非難、攻撃…「経験したことがない恐怖」 前兵庫県議の妻、一問一答

新屋絵理 島脇健史

 兵庫県の内部告発文書問題を調べた県議会の調査特別委員会(百条委員会)の元委員で、1月に死去した竹内英明・前県議(当時50)の妻(49)が4月下旬、朝日新聞の取材に応じた。SNSで「知事を貶(おとし)めた主犯格」「黒幕は竹内」といった誹謗中傷が拡散された。「夫は声を上げられないまま亡くなった。二度と繰り返してはいけない」と妻は訴える。

 記者との詳しいやりとりは次のとおり。

「経験したことがない恐怖」「言葉も出ない」

――文書問題の「黒幕」などの中傷は、いつ始まりましたか。

 昨年10月の知事選告示前は、百条委の委員でしたが、特に的になるようなことはありませんでした。

――知事選の期間中、百条委の委員長だった奥谷謙一県議の自宅兼事務所前で、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が「出てこい」などと演説し、「竹内のところにも行く」と言っていました。

 事務所を当面閉めることにしました。このころから、「責任とれ」「極刑に値する」などと脅迫のようなメールや郵便が届くようになりました。細かい部分がそぎ落とされ、「黒幕は竹内」というところだけが残り、本当のことのように広まっていく。経験したことがなく、ただただ恐怖でした。

――こうした中傷に反論しなかったのはなぜですか。

 こうした情報はものすごく拡散力や影響力があり、否定しても太刀打ちできない。反応して、またターゲットにされるという恐怖で、身動きがとれず、言葉も出せませんでした。選挙の期間中で、何か発信すると影響を与えるかもしれないとも考えました。

――知事選直後の昨年11月18日、議員を辞めたのは、竹内さんご自身の判断ですか。

 知事選の期間中から、家族に迷惑をかけるなら、それ以上仕事はできないと考えていたようです。

 議員が議員として仕事をするなら、おかしいことをおかしいと追及しなくてはいけない。でも、非難や攻撃がまた続く。私も、知事選が終わり、距離を置かないと自分の生活ができないと思いました。

「無数の中傷、政治家なら仕方ないのか」

――竹内さんが議員を志したきっかけは30年前の阪神・淡路大震災と聞きました。

 夫は当時学生で、神戸でボランティア活動をしました。生まれ育った地域で仕事をしたいということで、2003年に姫路市議になりました。

 今年1月17日、30年の節目だからとニュースでは見ました。夫は年が明けて調子が悪くなって、話しかけても返ってこない、みたいな感じで。食べることもお酒も好きだったのに、好きなものを出しても食が進まず、口を開いたときには「こんな状態になってごめん」と、それまでになかった言葉が出てきました。震災から30年の日を、まさかこんなふうに迎えるとは思いませんでした。夫はその翌日に亡くなりました。

――竹内さんにとって仕事をやめた影響は。

 私は誰かに悪意を向けられたのが生まれて初めてでした。夫も生まれて初めて他の誰とも交わりを持てない状況に置かれて、ものすごくこたえたと思います。

 人と関わって喜んでもらうことがやりがいで、でも思いがけず辞めざるを得なくなった。かけてきた思いが大きかった分、傷が深かったのだと思います。自分でやりたいと思ってできる仕事ではないので、投げ出すということは、もう二度と戻れないということ。本当なら最後まで仕事をしなければと分かっていながら、他にとる道がありませんでした。

 誰とも分からないところから無数の中傷を浴びせられ、黒幕と言われたり、顔写真を使われたり。今でもまだ投稿が残っています。政治家であれば、そういうふうに使われても仕方ないのでしょうか。

どんなに否定しても消えないデマ

――そのころもSNSは見ていたのですか。

 夫は離れようとし、フェイスブックも閉じました。ただ、一切情報が入ってこないわけではなく、急にネットを見ずに生活できるわけでもない。どこかで何かしら言われているであろうことに、本当に無関心でいられるわけではありません。あれだけ熱心にやっていたことですから、すぐに切り替えたり、忘れたりもできない。仕事や、長く培ってきた人間関係から、夫自身が距離を置こうとしたのですが、最後まで仕事をできなかった後悔もあったと思います。

――12月25日の百条委員会で、増山誠県議が、竹内氏はデマをもとに百条委で質問したなどと述べました。見ていましたか。

 見ました。本人は、仕事を辞めてもいつまでも追い打ちをかけられると思ったようです。政治生命を失い、職も失って、社会的に抹殺された人間に対して、何を求めているのでしょうか。

――4月になって、そのときの議事録が訂正されました。

 きちんとチェックされ、記録に残してくださったことはありがたいし、大事なこと。でも一度出た言説は消えない。いつまでも、どれだけ本人が否定しても消えない。客観的に否定されても消えない。夫が逮捕される予定だったというデマも、県警本部長が否定しても消えませんでした。

声を上げずに逝った夫 投げかけられた大きな問い

――県の第三者調査委員会の報告書は、知事のパワハラ疑惑などを指摘した内部告発文書に対して「告発者捜し」をした県の対応を「違法」と認定しました。どう受け止めましたか。

 夫がとても気にかけていたことがクリアに指摘されたことは、誰より喜ぶと思います。

 夫は最後、声を上げたくても上げられないまま逝ってしまいました。SOSも出せませんでした。無念だったと思います。本当は頑張って自分で反論や説明をすればよかったのかもしれませんが、できる状態ではなく、追い詰められて孤立しました。そういう社会であってはいけない。

 なぜこうなったのか毎日考えています。夫は最後にすごく大きな問いを投げかけていったように思います。

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この記事を書いた人
新屋絵理
神戸総局
専門・関心分野
裁判、人権、国際情勢、フランス
島脇健史
神戸総局|選挙・震災担当
専門・関心分野
地方行政・選挙、気象・災害、地域医療
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