法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ETV特集』フェイクとリアル 川口 クルド人 真相

 4月5日に初放送されたが、さまざまな抗議を受けたためか1週間後の再放送を中止してNHKプラスでの配信も中止。再編集されて5月1日早朝に再放送され、その再編集版がNHKプラスであらためて配信された。
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 本放送を見逃して再放送で視聴しようと思ってかなわず、再編集版で初めて視聴することになった。抗議を受けて情報を追加したところは多少あったが、番組内で批判的にとりあげられた産経新聞が反発的な記事をあげているくらい、本放送とほとんど異同はないようだ。
NHKクルド特集、抗議団体の「要求」だけ受け入れ再放送 他の追加取材は確認できず 「移民」と日本人 - 産経ニュース

当初の番組では、クルド人が「日本人死ね」とも受け取られかねない発言をした際の映像について、「日本人死ね」ではなく「病院に行け」だったとするクルド人の主張を放送。再放送では、民間会社の音声分析にかけた上で結論づけたとする映像を新たに挿入したが、再取材ではなかった。

 刑事事件などの分析も長年おこなってきた日本音響研究所を民間会社とだけ説明するほうが誤解をまねかないかな……


 ともかく番組自体は1時間枠に情報をつめこんで、さまざまな視点からさまざまな事件を多角的に紹介。日本のSNSにおけるクルド排外主義のもりあがりを発端から現在まで、特にSNSで注目を集めた事例を追っていく。
 もともと日本では十年以上前から少人数で定着していたクルド人への排外主義はもりあがっていなかった。古くからクルド人を支援しているとして登場する人物も、大アジア主義をかかげる明らかな右翼。それが変化したのは入管法を変えようとする動きからで、抗議への反発としてクルド人への排外主義がもりあがっていった。
 その後の事件のひとつひとつやその検証そのものはリアルタイムでほとんど把握していたが、番組では統計的な波を時系列にそって描いて全体像を見せつつ、個別の当事者に取材して声を引いて人間のふるまいを接写。点と点を線でつなぎつつひとりひとりの痛みもすくいとるドキュメンタリとして見ごたえがあった。
 とにかく情報量が多いので、さまざまな出来事をならべるだけでも自然と情報の濃淡が生まれて、『NHKスペシャル』よりも演出がひかえめの『ETV特集』でも飽きずに見ることができた。


 なお、あくまで日本における排外主義の動きだけ紹介しているため、トルコにおけるクルド人の立場はくわしく描かない。
 クルド独立の武装闘争をおこなったPKKがテロ組織として指定された、日本におけるクルド友好協会も関係団体として資産凍結された、というトルコ政府の一方的な動きを見せて、友好協会の当事者が否定するコメントを引くだけ。そのあたりの背景情報は他の報道とてらしあわせる必要があるだろう。
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 ただ『ETV特集』には偽装クルド難民もひとり登場。その人物は難民指定されやすいと聞いてクルド人を演じた出稼ぎトルコ人、つまりクルド人が難民状態におかれていることが偽装なのではなく、クルド人になりすましたトルコ人が偽装していたというオチだった。念のため、そのトルコ人にしても個人としては貧困に苦しんできた労働者であろうし、国外追放するべきとは思わない。