「何があってもマッチングアプリは使いたくないが6割」恋愛結婚を弱肉強食化した「ロマンスの詐欺様」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
写真:アフロ

恋愛力不問のお膳立て婚時代

若者が恋愛離れをしているのではなく、少なくとも40年前から恋愛をしている若者の割合は3割で変わっていないという話は前回記事で書いた通りだが、とはいえ、40年前と今とでは、若者の恋愛を取り巻く環境が変化していることは確かである。

参照→「一度も恋愛したことがない20代男性46%」は決して「若者の恋愛離れ」によるものではない

そもそも、かつての皆婚時代には、結婚するにあたって恋愛力などそれほど必要なかった。伝統的なお見合い結婚が恋愛結婚に逆転されたのは1965年あたりだが、それ以降も、職場結婚がお見合い結婚の代替機能を果たしていた。いわば、社会的結婚のお膳立てシステムというべきものだが、分類上「恋愛結婚」とされているものの、それは「自力婚」というより「お膳立て婚」というべきものだった。

しかし、恋愛力があろうとなかろうと結婚のお膳立てをしてくれていた職場や友人からの紹介というきっかけは激減した。上司は部下の結婚の話に触れることすら避けるようになった。それどころか、下手をすれば、職場で同僚をデートに誘うだけでもセクハラ扱いされるリスクがある。

これが職場結婚激減の要因となり、事実、婚姻数の減少はこの職場結婚の減少と完全に一致する。

参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

マッチングアプリは救世主にならない

2024年、こども家庭庁が15~39歳の男女を対象に実施した調査によれば、過去5年以内に結婚した人の出会いのきっかけとして、マッチングアプリによる「アプリ婚」が25%で最多となったという。

この調査結果を受けて、「今や4人に1人がアプリ婚」などとメディアは報道していたが、残念ながらマッチングアプリは婚姻減改善の救世主にはならない

所詮「アプリ婚」の構成比が増えたとて、それは全体の婚姻数が激減している中の話であって、婚姻減を止めるほどのものではない。それどころか、アプリ婚比率が高まれば高まるほど、全体の婚姻数は減少していくことになるだろう。

警察庁の「令和6年における特殊詐欺及びSNS 型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況 (暫定値版)」によれば、令和6年のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は3,784件(+2,209件、+140.3%)、被害額は397.0億円(+219.7億円、+123.9%)と、認知件数、被害額ともに前年から約2倍以上の大きな増加となっているが、そのうちの35%はマッチングアプリ経由である。

勿論、犯罪をプラットホーム側の責任にするつもりはないが、そうした犯罪に巻き込まれないまでも、マッチングアプリを利用経験者のうち、男性58.5%、女性59.7%がなんらかのトラブルに遭遇した(2021年消費者庁「マッチングアプリの動向整理」)という。

「出会いを期待したのにそもそも全然出会えない」という不満を抱えている人も多い。

前述した「マッチングアプリの動向整理」によれば、「マッチングアプリで実際にデートした人数ゼロ」という割合が、20代24.3%、30代20.4%、40代にいたっては31.7%にも達しているそうだ。

マッチングさせるツールなのに全然マッチングされない問題がここにはある

参照→マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実

恋愛強者総取りになる仕組み

なぜそうした事態になるかというと、マッチングアプリは「街のナンパのデジタル版」でしかなく、特に男性については、リアルでモテる男だけがメリットを享受できる仕組みだからだ。

よくよく考えてみてほしいのだが、マッチングアプリは、相手の条件を検索することができ、そこに示された年収や年齢、容姿などで選別できるようになっている。こちら側が選別できるということは、あちら側からも選別されるということである。

結局、あなたが選びたい対象は、他の多くからも選ばれているわけで、一部の強者ばかりに選択が集中することになる。つまり、アプリは上位3割の恋愛強者が総取りする仕組みそのものなのである。

恋愛強者男性にしてみれば、こんな便利なツールはない。

わざわざ街に繰り出してナンパなどしなくても、無理に飲み会などをセッティングしなくても、自宅のソファに寝そべってポチポチしていれば、次々とデート相手が見つかるのだから。

反対に、その割を食うのは、残り7割の恋愛弱者男性たちだ。

マッチングを期待して課金したとしても、一向に出会えない。仮に出会ったとしても、何人とも出会っている恋愛強者男性と比較されると見劣りがしてしまう。出会ってもマッチングには至らない羽目になる。

一方、恋愛弱者女性もまた、複数との恋愛を求めるアプリ強者男性に翻弄されることになる。なまじ予想以上のハイスペ男性とデートできた経験が、脳をバグらせ、それ以降の相手の選定基準そのものをあげてしまうことにもなるからだ。

わかりやすくいえば、年収1000万円以上稼ぐ上にイケメンの男と高級レストランでデートしてしまったら、その後年収400万円の中央値年収男性と居酒屋デートしても物足りないと感じてしまうものだ。

マッチングアプリが婚姻増に寄与しない状況を利用特性からマトリクス化したものが以下の図表である。

犯罪ではない「ロマンスの詐欺様」無双

恋愛強者はたとえアプリなどがなくなっても恋愛には困らない。しかし、なまじ便利なツールがある以上はそれを有効利用する。恋愛強者男がアプリで無双すればするほど、恋愛弱者男女同士は、本当はどこかで出会って縁があったかもしれないのに、恋愛強者男性の「ロマンスの詐欺様」の壁がそれを阻むのである。そして、この行為は犯罪ではない。

誰ともマッチングしない弱者男性も、出会えるけど遊ばれて、そのせいで基準がバグってしまう弱者女性も、結局は金と時間を無駄にするだけになる

前述した2024年こども家庭庁の調査でも、25-34歳未婚男女のアプリ未経験者のうち「何があってもマッチングアプリは使いたくない」という割合が、男性57%、女性56%にも達しているのも、そうした実体をふまえた話だし、その判断は賢明だろう。

このあまりに「弱肉強食」化した今の恋愛事情は、3割の恋愛強者を除けば、残り7割のうちの4割の中間層と3割の弱者層の恋愛機会を図らずも無効化しているかのようである。

だったら、アイドルや芸能人の応援など推し活をした方がよっぽど有意義だと思う若者が増えていそうな気もする。

恋愛離れではなく、もはや恋愛忌避なのかもしりない。

関連記事

「恋愛は1対1とは限らない」恋愛している独身人口が男女で同一にならないワケ

「みんなはどこで恋愛相手に出会っているの?」18歳から49歳の年齢別独身男女の恋愛の入り口

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。

  • 37
  • 34
  • 8
独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の書籍紹介

「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論
著者:荒川和久
居場所がないと嘆く前に必要なこととは
Yahoo!ショッピングで見る

荒川和久の最近の記事

一覧

あわせて読みたい記事