欧州の素粒子物理学の研究指針となる次期戦略への反映に向けて、国内外の研究者組織などが国際リニアコライダー(ILC)に関する意見書を提出したことが分かった。日本での実現へ「グローバルプロジェクト」としての推進を強調する内容で、加速器建設費の最新試算も示した。今回の戦略更新は、次世代大型加速器の方向性が焦点。欧州、中国でも建設が計画される中、ILCがどう位置付けられるか注目される。
意見書は、国内の研究者らで構成する高エネルギー物理学研究者会議、ILCの建設準備に取り組む国際推進チーム(IDT)が提出した。次期欧州素粒子物理戦略は欧州合同原子核研究所(CERN)が2026年に策定する予定。3月末までに世界の研究者らへ意見書を募り、263件が出された。
同会議は「ILCをグローバルプロジェクトとして日本で行うため、科学活動と広報活動を発展・拡大させる」と記載。物理、測定器、加速器に関する研究を強化し「国際的な議論を主導する」とした。
IDTは24年時点の建設費試算を盛り込んだ。加速器本体7075億円(17年時点比91・2%増)、設備1791億円(同113・2%増)、土木建築1958億円(同51・8%増)とし、増額理由に世界的なインフレや為替レートの変動などを挙げた。技術面に関しては「進展が遂げられている」とした。
国内誘致に取り組む研究者組織ILCジャパンも建設費の試算を4月に公表。加速器と測定器を含む総額が1兆3765億円(同71・4%増)と示した。
万物に質量を与えるヒッグス粒子を研究するCERNの大型円形加速器LHC(周長27キロ)は40年ごろに稼働を終了する見込み。世界ではILCのほか次世代円形加速器として欧州の「FCC」、中国の「CEPC」の両計画があり、これらを推進する意見書も複数提出された。建設費はFCCが2兆円超、CEPCが8千億円程度とされる。
次期戦略は6月の公開シンポジウムを経て、26年1月のCERN理事会に草案が示される見込み。20年に公表された現戦略は、岩手県が世界最有力の建設候補地とされるILCのタイムリーな実現が「戦略に適合する」と評価し、日本の誘致に期待感を示している。
一方、今回は自国整備が見込まれる中国でも計画が進むなど情勢は変化。東北ILC事業推進センター代表の鈴木厚人県立大学長は、欧州で直線加速器を建設する計画を提案した研究者グループがあることに触れ「中国のCEPCを意識した検討がなされるだろう」と注視。「日本政府が前向きなメッセージを示せるよう、研究者グループの総意として働きかけを強める」と語る。