“誰もが自分らしく”めざして 朝日新聞社ジェンダー平等宣言5年
■gender equality 朝日新聞×SDGs
朝日新聞社が2020年4月に「ジェンダー平等宣言」を発表して5年になりました。ジェンダー格差解消のための挑戦は道半ばですが、数値目標を掲げ、改善を進めてきた取り組みの経過と現在地を報告します。
■すべての記事に「視点」あるか/ステレオタイプに陥らぬ工夫を 「コメントプラス」コメンテーターが見る現在地
ジェンダー平等宣言から5年。この間の朝日新聞の記事や報道姿勢は、世の中からどう見られているのか。朝日新聞のデジタル版「コメントプラス」で、記事に独自の視点や解説を加えてくれるコメンテーターの皆さんに話を聞きました。
◇
法政大学教授の上西充子さんは今年2月、選択的夫婦別姓を取り上げた天声人語の中の「私としては、わが家族はみんな同じ姓であることを望むけれど」という一節について、「このひと言は、ないほうがよかったです。ざらっとした気持ちが残りました」とコメントしました。
この日の天声人語は、夫婦同姓は「創られた伝統」に過ぎず、選択的夫婦別姓の議論を前に進めるべきだと書いたものです。同欄は現在、男性2人、女性1人の論説委員が交代で執筆し、記事ごとの筆者は公表していませんが、上西さんは「自らの姓を変えることなく結婚した男性なら、悪気なくこのようにさらっと書いてしまうのではないか」と記し、「自分が改姓しなければならない可能性や、改姓後の社会生活で起こり得ることが、想像できますか」と筆者に問いました。
朝日新聞は、2017年から3月8日の国際女性デーを中心にジェンダー関連記事の発信に力を入れてきました。上西さんは、取り組みを評価する一方で、「記事の署名は女性ばかり目立ち、男性が少ないのが気になります。関連記事の本数が増えても、すべての記事にジェンダーの視点が反映されなければ、多様な記事が増えたと言えないのでは」。
朝日新聞では「ひと」欄やオピニオン面の「耕論」「交論」などで取り上げる人や筆者の女性比率向上を目指してきました。しかし5年目の24年度は、目標の40%を上回ったものもありますが、前年度を下回った項目もあります。
元日本テレビ解説委員で関西学院大学特別客員教授の小西美穂さんは「朝日新聞がジェンダーを正面から扱うキャンペーンを他社に先駆けて始めたことは、大きな励みになりました」とする一方、論説委員の女性比率には物足りなさを感じているといいます。論説委員は社内外からの知的信頼を象徴する存在だとして、「社内の評価基準の見直しやキャリアパスの改革が今後の鍵。5年を節目に進化させてほしい」と話します。
朝日新聞のジェンダー記事は「ときに企業批判や男性批判に寄っていたり、内容が専門的だったりで、読者が自分ごと化して考え、意見を言うのは難しいのでは」というのは千葉商科大学准教授の常見陽平さん。「ごく普通の人、ごく普通の企業という視点で考え、届く声で発信してほしい」
元競泳日本代表で、東京オリパラ組織委ジェンダー平等推進チーム・アドバイザーの井本直歩子さんは、男性のスポーツといえば野球やサッカーが人気なのに対して、女性では新体操やフィギュアスケートの人気が高いことを例に、誰でも性別によるステレオタイプを持っていると自覚することが大事だとした上で、「朝日新聞社がどんな社会を目指すのかを考え、ステレオタイプにならない取り上げ方や書き方をしてほしい」と話します。
批評家で日本映画大学准教授の藤田直哉さんは「次の問題が起きている」と警鐘を鳴らします。「SNSなどで女性を批判し、『男らしさ』の誇示にこだわらざるを得ない男性が増えています。その心のメカニズムの解明も、ジェンダー平等を考える上では重要だと思います」
大阪公立大学教授の杉田菜穂さんは、大きな改革には10年かかり、5年以降に加速して結果が出るといい、こう提言します。
「社会の分断が進んだいま、人種や国籍、年齢など、役割にあてはめられる社会に違和感を持っている人に寄り添う記事を大切にしてほしい。ジェンダー平等宣言の取り組みは、そうした記事の価値を考える一つの大きな歯車になると思っています」(斉藤寛子)
■柔軟な発想、生める組織へ 朝日新聞社代表取締役社長・角田克
ジェンダー平等宣言は、朝日新聞社の報道と事業と、その担い手のすべてについて多様性の確保を目指しています。記事で立派なことを書いても足元で女性管理職が少ない、男性が育休を取りにくいということでは説得力がないからです。
当初、数値目標を掲げることには社内でも抵抗がありました。取材やビジネス、人事に制約が加わるなどとして難色を示したのです。しかし、同質性の高い組織からは新たな視点や柔軟な発想は生まれません。目標を掲げて定点観測することで課題が可視化されます。
私たちにとっての最大の難題は女性登用でした。2022年から、法政大学経営大学院の高田朝子教授の指導で、若手や中堅の女性社員が部門の異なる役員や部長と行動をともにして学ぶジョブシャドーイング研修に取り組んできました。私自身も担当しました。研修生に役員会に同席してもらうことで、役員の側にも緊張感が生まれました。3月までに20人に達した研修生は、会社を変革する核となってくれると期待しています。
宣言から5年がたち、徐々に社外からも注目されるようになりました。24年度には東京都女性活躍推進大賞の事業者部門で優秀賞を受賞しました。目標達成まで道半ばですが、今年4月の人事異動で7人の女性が本部長クラス以上の意思決定層に加わりました。ここからが本番です。ジェンダーや年齢、経歴を問わず、誰もが自分らしく力を発揮できる新聞社になれるか。私たちの取り組みの本気度を見ていただきたいと思います。