米国よりも「欧州選んで」 EU、研究者誘致に820億円
【パリ=北松円香】欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は5日、米国など域外の研究者を招くために5億ユーロ(約820億円)を投じると発表した。トランプ米政権による介入を避けたい研究者の誘致が念頭にある。EU加盟国には2030年までに研究開発費を国内総生産(GDP)の3%まで引き上げるよう求める。
フォンデアライエン氏はパリでフランスのマクロン大統領などとともに演説し、「自由で開かれた基礎研究への投資に疑問符がつけられている」と米国の研究予算削減を批判した。
新たな研究者誘致策は「Choose Europe for Science (科学のために欧州を選んで)」と銘打ち、25年から27年にかけて実施する。フォンデアライエン氏は「新法で科学的研究の自由を明記する」との方針も明らかにした。
仏大統領府高官によると研究者誘致は欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギ氏がEUに提出した競争力に関する報告書、通称「ドラギ・リポート」が重視する分野で行うという。人工知能(AI)や脱炭素など理系の専門家が中心となりそうだ。
マクロン氏は4月中旬に海外研究者がフランスでの就職活動に利用できるオンラインプラットフォームの開設を発表し、研究者誘致策の第1弾だと説明していた。この日の演説では誘致のために「仏政府が1億ユーロを投じる」と発表した。
トランプ政権が科学や多様性の尊重を軽視し、米大学で研究予算の削減を進めた結果、米国以外への移住を模索する研究者が増えている。欧州やアジアの大学や研究機関にとっては優秀な研究者を獲得するチャンスでもある。
大学が個別に誘致策を打ち出す例も増えている。南仏のエクス・マルセイユ大学は3月、「米国の科学者が研究をめぐり脅されているように感じたり、研究を妨げられたりしている」おそれがあると指摘し、3年間でおよそ1500万ユーロをかけて15人程度の米研究者を受け入れると発表した。
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(更新)- 石原純インペリアルカレッジロンドン 講師貴重な体験談
世界最大の医療研究の支援機関はアメリカのNIHですが、今年大統領は前年比2兆円の予算カットを表明しています。自然科学の支援機関NSFは7000億円の予算カットです。欧州が新たに約820億円を支援するという話ですが、世界の科学予算全体から見ると焼石に水といったところです。 さらに4日前にNIHの国際的な研究費も凍結になると発表され、世界の科学の大きな危機になっています。多くの若い世代が科学者になる道を諦めると危惧されており、影響は甚大です。大学は研究だけでなく、教育も担っているので、優秀な人材が消えることになります。
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