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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~本戦開始~
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133.ひさく(卑劣な作戦)

 さてさて、始まりました三回戦。

 まずは黒覆面二人組みの試合ですが…

 どっちがどっちか傍目にわかりにくくて、応援がし難いことこの上ありません。

 もう正体が露見しちゃったんだから、覆面止めればいいのにモモさん…。

 辛うじて、本当に辛うじてですが、モモさんの首にピンクの首輪がはまっているお陰で、何とか区別がつく状態です。

 いっそどっちかが衣装の色を変えれば、色違いみたいで判別しやすいのに。

 サルファを青く染めるとか。

 もしくはモモさんを赤くするだとか。

 ですがそうもいかないらしいのが、悲しいかな忍者の様式美。

 片方はなんちゃって忍者ですけどね!

 

 さて、そんななんちゃって忍者に復讐の鉄槌を下すべく、引退を余儀なくされた元本職忍者は静かに燃えていました。

 目の奥に闘志の炎が見えるようです。

 物静かな青年のようですが、胸の内には熱いハート(爆笑)があるのでしょう。

 そんな彼に頼まれ、必勝の策を授けることとなった私とむぅちゃんですが…

 私達に頼むってことからして、まず望んでいるのは正攻法じゃありませんよね?

 むしろ多少ど汚くても、問答無用で勝ちを攫う…ついでに、多少どころでなく痛い目に遭わせる系の若干卑怯な手段を求められているような気がします。

 ただの私の思い込みかもしれませんが。

 でも、そんなことはなく。

 私の予測は思い込みではなく、そのままずばり的中していました。

「どうぞ、よしなに」

 そう言って、献上品を捧げるモモさん。

 なんだか私達、まるで悪魔扱いされてるみたい…。

 (にえ)はいりませんが、でも私達は差し出されたモノは大概受け取る主義です。

 特にそれが欲しいものだったら…

「奪ってでも手に入れないと、ね……

だってもう、手に入る機会が巡ってこないかもしれないんだから」

「わあ☆むぅちゃん悪役!」

「人のこといえるのかな、リアンカ」

「私は悪役じゃなくて、黒幕ポジションです」

「うわ、しっくり」

 そうして黒い取引が成立したからには。

 正式な契約を反故にする程、私達は信用を切り捨てているわけじゃありません。

 そもそも守る気がない契約なら、絶対に正式なものなんて結びませんよ。

 今回はモモさんからの今後の信用と協力を勝ち得る為です。

 ええ、ですから私達も本気を出そうと決めました。


 サルファの顔色が若干どころでなく悪くなっていましたが…

 逃亡したら、わかっていますね?

 

 私のにっこり笑顔に、サルファは冷や汗をだらだらと垂れ流しながらただこくこくと首ふり人形のように頷いたものでした。


「という訳で今回、私達が忍者の彼に提案させていただいたプランがこちらです」

 ちゃんと効くかどうか、我らが魔王様(まぁちゃん)にも判断してもらおうと概要を伝えると、感想は以下のものでした。

「うわ、えげつねぇ…」

「的確に、奴の痛いところを突いていると思いますけど?」

「うん、突きすぎだろ」

「そうかな。これなら、あの見た目のややこしさも解決だと思ったんだけど」

「一応、ここぞという時の方が油断を誘えるってアドバイスしてあるから、もしかしたらやらないかもだけどね」

「お前ら、本当に容赦ねぇなー……そういうところ、俺も同感だけどな」

 まぁちゃんが呆れた様に、私とむぅちゃんの頭をぽんぽんと叩いて。

 苦笑気味に肩をすくめた丁度その時、第三回戦サルファvsモモさんの試合が始まろうとしていました。



「衆目の前で生き恥をさらしてもらおう…覚悟!」

 ピンクの首輪の黒覆面が、そう言って手に取ったモノ。

 鞭です。

 猛獣使いの如き、鞭です。

 …あれ、嬲る気満々ですね。

 ですが「痛いの嫌い(サルファ談)」と言って憚らないサルファです。

 真っ向から喰らってくれるとは、到底思えませんね。

 奴のすばしっこさは折り紙つきです。

 だけど本職忍者も素早い素早い。

 目の前、黒づくめ×2は目まぐるしく入れ替わり、立ち替わり。

「大人しく嬲られろ…!」

「えー、やだー。痛いの嫌いだしー?」

 縦横無尽に跳び跳ねまわる姿は、蚤を思い出します。

 目で追うのも精一杯ですが、本当にもうどっちがどっちやら区別がつきません。

 というか、本職忍者と張り合うサルファの素早さって…

 奴は本当に、才能を無駄にしているというか。

 生まれてくる家を間違えましたね。

 曲芸師か忍者の家に生まれれば…って、そういえば奴の職業は軽業師でしたか。

 滅多にそれっぽい姿を見ませんが…ある意味、天職?

 どちらにしろ、あのちゃらんぽらんな性格さえもっとマシだったら…。

 親御さんは息子の人格形成に失敗したとしか言いようがありませんね。

 パワーファイターにはなれなくても、素早さを活かした戦い方を身につければ立派な騎士にもなれたかもしれません。

 人格さえ、まともだったらの話。

 

 私が心底から残念がっていると、試合場に変化が現れました。

 モモさんが、業を煮やしたのでしょう。

 鞭を一端収め、飛び道具に武器を切り替えました。

 わあ、手裏剣だ! 流石、忍者。

 …でもあれ、重いので二つ三つしか持てないと聞いていたのですが。

 あれー? 見間違いかなぁ?

 モモさんの手に、手裏剣が八つくらい握られているような…

 どうやら、モモさんは見た目よりも力持ちなようです。

 さて、ではその腕前は?


「死ね…!」

「俺が死んだら失格じゃん!」

「報復ができるなら、試合などどうでもいい!」

「わあ☆言いきられた!」


 サルファ目がけて、容赦なく振舞われる手裏剣。

 咄嗟に跳び退ったサルファ。

 奴が直前までいた、その場所に。

 どずっ、と。

 やたら重い音と共に、手裏剣が突き刺さりました。

 ………あの床、石畳なんですが。

 サルファの逃げの姿勢に、更なる必死さが加算されました。

 どうする、サルファ。

 貴方が助かる道は…正々堂々と勝負することです。

 逃げるから、モモさんもムキになるんです。

 サルファがちゃんと向き合えば、少なくとも飛び道具は使わないんじゃ…?

 でもやっぱり、サルファはサルファでした。


「ぎ、ぎぶ…っ」


 己の命が危機と悟るや、保身に走るのはどうかと思いますが。

 審判に向かって、奴は降服宣言を上げようと…

「させるか!」

 見て取ってモモさんも悟ったのでしょう。

 審判へと向けた一瞬の余所見の隙に、駆け抜ける黒い影。

 モモさんはサルファに急接近し、どげしっと蹴り転がしました。

 本人も言っていましたが、モモさんは勝負の勝ち負けに拘っている訳でも、サルファに勝ちたい訳でもないのでしょう。

 ただ、復讐がしたいようで。

 なのでサルファの降参を受け入れる気は更々ないようですね。

 蹴り転がされたサルファもそれを分かっているのでしょう。

 モモさんを出し抜いて白旗を上げられないものか、様子を窺っているようです。

 ではちょっと、この辺で声でもかけておきましょうか。


「サルファ、わかってるー?」


 私の声が聞こえたのでしょう。

 サルファの顔がこちらに振り返り…私の笑顔を見て、顔を青褪めさせました。

 何たる失礼!

 内心の苛立ちを抑え、にこにこと笑いかけます。

 ただ、どうやら目は笑ってなかったようで。

「リャン姉、その顔こわいって」

 呆れたようなロロに、若干引き気味のツッコミをもらってしまいました。


 さあ、逃げられないことを思い出したサルファ!

 その退路は完全に塞がれ、もう立ち向かうしかありませんよ。

 ようやっと腹をくくったのでしょう。

 とうとう、サルファが武器の鎖鎌を構えました。

 というか、試合が始まっているにも関わらず今の今まで武器を収めたままだった時点で、奴の戦意が如何にないかがわかりますね。

 しかしそうも言っていられなくなったのでしょう。

 じりりと距離を取り、モモさんと対峙するサルファ。

 対するモモさんは再び鞭を取り直しました。

 …中距離武器vs中距離武器、ですか。

 小器用なサルファだったら、それも難なくこなしそうですが…

 見る側としては、どんな試合になるのか予測が難しくなってきました。

 分銅がひゅんひゅんと音を立てて円を描きます。

 襲い掛かったのは、モモさんが先でした。

 ただ、その狙いはサルファではなく、手元の鎖鎌。

 円を描く鎖に、鞭を絡めにかかりました…!

 わあ、先に武器を封じる気ですね!?

 サルファはむしろ襲いかかってきた鞭に鎖を突き出し、巻き付いたところを鎌で切ろうと…したところでモモさんが、鞭を引張ります。

 サルファの手から、武器を奪い取ろうと。

 一瞬力を弱めてから、急に強く引かれ、サルファが一歩たたらを踏みました。

 猛禽のように鋭い目が、僅かに体勢を崩したサルファに襲いかからんとして。

 …ですが、モモさんの方が飛び退ります。

 いつの間にか、サルファの手には無骨なナイフ。

 近寄ろうものなら、その瞬間に突き刺そうというのでしょうか。

 サルファが勝負に気を入れたからこそ、停滞が訪れました。

 互いに互いの出方を窺い、迂闊に動けない空気。

 その停滞の中で。


 モモさんが、己の覆面に手をかけました。


 ああ、ついに。

 ついに、私達が授けた策を使うって言うんですね…!


「…!!?」


 ひゅっ、と。

 サルファが息を呑む音が聞こえました。

 ついで、噎せて咳き込む音も。

 奴の顔が、盛大に引き攣っているだろうことがわかります。

 ええ、そりゃもう覆面越しでもわかりますよ。

 そうでしょう、そうでしょう。

 何と言ったって…


「ばっばばば…婆ちゃん!!?」


 そこに、モモさんの覆面の下にあったのは。

 マルエル婆、の顔…だったんですから。


「あふぉあいえrじょうぃああばえわわ……!?」


 何と言っているのかわからない、というか言葉になっていません。

 サルファ、慌て過ぎ。取り乱し過ぎ。

 しかしここまで取り乱してもらえると、策を提供した甲斐もあるというもの。

 わたわたとモモさんの顔を指差しながら、サルファが何かを喚いていますが…

 奴が何を言いたかったのか、言葉として聞き取れた人はいませんでした。

 ただ縋るような目を、審判に向けて。

 口をはくはくと動かしながら、モモさんを指差します。

 ですが、審判は無情に切って捨てました。

「試合前に、変装術の使用経過を確認している。本人に相違なし。

よって、試合続行!」

「…!!」

 どこからどう見ても、取り乱しているサルファ。

 そして身に染みついた、上下関係。

 体に教え込んだのでしょうが…

 顔を見ただけでここまで動揺するなんて余程ですよね。

 あのちゃらんぽらんな、サルファに。

 マルエル婆はどれだけ徹底して、教え込んだのでしょうか。

 最早、奴は怯える子鼠の如く。

 そう、顔面を蒼白にして、抵抗の意欲さえも刈り取られていました。


「さあ、お仕置きだ」


 びしぃぃぃっ、と。

 鞭を鳴らすマルエル婆に変装したモモさん…。

 その女王様然としたお顔で鞭を振るうとか……

 あまりにも似合いすぎていて、逆に笑えません。

 私達はサルファの狼狽えぶりに、全力で腹筋酷使の大笑いでしたけどね!


 そして。

 無情にもサルファは襤褸雑巾のようになりました。

 なった挙句、その覆面を剥ぎ取られたのでした。



「…フィサルファード!?」



 なんか遠くの方から、渋い驚愕の声が聞こえた気がしましたが…

 まあ多分、きっと気のせいでしょう。

 その後のサルファの災難は、私の預かり知らぬものでした。

 だっていつの間にか、姿消してたんだもん。




次回、勇者様の試合。

気になる、そのお相手は…?


ヒント1:げす。

ヒント2:前にどこかで…?

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