佐久大信州短期大学部(佐久市)、信州豊南(上伊那郡辰野町)、飯田(飯田市)、松本大松商短期大学部(松本市)、松本(同)の計8校がある。このうち飯田が23年度、長野が24年度、清泉大短期大学部と上田が25年度に共学化し、全校が共学となった。

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■中教審は経営厳しい大学機関に撤退・縮小促す

 短大は全国的に定員割れが多く、苦境が続く。文部科学相の諮問機関、中央教育審議会(中教審)は今年2月、経営状況が厳しい大学機関の撤退や縮小を促すために、国の指導や支援を強化することを提言した。国は定員割れに厳しく対応しており、若者の地域外流出や少子化に直面する地方の私立短大の運営は正念場だ。

 県内では佐久大信州短期大学部(佐久市)が3月、2026年度以降の学生募集を停止すると明らかにした。10年以上前から定員割れが続き、「長期的な学生確保が困難」と判断した。日本私立学校振興・共済事業団(本部・東京)によると、24年度に定員割れとなった全国の私立短大は91・5%に当たる249校に上る。25~26年度に学生募集を停止する私立短大は、佐久大信州短期大学部を含め全国に少なくとも44校あるという。

 国は24年度、直近3年間で定員割れが続く大学や短大について、低所得世帯の学生向けに授業料の免除や減額を行う「修学支援制度」の対象から外した。国の視線は厳しく、中教審の今年2月の答申も定員充足率が厳しい大学に対して縮小や撤退を促すものだった。

 こうした状況に対し、保育や介護などの分野で地元に就職する人材を輩出してきた県内の短大の関係者からは、地元の自治体や高校との連携強化を必要視する声が上がる。

 上田短大は「国の対応は冷たい。上田市などの自治体と連携を取り、地域に根差した高等教育機関としての役割を果たしたい」。清泉大入試広報部は「大学単体での学生確保は、もう難しい状況。学生確保に向けて行政や進路指導の高校教諭らとワーキングチームをつくり、県内での働き手の確保に向けて考える必要がある」としている。

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■上田短大学長の小池明さん(76) 地域に根ざした高等教育を今後も提供

 男子学生15人を迎え、共学化をスタートできました。共学化により、1足す1が2ではなく、3や4になるような学びをお互いに深めてもらいたい。学生や教員らが一緒に学び、刺激し合う短大にしていきたいです。

 全国的に少子化や四年制大学への進学率が高まり、短大は学生確保に苦労しています。しかし、学びたいことを学べる環境が地域にあることは重要です。今は厳しいですが、短大のニーズは絶えずあります。地域に根差した高等教育を提供する役割を今後も果たします。

 そのためには新学科の設置などではなく、既存学科で学べる幅を広げる授業の充実などで魅力を磨いていきたい。県外からの学生確保もしたいですが、現実的にはかける労力に対して成果は少ない。学びの魅力向上と発信を通じて、学生に来てもらえる短大を目指します。

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