古代エジプトの栄華を物語る特別展「ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金」(主催・ラムセス大王展実行委員会=産経新聞社など、9月7日まで)が東京・豊洲で開かれ、遺物約180点が展示されている。本展に関係する人々が語るのは古代へのロマン。連載第1回は、エジプトからの特別貸与品「ラムセス2世の棺(ひつぎ)」の開梱(かいこん)に立ち会った筑波大の河合望教授にその価値を聞いた。
エジプトの宝、1万キロを隔てた豊洲に
「エジプトの宝ともいうべき棺が梱包を解かれて今、1万キロを隔てた豊洲にあるということに気持ちが高ぶった」
滑らかな木肌に威厳のある表情。圧倒的な存在感を放つ棺の主は、古代エジプトの王でただ一人「大王」と呼ばれるラムセス2世だ。強大な軍事力を背景に権力と富を掌握し、67年間も統治。アブ・シンベル神殿など巨大建造物を全土に築き、自らの名を刻んだ。人々が大王に抱く畏敬と誇りは今も失われていない。
この棺は、1881年に発見されるまで3000年もの長い間、大王のミイラを守った。鑑賞のポイントは、こうだ。
「圧巻の品。エジプトでは自生していない最高級のレバノンスギをぜいたくに一木造りに。ひざがきちんと彫刻されるなど、ディテールも素晴らしい。王権の象徴たる頭巾などをつけた意匠からは、冥界でも支配者であるようにとの祈りを感じる」
「ミイラの隠し場」への経緯、神官文字で
ミイラは本来の墓所に埋葬後、盗掘から守るためにこの棺に移され、数カ所を転々として「王家のミイラの隠し場」へ。その経緯が棺に神官文字で書き記されていることが、実物に近づくと見てとれる。
「偉大な国王の遺体が今に残っている。そんな文明がほかにあるだろうか。展示品は、特殊で高度な古代エジプト文明の中でも特に技術の粋を集めたもの。写真や映像ではアングルが限定的。実物だからこその気づきがある」
プロパガンダにたけた大王は、強国ヒッタイトとの激闘「カデシュの戦い」を「戦勝」と各地に刻んだ。停戦後に締結した世界初の平和条約の記録も残した。
「複数の記録がそれぞれの失われた箇所を補完しあい、詳細を知ることができる。当時の超大国が互いの利を認め戦争を終結させた事実は、一つの教訓となるだろう」。大王の事績は、現代にも通じる気づきを与えてくれそうだ。
河合望
かわい・のぞむ エジプト考古学者。昭和43年、東京都生まれ。35年以上にわたりエジプトで発掘調査などに従事。
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「ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金」は、東京都江東区の「ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo (豊洲)」で9月7日まで開催中。