147.決勝戦の行方→次なる試練(勇者様的に)
王国を救え、脅威を退けろ。
民衆が避難する時を稼ぐため、現場に残った王子を救え。
例えこの命を落とし、五体が粉々に砕け散ろうとも、と。
王国自慢の騎士団とやらが試合会場に雪崩を打って突撃してきました。
…が、そのとき彼らが見たモノは。
試合会場を大破させたまま、地面に寝そべってまったりとくつろぐ竜と。
地面に胡坐をかいて竜と向き合い、馬耳東風気味の強い竜に根気強くお説教をかます半裸の勇者様(何とか膝枕からは脱出)と。
そしてそんな両者の通訳(半分以上意訳)を務める私と。
勇者様の背中に、茶色い壷から謎の軟膏を塗りたくるむぅちゃん。
すぐ近くには黒髪超絶美少女せっちゃん。
それとせっちゃんに膝枕をしてもらう超絶美青年(どう見てもリア充)。
あと、取り残された屋台の肉を貪る子竜(怪我はとっくに完治)。←無銭飲食…?
なんとも言えない空気が漂いました。
そよ…と鬚を風にそよがせ、生温い眼差しの騎士団長と騎士達。
なんとも言えない、微妙な空気が漂いました。
その後、試合はどうなったかというと。
それどころではなかったというのが正直な話。
しかし予想以上に図太い面々もいたようです。
そもそも、この試合だって腐っても神事の一環。
決着をつけないことには神に対して礼を失すると騒ぐ方がいらっしゃいまして。
何とか決着を決めないということで、簡易的な後始末…危険のないように瓦礫を撤去するなど…を行う人足を後に残し、場所を移して試合を続行という無慈悲な判決が出ました。
ちなみにGOサインを出したのは『おうさま』です。
目的のためには手段を問わなすぎです。
そこで場所を移動し、第二会場へ移動となったのですが…
試合の結果は、移動するまでもなく呆気なくつきました。
「命あってのモノダネ。あんな化け物とは戦えない」
モモさんが、棄権したからです。
いっそ潔い程に、清々しいまでのあっさり感で白旗振ってましたよ。
私とむぅちゃんのあれやこれやで、怪我の治療。
この時には何とか戦えるまでに回復(!?)していた勇者様。
でもやっぱり、流石に試合の続行にはきついものを感じていたのか、モモさんが降伏した時ほっと息をついていましたが。
竜が出た、とか。
魔王が非道に走った、とか。
勇者様が飛翔して竜に火を噴かせた、だとか。
さっきは、色々ありましたね。
仮にも自分の支配権を握っている人間がこの場にとどまり…
あまつ、片方が竜に捕まっているという状況下。
どうやらモモさんは、状況を見て自分が逃げる訳にはいかないと判断し、試合場に留まっていたそうです。結構無理やり引っ張り込んだ自覚がありますが、モモさんって義理がたい人だったんですね。
そして留まったモモさんは、目撃してしまった訳です。
とばっちりを恐れ、存在感と気配を極限まで抹消した、そのままで。
吹き荒れる傍若無人の嵐と、勇者様の人間捨てっぷりを。
そしてモモさんは棄権しました。
自分は職業と経験が普通じゃないが、肉体は普通の人間だから、と。
化け物とまともにやり合えるほど、人間捨ててないからと。
そんなことを言ったら、勇者様が嫌そうな顔で大抗議しそうですが。
でも事実、モモさんの勇者様を見る目が化け物を見る目そのものですよ。
まあ、先程の騒動で四肢のうち三本を使い物にならなくされたって言うのに、今では既に平然と歩きまわるようになっていますしね。
普通の人間が見たら、化け物と思っても仕方ないでしょう。
腕の骨も足の骨も、その他の骨も。
折れている箇所は、私とむぅちゃんが繋げました。
綺麗に滑らか!
ヒビの後もないくらいつるつる綺麗な骨に仕上げてあげましたよ?
内臓も今では綺麗なピンク色です。
腹を掻っ捌いてはいないので、多分だけど。
勇者様は、遠い目をしたままぽつりと呟きました。
「リアンカは人のことを人間やめてるって言うが……
今回のそれは、リアンカとムーの功績だと思うんだ」
「やだ、勇者様が頑丈なんですよ☆」
「いくら俺でも、骨を折られたら普通に完治まで時間かかるからな!?
経験から言うが、あれは腕だけでも全治二か月は固い手応えだった!」
「勇者様…折られた本人の癖に感覚で全治にかかる時間が分かるなんて……
どんな経験積んでるんですか?」
「………聞きたいのか?」
「取り敢えず骨折個所とそれぞれに行った治療行為をまとめて教えてもらえますか? 勇者様の健康管理に携わっている者として、今後の為に興味があります」
「リアンカって………薬師としては、真面目だよな。怪我と病気が絡んだ場合に限り。変な薬の創作意欲が湧かなければ」
「やだ、勇者様。私はいつだって真面目じゃなくとも本気で生きてますよ?」
「くっ…悪意がないのが性質悪いな!」
とにかく、そんなこんなで。
決勝は竜の乱入で有耶無耶の内に終わり、モモさんが正式に棄権を申し出て。
こうして、騒動続きだった御前試合は幕を閉じました。
勇者様の心に、また沢山のトラウマを残して(爆)
その、夜です。
いつもは離宮に引きこもりの勇者様でも、絶対に欠席出来ない華やかな催しが王宮で開催されていました。
王国の名ただる重鎮や、貴族。
そして他国の来賓の方々。
明日を前にして無事にこの日を迎えたことと、御前試合の結果を祝う舞踏会が盛大に開かれたのです。
そして私達…勇者様の個人的な賓客である、私達にもまた。
煌びやかな封書に、流麗な文字。
正式に来訪を請う、招待状が届いたのです!
………え、招待したひと、正気…?
前のときも、あんな散々引っ掻き回したのに。→ナターシャ姐さん(爆)
明日はいよいよ、今回の勇者様の帰郷における主目的。
勇者様のお父様の、国王在位期間十周年を祝う式典です。
別に主役が国王さんなら、勇者様いなくてもよくないかな?とも思いますが。
勇者様が健やかなお姿を広く知らしめることで、他国への牽制や世継への不安を抑えつける目的があるそうで。
何しろこんなに大きな(人間の国々盟主国)だっていうのに、後継ぎが勇者様だけだそうですから。勇者様の不在が長引くこと、重要な式典に顔を出さないことを理由に無益な後継争いが始まらないよう、牽制はしっかりとやっておきたいというのがお国としての方針だそうです。
勇者様、た~いへん☆
随分と重い荷物を、その肩に背負っておられるようです。
でもまぁちゃんを倒さないと、帰れないんですよね…?
先ほど改めて目に焼き付いた、勇者様とまぁちゃんの実力差。
まぁちゃんが本気出したら勇者様ったら容易にぷちっとやられちゃいますね!
いつまで経っても、勇者様がお国に凱旋できるような気がしません。
「十年?」
「ああ、十年だ。十年頑張って結果を出せなかったら、勇者としての使命は諦めて国に返り、王位を継ぐことになっている」
「え、そうだったんですか!? 何となく勇者様の大業は果たせそうにないから、もういっそのこと永住するんじゃないかなって思ってました!」
「友達顔して、それが本音!? 永住って……ハテノ村…いや、魔王城の地下に骨をうずめて堪るか!」
一応、お国の方から十年という期限を突き付けられているそうですけれど…そんな期限を切っても、どうにも達成は難しそうだと思うのは私だけでしょうか?
「勇者様の健在ぶりを示すのは式典だけじゃ駄目なんですか?」
「どこにでも、自分の目で確かめないと納得しない人はいるから。確実に本人だと大勢に示さないと、「偽物だったんじゃ!?」と騒ぎ立てる人がいるんだ」
「ちょー面倒くさいですね」
「ばっさり一言!?」
「それで勇者様はそんな嫌々顔しつつ、正装に身を包んで頑張っちゃうんですね」
「それ以前に、俺は王子だからな? 当然の義務として、公務として、この手の催しには参加するのが義務なんだからな? ましてやそれが王宮での催しなら」
「あれ、なんで王宮の催しなら…なんですか?」
「……出席できない正当な理由もなしに欠席するのは、関係各所、出席者その他諸々に対する侮辱に取られるんだ。軽んじられている、と」
「わあ☆皆さん、被害妄想が逞しいというか…勇者様、苦労してますね」
「王宮で行われるだけに、逃げ場はなし…この上は、せめて心安らげる相手を傍に置きたいと思うことくらい………許されても良いと思うんだ」
「ああ…それが、出来るだけ隠して遠ざけておきたいだろう魔境出身者を積極的に舞踏会に引きずりだそうとする理由、ですか」
「この手の催しは、本当に…女性が、怖くて。単独での出席なんてとても、とても。誰かが傍にいないと、く、食われる…」
「勇者様………」
「お、お願いだから…傍に居てくれ」
「それ、私に楯になれって言ってるんですか?」
「それは違う。けどまあ、そう受け取ってもらっても構わないけど…リアンカだけじゃなく、まぁ殿にも要請しているんだからな?」
「は? 俺もかよ!」
「怖いんだ! 本当に怖いんだよ…! 俺の身を鑑みてくれ……本当に怖いから!」
「うわー…こいつ、本気か。本気だ」
勇者様は雨に濡れた子兎のようにふるふると、儚く睫毛を揺らしていて。
とりあえず目の保養だと思いました。
儚げなお姿も、なんだかえも言われぬ美しさと色気があって凄いですね☆
男の人なのに(笑)
この場に画伯がいたら、きっと素敵な絵を描き上げてくれたと思います。
服装とかにヨシュアンさんの創意工夫が施されるでしょうけれど☆
多分、衣服を乱された絵になることは確実です。
それでなんか桃色の題名をつけられて、闇市に流れるんだろうなぁ…
「……リアンカ、なんだか微妙な悪寒がするんだが…変なことを考えてないか?」
「今夜の舞踏会に出席する、お嬢様方の念でもキャッチしちゃったんじゃないですか? アンテナずらした方が良いですよ」
「あんてなってなんだ!?」
「まあ、それはさて置き」
「横に置かれた!」
「私はともかく、まぁちゃんにも楯要請とは…
これはもしや、ナターシャ姐さん再び☆ですか? 」
――あ、勇者様が噴いた。
女装の洗礼が、いま田中さんの身にも…!