クリエイティブに違和感を持てるか? 広告倫理と責任範囲
アイスクリーム広告炎上
皆さんはこの広告を見た時に、違和感を感じますか?炎上しそう、と気づけますでしょうか。
この広告がイギリスのメディア業界人たちの中(LinkedIn)で炎上しており、イギリスのDEIコンサルの方より連絡受け、広告賞の審査をしているクリエイティブ業界の方、マーケターや広告事業の経営者とよいディスカッションができました。
このようなイギリス広告業界の有識者の方々との議論では、当たり前のように消費者保護、表現のコンテクスト、作り手の属性の偏りなどの多角的視点から分析がされ、ぜひ日本の業界の方々にも考えてみてほしく、有識者に許可をとった上で記事を書いています。
炎上した広告
この広告、炎上しているシーンは実は動画の一部で、15秒の動画広告でした。
炎上理由
さてこの広告ですが、炎上理由は以下。
✅アイスが生理用ナプキンに見える
✅女性が制作にかかわってなさそう
✅広告業界のジェンダーギャップが不快
✅女性の表象が過激
1.生理用ナプキンの広告表現と似てる
アイスクリームバーの広告ですが、そのビジュアルが生理用ナプキンを連想させるとして、炎上。
確かに、イギリスナプキン広告は、経血の赤色で吸収力を訴求する広告表現が一般的なので、今回のアイスがナプキンに、上のジャムが経血に見えなくもないです。
また、広告はカテゴリごとに広告のトンマナ(広告の雰囲気)が消費者の中でできあがっています。そのため、違うジャンルの広告に見えてしまうと炎上しやすい傾向があります。
今回の広告でも、女性にとっての生理用品の意味を加味すると、生理用品と食品が重なって見えるのは避けたいはず。
日本でも、社会福祉の広告が缶コーヒーの広告に似ていたことで誤解を招き、炎上した例がありました
2.女性が制作にかかわってなさそう
こんな表現を含んでしまったのは、生理用ナプキン使用者である、女性がクリエイティブチームにいないからなのではないかと指摘されました。
確かに女性がいたら、このシーンちょっとナプキンっぽくないか?と気づき、食品と生理用品が混同される懸念から、食品と生理用品が混同されるような表現を避けることも可能だったはず。
3.広告業界のジェンダーギャップが不快
女性がクリエイティブ制作チームにいたとしても、彼女たちの意見を聞く文化や雰囲気がない広告業界に懸念の声が上がりました。
広告代理店では、(代理店勤務者の50%程は女性であるイギリスでも)女性社員の意見が無視されたり、過小評価されたりするというのはイギリス広告業界ではよく問題提起されることです。しかもずいぶん前から。
広告業界の職場で、女性は「認識されず、育成されず、事実上無視される」
日本の広告業界でも女性は少数のため、同じようなことが起こりそうです。
アイスの広告を見ていて、職場の男女格差を認識してしまった社会視点が鋭い消費者が多くいたことで、炎上しました。
4.女性の表象が過激
今回の他シーンの表現を見れば、性的なサブリミナルメッセージであった可能性もあります。
この広告を見た消費者からは、
・アイスという商品よりも女性に焦点が当たっている感じ
・男性消費者も食べる商品の広告に、女性だけ出てる
事が指摘されました。
このような女性の表象については性的描写について記事をご覧ください。
イギリス広告業界の有識者からは、
男性に、女性をエロティックに映すことでアイスの濃厚さや魅惑を伝える広告だったのではないかと思われています。
このような広告は女性をものとして扱った広告であるとされ、英国では規制の対象になります。
広告主はどう説明責任を果たす?
では、広告主はどうしたらいいのでしょう。広告を取り消す?謝罪文を出す?今後のクリエイティブでどう気をつける?
消費者保護の観点から問題ない?
「これはナプキンではない」でOK
炎上の起点となったこのシーン、
アイスの表現が他の物に見えてしまったことは、事実なので対応としては次のクリエイティブ制作で気を付けるくらいでしょう。
そもそも生理用ナプキンに見えたからと言って、消費者にあまり悪影響はありません。生理用ナプキンの広告で同様のシーンも映るので、放送規制の対象になるような性的なシーンではないと認識されるからです。
ただ、食品として意図したビジュアルが、排泄物処理のナプキンに見えてしまったことは、広告主にとっては痛手です。
それよりも、消費者保護の観点から問題になるのは、他のシーンです。
女性がアイスを咥えるシーン
今回メインで炎上した「ナプキンに見える」問題よりも、他シーン(女性がアイスを咥えるシーン)の方が、説明責任を求められます。
なぜなら、広告は社会で見えない教育として機能するからです。
「おいしい」以外のノイズが含まれていると消費者が解釈しかねない”健全”でない広告だ、という批判に、広告主はどうやって説明責任を果たせるでしょうか。
まず、商品であるアイスよりも女性に焦点が当たっているか?が性的か否かのポイントになります。日本の広告では、同様の「商品よりも女性にフォーカスしている」ことが炎上の一因となった事例では赤いきつねの広告があります。
こちらの炎上分析について記事を出しています。
— 中村ホールデン梨華 (@EnjoCheck) February 16, 2025
✅何が性的と解釈されうるか
✅表象が女性差別の文脈をもつか
✅慣行でも止めるべきか
は、企業の担当者の方も気になる点だと思うので、ぜひ読んでみてください。https://t.co/0m56txYRgq https://t.co/OZucYHenzs
今回の英国のアイス広告では、女性へのフォーカス時間が広告の30%ほどにとどまったのでここについてはセーフかな?という印象。
さらに、なぜアイスという男性消費者も食べる商品の広告に、女性だけをだしたのか?という点。こちらは広告主が説明責任を果たさなければならない点です。
過去にイギリスで撤去指示を出された広告でも、この点が論点になりました。
日本の広告でも、Doveの企業広告がこの文脈で炎上しています。
Doveの販売する洗剤やボディクリームは男性消費者も使うものなのに、広告となるといつも女性が映されることに対しても、疑問を持つ消費者が増えてきたようです。
これらに広告主が真っ当に回答できるかどうか、が、今回の広告の表現の正当性、消費者からの納得感につながるはずです。
広告主の責任と広告倫理
やはり大切なのは、誰のため・何のための表現なのかを不断に問い直すこと。食品広告なのに下品なものを連想させないか?
顧客は女性だけじゃないのに、女性だけが出演してないか?
女性を男性の視線を集めるための道具として使ってしまってない?
今回の炎上事例は、日本でも同様に起こりうるもの。だからこそ、日本でも、業界外の目線や他国事例に学びながら、真摯なクリエイティブ制作体制をつくれるよう、広告主、クリエイターやダイレクター、マーケター、プロデューサーがそれぞれの立場で“気づける力”を高め、消費者保護とあらゆる属性への配慮を前提とした広告づくりを目指したいものです。
最後に
今回行ったような、広告の振り返りを研修として企業に提供しています。
興味がある方は、AD-LAMPまでお問合せ下さい。
*注意書き
AD-LAMPではRetweetが 50 回以上されているものを炎上として扱う企業が存在すること[山口 2015]を加味して, 該当の広告を炎上広告と呼んでいます。
ジェンダー炎上という言葉の定義について、2018年の文献から「CMやコンテンツの中で描かれた女性像・男性像がインターネットなどで拡散することで、不特定多数の、読者の目に触れ、強く批判され、企業や団体のブランドイメージが傷つくこと」という定義を使っています。生理ナプキンは、女性表象のようなジェンダー描写ではなく生来の性別(セックス)に関連するため「ジェンダー炎上」とすべきでないという考えもありますが、この広告の炎上理由にはジェンダー文脈もあるのでこの言葉を使っています。
本当に英国で炎上しているかという疑問について、下記ご覧ください。
Linkedin TEDx Speakerで会社経営者のLiuさんの投稿
Linkedin ブランドコンサルタントのBenedictさんの投稿
Redditの投稿
Redditの投稿②
また、イギリスのネット拡散はXではなく匿名ユーザープラットフォームのReddit及び実名プラットフォームのLinkedInで行われることが多く、特徴としてRetweetではなくコメントやメンション起点で拡散されます。



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