インド国防省は、インド軍が、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方でパキスタンが実効支配する地域などに攻撃を行ったと現地時間の7日午前1時半過ぎに発表しました。
標的はパキスタンのイスラム過激派組織の拠点、9か所だとしています。
一方、パキスタン軍は、インド側がカシミール地方のパキスタンの実効支配地域やパキスタン東部のパンジャブ州のあわせて6か所を攻撃し、これまでに26人が死亡し46人がけがをしたと主張しています。
インド政府は7日、パキスタンとの係争地、カシミール地方のうち、パキスタンが実効支配する地域などにあるイスラム過激派組織の拠点を攻撃したと発表しました。
パキスタン軍は、この攻撃でこれまでに26人が死亡し46人がけがをしたとして報復を表明し、核保有国どうしの間で軍事行動がエスカレートしないか懸念が強まっています。
カシミール地方では4月22日、インドが実効支配する地域で、インド人観光客ら26人が銃撃されて死亡する事件があり、インド政府は、テロ事件としてパキスタン側の関与を主張し、報復攻撃を辞さない強い姿勢を示していました。
これに対してパキスタン政府はテロへの関与を否定し激しく反発していました。
今回の攻撃について、インド軍はテロ事件への報復攻撃だとしていて、過激派組織の拠点に限定したもので、市民には被害はないと主張しています。
これに対し、パキスタン側は、攻撃された場所はすべて民間人が住んでいる地域でインド側の主張は誤りだと強く非難しています。
パキスタンのシャリフ首相は声明で「パキスタンは、インドが押しつけたこの戦争行為に対し、相応の対応をとる権利がある」などとして、報復を表明し、パキスタン空軍がインド軍の戦闘機を撃墜したとの情報も伝えられています。
インドとパキスタンはいずれも核保有国で、今後、両国の間で軍事行動がエスカレートしないか懸念が強まっています。
パキスタン軍 報道官「26人死亡、46人けが」
パキスタン軍の報道官は、インド軍による攻撃について、これまでに26人が死亡し46人がけがをしたとする声明を発表しました。
また、インド軍による攻撃があった場所はカシミール地方のパキスタンの実効支配地域やパキスタン東部のパンジャブ州のあわせて6か所だととしています。
パキスタン外務省 強く非難 軍事的報復も辞さない姿勢
パキスタン外務省は、声明を発表し、インド側が、領有権を争うカシミール地方のうちパキスタンの実効支配地域や、パキスタン東部のパンジャブ州に攻撃を行ったとした上で「インド空軍がインドの領空からの攻撃でパキスタンの主権を侵害した」として強く非難しました。
また「インド指導部は、再びテロという脅威を利用し地域の平和と安全を脅かしている。インドの無謀な行動は核を保有する両国を大規模な紛争へと近づけている」と指摘しました。
そのうえで「パキスタン政府、軍、そして国民はインドの攻撃に対し団結して立ち向かう。パキスタンの主権と領土の保全のために断固たる決意で行動する」と述べ、今後、軍事的な報復も辞さない姿勢を示し、インド側をけん制しました。
イスラマバード 報復求める声や懸念の声も
インド軍がパキスタンに対し軍事攻撃を行ったことについて、パキスタンの首都イスラマバードではインドへの報復を求める声が聞かれたほか、軍事的な緊張が高まることに懸念を示す声も聞かれました。
このうち、60歳の男性は「攻撃に憤慨しています。パキスタン軍はインドに対して報復措置をとるべきです。インドのモディ首相に対し相応の対応を示すべきだ」と話していました。また、23歳の男性は「事態がエスカレートする可能性があることを懸念しています。エスカレーションを避けるため対話を通じて問題を解決するべきです」と話していました。
ニューデリー 攻撃支持する意見や懸念も
インド軍がパキスタンに対して軍事攻撃を行ったことについて、インドの首都ニューデリーでは攻撃を支持する意見が聞かれた一方、両国の軍事行動がエスカレートすることを懸念する声が聞かれました。
このうち、57歳の男性は「テロ事件の犠牲者のために復しゅうをすることは絶対に正しい行いです。軍事攻撃は必要な措置だと思います」と話していました。一方で、53歳の男性は「戦争は誰にとってもよいことではなく、エスカレートすることは望んでいません。どの市民や軍の関係者にも傷ついてほしくありません」と話していました。
インドとパキスタン 緊張が高まった経緯
今回、インドとパキスタンの間で緊張が高まる発端となったのは、双方が領有権を争うカシミール地方のうち、インドが実効支配する地域で発生したテロ事件でした。
4月22日、インド政府が直轄地とするジャム・カシミールで、武装した複数の人物が観光客らに向けて銃を発砲し、外国人1人を含む26人が死亡しました。インドの警察は、テロ事件として捜査を進めていますが、これまでのところ事件の背後関係については明らかになっていません。
事件を受け、インド外務省のミスリ外務次官は翌日の23日に記者会見を開き、「テロ攻撃の国境を越えた関連性が明らかになった」と述べ、パキスタン政府がテロ攻撃を支援していると主張するとともに対抗措置をとると発表しました。具体的には、両国を流れるインダス川の水資源の配分について定めた条約の停止や、インドの在外公館に勤務するパキスタンの駐在武官の国外退去などが含まれています。
また、モディ首相は演説で「インドはテロリストとその支持者を特定し、追跡し、処罰する。私たちは地の果てまで彼らを追い詰める」と述べ、報復攻撃も辞さない姿勢を強調しました。
これに対して、パキスタン政府は声明で、関与を否定した上でインド側の措置について「政治的動機に基づく極めて無責任で法的根拠に欠くものだ」と強く非難しました。あわせてインド側が、水資源の配分を定めた条約の停止を表明したことについて、「パキスタンの水を止めるなどのいかなる試みも戦争行為とみなす」と警告しました。
その上で、インドへの対抗措置として、インドが運航するすべての航空会社に対し、パキスタンの空域の通過をただちに禁止するほか、インドとのすべての貿易も停止するなどと発表しました。
一方で、パキスタン政府は30日までに、テロ事件の真相究明のため中立的な第三者委員会による公正な調査を申し出たものの、インド側に拒否されたと主張するなど、双方の隔たりは埋まらず、軍事的な緊張の高まりに国際社会からは懸念の声があがっていました。
事件で犠牲になった男性の妻は
インドとパキスタンの間で、緊張が高まる発端となったテロ事件は、インドでは、「小さなスイス」と呼ばれる人気のリゾート地で発生し、犠牲となった26人の多くがインド各地から訪れていた観光客でした。
犠牲者の1人、北部ウッタルプラデシュ州でセメント会社を経営していたシュバム・ディベディさん(31)の妻アイシャニヤさんがNHKの取材に応じ、当時の状況を明かしました。
アイシャニヤさんによりますと、夫のシュバムさんとはことし2月に結婚したばかりでお互いの両親らとともに家族旅行のため、事件の数日前から現地に滞在していたということです。
事件当日、シュバムさんら数人と、小高い丘の上で観光を楽しんでいたところ、見知らぬ男から「ヒンドゥー教徒なのか、イスラム教徒なのか」と尋ねられたといいます。シュバムさんが困惑しながら「ヒンドゥー教徒だ」と答えると突然、男は銃を取り出し、シュバムさんに向けて発砲したということです。
倒れたシュバムさんのそばにとどまろうとしたアイシャニヤさんは、家族に引っ張られるようにその場から離れましたが、大勢の人たちの悲鳴が聞こえ、武装した複数の人物が銃を発砲する様子を目の当たりにしたということです。その後、シュバムさんの死亡が確認されたということです。
事件から2週間近くがたった5月4日、NHKの取材班がアイシャニヤさんを訪ねると自宅には、シュバムさんの遺影が飾られ、親族たちが花を手向け早すぎる死を悼んでいました。
アイシャニヤさんは「毎朝、目を覚ますと、私の隣に夫がいないという現実を突きつけられます。夫が亡くなったという事実を受け止めきれずにいます」と夫を奪われた悲しみを涙ながらに話していました。そして「妻の目の前で夫を殺害するなんて、極めて残忍な犯行です。私が政府に望むことは、テロを終わらせることです」と話し、政府はテロに対してよりいっそう厳しい姿勢で対応すべきだと訴えました。
カシミール地方とは
カシミール地方は、インド北部とパキスタン北東部に広がる山岳地帯で、長年にわたって、両国が領有権を争ってきました。
対立のきっかけは、1947年にインドとパキスタンがイギリスから独立し、カシミール地方の指導者がインドへの帰属を表明した時にさかのぼります。インドはヒンドゥー教徒、パキスタンはイスラム教徒がそれぞれ多数を占めますが、カシミール地方の住民のほとんどは、イスラム教徒だったため、パキスタンがカシミール地方の領有権を主張し、インドとパキスタンが対立する戦争となりました。
1949年、停戦ラインを挟んでインド側とパキスタン側に分断され、両国がそれぞれの地域を実効支配しながら、相手の支配地域を含めた領有権を主張しています。
2019年2月には、インド側の地域でパキスタンのイスラム過激派組織による自爆攻撃があり、インドの治安部隊40人が死亡しました。その報復として、インド軍がパキスタン側に越境して空爆を行い、それに反発してパキスタン軍がインド軍の戦闘機を撃墜するなど、両国の間で軍事的な緊張が高まりました。
さらに、インド政府は同じ年の2019年8月、テロが相次ぐ地域の安定のためなどとして、実効支配してきたインド側の州について、70年にわたり認めてきた自治権を撤廃し、政府の直轄地とすることで統治を強化しました。これに対し、パキスタンが反発し、両国の対立が深まっていました。
中国外務省 ”双方が冷静かつ自制を”
中国外務省は7日、報道官のコメントを発表し「インドによる軍事行動に対し、遺憾の意を表するとともに現在の情勢の推移を憂慮している」としています。
そしてインドとパキスタンは隣国どうしであり中国とも隣国だとした上で「中国はあらゆる形のテロリズムに反対する。インドとパキスタンの双方が平和と安定を重視し、冷静かつ自制を保ち、情勢を一層複雑にするような行動を避けるよう呼びかける」としています。
トランプ大統領「早く終わってほしいと願う」
インドとパキスタンの情勢について、アメリカのトランプ大統領は6日、ホワイトハウスで記者団に対し「残念だ。ちょうど大統領執務室に入ろうとしたところで話を聞いた。早く終わってほしいと願う」と述べました。
また、ルビオ国務長官は6日、SNSに「インドとパキスタンの状況を注視している。早期に終結することを望み、平和的な解決にむけて両国の指導部との対話を続ける」と投稿しました。
国連 報道官「深刻な懸念 最大限の軍事的自制を呼びかけ」
国連のデュジャリック報道官は「グテーレス事務総長は、インド軍が停戦ラインを越えて行っている軍事作戦に深刻な懸念を抱いており、両国に対し最大限の軍事的自制を呼びかけている。世界はインドとパキスタンの軍事的対立を許容できない」とするコメントを発表しました。
林官房長官「本格的な軍事紛争にエスカレート 強く懸念」
林官房長官は午前の記者会見で「事実関係を確認中であり、引き続き状況を注視していく。今回の事態がさらなる報復の応酬を招き、本格的な軍事紛争にエスカレートすることを強く懸念している。南アジアの平和と安定のため、インド、パキスタンの双方が自制し、対話を通じて事態を安定化させることを強く求める」と述べました。一方「現時点で日本人の被害に関する情報には接していないが、引き続き邦人保護に万全を期していく」と述べました。
国際部 清水デスク解説
(おはよう日本 7時台で放送)
Q.先月22日のテロ事件が発端ということですがそれがどうして軍事行動にまで発展してしまったんでしょうか。
A.事件の翌日にはインド外務省は記者会見を開きましてパキスタン政府がテロ攻撃を支援していると主張し対抗措置を発表したんです。
これに対してパキスタン政府はテロ事件への関与を否定しインド側の措置について政治的動機に基づく極めて無責任で法的根拠に欠くものだと強く非難していました。
インドの警察はテロ事件として捜査していますがこれまでのところ事件の背後関係などは明らかになっていません。
ただモディ首相は先月29日、軍の幹部らが出席した会議でインド軍には対応の方法などを決める作戦上の完全な自由があると述べ軍事的な緊張の高まりに国際社会からは懸念の声が上がっていました。
Q.そうした中で起きた今回の軍事行動ですけれどもパキスタン軍もインドに報復する構えを見せているということで今後の見通しどう見ますか。
A.両国の軍事行動がさらにエスカレートしてしまうのかどうかといった点が焦点になると思います。
カシミール地方では2019年にもパキスタンのイスラム過激派組織の自爆攻撃によってインドの治安部隊40人が死亡するというテロ事件がありました。このときは報復としてインド軍がパキスタン側に越境して空爆を行いました。
それに対してパキスタン軍もカシミール地方の上空でインド軍の戦闘機を撃墜しパイロットを一時拘束しました。さらにカシミール地方の境界線付近では駐留するインド軍とパキスタン軍が交戦するなど報復合戦にまで発展しました。
このときはアメリカが両国に自制を促すなど国際社会の働きかけもあって何とか緊張緩和に向けた道筋をつけることができました。
ただ今回はテロ事件へのパキスタンの関与という点で双方の主張が完全に食い違っています。また長年の歴史的な領土問題という根深い対立が背景にあるだけに双方が早期に自制に向かうのか予断を許さない状況です。