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158.ハート大乱舞(笑)

勇者様がびしょびしょになります(爆)


あと、モブの名前が面倒だったために超適当(笑)になりました。




「この周辺だけ、異様な空気を発生させてるね」

「異様というか、イロモノだろう!?」


 客観的事実ってやつを言ってみたら、勇者様に怒られました。

 そんな勇者様の現在のお姿は、着衣が乱れてしまっています。

「ああ…金具も何も全部外れてしまっているじゃないか。着付け直さないと…」

「脱ぐのも着るのも手間な服は、ちょっと直すとか通用しなくって手間ですね」

「誰のせいかな!?」

「面倒な衣装をデザインしたデザイナーですね!」

「ここでまさかの責任転嫁!? この衣装、細かい装飾はともかく型そのものは王家伝統のデザインなんだけど!」

「じゃあ既存のデザインを打ち破るだけの万民の心を動かす新しいデザインを提案できなかったってことで、やっぱりデザイナーのせいですよ!」

「君は王家の衣裳係に何か恨みでもあるのか!?」

「いいえ、ちっとも!」

「………その割にはしつこく責め立てるな?」

「そういう気分だったので」

「気分…その一言ですまされたら、言いがかりをつけられた側も可哀想に」

「勇者様に同情されたらお終いですよ?」

「どういう意味かな!?」

 疲れたように脱力しつつ、勇者様は深い溜息をつかれました。

 私に苦情を言ってもどうにもならないと悟ったんでしょう。

 そのまま黙々と、重い手を動かして乱れた着衣を脱ぎすてました。

 一から着直すのなら、一度脱がないといけませんからね。


 そんな訳で、目の前に。

 薄いシャツ一枚というラフな勇者様の完成です。

 そして私は勇者様に微笑みかけました。


「お一人じゃ着られないんですよね。私が手伝って差し上げます」

「いや、いいから。手伝わなくてもいいから!」

「まあまあ御遠慮なさらずに♪」


 勇者様の顔が、確かに引き攣りました。



 

 私が人間独楽回しにしきった後、はらり乱れたそのお姿。

 私もついつい自制がきかず、悪戯心が止まらなくって!

 嫌がる勇者様に、無理やり…!


 独特で個性的な、民族的メイクを施しました。

 赤と青のくっきり直線が素敵!


 頭にはその辺闊歩していた鳥をむしった羽根飾り。

 ついでに背中にも派手な鳥の羽根を背負わせてみました。

 サンバの如く…!

 上半身の衣服は毟り取って、全身の露出部分に経典の文言。

 ちなみに耳だけ放置したのは敢えてです。

 ズボンだけは奪えませんでしたが…

 上半身と下半身の食い違いが面白いので、これはこれで良いかもしれません。


「やるだけやりきった感じですかね!」

「俺はやりたい放題やられた感じだけどな…っ!」


 感情のこもった苦情と共に。

 勇者様が頭の上で揺れていた羽根飾りを毟り取りました。

 口ではなんだかんだ言いつつも、結局は最後まで律儀に付き合ってくれる勇者様は本当に良い人だと思います☆

 でも終わったらもう義理もないとばかり、全部毟り取られちゃって少し残念…。

 素肌の上のインクも全て、擦り落とされてしまいました。

 …お陰でインクが余計広がって無残なことに。

「勇者様、勇者様、ご自慢の美顔が残念なことになってますよ」

「別に自慢した記憶は一度もないけどな…」

「まあまあ、ほら、そこの池の名残で確かめてみましょう」

「名残って…まあ、もう池というより植木鉢にしか見えないけど」

 酒の成る木に潰された噴水は、でもまだ池の面目を残した部分もありまして。

 夜だし光源に乏しい庭ですが、勇者様自身がキラキラ光って(比喩ではない)いるので、ざっと状況を確認するくらいは大丈夫でしょう。

 相変わらず、勇者様の周辺には燐光に満ちています。

 ………こうして暗闇で見ると、一層顕著ですね。

 勇者様は一生暗闇に潜めそうにありません。

 夜間に襲撃される際には、良い目印にされそうな体質です。

 狙撃犯には気をつけましょうね、勇者様!


 池を覗いて己の惨状を確認した勇者様は、そのまま固まっていました。

 うん、結構笑えるお顔になっています。

 そして私はそんな勇者様の背中を、どーんっ!!


「う、う、うわわぁ!?」


 勇者様のひっくり返った悲鳴からは、一拍遅れて。

 その場にどっぱーんという大きな水音が響き渡りました。

 うん、良い仕事した…!

「な、何をするんだ、リアンカ!?」

 頭から水を被り、池底に尻餅をついた勇者様からの苦情。

 気が動転しているのか、責め立てる怒りより驚きの方が強く出ています。

 私は勇者様にゆっくりと確かに頷き、笑顔で優しく言いました。

「勇者様に使ったインク、水溶性だからこれで落ちますね!」

「手段が荒々し過ぎないかなぁ!?」

「でも現に、半分くらい落ちましたよ」

「……………」

 あ、勇者様が無言で顔を濯ぎだした。


 勇者様の全身のインクがある程度さっぱりするまで、十分くらいかかりました。

 そして後に残されたのは、水が盛大に滴る勇者様。

 ずぶ濡れ、びしょ濡れ、濡れ鼠です。

 鼠というには気高く麗し過ぎますけどね!

「わあ、勇者様ったら水も滴る良い男!」

「言うと思った!」

「でも大分、水の中で擦ったからか落ちちゃいましたね…」

「そんなに残念そうに言わないでくれ…」

 言った通り、あのインクは水溶性でした。

 しかもインクが乾ききる前にダイブした為、あっという間に大概は落ちました。

 え? 突き落としたのは私じゃないかって?

 だって仕方ありません。

 無防備な背中を見ると、押したくなるじゃないですか…!

 その前に難所があれば、尚更!

 私はいついかなる時も、常に自由に生きられたらと願っています。

 あれです、自由に憧れる鳥か何かです。


 ――え? 鳥はないだろう?

 同じ羽根が生えているにしても、別の生き物の筈だ?

 誰ですか、そんなことを言うの。イソギンチャクのエキスをぶっかけますよ!

 

 酔っ払っていつも以上に自制する気のない私。

 そんな私の煽りを喰らって、水も滴る勇者様。

 ほんの数分前まであんなにびしっと王子様をしていたのに…

 今じゃ全身びしょ濡れ、白いシャツにズボンとブーツという超簡素な軽装で。

 流石に上半身裸は耐え難かったのか、シャツ一枚を羽織っていますけど…

 全身がずぶ濡れなので、シャツはあっという間に水を吸ってしまいました。

 見るからに気持ち悪そうな濡れ具合です。


 そしてそんな水も滴る勇者様に、更なる不運が襲う…!



「きゃーっ❤ 殿下❤❤❤! 皆様ぁ、殿下を見つけましたわ❤!」

「皆様、こちらですわ! 殿下❤がいらっしゃいましたわよ!」

「殿下ぁーっ❤❤!!」

「ライオット様ぁ❤❤❤!」


 ぞくっと。

 夜の庭園…物音だけは静かなそこを、斬り裂いて。

 響き渡った黄色い声に、勇者様の背筋を駆け抜けるものがあったのでしょう。

 軽い足音が聞こえた瞬間、勇者様の顔が水烏賊も真っ青な死人色になりました。

 ちなみに水烏賊は幽霊烏賊とかいう別称もあるそうですよ?

「わー………すっっごい(ハート)乱舞…」

 そして私は妙に感心してしまいました。

 何より、こんなところまで集団で追ってくる淑女の執念、すげぇと。

 ………これで舞踏会であぶれた男の人とかいたら、勇者様に集まる怨嗟はいかばかりでしょうか。魔境の紳士会の人達もモテモテ(笑)男子に対する嫉妬は凄まじいものがありましたが、こちらじゃどうなんでしょうねー…

 ちなみに勇者様は、魔境じゃ妬みよりも同情を買っていました。

 わあ、人徳☆

「ど、どこか! どこか隠れる場所は…!」

「勇者様(笑) これしきで逃げ隠れるの、人類救世主(笑) 第一、もう遅いって」

 軽やかな淑女の足音は、もうすぐそこまで来ています。

 そもそも、既に視認されてる状態で逃げても追いかけられるだけですよ?

「成仏なさってね、勇者様…」

「やめろ、憐れみの目で見ないでくれ…っ」

 しかし淑女の方々…

 勇者様が視認できるなら、この混沌(カオス)現場も見えるでしょうに…怯まないなぁ。

 これは勇者様しか見えていないのか、細かいことが気にならないのか。

 関心がなかったとしても、中々ぎょっとする現場だと思うのですが…。

 そうしてますます、もう個々の顔すら見えるような距離に近づいてきた淑女の集団は…勇者様を目にして、一際(ひときわ)大きな歓声をあげました。


「きゃ、きゃーっっっっ❤❤❤❤❤❤!!」

「で、殿下がしどけないお姿でっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤!!」


 (ハート)が一際たくさん、飛び散りました。

 いやもう、淑女さん達の目も(ハート)

 どうやら勇者様のこの状態…薄着で悩殺☆びしょ濡れ勇者様ver.が彼女達も漏れなく悩殺☆しちゃったようです。

 …うん、白いシャツが白い肌に張り付いて、うっすら肌色透けてるし。

 タイとか宝石とか剥ぎ取ったから、胸元開いてるし。

 濡れた金髪が首筋に張り付いて、色々滴ってます。色気とか。

 こりゃ深窓育ちのお嬢様方には刺激が強いかなぁと心配になりましたが…

 うん、お嬢様達に心配は無用ですね。

 目が滅茶苦茶ギラギラしています。

 あれは、1週間近く絶食した上で獲物(ガゼル)を発見した肉食獣(ライオン)の目です。

 うん、逆に勇者様を心配すべきですね。超絶心配。

 頑張れ、逃げろ勇者(ガゼル)様。

 可哀想に…勇者様、肩が震えてますよ……?

 勇者様の目は、見事な反復クロールを披露していました。

 泳いでる、泳いでるよ。ものすっごく泳いでる。

 肉食女子(ライオン)どもを刺激しないよう、そっと後退さるのですが…


「殿下ぁっ❤❤❤!!」


 食い付かれた…じゃない、飛び付かれた!

 しかも回り込まれた!!

 凄いハンティング技術を、私はいま目にしてしまったきがします。

 獲物に食いつかんと囲むのは、肉食獣(ライオン)…じゃない、淑女十三名。

 人数からして既に不吉。

 何と言う、恐ろしい「かごめかごめ」…。

 抜け出すことなど出来そうにない状況下、それでも王子という肩書上、貴族の令嬢を邪険になど出来ないのでしょう。

 一所懸命、丁重に接しようとされていますが…

「今晩は、よい夜ですわね! 殿下❤❤❤」

「そ、そうか、アミラーゼ嬢……その、」

「いつも一筋の乱れもない殿下も素敵ですけれど、今夜の乱れたお姿はどうなさいましたの? こんな殿下も素敵ですけれど❤」

 そう言いながら、勇者様の右腕にするりと自分の腕を絡めようとするアミラーゼ嬢! 積極的な攻めの姿勢です!

「このような姿を見せてしまうとは…成年しているというのに、みっともない。恥ずかしいばかりで、皆にも幻滅されてしまったのではないかな」←願望。

 そう言いながら、さり気無くアミラーゼ嬢の腕を避ける勇者様!

 腕を取られぬ防御姿勢のつもりか、さり気無く脱いだ服を自分の腕にかけて淑女を遠ざけます。

 それに気付いてでしょう、気付かれないくらい小さく、アミラーゼ嬢が舌打ちを…勇者様、絶対に気付いてるよ! 耳良いもん!

「殿下ぁ…❤ 他の方ばかりずるいですぅ! わたくしのことも見て下さいませ」

「ああ、久しぶりだね。エントロピー嬢…」

「殿下ぁ、このドレスいかがです? 今夜、殿下に見ていただきたくって新調いたしましたのぉ」

 そう言って自分の体へと勇者様の視線を誘導するエントロピー嬢!

 ご自慢らしいお胸をぐぐっと二の腕で寄せ上げて勇者様に対して谷間アピール! 強調するなんて中々あざといね、ロリ巨乳令嬢!

「ああ、確かによく似合っているね。緑の地にオレンジの指し色は中々斬新だけど、よく纏まっている。袖口のレースはググラン工房の新作じゃないか?」

 しかし勇者様、あっさりかわしたー!

 エントロピー嬢はどう考えても谷間に目線を釘付けたかったでしょうに、明らかに勇者様は違うところを見ています!

 袖口のレースなんて問題じゃないよ! 令嬢は胸を見てほしいんだよ!

 …勇者様は格好良い男の人ですが、紳士なだけに『雄』って感じしませんよね。

 己のご自慢の武器(チチ)を眼中に入れてももらえず、エントロピー嬢硬直!

 その隙に次の刺客が勇者様の背中にしな垂れかかろうと…

「気分でも悪いのかな、クラミジア嬢」

 ……したところで、振り向いた勇者様に牽制されちゃったよ!

 でも敵もさるものながら、クラミジア嬢は一瞬目を見張ったけれど、すぐに立ち直っちゃいました。

 そっと勇者様の肩にすがりつき、頬を染めて上目遣い。

 何と流れるような媚態でしょう!

「ええ、そうですの殿下…わたくし、少し酔ってしまって……」

「それはいけないね。だがこんなにずぶ濡れの身では女性一人支えるのも難しいんだ。そちらのベンチで休むと良い」

 勇者様は異常接近かましてきたクラミジア嬢に引き攣りかけた笑顔を取り繕いながらもすぱっと切り捨て御免! どう見ても据え膳上げ膳のクラミジア嬢の肩を押し戻すと、その隣にいた他のご令嬢へと微笑みかけます。

「君、少し悪いけれどクラミジア嬢は気分が優れないらしい。あそこのベンチなら空いているから、付き添ってあげてくれないか?」

「は、はい…っ」

 勇者様の頬笑みに悩殺されたご令嬢は、うっかり提案を吟味する前に頷いてしまったようです。頷いた後で、ハッとした顔をしていましたから。

 お、おお…相手に有無を言わさず頷かせるとか、勇者様凄い。

 女性限定で勇者様の笑顔は破壊兵器並の精神打撃力をお持ちのようです。

「済まないが、頼むよ」

 駄目押しとばかりに微笑みながら、クラミジア嬢を押し付ける手際はやけに手慣れています。

 ………もしや、このシチュエーションって毎度のこと?

 手慣れるくらいに、毎度のこと?

 勇者様の苦労が偲ばれますねぇ…。

 クラミジア嬢は勇者様には取り繕いつつも見えない位置で舌打ちをするという小器用さを発揮していますが、やっぱりそれも勇者様には筒抜けでしょう。

 一方クラミジア嬢を押し付けられた方の令嬢は一瞬嫌そうな顔をしていましたが、勇者様の駄目押し笑顔にも頷いちゃいましたしね。

 クラミジア嬢をちらりと見やり、恋敵(ライバル)を一人隔離できる機会だと思い直すことにしたのか。もしくは勇者様に素直ないい子と思われようとしてでしょうか。

 割と素直に、名前すら出てこなかったご令嬢はベンチへと隔離に離れました。

 わ、やっと脱落でもたったの二名!

 勇者様の額から、だらだらと冷汗が流れ落ちています。

 うん、あれ絶対に水滴じゃなくって冷汗。間違いなしです。


 二名が離脱し、しかし未だ肉食令嬢(ライオン)は十一頭…じゃない、十一人。

 そんな環境下、勇者様がしきりに私へと救援を求める目配せを送ってきます。

 ここで私まで関わったら、確実に面倒くさいとばっちりの嵐ですよね?

 勇者様にはいつもお世話になっていますが………


  a.見捨てる

  b.令嬢達に喧嘩を売る

  c.木の陰から見守る

  d.勇者様を奈落に突き落とす

  e.勇者様に「助けて下さい」と懇願させる

  f.更に混沌を煽る


 さて、どうしましょう?

 




 次回、勇者様が「げそ」と戦います。

 久々にリアンカちゃんが傍若無人☆フルスロットル。

 かなりやりたい放題やらかします。

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