「東方は若返りを果たした」はほんとうか? 30代の元東方オタクが実際に例大祭へ行ってみた
東方はジャンルとして若返りを果たしている――そんな噂を時折耳にするようになった。曰く、現在の東方人気投票では、票の過半数が10代から投じられているらしい。
博麗神社例大祭に行こうものならあちらこちらに小中学生、親御さん連れの幼児までいて、迷子放送も流れるのだという。
迷子なのはこっちの認識である。東方って、今そうなの???????
いや、もちろん現在も東方が大人気ジャンルなのはわかっている。新作も定期的に出て続けている、押しも押されぬ日本の一大コンテンツだろう。
しかし、ソシャゲの隆盛からVtuberの台頭までさまざまなムーブメントがオタクジャンルを駆け抜けた中で、さすがの東方もいま現在、かつてのような圧倒的なフロントランナーではないはず。
現在30代のわたしにとって、自分が10代のころハマっていたコンテンツであり、いまはほかにも非常に勢いのあるジャンルがいくつも並ぶという状況の中で、「東方には若い人がめっちゃ多い」と言われてもなんだかピンとこないのが正直なところだ。
東方はとても素敵なコンテンツで、だからこそそれがほんとうであればとてもうれしいけれど、伝言だけでは信じられないしデータだけでも味気ない。
ここはひとつ、実地調査が必要であろう。フィールドワークである。
というわけで、2025年5月5日開催の博麗神社例大祭に参加してみた。そこで目にしたものは――。
準備編:せっかくなのでサークルで行こう
自分は、かつて東方では楽曲アレンジを作って自サイトで公開していたり、二次創作ゲームのシナリオを書いたりなどしていたが、サークル参加はしたことがなかった。
いまの自分はラノベ作家として商業作品をもろもろ出すかたわら、マンガを描き始めてこの前の冬コミ(2024年12月末開催のc105)で同人誌を出したところである。ジャンルはウマ娘。
せっかくなので、今回は初めてのグッズ制作にチャレンジし、サークルとして参加してみたい。
なにを作ろうか迷いに迷った末、定番で行くかとアクリルキーホルダーを選択。
イラストはこんな感じ。背景や売り文句を入れて宣伝用ポスターとしている。
開幕前~開幕直後:それは違和感
思ったよりも風の通りがいいのである。
当日、国際展示場に到着したのは朝9時半よりすこし前だった。サークル入場は10時までで、開場は10時半だ。
ほんとうならもうすこし早く来たいところだったが、鉄道工事の影響でこれが最速だった。
で、風の通りが想定よりも爽やかなのだった。つまり、人が思ったよりもいないのである。
自分の記憶している例大祭ではこんな時間帯にこの駅へ来ようものなら春の人間ギチギチ大感謝祭新規エントリー1名様ご案内だったような気がするが、現在は、GWの光景と考えたら違和感もさほどないくらいの混雑具合である。
ただ、これを例大祭の参加人数が少なくなったことと直結して語るには問題がある。というのも、かつてと違って現在はチケット制で時間が区切られている(アーリー入場、一般入場、当日入場、午後入場)からだ。
加えてアーリー入場も当日やってきてから抽選を行い、その結果順に並ぶらしい。なるほどそれなら我先にと群がる意義もない。
お手伝いに来てくれた友人Yと合流し、サークルスペースへ向かう。途中、「サークル入場の方は左に寄って――」と、録音された案内音声をひたすら流しているメガホンが床に転がっていた。人案内の最小構成だった。
無事にスペースへ到着し、お隣にご挨拶して設営。後ろのサークルさんとの間隔が冬コミと比べてかなり広く、空間に余裕がある。
頒布物も少ないし設営なんてカンタンカンタンと思っていたらハサミで指先を切る。朝の空気で乾いた瞳が涙でぬれた。ドライアイ予備軍にはちょうどいい。
ほどなくしてイベントが開幕。ちなみに会場の中はこの時点でけっこう暑く、むわりとした空気が肌にまとわる。半そでの参加者も珍しくなくて、それだけにコスプレ勢の気合と愛を感じる。
開幕からしばらくは暇な時間だ。やってきた参加者の人の波はまず、当然ながら東方新作の体験版へと向かっていくからである。
遠目にその列をざっと眺めて、すでに違和感は大いにあった。男女比だ。
かつての東方と比べて明らかに女子が多くなっている。男女5:5はさすがに言いすぎかもしれないが、6:4くらいの比率にはなっているんじゃないかこれ。
「見てよあれ、ダメージジーンズ履いたオシャンなお姉さんが来てるよ……陽すぎる……」
売り子で来てくれたY君がそうおののく。繊維の破れ具合で陰陽を測るな。しかし言わんとすることはわかる。男女関係なく、雰囲気としてなんか一般寄りになってるよねという。
あと、外国の方もちらほら。インバウンド需要がここにもある。
本格調査とその結果:違和感というか、もう異変
開幕して30分。グッズジャンルの島中であるこちらのスペース前まで、ぼちぼち人が来るようになった。しかし、我がサークル前は足早に通り過ぎていく人ばかりだ。
時間的にまだまだ、大手を中心とした事前チェック済みのサークル巡りタイムなのだから当たり前である。
現代のリアル同人イベントは、ふだんのSNS同人活動の成績表みたいなところがあると個人的には思っている。そこを行くと、自分は現在のペンネームで東方作品はひとつも投稿していないので、当然こうなる。
(実際、年単位でウマ娘の投稿をし続けた上で出た冬コミでは開幕直後から人が来てくれて、1スペースに持ち込める限界ギリギリの数の同人誌が昼過ぎに完売となった。当日どうこうではないのだ)
この織り込み済みの暇な時間、やるべきことは決めてある。というか、そもそもこのために来たのだ。そう、現地調査である。
目の前まで人が通るようになり、どんな層が来ているのか確認できるようになった。目を凝らしてY君とともに観察を本格的に開始する。
さあどうか。令和6年の博麗神社例大祭は。
これは、なるほど、たしかに――
若人、バチクソ多いでやんの。
なんだこれ、というレベルだ。数もそうだし、一人ひとりの歳も若いというか、幼いというレベルの子までバリバリにいる。
隔世の感とはこのことで、わたしが知っているかつての博麗神社例大祭の姿では完全になかった。みなさん、噂はほんとうです。
以下、お子様がたのいるグループの傾向をよく見た順に並べる。
1:女子小学生、あるいは中学生2人組
なんかめちゃくちゃいた。近くの学校が社会科見学の対象にここを指定しとんのかってくらいいた。
小学校高学年、あるいは中学生くらい。そのあたりの女子がとにかく2人組で、東方グッズフル武装のバッグを背負って歩いている。遭遇したら即帰宅系の企画をやったらイベント会場にすらたどり着けないと思う。
2:10歳以下っぽい女子withお父さんお母さん
1で紹介した2人組より年齢層の低い女の子が、お父さんお母さんといっしょにいるタイプ。これまたすごくいる。なお、コスプレしている子供も珍しくなかったが、その場合はほぼほぼこのパターンであった(さすがに当然か)。
3:男子小学校、あるいは中学生3~4人組
女子と違い、2人組はほとんどみなかった。この傾向の違いはかなり面白いと感じる。小学生よりは中学生くらいの年齢層の方が多かったように思う。
差異を他に上げると、女子は明確に東方グッズだけでコーディネートしていたが、男子はほかのジャンルのグッズもいっしょくたに身に着けていたのが印象的。ホロライブがめっちゃ多かった。
4:10歳以下っぽい男子withお父さんお母さん
たまーにいた。お父さん連れはさらにレアで、自分が見た範囲ではほとんどがお母さんといっしょだったと思う。
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このような感じ。あくまで自分の目視観測範囲でのことなので精度の保証はできかねるけど、さほど的外れではないんじゃないか。
親子連れは明らかに「わかっている」親御さんとの二世代住宅オタクスタイルもいれば、子どもが行きたいと言ったイベントに来てあげている雰囲気のパパママもいた。
「こういうの、なんだかいいね」
と、そんな話をY君とする。
つまりこのイベントは、世のご家庭にとって家族で行ける『安全』な催しだと思われているのだ。
今回、わたしにとって最も印象的だった瞬間がある。それはお定まりの注意喚起アナウンスが流れたときのことだ。
「会場内で不審な人物を見かけたら、お近くのスタッフまでお声がけください――」
という、昔からどこでもよく聞くあれである。
かつての例大祭でもこのアナウンスは流れていた。
ぎゅうぎゅうになった通路で行列に並びながら降ってきたその言葉に、誰かが「いやそもそも不審者しかいねーだろw」と言って、誰も彼もが「ンナハハハハハ!w」とひとしきり笑った。わたしも笑った。オタクであった。誇りがあった。これが我らの、祭りであった。
対して現在の例大祭でこのアナウンスが流れたとき、少なくとも自分の周りでそういうことを言っている声は聞こえなかった。
そしてなんとなく、誰もが軽く周囲を見渡したように思う。それに気づいたのは、わたしもそうしたからだ。
だって、こんなにも子どもたちがいる。なにかあっちゃあ、ならんのだ。大人として、今日のイベントを日の下の穏やかなものとして保つ役割を、我々はその場で分かち合っていたような気がした。
子猫を抱えたときのような温かさと重さと柔らかさのあるその責任感が、わたしは割りに愛おしかった。
撤収まで:赤字アクキー専門店
時が上記のアナウンスの件より前か後かは覚えていないが、11時10分、開幕して40分くらいのタイミングでわたしは悩んでいた。
まだ一人も買いには来てくれていない。それはいい。自分のような誰からも未チェックだろうサークルが本格的に見られる対象になるまでに、まだ30分か1時間くらいはかかるだろう。
逆にいえばそれは、今ならまだ間に合うということである。
子どもたちがたくさんいるこのイベント。噂には聞いていたが、その雰囲気の中に自分が入ってみるとインパクトはとても大きくて。
自分の作ったアクリルキーホルダーを手に取って見てみる。良い出来だと思う。がっつり力を入れて描いたし、しっかりコストを掛けて丁寧に作ってもらった。
値段は、アクキーのイベント時の相場を調べてど真ん中のプライシングにしてある。ちなみに製作費は、一個当たりだいたい350円くらいかかった。
良い出来だ。良い出来だから。
「値下げする。100円にしようと思う」
と、わたしはY君に言った。
「やりすぎじゃない?」
Y君は笑った。その言葉が聞きたかった。かくして値段は100円となった。
自分がもし子どもで、今のこの例大祭に来ていて、このアクキーが100円で売られているのを見たならめっちゃうれしいと思う。ラッキーだと喜ぶ。良い思い出のひとつになる。
そういったことがそのときわたしにとっては重要だった。行ったれ100円ゴーゴーゴー、赤字アクキー専門店である。
ビッと値段を描き直すと、目の前を通る人たちが怪訝な顔をするようになった。「100円……え、100円?」というつぶやきが春の空気に乗って届く。
博麗神社例大祭に捧げる、わたしからのささやかなる異変だと思っていただきたく。
ひとりの背の高いお兄さんがやってきた。手に取って、
「これは……ほんとうに……100円で……いいんですか……?」
と、一言ひと言丁寧に間を入れながら尋ねてくる。目の前のもののなにかが大きく間違っているから、自分はせめて言葉を間違えないようにしようと気を付けてくれているかのようなしゃべり方だった。
うなずいたわたしに、お兄さんは、
「……これは、……こんなにかわいい、……これは100円なんて、こういう値段で、売るべきものではないのでは……?」
とつぶやきながらアクキーをしげしげと眺め続ける。
しかし、8cm×8cmのアクリル板の中に彼の求める答えは見つからなかったのか、やがて直截に問うてくる。
「どうして100円なのですか?」
「お祭りだからいいかなと思って」
わたしのそんな答えにお兄さんは一瞬固まったあと、
「……そっかぁ、うん、お祭りですもんね」
とやわらかく笑った。わたしの選んだいくつかの愚かさを、たぶんわかってくれたような気がする。「お祭りですもんね」ともう一度繰り返し、彼は2種のアクキーを1個ずつ買っていってくれた。
この後も、けっこうな数の大人たちがこのお兄さんのように「ほんとうにこの値段でいいのか?」「こんなクオリティのものをなんで」と言ってきてくれた。とてもうれしい、ありがとね。
そしてみんな「お祭りだからいいかと思って。子どもたちも多いし」と答えると、納得して笑ってくれた。
「あなたはほんとうに好きだからこういうことをするんでしょうね、愛だな、愛を感じる」と言ってくれたグラサンのお兄さんもいたし、計3回くらいやってきて「ぜったい大事にしますよー!」と言い、最後はわざわざわたしのXアカウントまで尋ねてくれた高校生くらいの男女3人組もいた。
「え、え!? なんかあれなんですか、製法に秘密が……?」と見本を調べる方も出てきたので、達筆のY君に頼んで「シンプルに赤字」と書いた張り紙を追加する。
秘密などない、1個あたり250円の損失がこの異変の種明かしである。
以降、前を通る人たちが口々に「シンプルに赤字……」「「シンプルに赤字w」「シンプルに赤字かあ」とつぶやくようになった。ちょっとおもしろい。
そしてなにより狙い通り、たくさんの子どもたちが手に取って、買っていってくれた。さっき250円の損失と書いたが、損なったわけでも失ったわけでもなく、わたしは手渡したのだと思う。
お昼をすこし過ぎたころ、在庫が尽きて売り切れと相成った。最後の見本品も「これ、100円、な、わけないですよね……ごめんなさい失礼なことを……そんなはずない……」とていねいに尋ねてきてくれたお姉さんの手に渡った。
「見本品だけど、それでもよかったら」確認したこちらの言葉に「そんなのぜんぜんいいですよ!」と彼女は言ってくれた。
なお最終的に、買っていってくれた人たちの男女比は3:7か2:8くらいで、女性の方がかなり多かった。絵柄が理由か、あるいはアクキーというジャンルが理由かはわからない。両方かもしれない。
霊夢と魔理沙では、魔理沙の方がちょっとだけ早く売り切れた。こちらについても、キャラ人気の差かわたしの今回のイラストが魔理沙の方がうまく描けていたからかは不明だ。
売り切ってから「子どもたちだけ100円にすればよかったかも」とか今更なことをY君と話し合ったけど、なんかそれは違うような気もする。
どなたさまでもとにかく100円というわかりやすい愚かさが、あの小さなスペースにデカデカ掲げる言葉としては美しいのだ。
飾りつけを片付け、最後に冬コミの際にお世話になった印刷所さん(ねこのしっぽ)のスペースに寄って、ぜひとも見たかった箔押し印刷の見本誌を買っていった。こういうのはネットのサンプルじゃよくわからないので、実物がないとね。
担当のお姉さんとおじさまがとても丁寧にいろいろ教えてくださった。ありがたい。
終わりに
このイベントには、グッズ制作費のみならずサークル参加費やもろもろの準備費、交通費までかかっている。令和のPS3よろしくバッチバチの逆ザヤで売ったので、鮮やかなる赤だ。
しかし爽やかなる赤である。
博麗神社例大祭にまつわる噂はほんとうだった。自分の知っているイベントとは、ずいぶん形を変えたなと感じる。一方で、熱量や愛などなど、変わらないものもある。自分が好きだったサークルさんの一つも、元気に活動を続けていらっしゃった。
会場を出ると、外はまぶしい。来たときよりも陽気を強く感じるのはいくつか理由がありそうだった。
「晴れてよかったね」とY君が言う。まったくである。第22回博麗神社例大祭は、5月5日のよく晴れた、子どもに捧げるハレの日だった。
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