■令和の大学を考える
教員の長時間労働が社会的問題になっていますが、それでも「教員になりたい」という希望を持つ高校生は少なくないでしょう。いまの保護者世代にとっては、教育学部というと実績のある国立大学の名前がいくつも浮かぶかもしれませんが、いまは私立大学出身の教員が増えています。その変化について、教育ジャーナリストの小林哲夫さんが考察します。(写真=千葉大学・西千葉キャンパス、2023年、朝日新聞社撮影)
「国立大が優勢」でなくなりつつある
「学校の先生になりたい」
高校生の子どもが自分の将来についてこう話したら、保護者はどのようにアドバイスをしたらいいだろうか。保護者世代が大学受験を経験したのは1990年代から2000年代にかけてであり、当時の感覚でいえば、こう伝えるかもしれない。
「地元の国立大学の教育学部を目指しなさい」
国立大学で教員養成を行っている学部の多くは歴史が古い。1870年代(明治時代初期)に各地に設置された師範学校にさかのぼる。
たとえば、千葉大教育学部、埼玉大教育学部、京都教育大などの起源は千葉師範学校、埼玉県師範学校、京都府師範学校であり、いずれも1870年代に開校している。約150年にわたって地域に多くの教員を送り出してきた。こうした歴史の積み重ねによって、地域の小中高校、教育委員会にも、国立大学教育学部出身者を中心にネットワークを築きあげた。各学校ではその教員が卒業した地元国立大学の同期、先輩、後輩が多く教壇に立っている。国立大学教育学部には、ここで学べば優れた教員になれるという安定性があり、保護者など社会からの高い信頼が得られると信じられてきた。
では、2020年代のいま、どうなっているのか。
地域にもよるが、まだ国立大学教育学部出身の教員が目立つ。だが、その「勢力図」は少しずつ変わろうとしている。私立大学出身者が教育現場に進出するようになったからだ。教員イコール国立大学教育学部出身という、これまでの構図が成り立たなくなっている。
小中高校の教員採用数で私立大学出身者のほうが多い地域がいくつかある。見てみよう。
私立大出身の教員が増えてきた背景
私立大学出身者のほうが多くなったことについては、さまざまな背景がある。
(1)1990年代以降、教員不足が言われるなか、私立大学で教員養成系の学部の設置、定員増加が多く見られた。現在でも新しい教育学部が誕生している。21年以降、聖徳大、敬愛大(以上、千葉)、金沢学院大(石川)、大阪信愛学院大、千里金蘭大(以上、大阪)、兵庫大などだ。
(2)私立大学は国立大学に比べて教員養成にかなり力を入れるようになった。キャリア支援では、地元の校長経験者が教員採用試験や教育実習の指導などを行っている。カリキュラムを充実させており、1、2年次から学校現場で体験するところもある。
(3)小学校で英語教育が導入されたことによって、外国語教育に強い大学からの教員採用が増えた。関西外国語大英語キャリア学部英語キャリア学科小学校教員コースなどから、小学校教員が生まれた。
(4)教員志望者が国立大学を目指すという風潮がなくなった。私立大学が教員養成に力を入れていることが、受験生や高校教員の間で周知されるようになった。高校の進路指導で、教員志望者に国立大学よりも私立大学をすすめるケースが見られる。
(5)国立大学教育学部の学生がすべて教員になるわけではなく、ほかの進路を選ぶ学生がいる。国立大学の24年度の教員就職者は6807人、前年度比で42人減少している。教員就職率は69.0%で前年度比1.2ポイント増えたが、国立大学教育学部全体で卒業生の3割は教員になっていない(教員就職率=教員就職者数を分子に、卒業者数から大学院などへの進学者および保育士への就職者を除いた数を分母とした数字)。24年の教員就職率は、横浜国立大48.6%、埼玉大55.6%、千葉大55.8%だった。教育学部に進んでも半分は教壇に立たなかった。埼玉大教育学部の卒業生は教員以外の進路として、さいたま市、埼玉県庁、厚生労働省、NTTドコモ、三井住友信託銀行、日本マクドナルドなどに就職している(文部科学省資料、大学ウェブサイトから)。
文科省所管の審議会、委員会などで、国立大学教員養成系学部の不要論が語られることがある。行財政改革の一環として国立大学のスリム化を進める。つまり国はお金をかけたくないので、教員の養成は私立大学に任せていいのではないか―――という議論だ。私立大学に教育学部が多く生まれたのは、こうした国策の反映という見方もある。
私立大の今後に期待
国立大学出身者が減れば、それに代わって私立大学出身者が教壇に立つことになる。教育現場ではグローバル化、ジェンダー平等など新しいテーマに対応しなければならない。それにしっかり対応できる教員を多く送り出す私立大学が、教員養成系として評価されることになる。
一方で、こんな見方もある。多くの私立大学、なかでも新設大学は、国立大学よりも入試難易度は高くない。学力面で十分でない学生が教員にならないか―――という懸念だ。保護者のほうが偏差値の高いブランド大学出身だと、新設大学出身の教員はばかにされないかと心配する社会学者もいた。
実際、学力が不足している教員はいるかもしれない。だが、その理由を、彼らの出身大学に求めるのは合理的ではない。入試では偏差値が高くない大学に入っても、教師になるために一生懸命、勉強している。教育に目覚める学生も少なくない。そして教員になるためのハードルとして、教員採用試験がしっかりと機能している。
どの大学を出たかではなく、どれだけ優れた教員が生まれたかを問うべきであり、新設大学出身の教員であっても期待、信頼していいのではないか。
いまは教員が不足している。また、教員になっても定着しない、というデータが発表される。これは出身大学と関係なく、教員がハードな職場環境に置かれているからだ。優れた教員を増やすために働き方をより見直すことが求められる。
教員養成において、国立大学は役割を終えつつあるかもしれない。私立大学は優れた教員養成を続けるためにハード、ソフト面で力を入れてほしい。こうした大学に補助金を出すなど、国はできる限り支援していただきたい。将来、教員になる優秀な人材を集め、育てるために、手厚い政策が必要だ。いつの時代も教育はその国にとって重要な根幹となるのだから。
プロフィル
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。
【写真】教員志望者は国立大を目指さなくなったのか? 私立大出身の教員が増えている理由
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