贅沢なサウンドに魅了される
ではメロディやサウンドはどうだろう。
初期は歌謡曲然としたシンプルな構成やメロディラインの楽曲が多かったが、『横須賀ストーリー』以降はロック色が強まり、今聴いても古さを感じさせない。歌手としての成長とともにレンジ(音域)が広がり、メロディも複雑化していった。
それは酒井とともに楽曲制作を手がけたディレクター・川瀬泰雄(山口百恵が所属したホリプロの音楽制作部門で、井上陽水や浜田省吾らを担当)の存在を抜きにしては語れない。
ビートルズフリークで、近年は関連著書を複数出版している川瀬は、クラシックやブルース、カントリー&ウエスタンなど、あらゆるジャンルの音楽を採り入れていったビートルズと同じ方法論を山口百恵で実践。
中期以降はギターアレンジの名手・萩田光雄をメインアレンジャーに据え、洋楽と比較しても遜色のないサウンドを構築していった。
作曲家についても、浜田省吾、芳野藤丸、来生たかお、岸田智史、大瀧詠一、杉真理など、まだヒットの実績がなかったニューミュージック系のアーティストをアルバムで起用。
レコーディングには矢島賢(ギター)、岡沢章(ベース)、田中清司(ドラム)、羽田健太郎(ピアノ)など、超一流のミュージシャンが多数参加し、ロンドンやロサンゼルスでレコーディングした海外録音盤では現地の腕利きミュージシャンを演奏陣に迎えるなど、当時のアイドルとしては画期的なサウンドづくりが行われていた。
そういう意味では現在のJ-POPに連なる先進性を備えていたといえるが、現在と大きく異なるのはほぼすべてがスタジオミュージシャンによる演奏だったということ。
コンピュータを駆使した「打ち込み」のサウンドを聴きなれた若いリスナーには、匠の技が随所に光る贅沢な百恵サウンドは新鮮に聴こえるはずだ。