131.報復活動は忘れずに☆
勇者様が魔法少女(爆)を征し、一回戦を突破して。
それから二回戦はなんと言うこともなく過ぎました。
うん、平凡といったら悪いのかも知れませんが、特に語るところもない普通の戦士さんで、一回戦を見た後だと逆に何の面白みも感じられませんでした。
無理もないと思うのは、私だけですか?
一回戦みたいに紛糾したら、きっと面白かったのに。
過ぎ去ってみれば、あのツッコミどころ満載なしあいは勇者様もとっても活き活き(ツッコミ)していて、面白いものでした。
ですが、まあどんな試合かだっただけ。
二回戦がどんな試合だったのか…
その概要がなんとなく察せられる部分だけ思い返してみましょう。
~第二回戦 ライオット・ベルツvs戦士A~
ちなみに、対戦相手の名前は忘れました。
もう戦士Aでいいと思います。戦士Aで。
戦士Aは、予選を勝ち抜いた一般の戦士でした。
顔中にこれまでの人生、その激戦の連続を窺わせる派手な傷が走りまくった、苦み走った強面の大男です。
渋くて今にも歴戦…!という感じの戦士は言いました。
「俺は負けない…! 貴様のような、リア充には、絶対に!!」
血を吐くような、その言葉。
………男の僻みですか?
今にも血の涙を流しそうな、渋いお兄さん。
今にも熊を一撃で昏倒させそうな気迫に、勇者様はどんな圧力を感じたのでしょう。一心に向けられる激しい感情に、勇者様がずさっと後退り。
「顔がよくて強くて賢くて、おまけに大国の王子だと!? しかも勇者だと!!」
「そ、そうだが…その、褒めてくれてありがとう…?」
あ、駄目ですよ。勇者様。
いきなり僻みを向けられた混乱があるのかもしれませんけれど。
そこで肯定した上にお礼を言っちゃったら、嫌味か皮肉にしかなりませんって。
喧嘩の売買が成立しちゃってますよー。
案の定、勇者様の戸惑い混じりな例の言葉に。
戦士が熱く燃え上がりました。
憤怒で。
「貴様だけは俺が潰す…!」
「冷静に、冷静にならないか!」
「うるっせぇ!! どうせその顔だ! 今まで散々ちやほやちやっほや可愛い可愛いされながら育ってきたんだろうよ!! そんなヤツが勇者なんて…!」
「………え?」
「女にもてるために生まれてきたような、貴様が憎い…!!」
「え?」
あれ?
僻み戦士の言いがかりのような言葉の数々。
それを押し付けられた勇者様の雰囲気が、急になんだか変わったような……
そう、え?という口調にも、なんだか含まれる黒い何かが…
………顔は人のよさそうな薄笑みを浮かべて、います。
でも。
でも、目が笑ってないんですが…。
こ、こわ…っ
どうしたことでしょう…。
あんな勇者様、初めて見たんですけど。
だけどそんな勇者様の変化に、一番気付くべき人が気付かない。
僻み戦士は、勇者様の急変に気付かず熱弁をふるいました。
「どうせ苦労らしい苦労もしたことねえんだろう!? 良いよな、王子様は!
女の子にもちやほやされて、ちやほやされて! 見ろよ観衆、あの大人気!
みんな貴様への歓声じゃねーか!!」
いや、そんなことないよ。
若干名、戦士のお兄さんに同調したらしい男衆が、呼応するように戦士に「そうだそうだ」と応援の声を上げています。
逆に女性陣は、「あいつ最悪―」と女性からの評判駄々下がりですが。
「勇者の選定もなんかの間違いなんだろ! 貴様みたいな苦労知らずの勘違いボンボン見てると、腹が立つんだよ! たった一人いい目ばっかり見やがって…!
貴様が全然たいしたことないって、俺が証明してやる!!」
何たる無謀な…。
勇者様ほどの哀戦士も、そうそういないと思うんですけどねー。
………結果、表面上は口元のみ笑顔でしたが。
やっぱり勇者様も、癪に障っていたというか…怒っていたようです。
地雷はやっぱりアレですかね?
『女の子にちやほや』
『苦労知らず』
『勘違いのボンボン』
そして、勇者様のハリセンが火を噴きました。
わあ☆ あれって雷以外の属性攻撃も出来たんだ…。
多分、勇者様の怒りに反応したものと思われます。
「俺の苦労も知らないで…!!」
あんなに悲しそうな怒り方をした勇者様、初めて見ました。
そうして僻み戦士Aは全身こんがりローストされて、退散して行ったのです。
当然の如く、担架で。
「俺は、俺はそんなに苦労知らずに見えるのか…!?
のほほんなんて言葉とは、生来無縁に生きてきた気がするのに!」
「勇者様、あなたは間違ってないよ…」
うん、実際に間違っていない気がしました。
こうして盛大に落ち込ませつつ、勇者様の二回戦は終わりを告げました。
さて、その間。
同じく二回戦に勝ち上がっていた他の面々は…
誰も応援に行かなかったのですが、モモさんは一人ひっそりと一回戦、二回戦と勝ち星を拾っておりました。
うん、ごめんね。モモさん、ごめんね。
でもだってモモさんの試合、勇者様の試合と時間が被ってたんだもん。
彼は敵愾心たっぷりに、冷や汗を流すサルファを睨みます。
「待ってろ……次で、潰す」
二回戦を勝ち上がると、順当に行けばサルファの相手は…
それこそが、その相手こそが標的だと。
モモさんが、思いっきり酷薄に思いつめた笑みを浮かべていました。
でもサルファの方は、すっかり試合への熱意もなくなっていて。
フィーお兄さんを倒したことで、サルファはすっかりやる気も消滅。
試合後、どうやら私達が知らない間に、話を付けていたようです。
いわく、この国に滞在中はサルファの父に黙っていてもらえるとのこと。
それつまり、今後は魔境にお迎えが来るかもしれないってことだと思うんですが気のせいでしょうか。サルファのご実家の方々も、大変です。
ですがそのことが、サルファのやる気を根こそぎ根絶したようで。
ヤツはすっかり、試合に勝ちあがる気をなくしていました。
………どうしてくれよう。
正直に言うと、サルファが勝とうが負けようがどうでも良いんですけどね?
…モモさんが、やる気な訳でして。
今回の試合相手は、モモさんじゃありません。
サルファが順当に勝ち上がらないと、モモさん念願の機会が失われる訳です。
やはり、公衆の面前で陥れられたことが彼の心にヒビを入れているようで。
個人的な戦いで決着を付けるのも、悪くはないけれど。
どちらかといえば公衆の面前での公式戦を、モモさんは望んでおられます。
人々の前で完膚なきまでに叩きのめし、それからサルファの黒覆面を剥ぎ取る。
やられたらやり返す、という訳ですね。
それをやって初めて、サルファへの復讐を完遂できると思っているようです。
別にそれは悪くありません。
ただ私がこだわる必要もなく。
やりたいのなら勝手にやってくれと、突き放しても構わない訳ですが…
そうも行かなくなった理由は、一つ。
モモさんが、ハテノ村の薬師に頼んできたんですよ。
どうか、対サルファ必勝の策を授けてくれと。
勿論、無償とは言わない…とのお言葉。
それに一気に私とむぅちゃんのやる気が鰻上りです。
だってモモさん、今まで非協力的で。
尋問しながら協力させざるを得ないと思っていたんです。
いやいや協力するのと、自発的に協力するの。
成果が上がるのは勿論…後者、ですよね?
前金代わりだと、手始めに秘伝の軟膏の作り方を教えてもらって、私とむぅちゃんは俄然やる気になった訳ですよ。
サルファ、覚悟せよ…(笑)
本気になった私とむぅちゃんに、勇者様が遠い目で黄昏ておりました。
虚しそうな勇者様の肩を、ぽんと叩くまぁちゃん。
ふるふると横に首を振るまぁちゃんを見て、勇者様は私達のやる気に水を差すまいと心に決めたようでした。
さて、そんな私達を見て顔を青褪めさせるのは勿論サルファです。
サルファとモモさんが再戦するためには、当然ですがサルファが二回戦を勝ち上がらなくてはなりません。
私とむぅちゃんがそれをお望みだと察し、サルファの顔は引き攣っていました。
本音を言えば、試合に負けてそろそろ引き上げたいのでしょう。
だけど奴にも、まぁちゃんの一瞥が。
「………リアンカが滅茶苦茶楽しみにしてる訳だが…てめぇ、この場合舐めた真似したらどうなるか…俺が言わずともわかってんな?」
「うん、流石に……まぁの旦那が何かする前に、リアンカちゃんに殺されちゃう」
「まだ余裕あんな…まあ、安心しろ。精々人体実験の被験体代わりにされるくらいだろ。……ただし、危険な材料で作った薬の」
「……………胃がどろっと溶けたりしないよね?」
「体中の毛穴という毛穴から紫色の泡が吹き出してもいいよう、覚悟はしとけ?」
「ナニそれ!? 覚悟してもどうにもなんないよね! 死ぬよね!!
…っていうか、もしかしてそれ実例とか言わないよね!?」
「奇跡的に、一命は取り留めるかもしれないだろ…
安心しろ、リアンカは未だかつて薬の実験で誰かを殺したことはない。
………お前が記念すべき第一号になるなら、話は変わるが」
「待って、旦那! 諦めないで! リアンカちゃんが前科持ちになっちゃう!!」
「ばっか、その場合は俺が完璧に証拠隠滅すっから大丈夫だって。死体は灰も残さず消滅させるから安心しろ? 間違ってもリアンカを前科者にゃしねーよ」
「全然安心できない!!」
「その決意は立派だが、方向性間違ってないか、まぁ殿!?」
「そうだよそうそう! やらかした時に始末を付ける覚悟じゃなくて、やらかさないように予防する方向に努力しない!? いや、しようよ!」
「………とりあえず、私に対して酷い言い様ですね、皆さん」
なんだかぎゃあぎゃあ騒いでいるので観察していたのですが…
とても頭が熱くなっているようなので、ちょっと声をかけてみました。
途端、びくっとする男三人。
うふふ……聞かれたくないようなことを、みんながいるような場所でするとか。
とてもとても、迂闊ですね?
…聞かれてないとでも思っていたんでしょうか。
「まぁちゃん」
「お、おう…」
気まずそうに、目を逸らすまぁちゃん。
もう、まぁちゃんったら…
私は、自分自身は手を汚さない主義です。
なのにいつ犯罪を犯してもおかしくないと思われていたなんて…
一番身近なまぁちゃんにそう思われていたなんて、とても悲しいです。
なので、この傷心の責任を取ってもらおうと思います。
「後で特別製のお茶入れるから、残さず飲んでね?」
「………わかった」
とりあえず具は、さっきお庭で見つけたお花にしましょう。
……………とても素敵な酸味を分泌してくれると思います。
一応、煎じる前に捕食していた小動物を消化しているかどうか確認しないといけないかな? ああ、あと、アレも入れよう…
「リアンカ、滅茶苦茶邪悪な笑顔してんぞ…まぁちゃん、とても不安」
「あれ、そんなに邪悪だった?」
「そりゃもう、今から何をしようかと顔に出るくらい」
「うわぁ、気をつけないとなぁ本当に!」
忠告してくれても、やると決めたことは覆しません。
お茶請けには、何を付けようかな…?
「勇者様?」
「ああ、なんだ…?」
とりあえず自分は、まずいことは言っていないよな…と。
自分の発言内容を思い返して確認しているのでしょう。
少し気まずそうながらも、そこまで不安は感じていないようです。
…が、
「まぁちゃん達の会話、楽しく聞けていましたか?」
「……………」
特に否定も、止めもしませんでしたよね?
私はにっこり、微笑みました。
「私、クッキーを焼いたんです」
「え?」
「試作品なんですけど…食べてもらえますか?」
「…………………ああ」
勇者様の顔色は、まるで死刑宣告を受けたかのようでした。
失礼ですねー…。
多分、精々慣れない苦味がするくらいですよ!
私やせっちゃんも食べるお菓子に、変な小細工はしません。
ただ、勇者様のお育ちになり、慣れ親しんだ食生活には今まで介在しなかった食材を使用しただけです。
抹茶、ていうんですけど勇者様はご存知でしょうか。
魔境にいる頃にも、特に食べさせた覚えはありませんし。
………ただ、抹茶クッキー、初めて作るんですよね。
なんとなく、分量的に適量よりかなり多く緑の粉を投入してしまったような気がしてなりません。クッキーの色は、柏の葉のようにま緑でした。
恐らく、相当苦い。
「勇者様、食べたら吃驚するだろうなぁ…」
「……………」
「しっかりしろ、勇者。多分だが、てめぇはまだきっと大分マシな方だ。
なんだかんだで、リアンカも勇者には手加減してるし」
「…あれで?」
「今までも結構、手加減してたぞ?」
「あれで!?」
………どうやら勇者様は、苦すぎ抹茶クッキー如きじゃご不満のようですね。
皆と同じ扱いをお望みなんでしょうか。
とりあえず今回は、更になんか足してあげようと思います。
………唐辛子で煮出した液混入済みの冷茶でも付けますかね。
さて、まぁちゃんと勇者様はこれで良いとして…
「サルファ…?」
「…!」
にっこりと、微笑み輝け!
「……………リアンカちゃ~ん、お、お許しを…」
「ふふ? なにを?」
私がまぁちゃんと勇者様にかまけている間に、逃げようとしていたサルファ。
逃亡防止にその襟首を掴み、引き止めるとびちびち暴れていましたが…
私はにこっとした顔のまま、声音だけ冷たく告げました。
「とりあえず、試合に負けたら…どうなるかわかる?」
「あ、AHAHAHAHAHAHA! ぜ、ぜ~んぜんわっかんないなぁ☆」
「………さっきの貴方達の予想、本当にしてあげるのもやぶさかないけど?」
「………………………まじめに戦ってきまっす」
しょんぼりと肩を落とし、すごすごと試合に向かったサルファ。
あんな調子で大丈夫なんでしょうか。
でもそうですね…まじめに戦うのなら、試合に負けたからと半殺しは可哀想。
うん、試合に負けたら精々……お腹から腕がにょっこり生える(移植)くらいで勘弁してあげようと思います。
そしてサルファは意地と根性で試合に勝ちあがり…
粘るようなその真剣な試合ぶりは、一回戦とは大きな違いで。
あの一回戦はなんだったのかと、更なるブーイングが飛び交うのでした。
とりあえずお仕置きは忘れないリアンカちゃんw