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176.刺さる光

山田さんは永遠に治らない不治の病(笑)に侵されています(爆笑)

戦闘シーンにも、その片鱗がぽろり。




 勇者様の手の内、迸る光は果たして光の加護か、ハリセンの電光か。

 私達の見ていないところで、さぞや努力を積んだのでしょう。

 神の加護を制御しようと、必死に。

 その効果、見て下さい!

 本命本丸の主目的は全然達成できていそうにありませんが!

 ご覧の通り、どうやら光属性の制御はまた格段に進歩を遂げているようです。

 多分、勇者様自身と相性が良かったんでしょうね。

 勇者様、人品共に明らかに『光』寄りの人だし。

 絵に描いたような光の寵児がここにいます。

 太陽神の加護を受けし光の勇者vs.炎を纏った異形の悪魔という図式が完成しています。傍目に、見ただけなら。

 そしてその解釈は間違っていないのでしょうが…

 実情を知る私達には、この図が歪んでこう見えます。


 神々に弄ばれる世界の被害者vs.空気の読めない痛い乱入者


 我ながら、この解釈でぴったり☆だと思います。

「リアンカ、どっちに賭ける?」

「むぅちゃんは?」

 私達は地面に風呂敷を広げ、その上に座して勇者様の戦いを見守ります。

 どうぞ武運をと願いながら、固唾を呑んで見つめるのみ。

「僕は共倒れに五千かな」

「大きく出たね。私はなんだかんだ言ってしぶとい勇者様の粘り勝ちに三千かな」

「じゃあ俺もリャン姉と同じ方に六百」

「主様はいかがされます?」

「せっちゃんは応援に精を出しますのー。リリちゃんにお任せ♪ですの」

「では、主様に代わって私が悪魔に五百」

「それじゃあ俺は最後に美味しいとこだけタナカさんが掻っ攫うのに三万」

「まぁちゃん太っ腹ー」

「あに様出っ腹ー♪」

「待て、せっちゃん。それは何か違う!」

「せっちゃん、何か間違えましたの?」

「出っ腹なんて愉快な表現だね、せっちゃん!」

「わぁい♪ 姉様に褒められましたのー!」

「お前らさぁ、お前らよー…まあ、良いけどな」

「良いんだ…」 

 それぞれ意見を交わしながら、私は両手を組合わせて勇者様を目で追いました。

 どうか勇者様、頑張って…!

 

 未知なる敵、悪魔。

 今まで純粋に化物や魔物、魔族とは剣を交えてきた勇者様ですが、私の知る限り『悪魔』との対戦経験はないような気がします。

 魔族と親しい私が言うのもなんですが、彼らも結構反則なイキモノだけど勇者様は大丈夫でしょうか。

 何と言うか、宗教的? 概念的? な特性があるので、苦手な人は本当に苦手だと聞きます。

 物理攻撃主体の脳きn…魔法攻撃の手段を持たない人間の戦士なんかは、本当に手も足も出ないくらいに弄ばれたりするらしいですが。

 果たして、勇者様はどうでしょうか。

 意外に博識な勇者様なら、弱点なんかも御存知かもしれませんけれど。


 勇者様は悪魔を警戒するように距離を取り、慎重に攻める気のようです。

 一方激昂してマグマ出しちゃった傍迷惑な悪魔は初っ端からやる気も殺る気!

 勇者様が来ないと見るや、自ら攻め手に転じました。

 どうやら己と対峙する勇者様を、専念すべき敵と定めたようです。


「炎に呑まれて消えろ…っ! 【闇炎煌皇撃】!!」


 ………なんか台詞めいた掛け声ですね。

 技名とか、一々口にする必要があるのでしょうか。

 一瞬、何言ってるのか全然分かりませんでした。

 だけど悪魔ヤマダは掛け声に合わせて翼を広げ、空の高い位置…ほとんど勇者様を見下ろす位置まで駆け上がるように上昇し、攻撃を放ってきた訳ですが。

 なんだかよくわからない炎を纏った黒いナニか(多分魔法)が、えーと…ひ、ふ、み………三十個くらい、勇者様目がけて殺到しました。玉屋♪

 よく見たら三十個ほどの黒いナニかの配置は、夜空の星座『皇帝座』を模っているようです。ああ、だから(エンペラー)

 でもあの星座って、勇者様の御先祖様の星座じゃなかったっけ?

 私達、魔境の民の常識だと星は己に関わる人を守護するって聞きますけど…

 ………あれ、そういえばヤマダさんって勇者様が誰か知ってるのかな?


  バチィッ


「!?」

 ああ、ほら。案の定。

 勇者様に触れる前に弾けて消えちゃった。

「けほ…っ」

 だけど勇者様の方も、迎え撃とうと構えていたところにいきなり弾けられて細かくダメージを受けているようです。

 音と光と衝撃が、勇者様の身体を一瞬竦めさせました。

「くっ…あの攻撃を防がれても、俺にはまだ奥の手が!」

 いや、奥の手を開示するには早過ぎません?

 私と同じことを勇者様も思ったのかどうかは、さて置き。

 勇者様は一度攻撃をされたまま、黙って次の攻撃を見守る気は更々ないようで。

 太陽の神様が丹精込めた光の加護…に、寄ってきて周囲を飛び交う光精霊(ライトエフェクト)

 それを勇者様の指が、手が、がしっと鷲掴みに…!

「あれは…御前試合で見せたアレですね!」

「なんか前より手慣れた感があんな。練習でもしたのかー?」

 そう、かつてバニーを相手にした時も一瞬見せて下さいましたが!

 光を掴んだ(物理)よ、あのひと!!

 更に今度はその光を………あれ、投げたー!?

 より正確に言うと、それは指弾のように見えました。

 自分の周囲を飛び交う光の粒を五つほども掴み取ったかと思うと、指を弾く勢いで悪魔へと飛ばしたのですが…その勢い、まさに弾丸級。

 真っ直ぐに飛ぶ光。

 けど光って、悪魔に投げつけてどうにかなるのかなぁ…?


 そう思っていたら、不思議な結果になりました。



  ぶずっ



「………刺さったよ、光」

「おお、止まった状態で見るとめっちゃトゲトゲしてんな」


 勇者様が飛ばした光は、どんな不思議な力が作用したのか、まきびしの様な形で物質化していました。

 見た目はキラキラの光ですが、触れる時点であの煌きは凶器です。


「~~~~~……っ!!」


 そしてそれは、『悪魔』には大変効果的だったみたい。

 空の上で傷口を押さえた悪魔が、ものすっごくくねくね見悶えています。

 光の刺さった傷口から、血液ではなく紫色の…謎の気体が発生し、薄く棚引いています。傷口から更なる光が追撃を加える様に侵食し、じわりじわりと傷口が燃え焦げたようになっていき…紫の気体が量を増す。

「………っかは」

 思わずと、悪魔の咳き込んだ口からも暗紫色の気体。

 アレってえくとぷラズムの一種かな?

 うん、色んな意味で目に毒かな!

「………宗教的な生き物だと聞いた時から、思っていたんだ。だったら一般的なイメージ通り、『光』に弱いんじゃないかって」

 悪魔の様子をじっと見ながら、勇者様が呟きました。

 だけどその姿は既に地上になく………

 何故か空に浮かぶヤマダさんの、背後に姿を表します。

 瞬間的な、出現。

 砕け散った瓦礫や建物の壁を足場に、あそこまで飛びあがる。

 それが出来る時点で、勇者様の性能は軽く人間を飛び越している気がします。

 勇者様は己の人外ぶりを誇示する身体能力に疑問を抱かないのでしょうか。

 もしくは、今はそんなことを考える余裕がないのか…。


 怯む悪魔の背後。

 勇者様は大きく振りかぶり―――


 大上段の構えから、両手で握ったハリセンを強く振り下ろし…


 ソレは綺麗に、悪魔の頭にクリーンヒットを決めました。


 

 観戦していた私達もクリティカルを決めた打撃にただただ感心するばかり。

「おー…どんなもんかと思ったけど、勇者のヤツ結構余裕じゃね?」

「これも普段日頃から色んなイキモノに巻きつかれたりしごかれたり管を巻かれた成果だね!」

「実際見る限り、魔境に来たばっかの頃と比べると段違いに強くなっちゃいるな」

「ちなみにどのくらい?」

「ん? ………どのくらいかねぇ」

「段違いとか言いつつ、つまり、まぁちゃんにとっては微々たる差なんだね…」

「………まあ、な。前の勇者をサムソンに例えたら、今は副団長くらいになってんじゃねーの?」

「!! それは凄い飛躍だね!」

 ただの平凡極まりない農夫のサムソンと、あの(・・)副団長さん。

 比べるのが馬鹿らしいくらいに、彼我の差異は明らかで。

 そう例えて理解を示せるほど、勇者様は強く………

 私は首を傾げました。

「もうそれ、人外とか化物って呼ばない?」

「言ってやるな。本人曰く、今はまだ辛うじて『人間なんだ』と」

「勇者様、いつまで言い張る気かな」

 いっそ、もう認めちゃえば良いのに。


 私達がそんな悠長な会話を続けている間にも、両者の戦いは激化していきます。

 一度はハリセンに撃ち落とされた悪魔も、あの禍々しい鎧のお陰かダメージは低く済んだ模様。むしろあの光のまきびし? 手裏剣?の方がよっぽど大ダメージだったみたい。

 それを勇者様も実感として掴んでいるのでしょう。

 光の属性攻撃の方が確実に効くと確証を得られたのか…


「はぁ…っ」


 ………今では振り回すハリセンに、光属性を纏わせておいでです。

 というか勇者様のスペックとか属性とか性質とか考えるに、あのハリセンに聖属性が付与されていたとしても私は驚きません。

 だって、


「ぎゃぁぁあああああ…っ」


 …ハリセンが鎧越しにでも接触する度、ヤマダさんが凄い悲鳴を上げるんです。

 じゅっという、何かの焼け焦げるような音と匂いを撒き散らしながら。

 勇者様の小回りと速度を活かした猛攻を前に、変身して嵩張る体になっちゃった上に兜越しで視界も狭くなっていそうな悪魔は手も足も出ません。

 だけど悪魔がそんな状況に甘んじる筈はなかったのです。


「まぁちゃん、なんだか悪魔から不穏な空気を感じる」

「奇遇だな。俺もだ」


 何と言いましょうか…手も足も出ないけど、代わりに尻尾が大盤振る舞い。

 いや、それは良いんですよ?

 良いんですけど…

 

 ……………何だか妙なオーラが昂っちゃってませんか?


 遠目に見守る私達にもわかりやすく…

 いえ、遠目に見ているからこそわかる変化。

 先程から血の代わりとばかりに噴き出しまくっていた紫の煙。

 いつの間にかヤマダの頭上に当たる空へと寄り集まり、(わだかま)って…

 いつしか一塊の『紫』…物質化した瘴気に変わりつつある気がします。

 そのことを、果たして勇者様は御存知なのか…。


「とにかく、何かやる気なのは間違いないね」

「ああ、何かやる気だな」


 紫色の塊が何になるのか…

 それは、わからないけれど。

 このまま放置していればまずい事態になりそうな気がするのは、果たして私達だけなのでしょうか?





 ちなみに皇帝座は彼女達の世界の夜空にある架空の星座です。

 勇者様の御先祖様がモチーフだとか(笑)


 次回、【177.心を抉る呪文】

  リアンカちゃんがやらかしまっす★



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