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156.勇者と魔王が迷走中

→ リアンカちゃん、引き続き野放し状態(王国滅亡フラグ?)



「く……ど、どこに…」


 どこに行ったのか…杳として行方の知れないリアンカを探して、俺は舞踏会の華やかな(さざなみ)を掻き分け掻い潜り、必死に彷徨いまくっていた。

 あんなに目立つ筈なのに、なんで姿が見えないんだ…!?


「おい、勇者」

「…っあ、まぁ殿」


 また誰かに足止めを食らうのかと、一瞬身構えたが…

 俺を呼びとめた相手がまぁ殿だと知り、肩の力が抜けた。

 ……………相手が魔王だと思うと、この反応は明らかにおかしいがな!

 だけど今は、形振りなんて構っていられなかった。

「まぁ殿、リアンカを見なかったか!?」

「おー…やっぱ探してたか。俺も丁度、せっちゃんに聞いて回収しなきゃなーと思ってたとこだ」

「………回収? 姫に聞いて?」


 ――おかしい。


 リアンカのやることなすこと、基本的に放置もしくは便乗をスタンスとしているまぁ殿が、回収…?

 何だか、嫌な予感がした。


「実はな…? せっちゃんが言ってたんだが、リアンカ…酒呑んだらしくって」

「……………」


 ――神よ、貴方は俺に試練を与え過ぎじゃなかろうか…。

 

 かなり飲酒が盛ん…というか酒好きの魔族や竜が入り浸っているせいか、ハテノ村は村全体での酒盛りの機会が多い。お祭り好きなことだと思うし、随分と余裕だと思うが飲んで騒ぐのは日常茶飯事だ。

 そんな、最中。

 記憶を探れば探るほど…飲酒の盛んな地だというのに、リアンカがアルコールを摂取している姿が、驚くほど記憶にないんだが。

 思い当たらないというよりも、これは飲酒自体していないんじゃ…。

 嫌な予感が、三倍くらいに膨れ上がった。

 我ながら、まだ大きくなるのかと驚いている。

「まぁ殿………その、リアンカが飲酒すると何かまずいのか?」

 そんなことないだろう?

 ないと言ってくれ…。

 だが、魔境に君臨する魔王は無情だった。

「なんだかんだ、リアンカは酒に強い。けどな?」

「けど…? なんなんだ、その不吉な前振りは……」

「前後不覚になるほど酔いやしないんだが…あいつ、酒を飲むと理性が緩んで箍が吹っ飛ぶんだわ。いつも以上にやりたい放題になっちまう」

「……………つまり?」


「なけなしの自制心とか、普段の手加減が全部吹っ飛ぶ」

「…………………」


 まぁ殿の顔は、真剣だった。

 真剣な顔で、深刻そうな声だった。

 そんな彼に、俺はこう言いたい。


アレ(・・)で自制と手加減があったのか…!?」


 とりあえず気になったのは、そこだった。


 まぁ殿曰く、リアンカは僅かな飲酒でほろ酔い状態に陥るらしい。

 そして、そこからが長いのだと…。

 まず、そうそう滅多なことでは潰れない。泥酔もしない。

 ただ理性に緩みが生じて、いつも以上に加減知らずな暴挙に及んでしまうらしい……魔王にそうまで言わせるなんて、リアンカは本当に怖いもの知らずというか、彼女に怖いものはないのだろうか。

 酔ってはいても正気の状態で、ただ判断能力に狂いが生じる。

 それはもう、正気じゃないと思うんだが…。

「…怖いぞ?」

 にっこりと笑う、まぁ殿。

 その軽く聞こえて虚ろに響く声音に、背筋がぞくっとした。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「~~~♫」

 

 んっ! 夜の風が気持ちいぃ…

 うっとりとした心持で、バルコニーから庭園へ降りて噴水を目指します。

 開いた胸元の素肌を通っていく風に、心地よいと思うばかり。

 お酒を呑んだせいか火照った体は、冷却効果を求めて水音の囁く方へと。

 さっきから熱かったんですよねぇ…

 こんな面倒で手間な衣装じゃなかったら、きっととっくに脱いでいました。

 でもこのドレスじゃ、一枚脱ぐのも大変だし。

 脱いだら脱いだで、物凄い露出だのなんだのに怒る人が…まあ、それは良いや。

 ふわふわした気持ちに背中を押され、私は踊る様に跳ねる様に。

 ステップを踏むみたいにして、くるくる回ります。

 うん、やっぱり夜の風って冷たくって気持ちいい!


 私は、御機嫌でした。


「御機嫌ですね、異国の方」

 そんな私にかけられる、声。

 ん、だれ?

 首を巡らせ見てみると、そこには見知らぬお兄さん。

 余裕の態度も服装も、使用人ではないと明らかで。

 うん、舞踏会に出席する方だけあって大変身なりが立派です。

 でも会ったことのない人です。

 なんで声をかけられたのかな…?

 私はわからなくて、首を傾げました。

「ふふ…不思議そうな顔をされていますね。貴女のお国には、男が女性に声をかけるということはないのでしょうか」

「んー? いや、ありますよ? お隣の奥さんに調味料を借りに行ったりとか」

「それは…大分、私の言う内容とは趣旨が離れていますね」

「他には、お母さんからR指定のご本を取り戻すべく決闘を挑んでいる姿とか…」

「それは確実に違う意図の下に行われている光景じゃないかな」

 ハテノ村では割と頻繁によく見る光景です。

 この前も、近所のサムソンがお母さんにお宝取り上げられて、木刀で挑んでたなぁ…おばさんは、フライパンで迎え撃ってたけど。

「貴女は、殿下の今宵のパートナーを務められている方ですよね? なんだか想像とは随分と違う方のようだ…」

「そんな想像とは違う私に何の用でしょーか」

「いや、バルコニーから此処で踊る君の姿が見えてね?」

「わあ、丸見ーえ☆ あー…会場の窓際から見えやすい位置だったんですねぇ。こっちから見えるってことは、あっちからこっちも見えるという、あっちこっちそっちのあれそれ…」

「ええと、お酒を呑んで踊っていたせいなのかな? 大丈夫かい」

「大丈夫☆ 滑舌がしっかりしている内は酔ってません♪」

「とてもそうは見えないなぁ」

 何だか見知らぬ人に、心配そうな顔をされました。

 やったね☆


「それじゃ、心配してくれたお礼と今夜の出会いを祝しまして♪

本日は出血大サービス! お兄さんに素敵な贈り物をば致しませう♪」


 何を贈ろっかな♪

 私はわくわくと算段を組み立てながら、胸元に手を突っ込み…

 こっそりと隠していた、紫色の種を取り出しました。



 

   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

   


 会場内には、見当たらない。

 これはもしや会場外に出たとか、もうそれしか考えられねーんだが…

「勇者、バルコニーの方を回れ。俺はちょっと廊下と近辺の部屋も見てくっから」

「ああ、わかった。俺はバルコニーを見た後、庭園の方にも行ってみる。見つからなかったら会場に戻るから、その時はまた落ち合おう」

「…ったく、リアンカのヤツ一体どこにいるんだか」

 うっかり目を離したら、とんだ面倒事になっちまった。

 溜息半分、俺は割り振った役割通りに廊下へと向かったんだが…



「しくしくしくしくしく………」



「……………ん?」

 会場から出て少し歩いた途端に、どこからともなく女の泣く声が聞こえた。

 いきなり啜り泣きって怪談かよ。

 俺の耳ははっきり言って、かなり良い。

 多分人間だったら、もっと近寄らないと気付かなかっただろうけどな。

 そう思いながらも、抜群の怪しさに気を引かれる。

 こんな見え透いた変異……関連性を疑うなって方が無茶だろ。

 怪しいもんは、取り敢えず確かめてみねーとな。


「……って、なんだこの状況」

 

 だけどな、どんな状況にも唖然とするなってことだったら、また話は別だろ。

 声の聞こえるまま、発生源を求めて彷徨ってみりゃ…

 なんとも言いようのねぇ光景が、そこに。


「しくしくしくしくしくしくしくしくしく…」


 啜り泣く、女。

 それも十三人も。

 何この数。やっぱ怪談?

 着ている衣装の色がピンクだとかオレンジだとか明るい色なんで、本気で怪談っぽくはねーけどな。

 そんで何故か。本気で何故か、全員が頭にウサ耳とか猫耳とかつけて仮装状態。

 更には前衛的な翼のオブジェを背負い、髪型が独創的なことになってんだが…

 うん? 何の仮装だ?

 その服装の意図がわからねー…

 しかも、鳴き声はますます悲愴感たっぷりだし。

 大きく膨らむスカートをおして寄り集まり蹲り、まるで群れでも形成してるみたいな有様でそろって泣いている状況は……あー、うん、やっぱ異様だわ。

 ちょっと面倒臭さが割合増ししてんな…関わりたくねえ。

 けどなー…放置して、後で勇者にばれた時の方が面倒かもしれねぇしな。

 話を聞くだけ、聞いてみっか。


「何を泣いているんだ。どうした?」


 我ながらどうでもいい相手に対する、素っ気無さすぎる声になったと思うわ。

 それでも声をかけられるとは思ってなかったのかね。

 はっとした様子で、パッと顔を上げたのは一段の中で一際目立つ…縦ロール。

 …ああ、うん。なんかタナカさん思い出した。

 なんとも言えない微妙な心地。

 だがこっちの微妙さなんぞ知らねーからな。

 俺の顔を見て、驚きに固まった女は呼吸も忘れたみてーな顔。

「口、聞けないのか? それとも喋れる口は持ってないのか?」

 とにかく何か喋れよ。話しかけてんだから。

 そんな思いを込めて、皮肉げな色の眼差しで見下ろしてやる。


 ………かなり不遜な態度だと思うんだが。

 何故か、頬を染められた。解せぬ。

 なんだこの女、虐げられて喜ぶ特殊な性癖持ちか…?と。

 そんなことを一瞬思ったのは…流石に言わねー方が良いだろ。


「て、天使様…?」


 残念、魔王だ。

 けどこの女、目も耳も悪いのな。

 第一声が天使はねーだろ、天使は。

 あまりのことに、一瞬爆笑しかけたぞ。

 勿論、腹筋を戒めてにっこりと口元で笑むだけに留めといたけどな!

 今の俺は話を聞く身、情報を必要としている身。

 その辺を弁えつつ、もう一度しっかりはっきり問いかける。


「お前達は、何を泣いている?」


 その言葉に、次々と返される女達の言葉。

 正直…ちょろすぎだろ。

 なんだこの、打つ前に響いてくる感じ。

 ある意味、会話のキャッチボールが不成立。

 もう俺が何かを言う前に、勝手に喋ってくれるよ此奴ら。


 けどその中に、気になる情報を見つけることになっちまって。


「あ、あの方…っ この身に媚香はまだ早いなどと仰って!」

「ほほう? それで?」

「こっちの方が一押し☆等と仰って、わたくしの香水を勝手に更新されたの!

そればかりか…っこんな格好まで!」

「ほうほう…成程」

「あんまりです…っ あんまりですわ!」

「ふぅん…?」


 感情的になった女の話は、こっちで舵を取らなきゃ紆余曲折しちまうからな。

 かなり、我ながらかなり根気強く話を聞き出したもんだ。


 そうして、話を聞いた結果。

 この女どもを泣かした上で、ふらふらとどこかに消えたっつう女の目撃情報を入手した訳だが。

 状況からも話からも、リアンカのことに間違いねーよな…?


「……………庭園の方に向かった、ね」


 こりゃしまった。

 勇者(アイツ)の方が当たりか…。


 泣きやむなり現金に、俺の周囲に群がってくる女ども。

 おいおい、泣いたせいで化粧崩れてんぞ…。


 ある意味で先程以上にホラー状態に変貌を遂げた、女ども。

 その相手を適当にいなしながら、疲れきった俺はがっくりと肩を落とした。





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