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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうして勇者様は魔境へ向かう
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180.勇者様の暇乞い

終わらせようと思って今回で終わりませんでした!

次回こそは終わると良いな…!



 父王を、皆を前にして、謁見の間にて俺は言った。


「勇者としての使命を受けた私にはわかります。あれは…あの騒乱の始まりを告げた私への襲撃と、謎の火柱。あれは紛れもなく魔王の魔法によるもの!」


 嘘は言っていない。嘘は。

 だから静まってくれ、俺の罪悪感…!

 決して! 決して皆を騙している訳じゃないんだから!

 内心での葛藤を表面上は出さないよう、必死に顔を引き締める。

 これでも王位継承権保持者として十九年間を生きて来たんだ。

 腹の探り合いは苦手だが…それでも追及の手を封じるだけの表情を取繕うのは幾度とない経験で何とかそれなりになっている。

 頑張ってくれ、俺の表情筋…今はどれだけ強張っても構わない!

「度重なる王都を襲った、変事の数々…これも全ては、使命を(ないがしろ)にした私の不徳故。中途半端に魔王を刺激したまま、王都へ戻った私の招いたこと。この責任、決して軽いものではないと存じます」

 真摯な気持ちを精一杯詰め込んで、俺は目線を逸らすことなく父を見つめる。

 玉座から俺の意思を問う父の視線が、ずぶっと刺さる…。

 視線を逸らしたくなる気持ちを誤魔化しながら、俺は目に力を込めた。

「魔王の目を引きつけたまま、誘き寄せてしまったようなもの。神の啓示により勇者の称号を賜った私ですが、中途半端な姿勢への怒りは幾らでも受けます」

 リアンカを、まぁ殿を思い出せ、俺…!

 あの、嘘は言っていないのに本当のことも言わない技術!

 何より、真剣な相手を労せずして煙に巻く、あの度胸!

 真似しきれるものではないけれど、あの二人を真似したら終わりだと思うけれど! だけど参考にはなる筈だ。

 あくまでも自分に合った方法で、ただ根本的なものを汲み取る。

「此の度の贖罪として私にできることは、一刻でも早く魔王の侵攻を防ぐこと。かの暴虐の王を阻むことこそ最上の償いと心得ます。この上は予定の繰り上げとなってしまいますが、今夜にでも出立するお許しを頂きたい…!」

 一息に言い切ると、嘘臭くなる。

 だから俺は早口になりそうな焦りを抑えて、ゆっくりと、だけど引かない気持ちを込めて強く言いきった。

 そこから先は、ただただ頭を下げるばかりだ。

 俺がこの世で、公の場で頭を下げること。

 それは大きな意味を持つ。

 だが相手が父王であれば誰に責められる謂れもない。

 俺はいっそ額づいてやろうかという自棄になりそうな気持を押し隠して、許しが出るまではと頭を下げ続けた。

 やがて対外的な配慮から、父が折れることを予想して。

 他国の賓客も招いた式典での騒動だ。

 それを収め、民衆や他国の不安を晴らすという意味でも、『勇者』の一刻も早い旅立ちは許可せざるを得ない。

 むしろどれだけ重臣達が俺の出発を食い止めようとしても、「あれだけの被害が出たというのに、盟主国はいつまでも間を伸ばし、何の対策も取らないつもりか!」と他国に責め立てられる結果にしかならないだろう。

 それを抑えるという意味でも、俺がこの場で出立の許可を求めるのは正しい。

 それが『王子』として、『勇者』としてあるべき姿だ。

 だから、父上が許さないなどという場面は想像する意味すらない。


 その予想は外れなかったけれど。


 わかった、許す、と。

 父上の言葉はそこで終わってくれなかった。


「――ただし、先の誓約通り世継の君たるライオット・ベルツの勇者としての働きには期限を設ける」


 それは、一年前にも言われたこと。

 王国を継ぐべき使命を背負う俺に、無期限で放浪させる訳にはいかない。

 歴代の勇者には短期間で使命を果たした者もいるが、それよりも圧倒的に帰ってこなかったもの、帰ってはきたものの人生の殆どを魔境で費やした者の方が多いと記録には伝わっているのだから。

 十年少し前に大叔父がクーデターなんて企ててくれたお陰で、現在の王国には王族が圧倒的に少ない。優しかった従兄や叔父も謀殺された。

 今の王国で次代を継げるのは俺一人。

 必ず、例え魔王を討てなくても帰ってこなければならない。

 だから、父上が健在な内に…十年以内に、帰還するように命じられている。

 それを重圧だと思ったことはないけれど。

 少し歯痒いと思ってしまうのは、何故だろう…。

 少なくとも1年前は、そんなこと欠片も思わなかったのに。

 

 ………アレかな。

 魔王(まぁどの)との圧倒的力量差を思い知って、軽く気が遠くなったりしているけれど。

 使命を果たすに十年で足りるのか………正直、心許無く思っているせいか…?


 本当は心情面でも、あれだけ慣れ合っていて勇者として魔王を討てるのか?という疑問もあるけれど…そこは考えるまい。

 実際に倒せないのに倒した時のことを考えるとか、不毛過ぎる。

 だからまずは倒せるようになってから、だ。

 倒せるようになるまでは考えない…それは問題の先送りじゃない。

 先送りじゃ、ない、はず…?


 まぁ殿の笑顔を思い出すと、思わず遠い目をしてしまう。

 何となく、虚ろな笑いが漏れそうになった。


 …が、そんな俺の空虚を父上の言葉が吹き飛ばす。


「――王太子ライオット・ベルツよ。『勇者』として魔境へ赴き、魔族の脅威を退けよ。また魔王の誅滅如何に関わらず、五年以内に帰還すること。帰還し次第、次代の王として即位することを命ずる」

「は!?」


 思わず叫びそうになった。

 堪えろ。

 堪えろ、俺…!

 ツッコミ入れたらお終いだ!

 ここは謁見の間で、相手は父王だから…!!

 握った拳が、力の入れ過ぎで白くなる。

 俺の様子に、父上は理由なんてわかっているだろうに敢えて問うてきた。

「何か、不服か?」

「………恐れながら、陛下。私の記憶違いでなければ、一年前は『十年以内』と仰いませんでしたか。私の記憶違いですか」

「ふむ、それか」

 それか、じゃないですよね!?

 十年でも無茶というか無理というかアレなのに!

 なんで時間が二分の一も短縮されて…!?

 五年とか無理だろう、どう考えても!

 五年でどうやってまぁ殿を倒せというんだ…!!


 あまりの激情で、脳の血管がぶっ千切れるかと思った。


 内心は嵐だ。

 だけど父上は嵐の海に平然と放り投げてくる。

「な、なぜ、猶予が五年短縮されているんですか…!」

「ここ連日の王太子とその周囲を見ていて、な。思うところがあったのだ。率直に言おう………なるべく早く、帰ってこい」

「………~~~っ」

 父上の眼差しは、今までに見たこともないくらい生温かった。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 軽い足取りたったった。

 ぴたりと止まったその場所は、立派な装飾扉の前。

 警護の兵は、怪訝な目で珍奇な来訪者を見下ろした。

「ここですね…」

 呟かれる声は、少女のもの。

 だけどその少女の背には、大きな竜の翼が生えている。

「お嬢さん、こちらは高貴な方が滞在されている場所だ。何用かは知らぬが…早々に立ち去られよ」

「それとも、何方かの先触れかお使いか?」

 怖い顔の警護兵が、二人揃って少女を見下ろす。

 だけど少女…リリフは、怖がる様子を欠片も見せない。

「先触れではありませんが、お使いみたいなものです。王太子さんの離宮から、それこそ尊い方の御用で来ました」

 少女の物言いに、警護兵は二人揃って顔を見合わせた。

「失礼させていただきます」

「あ、おい、ちょ…っ」

 警護兵の制止は物ともされず。

 勇者様の名前を前面に押し出して、リリフは結構強引に押し入った。


「すみませーん、こちら、ペルアシェールの大公さんのねぐらでしょうか」

 

 舌を噛みそうな名前、グレスィガム大公の名前を回避しながらリリフは問うと同時にドアを開ける。

 まるで声をかけた意味は皆無だが、室内はそれを気にするどころではなかった。

 

「おおぅ、じ・い・じ! じ・い・じ! じぃじファイトー!」

「ふんぬぅぉぉおおおおおおおおっ」

「く…っ じいや殿、正気に戻られよ!!」


 リリフは、咄嗟にドアを閉めた。

 ぱたん、と空虚に軽い音がする。

「どう致しましょう。中は修羅場です…」

 だけど目的を果たすため、もう一度挑戦してみよう。

 そう覚悟を決めて、ゆっくりとドアを開くと…


 ドアのギリギリ前に、マジカル☆じぃじの顔面超どアップが待ち構えていた。


「いっ……いやぁぁああああああああっ!!」

 

 驚いたリリフの繰り出した光の速度なビンタ一発が、じいさんを錐揉み状に吹っ飛ばす。

 そのまま、爺さんは部屋のど真ん中を突っ切り………

 やがて、窓の外に消えた。

 ちなみにこの部屋は五階だ。

「じ…っじいじぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

  大公殿下の嘆きの声は、長く尾を引いて響き渡った。



「ほう、お嬢さんはライオット殿下のところの客分なのですか」

「あの…あちらの大公さんとじいやさんは放置で良いんですか?」

 取り乱す大公を軽く放置して、先程まで暴走するじいやさんのサマーソルトキックを受け止めていた男性がお茶を勧めてくれる。

 中々にガタイのよろしい、筋肉質な大男だ。

「うむ。あの程度の暴走でしたら日常茶飯事でしてな…」

「嫌な日常ですね」

 リリフの視界の端では、未だに取り乱す大公が窓に縋っている。

 その奥、窓の向こうではじいやさんが白い羽根を生やして飛んでいた。

「それでお嬢さん、本日はどのような用向きであろうか」

「あ、はい。実はサルファ…ふぃさるふぁーど?さんは今どうされているのか聞きに来ましたの。一緒に魔境に帰るつもりなら竜に乗せるので、意思確認をと…」

「フィサルファード!?」

 がた、と。

 それまで穏やかな空気を醸し出していた大男が立ち上がる。

 心なしか、目が血走っているような…

「お嬢さん、愚息の行方を御存知か!?」

「え? サルファの父君さん?」

「く…っ 以前よりもはるかに逃げ足が鍛えられてはいたが、あらかじめ所在を掴んでさえいれば遅れは取らなかったものを。何か情報を持っておられるか!」

「いえ、それを私も聞きにきたんだけど……でももう良いです。此方に窺ってもわからないことが分かりましたから」

「彼奴めは…もうこの国にはおらぬだろう。逃げ足だけは、逃げ足だけは我が国一だからな。間違いなく」

「逃亡早っ!」

「私は大公殿下の護衛があるのでお傍を離れることは叶わぬ。あと一月はこちらの離宮に滞在する日程が組まれているのでな…末の弟に急ぎ追わせたが、捕まらぬであろう」

「ご、御苦労さまです…でもそうですか、あのシフィなんとかってお兄さんが追跡しているんですね」

「何か情報があれば、こちらも教えていただけると有難い」

「そうですか……こちらは帰りの日程調整で来ただけなので、本人がいないのであれば構いません。お邪魔致しました」

「うむ………ん? 帰り?」


 もしやこの少女が、サルファの現在の拠点を知っているのでは。

 苦労人の父親がそれに思い至ったのは、リリフが去ったその後だった。



「リャン姉さん、やっぱりサルファは見つかりませんでした」

「あれ? わざわざ探しに行ったの?」

「はい、やっぱり当初は乗せる予定でしたし」

「放っといて良いって言ったのに、リリは真面目ね。どうせ目端の利く男だし、一緒に帰るつもりなら丁度いいタイミングでふらりと現れるわよ」

「それがどうも、もう国を出ているのではないかと…」

「それならそれで、まあ自力で魔境まで帰ってくるんじゃない?」

「放置して、大丈夫でしょうか…」

「大丈夫でしょ。それよりリリ、お手伝いお願いしたいんだけど」

「なぁに、リャン姉さん!」

「城下町に入るお世話になった人…バードさんとか、魔族の薬屋さんにお手紙配ってもらえない? いきなり帰ることになったから、手紙で挨拶しとかないと!」

「それじゃあすぐにでも配達に行ってきますね!」

「あ、一人じゃ迷うでしょ! ちゃんとロロイも連れていかないと」

「大丈夫です! あの変態大公の在所までも一人で行けたんですから!」

「所要時間は?」

「……………」

「所要時間は? あとついでに、道を聞いた人の人数は?」

「………それでは、ロロイと共にお使いに行って参りますわね」

「いってらっしゃーい」


 こうして、着々と帰還の準備は整えられ…

 そうしてやがて、夜が更ける。

 式典が無事に終わったとは言い難いけれど、危難を退けた勇者様の武勇を讃えると趣向を変えた舞踏会が幕を開けた。

 勇者様にとっての、暫しの別れを告げる宴が。







リクエストにあった、某中二悪魔と商人少年公爵と吟遊布教詩人の出会いは、余裕が出来たら番外編か活動報告でssを作ろうと思います。

あと、勇者様の黄金像の競売風景も…。

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